同ブランドの名作『Magical Charming!』を意識した作りっぽく見えますが、同じものを期待するとガッカリしそう。名作ノベルゲー『かまいたちの夜』に酷似したゲームデザインですが、同じクオリティを期待するとやっぱりガッカリしそう。とはいえヒロインは可愛く、エロ要素は多彩で豊富。グラフィックも上質で、エロゲとして最低限以上の面白さを持った作品ではあります。
■本作の特異な点
一般的な萌えゲーキャラゲーはどのルートでも同じ場所を舞台とし、登場人物の個性が
ルート別に異なることはありません。ライター間の意識の擦り合わせが足りておらず、
ルート毎で個性や設定が異なる作品も少なからずありますが、そういった製作過程からくる
欠点を除けば、基本的に同じ設定を使用します。
対して本作。舞台こそ同じ信天島ではありますが、ヒロインの個別ルート毎に主人公の
設定が異なります。ルート毎に職業はもちろん、生い立ちも異なります。
ヒロイン側は主人公ほど設定が変わることは稀ですが、特にサブルートにおいては唐突に
設定が変わってしまうケースも少なくありません。
エロゲの一般的な萌えゲーキャラゲーに慣れている方は、この点に最も大きな違和感を
持たれることでしょう。特に主人公に自分を憑依させる読み方をされる方にとっては
苦痛です。生い立ちや職業、喋り方などあらゆる設定がヒロイン毎に異なるわけですからね。
感情移入できず非常にプレイしづらいことと思います。
ですがゲームデザインは決して悪くはありません。かの有名なノベルゲー『かまいたちの夜』は
冒頭こそ主人公とヒロインは共通設定ですが、選択肢次第では個性や職業が
他ルートと異なる展開もあります。同作はミステリールートが本筋ではありますが、ホラーや
アクションなど、同じ作品で様々な要素が味わえるようにするため、登場人物の設定を
変える(シナリオに登場人物を馴染ませる)ことで様々な面白さを引き出していました。
つまり『運命線上のφ』も同じ形式を取っているわけです。本編突入前にルートが
確定するため唐突感はありますが、バラエティに富んだシナリオ展開を見せるために、
登場人物側の設定を弄り倒しています。
見た目がヒロインの個性を重視キャラゲーなだけに錯覚してしまいますが、
ノベルゲーという観点から見れば本作は何のことはない、古式ゆかしいゲームデザインを
採用しているに過ぎないのです。
とはいえルート途中にヒロイン設定をいきなり変えられてしまっては「それがこのゲームの
やり方なんだよ」と言われても唐突すぎて興醒めしてしまうこともあるでしょう。
その対策として用意されたのが抜刀システム。ネタバレのため詳細は伏せますが、
抜刀システムを用いることで急な設定変更にも納得できるよう工夫されています。
(実際のプレイヤーが納得したかはさておきw)
ヒロインは総じて可愛いですし、エロも豊富でシチュも多岐に渡って用意されており、
単純なキャラゲーとして見てもクオリティは決して低くありません。
なので「変なゲームデザインにしないでキャラだけ楽しませろよ」と感じるプレイヤーも
いらっしゃることでしょう。
その上で奇抜なゲームデザインをあえて用いているのは、1作品の中で様々なジャンルの
物語を無理なく楽しませるため。その点を加味した上で本作を改めて眺めると
また違った作品評や感想が生まれてくるのではないかなと、プレイしていて感じました。
■で、このエロゲ面白いの?
