相変わらずな完成度の高さですね。本編を堪能できた方なら定価で購入しても損しないFDです。中でも印象的だったのがアリスとオディール・オデットの声。あの熱演名演を違う角度から楽しむことができました。
間を置かずリリースしたことが功を奏したのか、クオリティまったく落ちてませんね。
絵・音・文の見事なハーモニーはFDでも健在でした。1枚CGが登場するたびに感動できる
あたりも本編そのまま。物語のトーンにも変わりはなく、純粋なサイドストーリー集と
して楽しめるかと思います。
中でも嬉しかったのが本編でも特に印象的だった、アリス役である萌花ちょこさんの
演技ですね。グレーテルと並び主役ストーリーのないヒロインですが、メインシナリオ
『かかとを鳴らましょう』では物語の牽引役として見事な振る舞いを見せてくれました。
序盤のアリスを見て「私の知ってるアリスじゃない」と思われた方も多かったのでは
ないでしょうか。持ち前の天真爛漫さもあるけれど、時折ふっと影が差してずぶずぶと
闇に飲まれていく様はむしろ、本編終盤の真実が見え隠れした辺りの雰囲気。まだ洗脳
されているのにどうして不安定なのか。予想が付いていたドロシーの物語よりもそちら
の方が気になりました。
そして最後で明らかになる「ピンクのマシュマロ」。本編でも謎だったこの単語、
あぁそういうことだったのかと。頭に詰め込んで貰ったアリスは無敵の存在に。
その言動や行動に迷いのない立ち振るまいは、私の知っている本編前半のアリスでした。
何が凄いって、この落差を絵や文章ではなく最も感覚的な音で伝えている点です。前半の
アリスはそれはもう不安定で、あのグレーテルにすら心配させるほどに躁鬱グラグラ。
何かの弾みでポキっと折れてしまいそうな様相を、感覚で印象付けられているのが本当に
素晴らしかったです。
シナリオエピローグでの明るさもまた同様で、声ひとつでメルヘンかつサイケな世界へ
旅立ってしまったのが理解できる。お話的にはマズい傾向なのに「やっぱりアリスは
こうでなくちゃ!」と思わせる無敵の空気がにじみ出ている。シナリオを食ってしまう
のでは?と思わせるほどの魅せ方でした。いやホント凄かったです。
フェアリーテイル・レクイエム&アンコールにおいて、もっともインパクトを持って
いるのは大石竜子氏のグラフィックでしょう。良い意味でエロゲ離れした幻想的かつ
華やかなCG達は、それだけで読み手を魅了できる吸引力があります。
喜怒哀楽の激しいシナリオとテキスト、雰囲気を醸し出すBGMも絵に追随して見事な
仕事がなされています。絵・文・音の3拍子がハイレベルに揃った本作においては、
声が入り込める余地は一見少ないように見受けられます。事実ベテランの多い声優陣
にもかかわらず、半数以上の方は大人しく作品に追従している印象を受けました。
そんな中でハイクオリティに負けず劣らず、むしろ呑み込んでやるかとばかりの勢いで
演技を見せてくれた萌花ちょこさんは、繰り返しになりますが掛け値なしの名演を魅せて
くれました。最高級の作品に最高級の声を当ててくれたこと、絶賛の評をする他に
ありません。
そしてもう一人、かわしまりのさんも素晴らしい演技を魅せてくれました。ただし
それは萌花さんのようなパワフルさ溢れるものではなく、練達のプロが見せる精緻な
技術。オデット・オディール・少年の声色を使い分け、その中で更に感情を自然体で
織り交ぜる技は、かわしまりのという声優を作品へ美事に溶け込ませていました。
声における剛の技と柔の技。その両方を堪能できることは、絢爛華美な両作に隠された
希少な特質であり美点です。「声」はどうしても性質がキャラクターに見合っているかで
良否を判断されがちですが、声優さん個々の技術・魅力が作品を昇華させているケースも
少なくありません。それを改めて意識させてくれた作品でした。
それもこれも全て、フェアリーテイル両作のことごとくが上質であったからこそ。
声だけが見事でもやはり作品は歪な形になったことでしょう。上質なパーツ同士を使い
合わせたからこそ上質な完成品。本当に隙のない、見事なノベルゲーでした。