ErogameScape -エロゲー批評空間-

amaginoboruさんの水仙花の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
水仙花
ブランド
FLADY
得点
75
参照数
1550

一言コメント

それでも私は馬鹿々々しい物語を読み続け、安易に感情を吐露し、そして無責任に感想を書き続ける。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

いわゆるメタゲーの類に属する作品。序盤こそ意味不明な展開ばかりですが、終盤までに
十分な説明やフォローが用意されていて、この手の物語としてはむしろ読みやすい部類
かと思われます。
伏線も丁寧に張られていて、意図的なケースを除き最後で超展開とならなかったのも
好印象ですね。反面、考察ゲーの好きな方には物足りないかもしれません。

逆にエロ方面は(好みもあるでしょうが)隠語や言葉攻めの繰り返しにもっさり感を
覚えました。兎角ヒロイン達のセリフが多いせいで行為が遅々として進まないし、濃度も
テキスト量に反して薄い。シナリオを読み進めるのにもシーンのクリックが煩わしく
感じられて、エロテキストに関しては残念な点が多かったなと。
さっぽろももこ氏のCGは十分エロく、おかずとして使えないことはないでしょうが、
テキストで興奮するのはちょっと難しい感じです。


以上、せっかくシナリオは良好なのに、エロテキストが足を引っ張っている印象を
受けた作品でした。加えて筆者の訴えが私の考えと合致しなかったこともあり、点数は
若干低めです。

とはいえ日常から始まる物語本線と4つのエンディングはいずれも楽しめたわけで、
決して凡作ではありません。題材を鑑みればむしろ名作といっても差し支えないレベル。
一風変わった物語を楽しみたい方には十分オススメできる物語です。



以下更なるネタバレ。










◆シナリオについて
日常から始まるシナリオ本線は実に読み応えがありました。前半は御門や恵美、そして
衛が謎を仄めかして引っ張ってくれますし、後半は主人公・光一がプレイヤーと分離
していく様子や伏線回収、御門の暴走っぷりなど様々な面で楽しませてくれました。

エンディングのうち最もインパクトがあったのは『エンディング』ですね。
小夜の独断専行により全シナリオ中最も独自で魅力的な幕引きを見せた物語。
それは御門の願った美しい物語。だにも関わらず、彼女自身の安易な立ち直りで
一気にご都合的に。加えて幼少の御門が見せた喜びの涙。

物語の全てが台無しに。小夜の死が、御門のこれまでの積み上げが全て無駄に。
そして「糞共が・・・!」の声、発砲音、ラストの1枚絵。
様々なアイロニーを含んだ、後味の悪い見事な結末でした。Finと打たれてますし、
プロローグではなくこちらが真のエンディングなんでしょう。

あとは『少女王国の復興』も別の意味で面白かったですね。メタゲーだからこその
ハチャメチャな展開には笑わせて貰いました。佳苗も佳苗で最低すぎw



◆ライターの訴え
作品テーマがForestと似ているようで、その実真逆の作りだったのが印象的です。
かのエロゲが物語を題材とした結果メタ論にまで及んだのに対し、本作はプレイヤーへの
訴求が目的で、結果物語を題材としたというか。

一応『閉幕』における御門の暴走を「登場人物が勝手に動き出した」としていますが、
HAINが手がけた以降のエロゲを見る限り、その訴えが執筆陣のものであることには
違いないでしょう。

ただ内容は諸手賛成できるような代物ではありませんでした。
登場人物の思いを知れといわれても、こちとら年に何十という物語を消化している
わけで、全員に深く想いを寄せるのは事実不可能。現実に例えるなら、仕事や学校で
短期間関わった人々の仔細なんていちいち覚えてられるか、というのが本音です。

その上で登場人物の意思を汲み取れというのであれば、まずは書き手の方でキャラ造形の
クオリティを上げるべきでしょう。
私が本作において印象的だったのは御門のみ。(後は裕子ですが、彼女は書き手ですから。)
その他のキャラは悪くありませんが、お世辞にも以後プレイヤーの心に残るような魅力は
持ち得ていません。

Novectacle作の「セブンスコート」はフリー同人ゲーに対し遊び手へ問題提起を
成し、少なくとも製作陣は提起するに相応しい十分なクオリティの作品を提供して
いました。対して本作の登場人物達からは、提起するに値する魅力を感じることは
残念ながらありませんでした。

物語や登場人物を消耗品として扱うな。その意気は理解できますし、私もそうありたいと
思います。ですがそれをライターが強要するのはいかがなものでしょうか。
問題提起するにしても、まずは提起する側が相応の結果を見せてからでないと説得力が
ありません。ましてや商用作品なのですから。
その辺もっと頑張って欲しかったなぁ、と感じた次第です。