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amaginoboruさんの処女はお姉さまに恋してる ~3つのきら星~の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
処女はお姉さまに恋してる ~3つのきら星~
ブランド
キャラメルBOX
得点
75
参照数
269

一言コメント

おとボクシリーズらしい魅力的な主人公は健在。主人公をメインに楽しむのであれば今回も十分満足できるのではないかなと。それだけに主人公がパートボイスである点と、物語の整合性に関する致命的な欠陥が残念でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■作品概要
とある事情から主人公がお嬢様学園に潜入し1年を過ごすいつもの流れ。
ヒロインよりも主人公に焦点が当たるのも過去2作品と同じですね。
今回も「お姉様」が大活躍し、ヒロイン達の心を掻っ攫っていきます。

てことで本シリーズは主人公を見て楽しむ作品だと個人的には感じているのですが、
過去作と比べると主人公とヒロインのスペック差に大きな隔たりのないことが本作の
ユニークポイント。ヒロイン達に対し時に影響を与え、時に影響を受け共に成長して
いくところが本作の勘所となります。

なので超人級だった初代主人公の瑞穂はもちろんのこと、2主人公の千早と比べても
本作主人公はスペック的に劣る印象ですが、劣るからこそのお話にはなっていますので
そこはご安心を、といったところでしょうか。

おとボクは主人公の存在感が強いシリーズであり、ヒロイン個別ルートにおける
各ヒロインの印象が薄くなってしまう点も本作は踏襲しています。加えて今回は
メインヒロインである織女の存在感が強すぎることで、他ヒロインは更に影薄く
なってしまった印象を受けました。

ゆえにヒロインを求めて本作をプレイしてしまうと肩透かしを食らってしまうかと。
初代なんかは貴子など濃ゆいヒロインも存在して楽しませてくれましたが、
続編である本作にその点を期待してしまうとガッカリしてしまいそうです。
(織女ルートなんかは構成から俯瞰すると面白い作りになっているのですが。)

ただ個別で影が薄いからといって、ヒロイン達が空気なわけではありません。
主人公との会話はもちろん、ヒロインや脇役同士の会話も多分に盛り込まれていて、
誰が誰に対しどのような感情を抱いているか、とてもわかりやすいんですね。

なんというか、会話を読み進めるだけで脳内に人物関係図が浮かび上がって、
人から人へ矢印がビュンビュンと飛び交っているようなイメージといいますか。
主人公⇔ヒロインの1on1な関係だけではなく、その裏でヒロイン・脇役同士も
関係を進展させていることが明確に伝わってきます。

そんな他キャラクター同士の接触や関係の進展が、結果として主人公に
(良しにつけ悪しきにつけ)新たな感情や状況をもたらすのが面白いし、
なによりイベントの1つ1つが連続しているため物語に一貫性が生まれている。
イベントのぶつ切りではなく、1つの物語として芯が通っているわけです。

なので織女を除く本作ヒロインは、エロゲの1ヒロインとして主人公と深い関係を
持つ以上に、物語を回転させる脇役としての役割の方が大きいですね。
これはシリーズ通しての構成ですが、殊更本作においてはその印象を強く持った
次第です。


■本作の欠点
以上、従来のシリーズどおり主人公の魅力を追っていく作品としては良作です。
......といいたいところなのですが、残念ながら本作には致命的な欠点が1つ、
そして物語を構成する上での欠陥が1つ存在してしまっています。

まず主人公である密のボイスがパートボイスである点。主人公を見せる作品なのに
その対象がパートボイスであることは欠点としかいいようがありません。
また2章終盤から急に密の声がなくなるため、今まで読み進めていたテンポが
崩され水を差される形に。没入感が失われる点もマイナス要素です。

制作スケジュールの問題なのか予算が足りなかったのか理由は不明ですが、
これはメインディッシュのソースをかけ忘れました級の失点ですし、プレイしていても
本当に残念でした。

そんな致命的な欠点すら影をひそめる、より深刻な本作の欠陥。それは話のパートごとで
設定の整合性が取れていないことです。
本作は選択肢によって同じ章(話数)でも分岐することがあるのですが、分岐Aで
起こったことが分岐Bでは説明がなされず、なのに以降の共通パートBでは分岐Aの
出来事が説明もなく起こっていた事とされる。そのような状況が多発しているのです。

