追加シナリオは不遇だった佐倉の救済かと思いきや…。もうひとりの幼なじみの物語は、佐倉の魅力を伝えると同時に七海を更に引き立ててくれます。PC版で七海シナリオに惹かれた方にこそ触ってもらいたい作品です。以下、PC版プレイ済み前提での感想。
「幼なじみに、なりたかったわけじゃないわよっ」
ラムネでこのセリフを聞くとは思いませんでした。
健次と七海の関係が七海シナリオに近い状態のまま、恋人に同じ幼なじみの佐倉が
納まった状態で始まる新シナリオ。1.2mの距離で育まれた二人の強固な関係を見て、
自分が健次のベストパートナーになれず、苦悩する物語です。
ですが、健次・七海の関係も全てが同じなわけではありません。幼いころから何を
するにも一緒だった七海シナリオに対し、佐倉シナリオではその時間の多くを、
佐倉との時間に割いています。
ゆえに七海ルートではツーカーで通じていたものが、佐倉ルートでは通じなくなっている。
できたことが、できなくなっている。2シナリオの対比が、積み重ねてきたモノの重さを
感じさせます。
それは佐倉にもいえる事。二人の関係に対し常に劣等感・羨望を抱いている彼女ですが、
健次と過ごしてきた長い年月がないわけではありません。
歩いて40分。自転車で15分。台風の日も通いつづけた坂道。
そうして積み重ねてきたものは、決して無くならない。
なら二人の関係は…というお話なのですが
以下感想。ネタバレ含みます。
正直最初にプレイした時は、なぜ佐倉が引っ越したのか理解できませんでした。
近くにいられる方がいいじゃんと。一緒に暮らせるのに、何の問題があるんだと。
七海のセリフから察するに、おそらく
「自転車で15分の距離を電車で2時間の距離に変え、2人だけの関係を積み重ねる道を選んだ。」
という事だと思うんですが、手段にこだわりすぎて目的を見誤っている気がしなくもない。
二人だけの関係を作りたいから離れるって選択肢は、ちょっと共感しづらいなぁと。
あるいは「離れて危機感を煽ることで、恋人としての目を佐倉に向けさせた」とも解釈
できますが、佐倉のベタ惚れっぷりを見ると、それもなんか違う気が。
まぁ健次が非常に保守的なので効果的ではありますが。実際成功していますしね。
また七海が妙にしたり顔で説明しているのにも違和感があります。
貸し借りの関係は七海シナリオを見れば納得できますが、「積み重ねてきたものは~」を
佐倉シナリオ内で彼女が語るのはちょっと作者視点すぎるな、と。
以上、積み重ねてきたものがテーマの物語ですが、説明論調が気になる
なんとも「らしくない」シナリオでした。
演出は相変わらず見事ですし、佐倉の切ない想いはビンビン伝わってくるので、
感情的には十分面白かったんですけどね。
むしろ本作一番の見所は、PC版と大差ない七海ルートかなと。
佐倉シナリオで健次と七海のズレを見た後に七海シナリオを読み直すと、やっぱ
この二人はいいなぁと再認識できます。
せっかくの新シナリオがメインヒロインの出汁になるのは微妙な気もしますが、
佐倉シナリオはPC版で七海が気に入った方ほど楽しめる物語かと思われます。
他のルートに大きな変更はなく、美空シナリオも特筆すべき点はありませんが、
本作一番の見所である七海ルートを更に輝かせ、単体としても相応に面白かた
佐倉シナリオは一見の価値があります。
エロシーンがない事を差し引いても、PC版より本作のほうがオススメです。
蛇足。美空シナリオについて。
田舎町にひかり以上の都会っ子がくる物語ですが、主人公とヒロイン、双方とも性格に
難があって微妙。土いじりを生業(?)としている人を軽んじたり、釣果を意図的に
台無しにしたりと、なかなか嫌な気分にさせられました。
このヒロインでなぜ人気出ると思ったのか・・・見た目は可愛いんですけどね。
展開もベタで見せ方も普通の、ちょっと残念クオリティでした。