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amaginoboruさんのこころリスタ!の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
こころリスタ!
ブランド
Q-X
得点
70
参照数
1495

一言コメント

コミュニケーションの大切さを説いたお話ですが主張はかなり声高。サポートツール・キャラの強引な手引きもあってやや押しつけがましい内容です。ヒロインの魅力も主張に散らされ、かと思えば推しキャラだけは妙にピックアップされていたりと、まるで作り手のやりたいことだけを詰め込んだかのよう。ビジネスライクな外見とは裏腹に、同人ゲーのような情熱を伝えてくるエロゲでした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

現実に絶望し2次元ヒロインとラブラブチュッチュな主人公が、いつの間にかインスコ
されていたツール「こころリスタ」を使ってコミュニケーションの大切さを思い出す
お話です。なのに物語自体は主張ばかり押し込んでくるスタンスで、その矛盾に苦笑
してしまいました。

作品傾向としてはテーマ重視です。共通部分でヒロインの魅力を振り撒くも、個別は
悩みや問題解決に専心してしまいキャラゲーとして楽しむにはちょっと物足りない。
シナリオも別段目を惹くものがあるわけでなく、いずれもコミュニケーションの大切さを
伝えるための手段とされています。
(キャラ方面では真理歩が、シナリオ方面ではアルファがそれぞれ一歩抜きん出ている
ので、楽しむならその辺でしょうか。)

そのテーマについてですが、上述の通りかなり押しつけがましい印象です。前作に
あたる『こころナビ』はふんわりとした空気の中で感覚的に伝える優しい物語でしたが
今回は言葉自体も声高ですし、サポートツールもキャラもかなり強引で無理のある
展開が多々。「不思議なツールで無理やりエロシチュ」も数知れず。

そんな状況で主人公のコミュ障が改善されていき、個別ルートではコミュの事しか
考えない人間になってしまうほどのテーマ一筋っぷりで、お説教シナリオが苦手な方
には不向きな内容です。ですが言っていることは至極真っ当で説得力もあるので、
作品としてクオリティが低いわけではありません。

なので読み手の意識が重要かなと。パッケージなど外面がとにかくキャラゲーしている
ので、勘違いして購入すると説教連発ヒロイン微妙でナンダコレになる可能性が。
作り手の主張を受け止め、その上で各ヒロインの奥にある何かを意識することで本作の
妙が味わえる。かもしれません。



以下ネタバレ感想。『こころナビ』のネタバレにも多数触れています。










ブランド前作『幻月のパンドオラ』もフリーダムでしたが、今回はその上行ってますね。
情熱と拙さが同人上がりのようで、その姿勢には好印象が持てました。古参のブランド
なんですけどね。なんだかウグイスカグラみたい、とか思ってしまったり。

けど「好きに嘘をつかない」「幸福を探す努力をする」といった従来の姿勢は変わらずに
いてくれて旧作プレイヤーとしては嬉しく感じました。1つの作品として疑問を覚えた
ため点数こそ低めですが、作品への姿勢は相変わらず好ましいブランドです。資金難の
ようですが今後もぜひ頑張っていただきたい次第です。



◆立ち絵について
相変わらず演出が上手いなぁ、と。こころナビでは改ページごとに複数の立ち絵を
用いる見せ方が印象的でしたが、リスタでは今どきらしくセリフの最中に立ち絵を変えて
いくスタイルに。グラフィックにしてもキャラに即したモーションが用意されていたのが
好印象。指差してふんぞり返るマリポ先輩や天真爛漫なメルチェなど、キャラ個性を
しっかり表現できていました。

あと一発ネタで面白かったのが魔ア子の半身ズレ。びっくりして再びズレるのがいかにも
驚いている風で巧い。これらの演出って作り手の細かな配慮やテクニックなんですよね。
「細かな演出は技術の進歩とは別」とはルリ女王のお言葉ですが、ブーメランにならず
有言実行だったのが印象的です。