その他にも物語パート間で、「後輩ヒロインの先輩への呼び名が一致していない」
「初エッチは終わったのに次のエッチでまた初エッチとか言ってる」「いつの間にか
とあるヒロインに、主人公が男であることがバレたことになっている(!)」など、
小さいミスから痛恨級の設定まで様々な不一致が発生しています。

本作は複数ライター制であり、おそらくライターさんが原案者の用意した
キャラクター設定をしっかり咀嚼しなかったことで発生した問題かと思われます。
また分岐ルートを設けたことで発生する、整合性チェックを怠った結果でも
あるのでしょう。

そして作品を取りまとめるディレクターは原案者を兼任しており、そのディレクターが
作品全体をチェックしなかったことも、このような事態となってしまった一因でしょう。
(制作スケジュールの問題であろうことは理解に及びますが...)
結果、本作は物語のパート毎で設定の整合性が取れていない、欠陥を抱えた
作品となってしまいました。

主人公がメインなのに主人公の声がボイスパート。物語を読ませる作品なのに設定の
整合性がとれていない。どちらもエロゲあるあるではありますが、おとボクというエロゲでも富に
著名なシリーズを、このようなクオリティでリリースしてしまったことは残念でなりません。

しかしそんな欠点を加味しても本作は面白かったですし、何よりおとボクシリーズの
名に恥じない内容でした。なので点数は欠陥を加味しない、かなり高い点数をつけて
います。(欠陥を加味するなら-15点ぐらいでしょうか。)

過去シリーズをプレイした人は、上記のような問題点を飲み込んででもおとボクの
新しい世界を堪能したいか否か、でプレイするか決めるのが良いかなと。
シリーズ初プレイの方が最初に本作を手に取ることはオススメしません。初代か2の
いずれかからプレイされるのがよろしいかと思われます。



以下、ネタバレありのキャラ別感想









■密と織女
シリーズで最も出自に影のある、そして最も庶民な主人公です。
(千早は父親と確執があったとはいえ)何不自由なく育った過去作主人公とは異なり、
生まれがゆえの性格と悩みを持った青年をベースとして今回のお姉様は生まれます。

そんな主人公がゆえに、作中で語られる彼の心情は生まれからくる懊悩が多く、
その他は織女を始めとした周りの人間と自らの考えを比較するような内容。
彼自身がどう思い、何をしたいかで動くことは終盤までありませんでした。

家族の問題を抱えている点から2主人公の千早と一見キャラ像がダブるのですが、
実はかなり異なるのですよね。男であることを隠しつつも自らの判断で行動する
千早に対し、相手や状況だけを見て物事を判断し行動する密。
その差が主人公の個性描写において大きな差を生んでいましたし、同時に
おとボク3主人公が持つ独特の魅力であったように受け取れました。

また密が瑞穂や千早のように万能人物ではなかった理由として、出自の他にも
メインヒロインである風早織女の存在を挙げないわけにはいきません。
過去シリーズでは主人公をスペック的に追い抜く存在は(芸事など以外では)
存在しなかったのですが、本作の織女を見ると学力や人気はほぼ拮抗。生まれだけを
見れば(中盤までは)織女の方が圧倒的にハイスペックです。

主人公を立てなければいけない「おとボク」シリーズにおいて、なぜ主人公と同格、
下手すれば追い抜くようなヒロインを立てたのか。理由は勿論、本作ストーリーの
主流が歴代のような主人公1人を立てる内容ではなく、織女を密と並び立てる
構成であるからです。

序盤の織女のテンションがあまりにも高すぎて勘違いしてしまいがちですが、
織女は密のシンパではありません。灰色だった自身の学園生活(と人生)に彩を
与えてるような、共に切磋琢磨して成長していけるような人物として密を見込み、
接触しています。

その後の織女は皆さんご存じのとおり。密の所作や考えに蒙を啓き、自らの振る舞いを
改めていくことで更なる成長を遂げます。同時に密も、織女の新たな振る舞いを見て
自らの考えを改めていく様が、主に正体がバレる中盤以降で見受けられます。
「おとボク」のお約束展開である、処女がお姉様に恋をするだけの関係ではありません。

そんな立ち位置の織女は、密や脇役は勿論のこと、他ヒロインすらも自らの糧として成長します。
云い変えると他ヒロインは密と織女の引き立て役や踏み台が主な役割であり、
個別ヒロインとしての役割は副次要素でしかありません。
(この点は量だけが多く個別が拙かった2と異なり、他ヒロインの個別がなおざりとなった
理由として明確であったように思います。)

