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amaginoboruさんのときめきメモリアルドラマシリーズ Vol.3 旅立ちの詩の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
ときめきメモリアルドラマシリーズ Vol.3 旅立ちの詩
ブランド
KONAMI
得点
94
参照数
1955

一言コメント

鬼畜で名を成した幼なじみがメインヒロインですが、最後の最後でそのイメージを払拭。優しく理解のある藤崎詩織を見られるのは本作だけでしょう。また「卒業」をテーマに語られる最後の物語は、過去2作と同じく感動を与えてくれますが、テキストノベルやADVにおける演出とは何か?を知るのに最も適した作品でもあります。なお一部原作ファンには、4年(PCEからなら5年?)越しの夢が叶った奇跡の逸品。というか私としてはそちらが重要でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■藤崎詩織
「一緒に帰って噂されると恥ずかしいし・・・」
低パラだと全く相手にされない、ギャルゲーらしからぬドライっつーか冷たい幼なじみ。
高パラになると手のひらを返して、自分からガンガン売り込んでくる。
バーチャルアイドル(笑)

そんなあなたの藤崎詩織像をぶち壊す「旅立ちの詩」。誰だお前!?ってぐらいに
優しく理解あるキャラに変貌しています。何気ない一言でトドメを刺してくる点は変わりませんが
思い出を語るときの表情や、終盤における彼女の健気さはまさに「理想の幼なじみ」。
彼女のファンだった人々にはたまらない作品となったのではないでしょうか。
あ、原作で嫌われプレイして震えちゃうようなドMな人には期待ハズレかもしれませんね。

ですがシナリオは「虹色の青春」と同じく、原作の雰囲気がほとんどありません。
ときメモ初めての方でも十分楽しめる内容となっています。


本作の舞台は3年生の卒業間近。詩織に告白しようと決心する主人公だが、彼女の何気ない
一言に撃沈。その後自分を見つめなおし、高校3年間で何もやり遂げたものが無いことに気付き、
卒業式前日のマラソン大会へ向け特訓を開始するが・・・という内容。
実に青春ストライクな物語。あらすじを読んだだけで、内容やオチはある程度予想できると思います。

なのに感動できちゃうんですよ。マラソンする前日の詩織とのやり取り見て半泣きになって、当日の
朝の風景見て更にグッと来て。走り出したらボタン押しながらもうボロ泣き。仰げば尊しでティッシュ
使ってるんですよ。卒業生かっつーの。わかってるのに。内容は予想できるのに。でも泣ける。
終盤のお約束&伏線回収の釣瓶打ちは、本当に素晴らしいものがあります。


「旅立ちの詩」の凄さは、超王道の展開で感動させる事のできる、計算しつくされた
演出にあります。CGや音楽といったセオリー部分はもちろんのこと、カメラフォーカスの
移し方、SEのタイミング、テキストの出すタイミング、一つ一つのセリフ、ムービーやOPシーン
キーとなる小物、留守番電話、「お隣同士の幼なじみ」ならではのお約束、親友、ミニゲーム等・・・。
枚挙に暇がありませんが、ありとあらゆる細かい点に気を配り、全てを演出として丁寧に
扱っているからこそ、あのラストの盛り上がりがあるのだと思います。物語を最高のものに
仕上げるため。それだけのために全てが用意されている事がよく分かります。

これが他作の演出が優れた作品だと、シナリオ自体も凝った内容となっているため
「シナリオがいい!」と演出面の評価が疎かにされがちですが、ここまでストレートな内容だと
言い訳が利きません。それゆえ冒頭に「テキストノベルやADVにおける演出とは何か?を知るのに
最も適した作品である」と書きました。
「何でシナリオは平凡なのに面白いんだろう?」という作品に対する答えの鍵になるかもしれません。
過去作をプレイしていなくても十分楽しめますので、興味のある方はお試しください。





■秋穂みのり
「旅立ちの詩」をもって、初代ときめきメモリアルの全エピソードは
終了となります。本作発売が99年4月。ときメモ2の発売が同年11月?なので、本当に
ギリギリですね。そのため本編エピソードの卒業に合わせた、ときメモ自体の卒業も
ひとつのテーマです。最後の集合写真はそんな意味があります。

それとは別に、3作続いたドラマシリーズの卒業の意味も込められています。
Vol.1「虹色の青春」で初登場し、以後もシリーズの顔として活躍してきた
秋穂みのりの最終エピソードがそれに相当します。
上級生・高校生として成長した彼女が体験する、2年終業間近の少し切ない
エピソードは、実は放課後モードでしか最後まで見られません。

