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amaginoboruさんのフェアリーテイル・シンフォニーの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
フェアリーテイル・シンフォニー
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
85
参照数
341

一言コメント

2作同梱版のおまけシナリオではなく実質的なミニFDですね。本編やアンコールに見劣りしないクオリティで新たな展開を見せてくれました。文・絵・音いずれもハイレベルで、各要素の連携による演出もバッチリ。相変わらずの完成度です。3時間ほどと短めではありますが、密度は本編にも引けをとりません。原作を楽しめた方なら本作も問題なく堪能できると思います。また推理要素が本編よりも良質で、何が起きているのか推察しながら読み進めるのも一興です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本編から約1年半、アンコールから1年経っての追加シナリオに質の変化を危惧して
いたのですが、杞憂でしたね。テキスト、1枚グラ、BGMに声と全てが当時のクオリティ
そのままでした。DL版なら3~4時間ほどで2k(VFB込み)ですが、この内容なら高くは
感じませんね。お買い得感すらあります。

お話はパッケにも書いてあるようにAnotherSide。つまり別ルートですね。記憶を
失った少年が目を覚まし、患者のヒロイン達と接触するまでは本編と同じですが、
少年の言動がかなり異なっていて、何が起きているのかを読み進めながら考える
形式です。

本編でも「つみびとは、だぁれ?」と推理要素が設けられていましたが、こちらは
選択肢こそないものの内容はより洗練されていました。ヒントも本編プレイ済みで
あれば難しくない程度に用意されていて、ほどよく誘導してくれる親切設計です。

仮にわからなかったとしても、そのときはクライマックスで本作らしい演出でもって
説明してくれるのでご安心を。文絵音が一体となって物語を作る姿勢はシンフォニー
でも健在で、自力で状況を理解できたとき以上のインパクトでもって真実を知ることが
できると思います。



以下、ネタバレあり感想。










「少年」の正体についてですが、ノベルゲーのお作法に則っていたのがズルいといえば
ズルいかも。一般的なエロゲの場合、個別ルートで展開こそ変われども、舞台設定やキャラ
設定に大きな揺らぎは起こしません。ですが全年齢対象のノベルゲームの場合だと、
ルートごとに根本的な設定が変じることも少なくありません。

例えばかの有名な「かまいたちの夜」ですと、とあるルートでは真犯人だった人が別ルート
では多くいるザコ敵役の一人だったりします。シンフォニーの「少年」設定はそれと同じ
ギミックで、根本設定が覆っているのですよね。弟ではなく、兄が楽園に来てしまっている
わけですから。

推理小説ではタブーとされている「暗黙の了解」的なトリックがいくつかあるのですが、
エロゲメインでプレイされている方には、本作の仕掛けは少々ズルいように見えたかも
しれません。ですがそれならそれで考察を捨て、純粋な物語として見れば楽しめるのでは
ないかなと思います。

上述しましたが、種明かし時の演出はいかにも本作らしい、ノベルゲームの特徴を
十二分に用いた素晴らしいものでしたからね。灰色の悪魔を撃退する場面から、ゲルダが
弟クンに抱きつくまでの「溜め」は実に見事でした。

特に最後の最後、2人が対峙する1枚グラから差分でゲルダのカットインが入る
差分演出は素晴らしかったです。シンメトリックで色の少ない絵から、ゲルダが弟君に
だけ色を与えるのですよね。本作の少年は本編の「兄」であること、「兄」は万能
なれど孤高であることが、視覚的に決定付けられていました。

そこへテキストへ一言「少しの迷いもみせずに、弟の胸に飛び込んだ」と挿しこまれる
のがまた何とも上手い。種明かしの終了宣言ですよねコレ。少年は「兄」であり、
ゲルダが求めていたのが「弟」であることを、絵だけでなく文章でもまたピリオドを
打っている。実に秀麗なクライマックスの締め方です。

だから読み手は、兄が万能なれど寂しさを抱え、弟に羨望を抱いていることに共感を
持つことができます。単純にテキストだけで書かれていたなら、兄の感情にここまで
シンクロできなかったと思うのですよね。無自覚だったとはいえ、弟君に首吊りを
させてしまうほどの人間ですから。同情できなかったと思う。

けれど1人で「楽園」の諸問題を解決して、灰色の悪魔も1人で撃退して、ヒロイン
全員を助けたのもまた事実です。実際ゲルダはスノードームを奪われたことで兄に
助けられたわけですし。しかし解決した後に抱きついたのは、今回何もしていない
弟君でした。

そりゃゲルダの立場からすれば当然なのですが、ヒーロー気取りで全てを解決した
兄からすれば、弟を羨望するのも仕方ないとも思うわけです。そこへ読み手が共感
するには、やはり文章だけでは力不足な気がする。秀麗なグラでもって、決定的な
差を絵と色で見せ付けられたからこそ、非道な兄に共感できたのだと考えます。

『フェアリーテイル』シリーズの持つ一番の魅力ってコレだと思うのですよね。
シナリオやテキストも素晴らしいのですけど、それだけに頼るのではなく、絵や音も
的確に活用している。文章ではなく、ノベルゲーの特長で勝負している作品なんです。
シンフォニーのクライマックスはその最たるシーンの1つでした。

テキスト一本で勝負する作品や、秀麗なグラや動きで見せるエロゲも、それはそれで
見事です。ただノベルゲームをプレイしている以上、そこでしか見られない何かを
やはり求めたいわけで。『フェアリーテイル』シリーズ3作品は、そんな私の要望に
見事に応えてくれました。その点を何より評価したく思います。