あらゆる登場人物を用いて主人公を立て、魅せるのが従来の「おとボク」。
それを今回は、登場人物を使って主人公とメインヒロインの双方を成長させ、その上で
お互いを同党の存在として意識させることで、より高みへと昇る構成を取っていたように
受け取れました。

その最たるが、もう一人の照星である美玲衣の立ち位置です。立場としては密や織女と
同じ照星なのに明らかに活躍の場が少ない彼女。従来の作品であれば3人の照星と
いえども最終的には主人公メインの話運びとなっていたはずです。

しかし蓋を開けてみると、美玲衣は密よりむしろ織女と行動することが多く、織女の
持たない魅力と立ち振る舞いをもって、織女に新たな世界を開いていました。
美玲衣が好きな方には申し訳ないのですが、完全に織女の踏み台なのですよね。
(そう見えないよう序盤で美玲衣のコンプレックスを強調して書いたのでしょうが。)

あくまで「おとボク」として主人公を魅せつつも同格のヒロインを並列で魅せ、
ハイスペックで魅力的な2人が最後に手を取り合い未来へ進む成長物語。
それが本作の要点であり、織女ルートであると考えます。

が、なら織女は密と並ぶほどに魅力的だったのかと問われると首肯できないのが本音です。
その理由として、まず織女が結局は「おとボクのヒロイン」である点。密と並び立つ存在とは
いえども、さすがに重要局面で密の上を行く活躍はできなかったことが、2人を同格として
見られなかった一因でした。主人公をNo.1とするのは正しいのですけどね。

そしてもう1つの理由が、最序盤の織女がミーハーのように見えてしまった点。
織女が学内で抜きんでた存在であることをアピールし、密に対しても同等の立場として
接している旨を伝えてはいましたが、やはりファーストインプレッションが焼き付いてしまい、
いつもの「おとボク」に見えてしまったことが結果として織女を下げてしまったなと。

ただ後者に関しては別の意図があってそのようにしたのだと思います。
作中でも話に上がりましたが、織女の密との出会いって本当に「白馬の王子様」なんですよね。
最初の出会いは勿論のこと、身分差(と性別差w)で恋は叶うことなく、しかし後半に
相手の出自が実は自分と変わらない身分(で男だったw)ことが発覚して、最後に
王子が姫を守ってハッピーエンド。

古式ゆかしい王道のお約束を、おとボクという舞台に呼び起こしたのが本作なわけです。
これは間違いなく狙ってやってますよね。あるいは「お前、女だったのか!」な王道展開を
立場性別逆転して起こした物語であるともいえます。

主役のダブルメイン形式とお姫様の恋物語を両立させようと欲張った結果、
織女は主役としての輝きを失ってしまい、多くの読み手に「いつものおとボク」と
認識されてしまった作品。それが本作なのでしょう。
個人的には作り手の意図は汲めましたし、その方向性で楽しめたので満足しています。


■織女以外のヒロインについて
上述のとおり、ヒロイン達は密と織姫を立てることを目的として書かれており、
個別のヒロインとしての魅力は二の次三の次とされてしまっています。結果として
エロゲの個別ルートとしての質が落ちてしまっているように見受けられました。


■美玲衣
上述のとおり最序盤では密、中盤以降は織女を立てるために生まれた3人目の照星です。
美玲衣が密に対し口撃するシーンはもはや「おとボク」のお約束。もちろん密の立場を学内で
絶対的なものにするための儀式です。そして3章以降は密に次ぐ認められる存在として、
織女と行動を共にする機会が増えていきます。

脇役としては素晴らしい立ち回りで文句のつけようもないのですが、ヒロインとしては
ちょっと残念な感じに。織女が2億を用意立てる展開は共通ルートや織女ルートならアリ
でしたが、美玲衣ルートでやっちゃったら密君が本当に立場ないじゃないw
女同士の友情物語として押し通すつもりなのでしょうが、おとボクで主人公下げはダメ絶対です。


■鏡子
過去作のまりや・史ポジションであり、同時に姉ポジ。モラトリアムを生きる若者の導き手として
密だけではなく後半は織女にも影響を与えていました。2人にとって鏡子はまさに姉であり、
ゆえに多くのエンディングで3人が一緒に登場するシーンが多く、鏡子自身の個別でも織女が
多分に登場していた理由でもあります。