Vol.1で見られた子供っぽさはある程度抜け、少し大人へ成長した彼女を見るのは
嬉しくもあり、寂しくもあり。本作でとあるイベントを終わらせると
トレードマークである髪留めのバッテンが変わるのですが、これがまた大人らしさを
魅せていい感じです。そして本作主人公に実行すると約束した、彼女なりの答えがまた
切ないんですよねー。本編とは一味違った感動があります。見てない人は必見です。



以降は原作も含めたネタバレ要素を含みます。





■館林見晴
原作の「ときめきメモリアル」はご存知の通り、意中の子が重要視する能力を上げる事で
振り向かせ、好きになって貰うシステムです。言い換えれば能力が足りない場合は、他に
どんなにいいところを見せたとしても、告白して貰えません(SS版なら告白してもTrueEND
になりません)。

これは昨今のエロゲーでいう「好感度0の状態からのスタート」です。
無関心の状態から、自分で積極的に振り向かせに行く過程が楽しめるゲームといえます。
反面見てくれや能力ばかりを見られているようで、好きあって告白したようには思えず
ドライに感じるという欠点もあります。原作で詩織が敬遠されがちだった所以はここにあります。
低パラだとスルーで、全部高パラだといきなり言い寄ってくるんじゃ仕方ありませんがw

しかしその枠から外れ、唯一「開幕から好感度MAX」の状態のキャラクターがいます。
館林見晴という子なんですが、代わりにデートや学内行事を一緒に堪能することが出来ない
隠しキャラ的存在です。ランダムイベントで廊下でぶつかるか、やはりランダムで
間違い電話やデート先の遭遇でしか、会うことができません。

卒業式に他ヒロインから告白されないと、一定確率で彼女から告白されるのですが
逆に告白条件を満たした子がいる場合、一週間前の2/22に見晴から呼び出され
中央公園で別れの言葉を告げられます。唯一の1枚絵シーンがこの公園イベです。

パラメータばかりを見てくる本編女の子達に対し、一目ぼれという理由で自分を
見てくれる見晴の存在は、パラメータ上げに疲れたメモラーの心を癒してくれる唯一の
ヒロインとしてかなりの人気を誇りました。しかしデートやイベは共にできず告白のみ
唯一デート可能なタイミングは別れの時のみ。

エロゲー論議で「開幕時点のヒロインは好感度0とMAX、どっちがいい?」という話がありますが
結論はさておき、彼女ほど好感度MAXという要素が上手く生きたヒロインは滅多にいないと思います。
周りが(システム上仕方ないとはいえ)数字を見る中、唯一自分を見てくれる存在。人気が出ない
わけがありません。更にデート不可能、できる場合は告白不可のジレンマが、ことさら彼女の人気を
押し上げたのでしょう。

事実ファミ通で「虹野さんと詩織以外で人気投票して、トップだったヒロインを
Vol.2のヒロインにする」という企画では、見晴が1位を獲得しました。
しかしご存知の通り、諸般の事情でVol.2ヒロインは2位の片桐さんに・・・。
ファンはまさにorz状態。ぐぬぬ片桐さんめ状態だったわけです。逆恨みですが。

ですがVol.3、人気投票の結果を無視できなかったのか、ついに見晴はダブルヒロイン制とはいえ
メインヒロインに昇格できたのです。ファンからしてみれば、下校イベントやデートを見晴相手に
楽しむことができる、そして彼女を喜ばせることができる、最初で最後の機会となったのです。


長々と彼女の来歴を説明しましたが、ドラマシリーズで唯一、原作を知る人がより楽しめるのが
この見晴シナリオです。約3年越しの想いは原作を理解してこそですし、またプレイヤーも4年越しで
一途な想いへ報いる事ができるわけです。知らなくても十分楽しめる物語ではありますが
やはり知ってこその内容。ゆえに簡単ではありますが、彼女の成り立ちについて書き連ねました。


さて本編内容ですが、詩織シナリオとはあらゆる意味で正反対に作られています。
メインヒロインで幼馴染の詩織は、物語を通して徐々に主人公との距離を近づけていきます。
怪我からマラソン大会を棄権するも、翌日の卒業式をボイコットしてマラソンを敢行し、
詩織から受けた告白はときメモの大前提と言える、伝説の樹の下を無視した内容でした。

対して見晴は、隠しヒロインで主人公とは全く知らない仲。間違い電話という名のストーカー行為で
一気に距離が近づくものの、話が進むに連れて徐々に距離が遠くなる内容です。
マラソン大会の結果や(ドラマCDによるアフターシナリオの内容ですが)伝説の樹の下での告白と
全く正反対です。

一見詩織シナリオを引き立てるための見晴シナリオ、という構図に見えますが
実際のところは、原作見晴ファンに対する演出の一つだと思っています。
というのも、プレイヤーの心情を掴んだ上での感情の誘導が本当にうまいんです。

