サークル前作の特徴だった蘊蓄は鳴りを潜め、登場人物同士の掛け合い重視に。笑いもシリアスも楽しませてくれるキャラクターデザインとテキストを堪能する作品です。このクオリティで作品が完結していれば文句なしの名作だったのですが、後編は作られておらず未完結。本作だけでもひとまず完結していればまだよかったのですが。
サークル前作『強盗、娼婦のヒモになる↑↓』はキャラ個性とテキスト回し、
心理学に関する蘊蓄が面白いノベルゲーでしたが、本作は蘊蓄はわずかばかりで
キャラクターとテキストで勝負しに来ている印象。
強盗娼婦自体、蘊蓄がなくても十分魅力的な作品であったわけで、
本作も前作と同じノリで楽しめると思います。
加えて本作は登場人物が大幅に増加しているのが特徴。なのにキャラクター1人1人に
色濃く個性を付与できていて、とても丁寧にキャラメイクされているなぁと。
頭で「この人物はこんな感じで~」と考えなくてもイメージがパッと浮かぶし、
個性自体も実に独特で、上手くキャラ立てするなぁと感心させられました。
もう一つ驚かされたのがエロシーンが向上していたところ。強盗娼婦のDickは未だに
許せていないのですが、今回はイチャラブエッチが照れ隠し無しでちゃんと表現されています。
ただ今回はヒロインも沢山いてエロはそのうちの一人だけですが、感情の伝わってくる
書き方がなされていて、前作からの進化に驚かされました。
エロ以外のイチャラブに関しても主人公とヒロイン達の関係性をしっかり掘り下げているので
唐突感はありません。あぁこの主人公なら惚れられるよなぁと納得できる。
まぁ主人公側に問題があって手放しのイチャイチャはないんですが、その辺は後編で表現する
予定だったのでしょうね。
お話は興信所まがいの家業をやっている主人公の苦悩とトラウマを開いていく内容。
自分の問題点は理解しているのに過去の出来事により振り払うことができず、中途半端に
物事を決断していく男のお話です。
こちらも他の登場人物と同様、順を追って主人公に根差す問題を見せてくれるので
状況に頭を悩ませることはありませんでした。文章だけでは表現しづらさそうな要素も
キッチリ説明できているあたりに、テキストの秀逸な作者さんであることを再認識
させられました。
とまぁ同人ノベルゲーとしては文句のつけようがないクオリティだったのですが、
完結していない、という一点があまりにも致命的すぎです。
ここまで見せておいてエタられては、なまじ面白かっただけに読み手としては
あまりにも辛いw
私も未完作品のエロゲノベルゲーをいくらかプレイしてきましたが、
例えば『THE BEAUTIFUL WORLD』はひとまず作品単体で物語に
決着がついているので、単品でプレイしても十分楽しめますし、
『天使仔猫譚』はオムニバス形式なので、シリーズが完結してなくとも満足できました。
ですが本作は「これから本格的に物語が動く!」というところで切れているので
そりゃもう気分モヤモヤです。プレイしなければ良かったと思う人がいても不思議では
ありません。
...某庭を楽しみにしていた人はこんな気持ちだったんだなとw
ということで、その面白さに反して点数はかなり低めにつけています。
これが同レベルのクオリティで完結編がリリースされていれば、内容の好みを無視しても
プラス10点は付けていたと思う。同人ノベルゲーお気に入りの1つとなっていた
可能性もあっただけに残念ですね。