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amaginoboruさんのローズガンズデイズ ベスト版の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
ローズガンズデイズ ベスト版
ブランド
07th Expansion
得点
80
参照数
794

一言コメント

IFの第二次世界大戦後を舞台としたマフィア抗争モノで、米中に占領された東京で日本人が奮闘する物語。娯楽作品として上々の出来栄えですが美少女ゲーム的な要素は皆無。純粋なノベルゲーとして接するのが適切です。感情の揺さぶりが激しいので読み疲れはお覚悟ください。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

太平洋戦争の最中に日本を襲った大災害。戦争を継続できるわけもなく米中に東京を
占拠された1947年が舞台です。敗戦国の民として虐げられ、マフィアにも搾取される
日本人を救うため、夜の女の店「プリマヴェーラ」が一念発起する、という流れです。

単語を見ての通り裏社会が舞台で、抗争も含め物理的な暴力を見せる動的パートと、
上層部が米中トップと権力や札束で殴り合う静的パートが基本路線。そこへ登場人物
たちの想いなどを乗せて進行します。

悪党どもを蹴散らす爽快感もあれば八方塞がりの絶望的状況に突き落とされることも
あり、感情の振れ幅が大きい物語です。単純明快で難しく考えずとも楽しめるのも特徴
ですね。純粋なエンタメ作品として楽しむのが適切でしょう。

物語は大きく4つのパートに分かれており、1947から同50年までを1年1パートとして
区分けています。シーズンごとに区分けられているのは分割販売だった当時の名残で、
ベスト盤では年単位で読み分けた方が整理もつきやすいかと思われます。主人公的な
存在も年ごとで代わりますので。

あと戦闘シーンは仔細に描写されることはなく、ミニゲームとして挿入されています。
といっても演出としてのみ表現させることも可能。私的にはカットして演出として見る
のをオススメします。というのもフィニッシュ時の右クリックが正しく動作しないことが
あるんですよね。いわゆる「おま環」かもしれませんが、マウス不具合でもないですし
ソフト側じゃないかなと。面白くもなくメリットもないので、素直にカットでいいと
思います。


見どころやはりシナリオですね。クソッタレな悪党共をなぎ倒す爽快感もあれば、同意
できる部分はあっても敵対せざるを得ないやるせなさもあり、喜怒哀楽の感情を酷く
揺さぶるお話です。裏社会の話ですから命のやりとりも当然ありますし、えげつない
手段もバンバン飛び出します。胃の弱い方には少しハードかもわかりません。

それだけに真に迫る展開ばかりなので見ごたえば十分。キャラも敵に味方に印象的な
ヤツらばかりなので「見るのが辛い」はあっても「見てて退屈」にはなりづらいですね。
1シーズン10時間前後が4本とボリューム面もバッチリ。更にChapterで細かく区分け
されているため、止めどころが明確なのも嬉しい点です。

一方で演出面はかなりショボいです。ミニゲームに1キャラ数カット描いているせいか、
ノベルパートにおける1枚グラはごくわずか。(LastSeasonの2枚だけかと。)立ち絵
アクションもないため視覚面はお粗末といっていいレベル。テキストから想起される
シナリオとキャラ、そして立ち絵グラだけで見せるタイプです。

BGMは雰囲気バッチリ。実写をあしらった背景との相性も良く、場面場面の臨場感を
しっかり惹き立てています。なので演出方面だけが残念な感じですね。他が一級品な
だけに惜しい限りです。

ですが所感としては「演出があれば更に良くなった」ではなく「演出がなおざりでも
なお魅力的な作品」です。実際読みだすとシナリオの強烈な圧力でその辺を見ている
余裕がなくなるぐらいなので。終わってみて「そういえば1枚グラなかったなー」と
思い出した感じですね。


以上から、感情を激しく揺さぶる物語を見たい方にオススメですね。エロゲでいうと
趣向は異なりますが『マブラヴ オルタネイティヴ』に近しい印象。あっちはvs化け物
ですが、読中の感覚は近しいかなと。読み疲れるあたりも一緒です。最近めっきり
見なくなった長編ノベルゲーの名作ですし、多くの方にオススメしたい作品ですね。



以下、自分よがりなネタバレ感想。










まずは各パートごとに点数と簡単な所感を。

1947:85点
⇒レオ無双カッコイイ!アルフレッドもケイレブも敵として十分な存在で文句なしに
 楽しめました。ローズもウェインも徐々に自覚が芽生えてカッコ良くなるし、ミゲルも
 狂人のようで芯が一本通ってるしで文句なし。後半のガブリエル無双を無くしてでも
 「ここで終わっていれば」と思わされました。