間違い電話から見晴と実際に会うことになり、同じ高校だとわかった後は一緒に下校と
一気に距離が縮まるのですが、これは普通のギャルゲーならよくある事です。しかし相手は見晴です。
今まで誘いたくても誘えなかった彼女とのデートや下校が、4年越しでついに達成です。
原作ファンはそりゃもう大歓喜ですよ。デート決まったらガッツポーズしたでしょうし
デート時の見晴を眺めてはニヨニヨしたでしょう。彼女の悩みを聞いたときの表情がもう!もう!
って机をバンバン叩いたはずです。自分だけですか?いやそんなことはないでしょう。
ていうか下校イベントはホント長年の夢が叶いましたね。「トゥルーラブストーリー」で
桂木綾音の下校イベント起こして声優さん繋がりで「あーこれが見晴だったらなぁ」と
思った人は少なくないはず。それがまさかの実現ですよ。さらに呼び名を変える→見晴を
選択して成功した時とかもうイヤッッホォォォオオォオウ!(AA略 ってなもんです。
そん時の表情ったらあーもうマジ可愛いなにこのコアラお持ち帰りしていい?ってなるわけですよ。

とまぁ多少も誇称を交えず書き連ねましたが、いずれにせよこちらの我慢を知っていた
かのようなイベントラッシュは、プレイヤーを幸せの絶頂に追い込みます。
しかし見晴は悩みである「好きな人への告白」する勇気が持てず、徐々に諦めの様相を見せます。
理由を知ってる身としては「おおいっ!?」となりますが、事情を知らない主人公は
ひたすら見晴を励まし続けます。
これ主人公が鈍感なだけ、と言われる事もありますが、本作のような「何もない」ヤツなら
無条件で好かれるなんて夢は普通見ないと思います。というか見ないですよね?

仕方なく好雄に相談を持ちかけるのですが、そのアドバイスは「主人公を告白の練習台にする」
という、見晴にとって非常に残酷なものでした。そして実行に移してしまう主人公。
この辺は見ててかなり胃が痛くなります。知ってるだけに何もできないのがもどかしい。
好雄が余計なこと言ったようにも見えますが、彼にしたって事情を知らないわけで
やはり仕方のないことです。

マラソン大会前日、ポストに見晴からの手紙を見つけるわけですが、この辺から演出の上手さに
涙ボロボロです。主人公の巻き返しが本当に凄い。少なくとも同じ状況で、高校生だった自分が
あの対応できるか?と言われたら無理です。つーか今でも無理です。手紙を読んだ後の彼は
まさにギャルゲーの主人公。かっこよかったです。そして大会当日の「頑張ってー!」に
更に泣かされるわけです。


とまぁダラダラと感想を書きましたが、おそらく原作未プレイの方は、ここまで
見晴シナリオに入れ込めないと思います。冷静に見れば彼女ただのストーカーですし。
ある程度は良く見えるでしょうが、詩織シナリオにある演出伏線ラッシュの上をいく
良さは感じられないはずです。

見晴の3年間を知り、2/22の中央公園の切なさを知り、その後ずっと彼女とハッピーエンドを
迎えられなかった原作プレイヤーだけが、全てを堪能できるように。そう考えて演出されたのが
見晴シナリオです。まさに最後まで遊び通したファンに贈る、製作者からの最後のプレゼントと
言えるでしょう。

ファンディスクであれば、原作を意識した内容となるのは当たり前の事です。
ですがドラマシリーズ過去2作や詩織シナリオは、原作をあまり意識しない造りでした。
原作ファンより新規のプレイヤーの要望を考慮した内容である、ともいえるでしょう。
それだけに、最後の最後で原作ファンを意識したシナリオを用意してくれた事が嬉しく感じるのです。


原作を意識しないで楽しめる詩織シナリオ。ドラマシリーズ3作を知っているから楽しめる
みのりのミニストーリー。そして原作を知っているからこそ、より楽しめる見晴シナリオ。
全ての需要に挑戦し解決した本作は、ギャルゲー旋風を巻き起こした作品のラストを飾るに
相応しい、最高の作品だと思うのです。

そして原作のネガティブな印象を一新し、新規ファン層の担当を任された
藤崎詩織に対してこう思うのです。「イメージアップするの遅すぎるだろう」と。



蛇足1
ときメモのメインヒロインである詩織が、伝説の樹を使わないのは何ともニクイ演出です。
ただ不満に思った方がいたのか「so long~藤崎詩織」という旅立ちの詩ドラマCDでは
本編卒業式後の3/31、つまり契約的な意味で、きらめき高校の生徒ではなくなる前日に
主人公を呼び出し、伝説の樹の下で告白します。興味のある方は探してみてください。


蛇足2
見晴シナリオのEDテーマである「星空のパワー」は、泣きメロがコナミ節全快の名曲です。
歌詞も見晴の心情を歌ったもので、本編EDにはうってつけです。