昨今の学園モノエロゲの不文律に抵触していますし、アドリブの旧作品をプレイし続けてきたユーザから見ても掟破りのようなお話です。しかしブランド旧作を鑑みた上で読み直してみると、作り手の姿勢は何一つ変わっていないように受け取れました。夏の夜空といとしさの色は、それでも平凡な日常でした。
起伏の少ない、地に足のついた恋愛事情。それがアドリブ諸作品に対する私の所感です。
ドラマチックな出会いもなければ鮮やかな日常もない。主人公がヒロイン達にいいとこ
見せるわけでもないし、そもそも難関が起こらない。個別にしても一般的な悩みの
解決が大半です。
ゆえに等身大です。傍から見たら些細な問題でも、当の本人達にすれば重大な難関に
悩み、足掻き、勢いで突き抜ける。もちろん失敗もあってそれは惨めなのだけど、
結果的に上手くいったりしてオーライみたいな。そんなティーンエイジ特有の感情や
行動に重きを置いたブランドです。
学園恋愛エロゲなのに必要以上にキャラを立てず、リアルを経た読み手がノスタルジーを
体験できる作品。あるいは体験したかったリアルを追従できる作品。それがアドリブの
特長であったと私的には考えます。学園モノなのにキャラゲーでもシナリオゲーでもなく、
雰囲気ゲーなのですよね。
そこにきての美空ルートです。学校で出会い仲良くなるまでは旧作群と同じながら、
個別ルートは十把のキャラゲーシナリオゲーのような展開に、まずは驚かされました。
攻略対象が死んでエンディングなんて、昨今のエロゲでは滅多にお目にかかれません。
シナリオゲーや陵辱モノならまだしも、これ学園日常モノですからね。
読み終えて次に去来したのは落胆でした。美空ルートの内容は、病弱ヒロインを題材に
した個別ルートとしては酷く画一的な作りです。いってしまえば「病弱を隠して無理
していた」という事実だけが綴られ、それ以上の感情が伝わってきません。
バグや不具合を覗けば欠点も少なく、お話としては成立しています。が、本当に
成立しているだけで長所も見当たりません。むしろ入院して以降の描写が一足飛びで
物足りないとまでいえます。一番盛り上がるところをバッサリ切られた形です。
「なんでこんなの作ったし...。」プレイ中の所感はガッカリで溢れていました。
けど「2000年前後の名作パターンを劣化コピーしたかのような作風を、何故
アドリブでやる必要があったのか?」と思考を進めると納得もできるのですよね。
美空ルートおよび同ルートにおける玲央は、ブランドおよびその前身にまで思いを
馳せることで、初めて意味を成すように思えました。
◆美空ルートについて
まず私が勘違いしていたのは、病弱ヒロインである青山美空もまた、地に着いた日常
から何一つ足を踏み出していないという点です。他のドラマチックなエロゲ群でよく
用いられる属性だからと、ストーリーと属性だけを見てて意義付けてしまいました。
「健全なのが当たり前」などというのはエロゲユーザの都合いい解釈でしかなく、
実際は健康ではない方も、大問題を抱えて生きる方もいらっしゃるわけで。物語を
綴るに平凡じゃないほうが話を作りやすく、読み手もまた自分を定規とした非日常を
求めている。だから物語の題材として取り上げられやすいだけに過ぎません。
十人十色の青春模様があって、その中に病弱で余命僅かな娘がいただけの話。それを
色眼鏡で見てしまっていたわけです。ですからアドリブの姿勢は何一つ変わっていない
のですよね。地に着いた日常の青春模様を見せるエロゲブランドです。
一方で『アオイロノート』だけでその見解にたどり着けたかと問われると答に窮します。
美空と唯子にて非日常かつ(大衆的な観点で)ハッピーエンドとは呼べない締め方で、
玲央ルートにしても後のことを考えると感情に影を落とす内容。「いつもどおり」な
沙織ルートだけをピックアップして「平凡な学園模様」と判断するのは少々無理が過ぎる
ように思います。泣きゲーと評されても仕方ないかなと。
その上で美空ルートを日常ゲーとして読めたのは、ブランドの過去作品で平凡な
日常の恋愛模様を幾度となく見せられてきたから。『ボクラはピアチェーレ』から
始まる13人(ドコドナの竜馬&悠里を含めれば15人)で、各々の形は異なれど
「平凡な青春模様」と呼べる物語見届けてきたからです。(宇宙人もいましたが、
その日常は我々の考える平凡からはみ出たものではありません。)
そこに「アドリブらしい」沙織ルートを『アオイロノート』に加えたことで、初めて
本作が日常青春モノであるとして、美空の存在を受け入れることができたように思い
ます。単発作品として見た場合の所感が「旧名作の劣化コピー泣きゲー」であること
には変わりません。旧作があっての本作であると私は考えます。
そうやって美空ルートを他ルート(旧作)と並列に眺めると、いずれも「限られた
時間」を題材にしていることがわかります。やりたいように自由に、時にはジタバタ
して、ドコのドナタでもない自らの感情だけで動ける青春は一度しかない。
その限られた時間の中を、自分なりに一生懸命に生きるのが従来作品のお話でした。
時間制限つきなわけです。
それは夏休みが開ける前に亡くなる美空にしても、短いだけで何も変わるところは
ありません。自由にできる短い時間を、やりたいように足掻いてでも自分の感情で
行動する。それが軽音部の創立で、友達増やしで、恋人作りで、セックスだった。
他の健全な人々と本当に同じです。
だから、美空ルートはアドリブのヒロインなのだと思います。私がブランドに求めた
内容ではなかったし、本作をキャラゲーとして購入された方が不満を持たれることにも
納得できますし理解にも及びます。その上で、読み手の期待を裏切ってでもブランド
テーマに拘りを見せた美空ルートを、私は何より評価したい。妥協することなく自らを
貫いた物語でした。
そのこだわりは楽曲にも現れていました。EDテーマの1つ「夏の夜空といとしさの色」
には美空ルートへの想いがこれでもかとばかりに散りばめられています。i.oサウンド
らしいアップテンポなポップソングかと思いきや、サビの部分で曲調が泣きメロに一転。
歌詞は日常恋愛なのに、どこかもの悲しさを誘う一曲です。
アップテンポにしても、疾走感よりも全力感や焦燥感が前面に現れているように
受け取れました。時間がない美空が告白から初エッチ、デートに腕組みラブホテルと
生き急いでいたそのままが表されたかのようです。
そしてとても短いのですよね。フルで3分13秒と一般的なボーカル曲に比べても
かなり短めです。なのに最後のサビは歌詞が繰り返しで、すごく美空らしいなと。
短い時間を全力で駆け抜けた、けれど作れた思い出はやはり僅かで、その少ない
大事な想いを心のうちで大切に大切に反芻しているようで。
玲央ルートのEDテーマでもありますし、穿った見方なのかもしれませんが、私は
「夏の夜空といとしさの色」をそのように受け止めました。もとよりボーカル曲の
秀逸なブランドですが、これほどの衝撃を受けたのはエロゲソングでも久々でした。
作品とともにマイナーであることが本当に惜しいですね。
※「夏の夜空といとしさの色」歌詞
http://www.adlib-software.com/aoiro-note/aoironote-cdbook.pdf