1948:60点
⇒主人公格のワンダリングドッグがレオ・アラン比べてしょぼい。未来を担う若者と
 するには押しが弱すぎました。それ以上にお説教パートが本作全体の味を著しく
 損なっています。ラスボスの王元洪は他年代が濃すぎるだけで十分ボスしてました。

1949:85点
⇒オリバーを殺して全キャラに緊張感を持たせたのがハイライト。ステラと梅雪だけでは
 他キャラの死亡フラグにはならなかったでしょうしね(結局死んだのアランだけですが。
 それも生死不明)。けどガブリエル無双の件も含め、ここを魅せるために48年と50年が
 犠牲になった感は否めません。アランはカッコ良かった。

1950:70点
⇒レオvsキースでの「レオの安心感」がもう異常。けどそこまで。サイラスにやられる
 のは面白くない。蛇足感あふれるワンダリングドッグ関連、少佐の最期などの不満点は
 オールスターをもってなお解消されませんでした。竜頭蛇尾。



何が不満って、酷く中途半端なんですよ。娯楽作品としても、作者の主張も。それでも
エンタメとしては楽しめたので点数は高めですが、勿体ないなぁというのが本音です。
不満点の9割は48年に集約されています。というか例のお説教ですね。拙いだけでなく
エンタメとしての面白さをも殺してしまっています。

事あるごとに中国を持ち上げ日本を貶すのが48年の特徴ですが、その見せ方が実に狡い。
作中世界内の日本の欠点を取りあげて、それを現代日本へ転化するのはまだいいんです。
事実ローガンの世界は現代日本の縮図で、中国に侵略されているのは事実ですし。

例えば今すぐ中国が宣戦布告してかつ東南アジアの各国と手を組んだとしたら、
私たちは国内の他国民に殺られます。隣のデスクで仕事してる人達が一斉蜂起しても
おかしくない。それに対し私達は人数・技術・気概の全てにおいて成す術がない。
それが現代日本です。

けどその警鐘を鳴らすために現代日本の歩みを一部無いことにして、ローガン内の日本に
置き換えているのが狡すぎる。激甚大災害が44年の4月だから、それ以降の出来事がない
ことにされているんです。有名なのであれば硫黄島や沖縄。日本の土を踏ませまいと、
あるいは自らの場所と家族を守るため、決死で戦いに臨んだ彼らを無いことにして
「日本の土を踏まずに戦争を終えた中国の怒りは~」などとのたまい、更にそれを現代
日本の問題へと転化しています。

仮想世界から現代の問題を指摘するのは理解できます。しかし、現実の出来事を無いことに
して、その上で仮想世界で正論を語って現代日本の指摘としているのが許せません。お前
それご先祖様に失礼だと思わんのかと。「国内を荒らされたことのない日本」ってことは
つまりなんですか、沖縄は日本じゃないとでも?...恥を知れ。その口で民族自決を謳うな。

そもそも前提からしておかしな話です。第二次世界大戦を待たずとも当時の中国は欧米の
列強国に切り取られフルボッコ状態でした。少なくとも44年の4月から行動を起こして
米国と互角に渡れるほどの国力なんてどこにもありません。そこで登場するのはむしろ、
ダウンフォール作戦で新潟ないし北海道からの侵略を企てていたソビエトでしょう。

なのになぜか五体満足で登場してあの状況を作り出し「中国イズ強い」とのたまってる。
おかしいだろうと。激甚大災害だけでなく、それ以前の状況すら作り変えられています。
ガブリエルの最期にしても中国大勝利。GHQは大損害を被って勢力を弱め、結果2014年では
中国が東京を席巻しているのでしょう。樹里の生きる東京、明らかに中国色ですよね。
日本最大の脅威だからなのでしょうが、中国への肩入れがあまりにも過ぎるんです。

繰り返しますが、仮想世界の訓を現実に持ち込むのは迎合すべき事です。ローガン世界の
世界情勢でモノを語り、ローガン世界の2014年に警鐘を鳴らすのだって別におかしいこと
じゃありません。
現実日本の過去を捻じ曲げてでっち上げの歴史を作り上げ、それをさも事実としてあった
(なかった)として現実日本の現代に物申すのが不義理なんです。結論ばかり重視して、
過程を一切無視しているんです。作者が。ローガン世界の日本人のように。