◆とっても恋人らしいマリポ先輩
ことある度に「真実の恋」を口にするアルファと悠斗。しまいには過程を飛ばして
愛まで語りだして、おいおいすっ飛ばしすぎじゃない?とツッコんだこともしばしば。
(悠斗君は半ば脅される形だったわけで、仕方ないかなーと思わなくもないですが)

というか私、本作がいうところの「恋」にはかなーり疑問を抱いております。だって
全くに衝突しないんですもん。原因は明確で、悠斗がコミュと恋愛以外の「好き」を
一切持っていないからなんですよね。恋人に「譲れない一線」を求めないのです。
貴様それでもルリ女王の息子か情けない。

ヒロイン側も控えめなんですよね。将来の夢としてさっちんは正義の道、星歌は
アイドル、雪音は世話できる環境、メルチェは家族と、衝突する要素がどこにも
ありません。

本来このぐらいの年齢なら恋人に自分の理想を求めてしまうものです。コミュを重視
するこころリスタの効用なのかもしれませんが、勇太郎だって小春に対してエロ全開で
悶着あったほどです。悠斗もヒロインも綺麗すぎてちょっと不自然さを覚えます。


そんな中、自分の好きに一直線なのがマリポ先輩。同じオタク、同じコミュ障という
こともあって一切遠慮しません。ていうか声優イベントに彼氏連れていく時点で凄いw
結果として嫉妬を買い自重気味にはなりますが、夢の中ではやっぱり大導寺様。呆れ
気味な悠斗を初めて見ることができて大満足です。癒しイケメンも面白かった。

なんぼ健全なコミュニケーションを取っても、やっぱり譲れない一線も我慢ならない
欠点も見つかるもので。それを許容できるか否かって人付き合いでも大事な面だと思う
のですよね。学校・仕事仲間→友達→恋人→家族と関係が進むたびに衝突も増えるもの
ですし。

さち・メルチェからはその辺が一切感じ取れず、綺麗すぎて逆に不自然でした。妹sは
家族ですから織りこみ済みです。アルファはケースが特殊で一般的な恋とはまだ比べ
られません。唯一マリポ先輩だけがその辺りを描写しているんです。

悠斗は自身がコミュ障オタで後ろ指さされているから、人の不安や欠点をを嘲笑う
ことは決してありません。そんな彼をして呆れさせるマリポ先輩の情熱とダメさ加減は
とても人間らしく好感が持てるのです。クールビューティー気取ってダメダメな
とこも可愛いのですが、好きなものに正直な先輩がやっぱ一番可愛いですね。

そうやって衝突と理解を繰り返してお互いの線を測り、接し方を意識するのが関係の
在り方です。そこをわずかにでも描写した真理歩ルートは、アルファルートに並ぶ
良個別だったように思います。



◆不文律に負けた妹たち
さちルートが別ライターなこともあり微妙の声も多く上がっていますが、私はアレは
アレでいいと思うのですよね。というのもさちルートって普通のエロゲなんです。
告白されてカップルになって、すると恋人らしい可愛い一面を見せてくれて。個別に
入った途端魅力が霧散するメルチェあたりと比べてキャラゲーしてたよなぁ、と。

確かにテーマ的には今ひとつなんですけど、キャラゲー目的で購入した方にはむしろ
他ルートより楽しめたんじゃないかなと。アルバムスライドを背景にした初エッチとか
幼馴染シチュとしては上手いと思いますし、露出癖だって定番シチュです。十全とは
いわないまでも、さちを魅せるという意味では十分機能してたように思います。

むしろ不満はさち‐仁兄のカップリングエンドがないこと。せめて仁兄にガチ告白
してフられるシーンは見たかった。自分の好きに正直に、幸せを求める努力を書いた
のが『こころナビ』だったのに、主人公にちょっとほだされただけで靡いてしまう
展開にはちょっと納得がいきませんでした。さっちんそこは頑張れよ!w

