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amaginoboruさんのハミダシクリエイティブRe:Re:callの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
ハミダシクリエイティブRe:Re:call
ブランド
まどそふと
得点
75
参照数
322

一言コメント

2本目のFDは前作の凸ではなく本編に立ち返ったかのような作り。初代リリースから年月が経過していることもあってか、本編を読み返すことで様々な気付きを得られる構成でした。既存ヒロイン達の活躍度にだいぶ差があり、アメリやあすみが好きな方はちょっと残念かも。詩桜が好きな方は買いです。(長文は本編&凸を含むネタバレ感想)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■全体構成について
同じFDである凸はヒロイン達が未来に向けて飛び出していくエピソードが中心でした。
ですが本作の傾向はむしろ本編寄り。主人公・智宏が生徒会運営と恋愛を両立し、
シンポジウムで約束した文化祭の企画成功までを書いた物語でした。

ヒロインがそのシンポジウムで敵対した聖莉々子ということでどんな内容になるか
楽しみだったのですが、まぁハミクリらしい強引な展開だったなとw 千玉生徒会に
参加すること自体も力業でしたが、莉々子が千玉学園に乗り込んだ経緯も詩桜が
けしかけたみたいに読めてしまって、ハミクリにしては珍しく状況がわかりづらかったなと。
(詩桜が莉々子に事情を話したら暴走して乗り込んできた、の流れですよね)

ただお話としては実に本編らしい構成で満足です。凸ではほぼ発生しなかった問題や
不穏な空気が頻発していましたし、智宏が人間関係の調整に四苦八苦する流れも
懐かしい。今回は詩桜が智宏の面倒を見まくってくれますが、これは智宏より友人である
莉々子のためでしょうね。後半は智宏も認めて丁寧に指導していましたが。



■既存ヒロインについて
なので詩桜に関していえば、凸で見せた優しさと本編の刺々しさがいい塩梅でブレンド
された立ち位置になっていたかなと。締める時は厳しく、導きが必要な時は丁寧に、
正しく後輩を指導鞭撻していました。面白キャラのポジションも凸から引き続き担当して
いましたし、詩桜が好きな身としてはとてもありがたいFDでした。

華乃も凸では描写がほぼ無かった面倒くさい性格が頻出。シンポジウムにおける主な
被害者の1人であり、意見をはっきりと物申せる彼女は後半のボス格としても良い
ポジションを貰えたのではないかなと。詩桜と違い、千玉生徒会の立場に寄り切った
華乃だからこその役回りでした。

他の3人はやや影が薄かった印象。妃愛は本編凸と優遇だったのでまぁ良いとして、
あすみとアメリが好きな方には残念だったかもしれません。あすみは莉々子の強い
押しには負けてしまいますし、アメリはシンポジウムを知らないので仕方ないのですが。

それでもあすみは「ヒアウィゴー」や「天使1号(自称)」、莉々子が告白する
きっかけになった「和泉会長が好きなんですか?」発言など、個人的には面白い
役どころを貰えてたかなと。莉々子が詩桜に叱られるきっかけ役もこなしていましたし。
アメリファンは残念FDですねこれ。凸ではなく本編構成なので仕方ないのですが。



■主人公について
智宏自身が様々な行動を起こす久々のシナリオでしたが、面白かったのが本編
シナリオのどのルートよりも智宏が失敗するところ。詩桜ルートの交通事故みたいな
決定的な過ちは犯しませんが、生徒会運営の立ち回りやヒロインへの接し方でしばしば
間違えるのですよね。んでその後、詩桜にフォローして貰う流れに。

ほとんど失敗しない本編の各個別ルートに「あぁエロゲ主人公だなぁ」と少し醒めた
視線を投げていた身としては、莉々子と生徒会目的だけに専心して役員達の気持ちを
配慮しなかった智宏に若さが見えて好感を覚えました。元はソシャゲするだけの学生
だったわけですし、このぐらいのミスはあっておかしくないと思っていましたから。

それに智宏が役員達の気持ちを配慮せず問題を片づけてしまったのは、彼の両親が
亡くなった際に事務手続きを周囲の大人達が勝手に片づけてしまった行為に少し
似ていますよね。

ミリさんは「何も分からなくても、同席させるだけでトモすけは両親のために何かをした
実感が得られたはず」と言ってましたが正にそれ。自分自身の体験を、今度は逆側の
立場で他人に押し付けてしまうあたりに配慮の難しさや彼の若さが見て取れて大好き
です。がんばれトモすけ、ってなった。

それと個人的に嬉しかったのが、本編華乃ルートと異なり生徒会を維持した点です。
華乃ルートにおける智宏(と華乃)も、生徒会の場=学園での活動意義を失う妃愛や
あすみの気持ちを配慮せず生徒会を解散するのですよね。いや2人には何の落ち度も
ないのですが、その件と莉々子ルートにおける智宏の失敗がオーバーラップしました。

だから莉々子への感情だけではなく、役員にも目を向けようと自省した本作の智宏が
好きなのです。エロゲなのでヒロインと1対1の場も大切なのですが、ハミクリでは
やはり仲間達との輪と両立して欲しいなと思うので。文化祭が終わった後の記念撮影が
生徒会の場を大切にする象徴にもみえて、その点では本作に感謝しています。

ただしアフターピルの件は擁護できません。しおぽよ可哀想すぎるw
(アレも詩桜の莉々子に対する感情を見せるために必要だったのでしょうけどね)



■莉々子について
智宏を名前で呼ぶ初めてのヒロインですね。詩桜や華乃は何度か名前呼びしましたが、
常態化したのは莉々子が初めて。少女漫画のシーンに憧れる彼女らしい呼称です。
弄られキャラの素養は本編でも見受けられましたが、今回のいじり方は面白いを超えて
可哀想まである。アヘ顔はひどすぎるんよ...w

ハミクリは人のグループからはみ出した人達が集まって新たなグループを作るお話
ですが、じゃあその作ったグループを排斥した人が中に入ろうとしてきたら、みたいな
お話でした。生徒会に居場所を求めた最序盤のアメリと同じなのですよね。彼女も
最初は性格の面倒くさい広報や、対人に脅える書記に警戒されまくってましたし。

ただアメリと違い、莉々子は好戦的で実際にこちらに攻撃してきた側。そのきっかけ
がシンポジウムだったわけですが、その内容が語られたのは4年半前。登場人物達の
感情を理解するには、本編のシンポジウムまでを見直さないと難しいかもしれません。

その莉々子さん、いい子ではありますが自分主導な性格や周りの速度を考えない
立ち回りは世間の感覚とだいぶ異なっていました。そこを千玉生徒会へ参加するに
あたり、智宏や詩桜が指摘していく過程が見所だったかなと。

凸アメリルートでアメリが「自分のKYな部分を指摘してくれる友達を探して仲良く
なり、コミュニケーションを練習した」と語っていましたが、まさにその形ですよね。
智宏は莉々子の否定に対する耐性の低さや同調圧力の件など、詩桜は主張を
押し付けすぎることや、自らのできることが相手も簡単にできるとの思い込みなどを
それぞれ指摘し、更生を促していました。

莉々子も反論しつつ、恥をかいても直そうとするのが素直で素敵。生徒会面々も
弄ったり笑ったりすることなく、フォローしつつ見守っていたのが微笑ましかったです。
弄られ系ヒロインな莉々子ですが、私としては自身の欠点を屈辱ながらも受け止めて、
至らない部分を理解し省みる姿勢が好ましいヒロインでした。