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amaginoboruさんのShining Song Starnovaの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
Shining Song Starnova
ブランド
Sekai Project
得点
80
参照数
158

一言コメント

英語圏で制作された作品で、アイドルもの特有の友情と衝突、挫折や成長を書いた熱量の高いシナリオが見所。7人ヒロイン全てに本作ならではの個性と物語が与えられており、どの個別ルートも十分に楽しめました。ビジュアルやBGMも和製商用エロゲに劣らないクオリティです。(長文前半はネタバレ無し)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■どんな作品なのか?
20世紀末にテレビ東京で放映していた「ASAYAN」を彷彿とさせる作品です。
ASAYANはタレントや芸能人を輩出するオーディションをドキュメンタリー風味に
放映する番組。コーナーの中にシャ乱Qのヴォーカル、つんく♂が芸能人ユニット
オーディションを実施していた期間がありました。

多数の応募者から厳選されたメンバーで形成された芸能人ユニットの名は
「モーニング娘。」。厳しい業界の現実に直面するメンバー達の努力や苦悩、
そして成功までを放映したASAYANは大ブレイクし、モー娘も気付けば
国民的アイドルユニットにまで成長を遂げていました。

本作『Shining Song Starnova』はASAYANがモー娘を介して見せた
ドキュメンタリーを、エロゲギャルゲーのアクセントでもって味付けしたような
作品です。
一方でヒロイン達と鎬を削るライバルユニットは総選挙などAKB48をモチーフに
しており、海外製なのに日本のアイドル事情をよく研究しているなぁと驚きました。


■シナリオについて
見せ方自体は共通パートから入りヒロイン毎の個別ルートに派生する、
スタンダードなエロゲ方式です。ですが同年代のエロゲと異なるのは、個別ルートが
画一的なフォーマットで作成されていない点です。

2015年~20年頃に制作されたエロゲの大半は基本的に、個別シーンのどこで
何が起こるのかがある程度固まっています。よくあるのが

 恋人になるまでのエピソード→少し盛り上がって恋人に→エロ3回
  →個別ルートのクライマックス→エロ4回目→エピローグ

の流れ。ヒロインが4人いればメインヒロイン以外の3人が、あるいは4人全員が
この形式に当てはめて個別ルートが展開されます。しかし本作の場合はその型枠が
一切なく、いずれのヒロインも固有の展開を見せています。

例えばヒロインAが成功と挫折を繰り返すアップダウンの激しいシナリオなら、
ヒロインBは前半は不穏な空気を醸しつつも成功し続け、後半で一気に畳みかけて
きたり。かと思えばヒロインCは中盤まで淡々と進み、終盤で一気に盛り上がったり。
個別ルートを型にはめていないのですよね。

ヒロイン個性はアイドルものに合わせた比較的テンプレートな属性を付与されている
のですが、それでも没個性と思わせないのはヒロインに合わせたシナリオ展開を
用意しているからでしょう。

加えて個別ルートも熱量の高いお話が多めで、感情を動かされるシナリオが
多かったです。というか個別ルートのほぼ全てで入れ込んでしまいましたw
ヒロイン達が逆転・成功するシーンは熱くなれますし、逆に屈曲に立たされ挫折する
シーンは見ていて本当に心が痛い。

特に負のシーンはアイドル現場の裏側ということで生々しいのですが、
リアルすぎて続きが読めなくなるレベルまではドロドロに書かず、辛いけど先が読みたい
と思わせるギリギリのラインを突けていました。どのヒロインにも入れ込めたので
結末を知りたい!という気持ちを強く持てた点も辛いシーンの緩衝材になったかも。

以上、エロゲ的な型枠を取っ払い先を読ませないようにしたこと。
読み手のテンションを的確にコントロールできたシナリオであったこと。
この2点が本作の物語を魅力的に見せていたのかなと考えます。


■プレイ前に知っておいた方がいい情報
本作は英語圏で作成されたゲームなので、パッチを当てないと全てが英語です。
読める方はもちろんそのままプレイするのが最適ですが、日本語が良い場合は
有志の方がパッチを作成されているので適用しましょう。

 ・日本語パッチ 配布URL
  https://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=2111409048