そんな卑怯者が説教臭く現代日本に警鐘を鳴らしても誰が聞くというのか。
権利を未来に託す話を書いたのであれば、日本の未来を託したご先祖様達を蔑ろに
しないでいただきたい。不義理を働かずに言葉を貫いてほしいんです。

であれば、作中の言葉にも納得できました。確かに押しつけがましい面もありましたが、
今の日本が中国を筆頭にアジア各国から移民という侵略を受けているのは事実です。
それを低コストだからとホイホイ雇って日本人の雇用を失わせているのも作中で述べ
られている通りです。

でも実際問題、ローガンの感想でそのあたりの話ほとんど聞かないですよね?軽くでも
触っていればいい方で、野郎共のカップリングに終始していますよね。それは読み手の
意識や作り手の比重もさることながら、論説に無理や極端があるのも一因ではないで
しょうか。

伝えたいことがあるなら伝えるための適切な方法、というものがあります。それを模索
せず自己満足で終わってしまったのが、本作2番目の問題点であると考えます。



では1番目はというと、その風刺的な内容のために娯楽作品の側面が殺されてしまった
ことです。48年がエンタメとして圧倒的に弱いのと50年の締めがしょっぱいのは日本の
未来を語ったがため、というわけです。

前者に関してはもう十分でしょう。付け加えるなら日本人論が強すぎたことでシャル・
オリバー・リチャード・ニーナのキャラが弱くなっている。レオやアランに比べると
明らかに弱いですよね。実力で足りないなら若者らしい熱量を見せればいいのにその辺
ですら弱い。小蘭にも食われ気味でしたし。

後者、というかガブリエルの最期は中国を勝たせるための一手だったのが不自然。
米国に勝たれちゃ敵わんとばかりの露骨な操作でした。エンタメとして見せるなら
GHQへの大打撃とかそういうのは不要です。暴君ふるまって高潔()に死ねば読み手は
それで満足したはず。なのにバトラーの復讐じゃあ...盛り上がらんのです。

また50年においても48年組の弱さが目立ちます。オリバーの仇みたいなモーリス戦
でしたけど、あの戦いぶっちゃけいらんかったよなぁと。モーリスをチンピラ扱いに
するならもっとスカッとするやり方あったと思いますし。とりあえずワンダリング
ドッグに華持たせるか、的なプロレスには興が醒めました。

これが48年の語りを減らして、代わりにオリバー達とバタリアンの確執でも書いて
いれば盛り上がってたと思いますし、ワンダリングドッグにも更に入れ込めたはず。
すればラストバトルもアランキース戦やミゲルアルフレッド戦みたいにテンションが
上がったでしょうしね。因縁の対決、ってのはいいもんです。

そして先に挙げた中国強すぎる問題も、そこをタネに説教しないなら異論はありません。
実際中国側のキャラにはカッコ良い奴ら多かったですから。彼らを勝者にしても問題ない、
というかむしろ納得です。最も自国を考えて動いてましたからね、金龍会の若派は。


その他大小あわせて、語りを減らしてエンタメ特化していれば更に面白かったはず
なんです、ローガンは。あるいは訴えに説得力があればそれでも満足できました。
その両方が中途半端だから惜しいのです。

その特化させた形の1つが先に挙げた『マブラヴ オルタネイティヴ』です。ともすれば
現代日本人の防衛思想を刺激できたお話です。しかし感情の揺さぶりに専念した結果、
あのようなトンデモ大傑作ができてしまったわけで。本作も特化していれば同レベルの
傑作になれたのではと想像します。事実娯楽作品としては非常に面白かったですから。

あるいはより社会派路線へ傾倒しても面白い結果になったかと。こちらは『群青の空を
越えて』が該当しますね。同胞や戦いの意味を問う面は本作と同じながらも、最後まで
エンタメ然として現代風刺の側面を見せません。それがかえって作中人物達の想いへと
共感できる作品です。こちら路線でもやはり面白いものができたはず。

いずれにせよ面白くなる要素はあったのに舵取りと配分を間違えた結果、面白いけど
最高の一本には届かなかった作品、というのが私の『ローズガンズデイズ』評です。
個人的にはエンタメとして特化して、48年を面白くしてレオや梅九の活躍を増やして
ガブリエルの最期をもっと面白くしてほしかった。そうしたらベスト入りだったの
ですが。やはりお説教が余計すぎましたね。



蛇足1
あれだけレオに執心してたのに、負けたのケロッと忘れて再登場するキース君は
どうかと思うの。スパロボかよ。いや彼好きですけどね。

蛇足2
やっぱラストは米国の建物燃やしてドンパチして爆発させるべきだったんですよw