頭を使わず楽しめるコメディ系日常モノ。一人ひとりが仲のいいグループの日々をテンポ良く楽しませてくれました。ただ笑いの勘所がノリと勢いだけにあり、笑いどころ個々の質はお世辞にも高くありません。ポンポン読み進めて深く考えず笑える人向きで、一つ一つを検分して読まれる方には中身が空っぽで辛いかも。存外読み手を選ぶ作品です。
◆本作の特徴
理想的な環境で生活するハイスペック男女の日々を書いたお話。ヒロイン個々に悩みが
あり解決するいつものエロゲストーリーですが、ぶっちゃけ中身は空っぽです。綺麗に
オチをつけるためだけのお話でしかなく、深く考えてしまうと表現の浅さや不可解な
設定に不快感を抱いてしまうかも。
コメディとしてのネタも同様で、基本的に拙く質も低めです。時事ネタパロネタは
弾が多いだけですし、会話の掛け合いも基本はボケてツッコんでの様式美。捻りも
演出も少なく単調で、一つ一つを丁寧に拾ったならまず飽きます。
そんな一件質の低いストーリーとコメディばかりのエロゲですが、ネタを繰り出す
テンポだけは一級品です。失笑もできないコントや味気ないお話を、練達の声優さん
達が気持ちよく勢いよく投げつけてきます。すると不思議なことに、淡々と流して
いた微妙な諸々がなぜか笑えたり入れ込めたり。
中でも良かったのがアメリカナイズな台詞......の翻訳の数々です。本作は様々な
米国の映画やドラマなどをネタにしていますが、それら自体は知識に頼りすぎた
ネタで、ぶっちゃけ大しておもんないです。
しかしそれらの台詞の「翻訳版での典型的な言い回し」が要所に散りばめられており、
これが実にフィットしていてテンポがいい。矢継早なセリフがポン、ポン、ポンと頭に
滑り込んできます。その勢いに任せて読む益体なしの語群は、なぜか面白く感じる
のですよね。くだらないはずなのに勢いだけで笑えますし、お話にも入りこめます。
洋モノ翻訳に頼らない他の会話も同様です。声優さんのテンポに合わせるようにページを
送ると、一つ一つ丁寧に読んでいたときよりよほど面白くなる。「うんこ!」みたいな
小学生レベルの笑いでもなぜか笑ってしまう事態に。声を用いたテンポ配分が秀逸なわけ
です。
なので読み手もテンポを合わせるのが大事ですね。ページをめくる時も会話の速度や
話者の心情を斟酌してギアチェンジする必要がありますし、声のない主人公のセリフに
しても、内容を丁寧に読むより斜め読みして勢いを殺さない方が重要です。わからない
ネタ?飛ばしましょう。大丈夫ヤツらの勢いが何とかしてくれます。
ストーリーも似た感じで斜め読みがオススメです。閑古鳥のなくヒロイン達のお店を
立て直すために話題性を作ろう!みたいな流れですが、そうなった理由やら解決する
手段やらを深く考えちゃあいけない。「そんな都合よく行くわけが...」と考える
脳ミソにフタをして、成り行きに任せるのが正解です。
正直コレができないと辛い作品だと思います。だって他エロゲが「シナリオ」「コメディ」
「音楽」「グラフィック」をウリとするように、『Lamunation!』は「テンポ」をウリに
しているわけですからね。長所を楽しんでこそ、です。
◆低評価を受けてしまった原因
作中でアメリカを意識しているだけに、音楽もディスコミュージックやEDMといった、
ダンサンブルなジャンルを前面に出しています。踊り手を聞き手と同じぐらい重要視
し、踊りやすいように曲の速度やリズムをコントロールし、時には調子を外すことで
ダンサーリスナーを楽しませる楽曲群です。作中で話題になる曲も、実際に流れる
曲も、そんなハコでかけられそうなナンバーが多めです。
ですが作品のコンセプトを音楽で表すならむしろ、バブルの弾けた90年代から
日本で流行り始めたユーロビート(Japanese Eurobeat/J-Euro)でしょう。120BPM
ほどでドッシリ丁寧にリズムを刻むのではなく、150BPM以上の8ビートを勢い任せに
(時には泣きメロに浸り)楽しむ、日本が誇る音楽文化です。
縦ノリ。これほど本作を的確に表した言葉もありません。しかし当時のプレイヤーが
求めた内容は勢いではなく、一つ一つが読み手を考えて計算された丁寧なリズム。
いわゆる「横ノリ」に近い空気の作品でした。
低クオリティではないのに辛らつな評価を受けてしまったのは、このあたりに原因が
あるように思います。作り手は「勢い」を最重要視してコメディキャラゲーを構築した
のに対し、プレイヤーは勢いもさることながら、要素の一つ一つを楽しませる丁寧さを
求めていたのかなと。(受け手はワガママなので勢いも求めてはいたでしょうけど)
ですが発売時に需要は読み違えたとしても、作品としては決して低質ではありません。
総じて粗く底が浅いのは事実です。ですが勢いで牽引する作風は、どっしりと丁寧に
作られた作品が持ち得ない別の魅力を有しています。決して諸手を挙げて賞賛できる
エロゲではありませんが、私は本作だけが持つ魅力だけは何よりも評価したく思います。