結論から云うと、キャラゲーとしてもノベルゲーとしてもどっちつかずな、
中途半端な作品となってしまっています。
まずキャラゲーとして見た場合。共通ルートの掛け合いや個別ルートのエロ、
イチャラブ要素といったキャラゲーの核は他の良作名作と比べても決して劣りません。
ヒロインはいずれも可愛いですし、見た目や背景もハイレベル。エロも多彩です。
しかし主人公の設定をルート毎に変えているものだから、ルート毎にまた自己紹介から
スタートするため、特に日常パートが繰り返されて中だるみを覚えます。もちろん
対策として各ルートとも日常パートは少なめではあるのですが、少ないぶん各キャラの
掘り下げが足りていないのも事実です。
例えば1ルート10時間でやるところを4ルート合計10時間でやるわけですからね。
そりゃ薄くもなります。同一設定であることが多いヒロイン側の紹介を端折るなど、
随所に工夫も見られるのですが、それでも中だるみを覚えるプレイヤーはいるかと。
また1/4とはいえいちいち共通ルートを見せられるから、個別ルートを早く見たい
人にもこのゲームデザインは欠点と云えます。いつものキャラゲーなら差分以外の
共通パートはスキップできるのにできないのですからね。ストレスにもなるわけです。
次にノベルゲーとして見た場合。上述のとおり、様々なジャンルやシチュエーションを
見せるためのゲームデザインなのですが、肝心のサブルートのお話がどれも似たような
ジャンルばかりなんです。エロゲー個別、エロ特化、ギャグ、ゲーム要素の4パターン
しかジャンルがありません。
スーパーファミコンという100MB未満の容量で作られた『かまいたちの夜』ですら、
ミステリー、サバイバルホラー、フィクションホラー、スパイアクション、
ギャグ、エロ、謎解き、ゲーム要素など様々なジャンルが盛り込まれていました。
なのに数GBの容量を有する本作はたったの4ジャンル。これではせっかくの
ゲームデザインが台無しです。
実際は選択肢を間違えて即死するようなホラー要素や手に汗握る展開も
あるのですが、そのいずれも表現がマイルドでジャンル固有の面白さが真に伝わって
きません。例えば怪物に惨殺されたとしても、その描写を掘り下げることなく
ブラックアウトするだけで終わってしまうんです。
登場人物達が悲しみに暮れるシーンも同様です。シチュエーションだけ見れば
泣き叫んでしばらく立ち直れないような状況でも、とりあえず涙を流して大泣き
するだけで足早に終わってしまう。これでは読み手が感情移入することはできません。
どのジャンルも同じような作りにしか見えない原因としては、
やはり本作が可愛らしいヒロインをメインとした萌えキャラエロゲであることに
あると思います。可愛らしさを楽しむためにプレイヤーはゲームを購入したのに、
惨殺されて惨たらしい表情で朽ち果てていたらそりゃブチギレますよね。
そんな本作のメイン購買層に寄り添ったことで、せっかくのホラーの面白い部分や
泣きゲーとして妥協してはいけない部分を妥協してしまった。
結果、色んな話が読める作りなのにどれも同じような話しか読めない、わざわざ用意した
ゲームデザインの長所を殺してしまうような作りになってしまったのでしょう。
「エロゲのおまけ部分ばかりを集めたようなエロゲ」という本作の感想を
拝見しましたが正に言い得て妙。小手先ばかり変えたシナリオを並べてしまったことで、
ゲームとしても萌えキャラエロゲとしても中途半端になってしまった作品、
というのが私の本作に対する評です。
以下、ネタバレを含んだ更なる感想。
このような本作の欠点を解決する方法として各ジャンルの表現を本格的にする他に、
4ルートプレイ後に現れる最終ルート用意することで世界設定をまとめ上げ、1つの作品として
束ねる手法があります。数多のエロゲで導入されている方法ですし、本作をプレイした方も
最終ルートはあるものと想定してプレイされていたのでは。(私はあると思っていました)
ただこの方法は同ブランドの名作『Magical Charming!(以下、マジチャ)』が、
萌えキャラエロゲ史上でも稀に見るクオリティで導入しちゃっているのですよね。
マジチャは作品前半は「魔法のカードを駆使して女の子と仲良くなる→イチャラブ」という
明確な目標でプレイヤーの手を引き、後半は独自システム「クロウカード」を用いることで
鮮やかな手腕で物語を綺麗に締めくくる素晴らしい作品構成でした。
エロゲのみならず、一般のノベルゲーと比較しても勝るとも劣らない名作です。
そんなマジチャの販売から間もない時期にリリースされた本作。同じことをやっても
前作を超えることは至難の業です。ということで抜刀システムが採用されたのでしょうが、
あまりにもエロゲというジャンルと食い合わせが悪かったですね。マジチャがエロゲとシステムを
綺麗に融和させていたことも相まって、抜刀システムのマイナス点が殊更に際立った形です。
ですが試みとしては面白かったと思いますし、前述のとおり萌えキャラエロゲとしても
充分に用途たるエロゲです。個別ルートも決して悪い出来ではありませんし、
独自システムがゆえの歪さを意識してプレイすれば十分楽しめる作品です。
欠点は少なからずありますが、エロゲとしては良作と評せるのではないでしょうか。