正直いえば鏡子ルートで織女が身を引くのに違和感を覚えましたが、エロゲの個別ルート
なのでこればかりは仕方ないですねw
ダブルメイン制とエロゲのお約束が衝突してしまった結果ではないでしょうか。


■花
主に密を立てるための役割として立ち振る舞っていました。
自信がなく引っ込み思案な妹の手を引き導くお姉様の図式は、やはりおとボクでは
鉄板でありお約束です。加えて拙い花を導くことで、個性の薄い密のオカン属性を
より強調できていたように思います。

個別ヒロインとしても花は奥ゆかしさの中にに可愛さを見せる良い娘でしたが、
やはりおとボクのお約束である「性別を超えて主人公を慕う気持ち」を見事に体現
してくれたヒロインでもあります。シリーズものですしお約束はとても大事です。
いい仕事をしていました。(双子も体現してたけどお話の内容がまぁ、うん...)

一方で初代おとボクの奏のように、全幅の信頼を寄せるお姉様に対し間違っていると
啖呵を切ってしまうような強い一面が見られなかったのは残念だったなと。良くも悪くも
穏当なシナリオで、密に全幅の信頼を置いているのですよね。それが花の良いところ
ではあるのですが、過去作超えはできなかったかな、という印象です。


■すみれ&あやめ
密と織女を直接立てるのではなく、寮や奉仕会を円滑に回すためのヒロイン。
すみれは過去作の奉仕会会長に劣らずのスペック持ちとして、あやめは特にボケ役不在の
象牙の間における快活キャラとして作品を上手く取り回していた印象。
密や織女に寄り添う他ヒロインに比べると影が薄いのも納得です。

個別ルートに関しては、本作の欠陥である設定の不整合の被害を最も受けたヒロインですね。
初エッチした後に初エッチ云々とかのたまう密君はさすがに擁護できませんw
以降の展開もなんか雑ですし、残念ながら本作個別では最も出来が悪いです。

擁護するとすれば、最後の3Pはエロゲらしくエロを中心に据えた作りを目指したのかなとも。
おとボクシリーズに相応しいかと云われれば首を傾げてしまいますが、個別中にヒロインを選択する
変則的な流れも、最後の3Pをやるために仕込んだと云われれば納得はできます。
ただまぁそういうのは他エロゲで楽しめるので、無理に本作に突っ込むこともなかったかなとも。


■海月姉妹
おまけシナリオだけどここに。声なしで尺も短いですが、大半の個別ルートを超える
良シナリオでした。双子シナリオ全オミットでいいのでこっちに声ほしかったですw


■茉理
彼女の立ち絵を見てまず違和感を覚えました。立ち絵や表情は織女に勝るとも
劣らない清楚な見た目なのに、その姿からは想像もできないぽやぽやボイス。
プレイ当初は脳内がやや混乱しました。

思うに茉理は、当初は原案の設定に沿ってキャラデザインがなされグラフィックが
完成したものの、その後内面のキャラ個性が偏向になったヒロインなのではないでしょうか。
未完成な部分が散見される作品ですし、これだけ見た目と内面がブレていると
そう邪推したくもなります。

他ヒロインと異なり、茉理が密や織女を立てるシーンに乏しいのも邪推した理由の
1つです。ダブルメインという主軸に沿って各ヒロインの立ち位置を決めたものの、
茉理の枠だけが何がしかの不都合が生じ、結果本作のようなキャラ立てに
落ち着いたのかなとも。

ただ真実はどうであれ、そんな見た目と中身のギャップこそが茉理の持つ魅力です。
他のエロゲではお目にかかれない、一風変わった可愛いヒロインとして彼女を
評価したいです。

個別ルートを見ても音楽を通して、自分の好きなこととの向き合い方をテーマに
していて、筋の通った話でしたし読後感も爽やかでした。茉理の美少女ゲーと
しての可愛らしさも含め、本作個別ルートでは最も良質だったのではないでしょうか。
安定した良い物語を見せて貰いました。



・蛇足
 密と織女のダブルメイン、これ前作でやるべきことだったんじゃ(

・蛇足2
 3つのきら星といいつつハブられる美玲衣お姉様が不憫...

・蛇足3
 幽霊ネタがなくなったのも密君の成長を促すのが理由だったのかな、とか

・蛇足4
 おとボクで密という名前、出自を考えてもこれしかないと思える名前でした。
 ナイスネーミングです。