そうならないのは、いうまでもなく商売上の理由ですよね。事実上のヒロイン寝取り
だから入れるわけにはいかない。けどそれを貫き通したのが『こころナビ』じゃ
ないですか。本番エロ0回のメインヒロインを出したじゃないですか。なのに折れて
しまったのが残念でした。いやもう間違いなく少数派でしょうけどね。


同じ理由で雪音・星歌にもガッカリ感ありました。あー本番しちゃうんだぁ、と。

本作の語るコミュニケーションの1つに、家族というものがあります。それは長沢家
だったり、メルチェの一家だったり、マリポ先輩の衝突だったり、凛子とアルファ
だったり、様々です。けど共通しているのは家族の繋がりの大切さ。最も近い他人
ゆえの難しさや気の置けなさをとても愛おしく表現しています。

『こころナビ』の凛子ルートはそんな家族を第一に考えて兄妹恋愛に臨んでいます。
「父さん母さんを悲しませるわけにはいかない」「親を悲しませてまでやることじゃ
ない」と。

普通の恋愛はできない。だから普通の幸せは諦める。その代わり兄妹だから得られる
幸せを求める。幸せになる努力を怠らなかったからこそ終盤のシーンがより鮮烈だった。
唯一無二の妹ヒロインとして未だ評価されているのは、そこにあると思うのです。

だのになんですか長沢家の坊ちゃんは。いやさ、こころリスタは。恋ばかりを求めて
即ハメ中出しバンバンですよ。同じくこころナビに発情させられた凛子とは天と地の
差ですよ。近しいテーマなのに自分たちの幸せだけを求め、周りが見えなくなって
しまっています。

アルファの強引さが気に入らないのはこの辺りなんですよね。恋だ恋だと急き立てて、
周りの幸せをぶっ壊しかねないレベルで企てる。劣化こころナビゆえ仕方ないし、
エロゲテキストとしての面白さのためと言われればそれまでですが、結果としてテーマの
訴求力は大きく減じてしまったように思うのです。

それを顕著に感じたのが雪音ルートのウェディングドレス。男女の恋ばかりが語られて
モニタ越しのお兄ちゃんガッカリです。勇太郎・凛子の同シーンはキスを交わしながらも
テキストは「家族が幸せでいられますように」だったのに。この差は歴然でした。


確かにエロゲとしてはヒロインとの1on1な恋愛がなされるべきでしょう。エロ0回を許せる
ユーザも少ないでしょう。けど凛子ルートは本番0回でテーマを優先させました。だから
ウェディングのシーンや輸血シーン、勇太郎の「ありがとう、いい妹でいてくれて」と
いうセリフが愛おしかったのです。

例え本番があったとしても、代わりの何かがあればそれはそれで満足できたでしょう。
しかし雪音は他に何もありません。(獣化してましたけど、あれ誰得なんですかね?)
星歌はアイドルの道が開けたり、雪音との姉妹愛があったり、合成音声ネタが巧妙
だったりと見るべきシーンは多々ありましたが、それだって1ヒロインとしては上々
でも兄妹恋愛である必要性を問われれば疑問です。

さち&仁兄の件も含め、結局はエロゲの不文律に逆らえなかっただけ、という気がして
なりません。テーマに特化するならせめて3人の誰かに凛子ルート級で妹ヒロインとしての
見せ場が欲しかったです。まぁ「即ハメ中出しバンバンが長沢兄妹の求める幸せだった」
的な見方もできなくはないですが...。



◆7人目のヒロインに対する手厚い愛情
とカッコイイこと書いてみましたが凛子ですね。まぁなんとも優遇されたヒロイン
でした。エロもルートもないからサブヒロインでもないって?ばっかおま、本番0回で
メイン張ったって今しがた言ったじゃないのさw

実際のところメイン以上に優遇されていたことは間違いありません。というかアルファ
ルートは事実上の凛子アフターでしたし。子供は作れないけど他の幸せを求めて兄と
恋仲になったわけで「子供ができるなんてイベント、あるとは思ってなかった」という
セリフは前作を知っていると事の他重く聞こえます。