ただし公式がプロに依頼した翻訳ではなく、本作をプレイした方が機械翻訳を
ベースに日本語化してくださったものです。公式から公認もされていますが、
日本語として硬い部分や意味の分かりづらい箇所は多少なりあります。

ただ物語を楽しむ上では支障になるようなものではなく、このパッチで十分に
堪能できるので問題はないかなと。作品の方向性を見て回避するのはアリですが、
翻訳版が不安だからプレイをやめるのは勿体ないかも。まずChapter2あたり
までをプレイして、続きをプレイするか判断されるのが良いかと思います。

また本作は元が18禁のエロゲで、Steamでリリースするにあたりエロ要素が
カットされています。こちらもR-18パッチを適用することでエロシーンが追加
されるので、お求めの方は是非。

 ・R-18パッチ 配布URL
  https://forum.loveinspace.moe/post/7056

ただしR-18パッチと日本語を併用した場合、ジュリールートのエロシーンで
フリーズしてしまうそうです。なので先にジュリーをエロ無しでプレイしてから
R-18パッチを適用することが推奨されています。ジュリーのエロはがんばって
英語で読むしかなさそうですw

最後に個別ルートについて、ササミは最終ルートとしてロックされていますので
次善に攻略順を決める場合はご注意を。



以下、個別ルートのネタバレ感想。








■ササミ
Starnovaの子羊が闇堕ちしかける展開は良かったのですが個別の後半は
作品全体を締めるためにシナリオが使われていたような。他ルートのようにもう少し
ササミ自身の魅力を見たかったです。むしろシロ様の方が目立っていたようなw

■なったん
他のメンバーに比べても明らかに素朴で、アイドルとして大成できずに終わるルートを
書くために用意されたヒロインでした。それでもアイドルとしての限界を自覚しつつも
頑張るなったんは普通にカッコ良かったですし、けれど大人達の事情で負けてしまう
無常感や悔しさも十分伝わってきました。

引退後の故郷凱旋ライブも無理なく物語を明るく締められていましたし、シナリオの
ために用意された印象はほぼ打ち消せていたように思います。カキ→魚→アルパカの
天丼芸もエロゲらしくて良かったですし、最終ルートで更に登場してきた時は普通に
笑ったw天丼芸は繰り返してナンボですねw

■ミカ
作品の本当の良さを語るオタクと、大衆的なファッションオタクへの言及が的を
射ていたお話でした。金儲けだけに消費されるオタクコンテンツ、製作委員会による
アニメ制作の事情など、実に本質を突いていたなと。日本の「Otaku」について
本当によく研究していらっしゃる。

そんな無理解なオタク達が、作品を真に愛するミカを無下に攻め立てて、一方で
大人達は作品をエロと金儲けのためにしか使おうとせず、けれどアイドルとしては
そんな理不尽な待遇や罵倒を受け入れるしかなくて。物語後半の諦観したミカに
無念や寂しさを覚えたのは私だけではないはずです。

なったんやミカ以外のヒロインもそうですが、本作はファンや大人達からバチボコに
叩かれるヒロイン達の挫折を実に魅力的に書いているのですよね。そこから自分なりの
生き方を見出して、そのヒロインに見合った物語の締め方を見せてくれるから
どの個別ルートにも感情を入れ込めたのだと実感しています。


■ネム
序盤はアイドル業が軌道に乗り順調に進んでいくのに、徐々にネムの様子がおかしく
なって後半に大暴走する、ややホラーテイストな個別でした。ヤンデレ気味だった理由も
エロゲらしくもわかりやすい理由づけがなされており、突拍子もない展開を最後は綺麗に
着地させていたのが印象的。親娘の強い繋がりを実感させる流れも秀逸でした。

カオリを意図的にケガさせる展開は、リリースされた時期を考えるとかなり挑戦的
ですよね。ヒロインが罪を犯したというだけで拒絶反応を起こすユーザも少なくない
でしょうし。しかし個人的には、罪を認め上辺っ面の謝罪だけではなく、今後も罪を
背負って生きようとするネムの姿勢が書かれていた点を評価したい。

ヒロインを好きになってもらうために、普通のライターさんは余計なことをさせないと
思うんです。それのがユーザにヒロインを無難に受け入れて貰えるから。
しかし本作はヒロインが拒絶されることを恐れず、失敗や黒い部分をギリギリまで
プレイヤーに見せることで欠けるシナリオを書いていました。

