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amaginoboruさんの愛病世界Iゼーメンシュ-After/Beforemath-の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
愛病世界Iゼーメンシュ-After/Beforemath-
ブランド
東堂 前夜
得点
70
参照数
75

一言コメント

あらゆる要素が高水準で作られた、同人AVGとして総合力の高い作品です。システムもシナリオもわかりやすく実に親切。ですが親切すぎるデザインにした結果、シナリオから驚きや意外性が失われてしまい、読み進める行為が事実を受け入れるだけの作業となってしまいました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ノベルゲーかと思い購入したのですがAVGだったのですね。イベントスチルこそ
多分に用意されているものの、十字キーでキャラを操作し決定ボタンで行動を起こす、
アイテムを購入したりイベントフラグを立てて進めていくタイプのゲームです。

プレイしてまず目を惹いたのがインターフェースやゲームシステム周りの使いやすさ。
非常に快適でなまじっかな商用作品よりもよほど秀逸です。またゲーム進行を
妨げないよう低難易度に作られているのも印象的でした。

次に行くべき場所は画面右上とメニューの2か所から常時確認が可能。シナリオの
分岐条件となるパラメータも調整は実に容易。物語を快適に読ませるため、
進行不能に陥らないようにする工夫が散りばめられていました。

ビジュアル面においても文句なしです。マップチップで舞台となる世界の幻想的な
雰囲気を鮮やかに表現しており、眺めているだけで雰囲気に浸れるほど。
キャラグラフィックも魅力的に描かれていますし、グラフィックは本作随一の見所と
いえるかもしれません。

シナリオも同人ゲーとしては水準以上のクオリティではありますが、こちらはやや
賛否両論となりそう。全5作品のプロローグに相当するエピソードにあたるので、
事の始まりとして見れば十分以上のクオリティといえます。

以上、ユーザーフレンドリーで物語も無理矛盾ない構成の良質な作品なのですが、
あまりにも親切な構成にした結果、本来読み手が抱けたであろう驚きや意外性が
失われてしまっているようにも思います。

また簡単にしすぎたことでゲーム要素がゲームとして機能しておらず、条件を達成
するための作業に成り下がっている点も気になりました。ゲームとしても読み物と
しても、わかりやすいことが仇となってしまっているような。遊び手に考えさせる、
想像させる余地を残して欲しかったなと。

なおエンディングは全部で9つあるのですが、うち5つは愛病世界シリーズを読破した
後に見ることが推奨されており、これを書いている時点ではまだ内容を見ていません。
プレイ後に改めて追記する予定です。



以下、ネタバレ感想。









とにかくわかりやすいお話でした。家族以上の絆で結ばれる主人公達が仲を深め、
かけがえのない存在として認め合い幸せに暮らしていた矢先に判明する絶望の事実。
上げて落とすシナリオとして大きな粗もなく、とても綺麗にまとまっていました。

ただ前述のとおり本当にわかりやすすぎて、次に何が起こるのか漠然と予想できて
しまった。プレイし始めて間もなく「中盤までは幸せな場面を見せて、最後で落とす
タイプの展開だな」と予想してしまい、実際そのとおりの展開に。

タイトルスチルの血涙を流す主人公、作中に頻出するノイズ的な演出、記憶喪失で
過去を一切明かさないシナリオ運び、から連想される最終盤の惨劇とグロ展開。
残酷展開のテンプレートに一切違うことなく物語が構成されていました。

前半の雰囲気と全く異なるショッキングな結末で終わる物語は、前半と後半の落差で
読み手に意外性を持たせることで衝撃を増幅させるシナリオ構成です。しかし本作は
序盤から「終盤にヤバいことが起きるよ!」と常に匂わせ続けているから意外性が一切
ありませんでした。

ゲームの背景で常に「くるぞ...くるぞ...」「ああ...これは...」みたいなコメントが流れ
続けている感じ。なので4章で徐々に明らかになる事実にも驚きを覚えることはなく、
「あぁ、やっぱりそんな感じなのね」と冷めた感情で真実を受け入れていました。
世界を救うために大事な人の命を奪うのね、OK把握した。みたいな。

ショッキングなシーンに衝撃を受けすぎてトラウマにならないよう配慮することは
確かにユーザーフレンドリーです。しかし本作はわかりやすさに注力しすぎた結果、
物語が読み手に与える妙を奪い取ってしまっています。読み手をもっと信用しても
よかったのではないでしょうか。

本作評価を見ると「前半と後半の落差が衝撃的だった」的な感想も散見されて、
今のプレイヤーにはこのぐらいわかりやすい方が受け入れられるのかもしれません。
が、個人的には本作のシナリオから物語の妙を得られることはなく、事実を理解する
だけの砂を嚙むような作業でしかありませんでした。

ただ本作はあくまで5部構成の端緒にすぎません。状況説明するプロローグである
とするならば、あまりにもわかりやすい本作のシナリオ構成にも合点がいきます。
2部の展開次第では、その補助輪に徹した本作を改めて再評価することになるかも
しれません。