そうやって物語を追っていくと、最序盤で惣菜クレープを作ったシーンがこの上なく
愛おしいものへと昇華されます。アルファにとっての初めてのおふくろの味は同時に、
凛子にしても非常に意味のあるものだったわけで。喫茶店で「凛子のクレープの方が
美味しい」といって貰えた彼女の心境やいかに。

エピローグのアルファ救出作戦までを含めて、アルファルートは同時に凛子ルートです。
並行世界設定との合わせ技で勇太郎の相方は不明とされているものの、同時に凛子ルート
を想わせるセリフもあって何とも絶妙。その優しい不確かに凛子を乗せた形です。

『こころリスタ』から入ったプレイヤーには唯一シナリオに芯が通ったルートとして
印象に残るでしょう。しかし旧作のフィルタを通してみると、製作者の娘に対する
この上なく手厚い愛情が見て取れるのです。

それは何もアルファルートに限ったことではありません。先の妹問題にしても、あえて
凛子を越えさせなかったような節が見て取れます。二人でようやく対等、みたいな。
さちルートのラブホエッチも、制服が凛子の夏服バージョンで地味に意識させていたり。
3人目の妹に着させるあたりがなんともにくい。

何より驚いたのがメルチェルートの教室エッチ。「こころリスタで扉にロック掛けた」
とのことですがダウト。ライターさん&原画家さんが出した同人誌「きゅーぽん2」の
シチュそのままで茶ぁ吹きました。どうみてもスッ天管理人の差し金ですありがとう
ございました。こうなるとマリポ先輩にも何か仕組まれてそうな。


こうしてみるとメインヒロイン食いまくりで出しゃばりすぎと思わなくもないですが、
製作者の凛子に対する愛情って、凛子のアルファに対するそれと全くに同じなのです
よね。自分(達)が生み出したデジタルの娘に対する愛情そのままで。自分たちの
「好き」に正直なその姿勢、イエスです。

人とラウンダー。リアルとヴァーチャル。日本と異国。様々な対比のなされた作品です。
それらを受け入れ肯定する物語の中で、自身の生み出した「娘」に愛情を注ぐのは至極
当然であるようにも受け取れるのです。

1つの作品として、メインヒロイン以外に全力を注いだのは評価できません。点数が
低めなのもこの辺が原因です。しかし、その温かさがなんとも心地よい作品でした。
以上から凛子を7人目のメインヒロインと捉え、同時に『こころリスタ』における本当の
主役であると私は考えます。





蛇足
感想は常に凛子推しでしたが一番好きなのはルリ女王です(次が共通のメルチェ)。
店の常連にuni先輩がいること間違いなしの「プラスアルファ」店長、今回も少なめとは
いえゲームへの熱き想いを語ってくれました。お母さん結婚してください。

ただ今回はセリフよりその姿勢が印象的でした。お店に陳列するレトロゲームの中に
最新式のカードゲーム。そこに集う子供達へ遊び方を教えるルリ女王。この環境を
守る母ちゃんは本当にゲームが好きなんだなぁと。

「子供らの遊び場、上等じゃないさ。そういうふれあいの場が用意されてるって幸せなことだよ」

マリポ先輩のセリフが全てですよね。今のゲームはネット対戦できるから、家で一人でも
楽しむことは可能です。けれどみんなで顔をつき合わせてプレイすると格別の楽しさが
ありますし、なにより本作のいうコミュニケーションの形成にもなります。

別にゲームじゃなくても外で遊べばいい。仰るとおりです。しかしゲームを通じてでも
同じ感覚は共有できるし、ゲームだからこそ得られるものもある。80年代をゲームで
過ごした世代として、みんなで集まってゲームできる場所ってとても素晴らしいと思うし、
提供できる大人を同じゲーム好きとして何よりも尊敬できます。

本編とはまったく関係ないワンシーンですが、ルリ女王の姿勢と行動力には感動を覚え
ました。またパンドオラのようにゲームを熱く語ってくれる作品を出していただきたい
ものです。

とか書いてたらパンドオラやりたくなってきた。お布施も兼ねてDL版落としてきます。