ネムがやってはいけないことをやってしまった理由付け。理由に言い訳することなく
自らの過ちを背負って生きようとする姿勢。被害者であるカオリに、安易に赦させない
見せ方。(地の文にあった、心の中ではカオリは赦していないだろう的な表現は
本当に素晴らしかったです)

罪を犯したものをただ非難するのではなく、犯した後の償いでヒロインをより深く
見せる描写を本作は十分に表現していました。だから負の面を持つヒロインでも
好意的に受け止めることができたのかなと。
ここ10年程の和製エロゲが相対せず躱していた要素に、真っ向から立ち向かった
個別ルートとしての魅力がネムルートにはありました。


■ジュリー
ネムと同じく中盤までは順調ですが、その過程は危ういことこの上なく地雷原を
突き進むかのようなシナリオ運びでした。主人公も他ルートに比べると
ビジネスライクで成果主義のような一面を持っていて脇が甘く、ジュリーと共に
後半のボコられ展開への布石を常に準備をしていました。

で、ラブホのスキャンダルを解決~からの殺傷沙汰。これでいける!と思った
矢先に容赦なく叩き落すのがStarnova節。近年の和製エロゲではお目にかかれない、
プレイヤーに忖度せず鬱展開を見せつける作品でした。20世紀や2000年代の
エロゲギャルゲーはこんな感じだったよなぁ、とちょっと懐かしさも覚えました。

そのまま田舎へ逃亡して隠遁生活。けれどジュリーは主人公のために復帰を決意し、
事務所に戻ろうとしたところへ登場する仲間達。王道だけどやっぱこういう展開は
いいですね。負の描写が本当にキツいから逆転のシーンにも感動できる。それを
制作陣は十二分に理解されていました。

プロデューサーに恋慕を向けるも袖にされる展開は全ヒロインほぼ用意されて
いましたが、ササミとジュリーは殊更その描写が多かったように思います。
しかしササミ結ばれて終わるのに対し、ジュリーは結ばれないままエンドを
迎えてしまうのがまた切ない。

そのための田舎引き籠り展開だったのだとは思いますが、個別のジュリーが
プロデューサーへの恋心を最も隠さずにぶつけていたため、最後のシーンは殊更
ほろ苦いのですよね。この苦みがジュリールート一番の見所でした。


■マリヤ
中盤まではネム・ジュリールート以上に淡々と進むマリヤルート。しかし
Quasar時代の終盤から一気に物語が動き出し、勢いを落とすことなく最後まで
突っ走るのが印象的。年輩ヒロインのシナリオだから落ち着きのある話かなーと
予想していたのですがとんでもない。最もアツいルートでした。

というか、マリヤルートは王道も王道なのですよね。敵方のトップが抱える
闇と絶望を見せて、ヒロイン達の持つ熱量と正面衝突させるグランプリ決戦。
実に王道です。けれど他ヒロインがその王道をやっていない上、それ以外の魅力で
面白く見せているからこそ、このド直球な展開がより映えたように思います。

最後の展開もね。同票でした→敵側ボスが卑怯な手でフハハハ最後に勝つのは
我々だ!→もうダメだ~からの敵側トップの闇を払うキーキャラ登場
→逆転!ですからね。いやもういうことないです。文句なしに良かった。

締めもアイドル業を引退するマリヤと、センターの座を引き継ぐアキがそれぞれに
良さを見せていましたし、何よりこのルートはStarnovaが最も前向きに
受け継がれていくのですよね。世代交代の描写を完璧な締め方で見せたからこそ
次世代のStarnovaにも前向きな気持ちを持つことができました。
(というか、解散する展開が半分以上でしたからね。尚更です。)

マリヤルートはアイドルものノベルゲーを書くのであれば、真っ先に思いつくであろう
超王道展開。けれど後半だけに力を入れるのではなく、序盤から淡々と、しかし
着実に準備していたからこそ後半の爆発力が増していました。情報の撒き方も
テンションの上げ方も十全な、文句なしの個別ルートでした。


■アキ
ただの生意気クソロリではない部分を個別では見せるんだろうなーとは予想して
いましたが、想像以上のものが出てきて本当に驚きました。アキの掘り下げ方が
本当に容赦ない。容赦ないんですよ。ここまで容赦なくぶっ叩かれたヒロインは
久方ぶりにお目にかかりました。

繰り返しになりますが、ある程度成功を収めたヒロインに対し、金のことしか
考えない大人達や、心無い罵倒や冷笑を浴びせるファン達でをこれでもかと殴りつけ、
心が折れたところで何かを悟り自分の道を見つけるのが本作の大まかな流れ。
程度の差はあれど、これは7ヒロイン共通の展開です。

田舎へ逃亡するまで追い込まれるジュリールートや、取り返しのつかない罪まで犯して
しまうネムルートも容赦なかったのですが、アキルートはそれに輪を掛けてえげつない。
娘に自らの欲望を肩代わりさせるモンペと、金と権力を汚いやり口でかき集める本作の
ラスボス。一桁年齢の頃から、その両方に攻め立てられていたわけですから。

けれど他に寄る辺もないアキはひたすらに頑張るしかなくて、辛くてもきつくても体を
壊しても母親のために結果を求めるしかなくて、いやもう本当にエグい...明るそうな
作品だなーと迂闊に触ると火傷をするレベルの、容赦ない描写ばかりでした。
(バッドエンドで唯一死亡するのもアキですし...)

本作は日本最高のアイドルユニットを目指す物語。その中でアキはナンバーワンの
座に対し、最も強い執着を見せていました。なのに日本一の座を獲得するのは
ササミやマリヤ。ジュリーと並び、最も望んでいた場所にたどり着くことのできなかった
ヒロインです。
しかしアキが本当に望んでいたのはナンバーワンのアイドルではなく、ナンバーワンに
なったことを共に喜び、褒めてくれる人。自らの存在を認めてくれる人。

大人の寵愛を一切受けることなく育ち、自らを誤魔化し続けて生きてきた少女が
崩れ落ち、悲鳴を上げたことで本当の望みに気付く、その過程を描いた
ヒューマンドラマ。それがアキルートの本質です。アイドルのサクセスストーリーでは
ありません。


■『Shining Song Starnova』の本質
本作と似通った性質を持つテレビ番組「ASAYAN」は、演技ではない生の人達の
挫折や成功を見せるドキュメンタリー、いわゆるリアリティ番組です。製作者は
成功者だけではなく、その裏側で失敗し挫折し夢を絶たれる人達、
それぞれの生き様を視聴者へドラマティックに見せることを目的としていました。

本作もまた同じです。ナンバーワンとなったササミやマリヤのような成功者の
生き様も、アキのような夢に挑戦して達成できずに終わる生き様も、
読み手に対しドラマティックに見せること。それが本作の目指す先です。

なったんは実家の借金を返す前にユニット解散の憂き目にあうし、ミカは自分の
最も愛する作品を汚してしまう。ネムは罪を犯し、ジュリーは想い人と一緒になることは
できない。自分が最も欲しかったものを手に入れられない物語です。
けれど彼女達は代わりに、より大切な何かに気付くことで人生を豊かにします。

そしてアキは、7人の中で最も過酷な人生を歩み、最も自らを厳しく律し、最も目標に
貪欲だったのにも拘らず、欲しかったものを手にすることはできませんでした。
けれどその過程を得て自分が本当に欲しかったものに気付くことができた。だから最後は
過去の自分と同じ、自らを認めてくれる人を求める母を赦し、自身の母であることを
認めます。

ヒロイン達が自身の人生に、本当に必要なものを見つけるまでを書いたリアリティショー。
それが本作『Shining Song Starnova』です。
ルートロックがかかっており、結末が大成功で終わるササミルートがメインルートの
作品であるように見えます。ライバルを打ち倒し最高の形で世代交代するマリヤルートが
本作一番のハッピーエンドであるとする方もいるでしょう。

しかし個人的には、辛い時代をとことん辛く、幸せを得る瞬間を最も幸せであるように
表現したアキルートこそ、作品の本質を最も体現したメインルートであると云いたい。
読み手に最も絶望を与え、最も温かい気持ちを与えたアキの物語こそが、本作の中核
足り得ると思うのです。