「あれもこれもと欲張り、バランスが悪くなった」とはPC版における私の評ですが、その後様々な感想を読ませていただいたことで「ひょっとしたら別解釈できるかも」と思い、リプレイの踏ん切りがつきました。前半は移植クオリティと月子シナリオを中心に。後半はリプレイによる所感をメインに改めて感想をおこしています。
◆移植版の出来
絵・音・声・システム全てが劣化。ロースペックへの移植とはいえ、音声やシステムは
改善できたと思います。移植スタッフにはもう少し頑張ってほしかったところ。
今回は詠からはじめようと思ったところ、どうやらルートロックがかかっている模様。
ルカ・金剛石→詠→ヒナの順で固定みたい(月子はフリー)ですが、これはちょっと
勿体ない。ルカや金剛石を先に読めば確かに理解はしやすいですけど、詠から始めると
他ルートで彼女の心情が深く伝わってきて、それはそれで面白そうなんですよね。
(なお原作はヒナのみ詠をフラグにロックされてます。)
とはいえエロが抜けたことで風通しは良くなっていました。本作の持つ故郷としての
雰囲気や、童話としての良さといったものが前面に出ています。更に月子シナリオの
追加により、プレイヤーと朧白村の距離がより一層近づいています。ただ前述の通り
それ以外の面が劣化しているので一長一短ですね。
◆金剛石(PSP)
も、ものたりない・・・っ。
唯一エロとシナリオが綺麗に織り交ざるルートだっただけに、歯抜け感がどうしても
否めませんでした。加えて終盤が瑠璃子とのダブルヒロイン状態だから、金剛石の影が
更に薄くなってしまったような。陽介との距離をエロシーンで計っていた節もあり、
膝枕シーンからの急接近にはちょっと面食らいました。移植で完全に劣化してしまった
残念なヒロインですね。
逆をいえば相対的に瑠璃子の存在が前に出ているわけで、親子2世代の二重構造シナリオで
あることがより明確化されていました。これはメインヒロインに視線を向けづらくなった
メリット、といえなくもないですね。瑠璃子にかけられた呪縛やウィリアムの想いを汲み
取って、初めて十全となるシナリオですので。エロゲギャルゲならヒロイン一点集中でお話を
見せられなきゃダメだろ、といわれれば全くその通りなんですけど。
◆ルカ(PSP)
エロをなくして追加CG複数。元がエロ担当で残念モードかなと思いきや、露骨なセックスが
ない分ルカの妙な性癖を意識させられます。詠のねっとりエロや雛桜の背徳エッチ、
何よりルカのイチャラブエッチがなくなり、残ったままの変態部分が突出しちゃった的な。
上手く良さが残ったなぁと妙な関心をしてしまったり。物足りなさはやっぱりあるんです
けどね。
◆詠(PSP)
夜の校舎ですっぽんぽん!なシーンは水着になってました。うん、しってた・・・。
問題なのは海の家修復時は水着でも平然としてたのに、校舎では意識しまくるという
意味不明な状態になっていること。この辺直してないあたり、スタッフのCS移植に対する
気の入れ具合が知れますね。わかっちゃいたけど、それにしたって酷い。原作ではエロを
詰め込んたエピローグも歯抜けが目立ちます。詠がエロ本見る場面とかもはや誰得状態に。
ちなみに追加CGはケータイカメラの使い方に奮闘する詠さんでした。原作でPCにドはまり
する詠のグラを見たかったなーと思ってたのでちょっと嬉しかったです。追加されたのは
月子シナリオ上でしたけど。
にしてもピンクカラーですか陽介君。随分カワイイケータイ使ってるなぁ。
1枚CGとしての完成度を優先した、と好意的に解釈しますか。
特典で入ってたすかぢ氏の小ノベルは、詠(=黒猫)が人の心と世界を覚えていく一幕。
すば日々風味な文体や問答を交えつつ、最後は温かくまとめ上げてくれた優しい物語でした。
◆月子
「朧白の夏が、加速する――」
とは陽介の談ですが、そこまで暑苦しくはなりません。むしろあっさり風味でエロゲ
ギャルゲらしい展開。各人物描写は浅く広く掘り込まれていて、原作の短所を上手く
補った内容となっています。
既存ヒロイン共通のテーマ「家族」からはかけ離れていますが、地域という広域な
コミュニティを家族と見ればまとまるような、強引なような。
あらすじは猫ヨミを集客要素に本格的な朧白村の村興しをする的な内容で、ノリは
金剛石シナリオ前半のそれに近く、陽介・月子の関係よりも地域住人達とのやりとりに
フォーカスが当てられています。ルカの父ちゃんや漁業組合長、雑貨のハシモトさんなど
村の人々と交流する描写が、朧白村をより身近に引き寄せてくれていますね。
朧白聖歌隊内のやり取りが見られるのも特徴の1つです。6人チームといいつつ描写は
陽介と当該ヒロイン1on1な関係のみなのが原作の特徴というか欠点ですが、月子シナリオは
ヒロイン同士のやり取りもちゃんと描写されていて、仲の良さを見て取れたのがとても
好印象でした。
特にルカ・金剛石⇔月子の想いを描写しているのがグッド。2人が陽介のこと好きだから~と
身を引こうとする月子と祝福する2人のやりとりがあっさりながらも書かれていて、
あーコレだよコレ見たかったのは、ってなりました。それこそ長い付き合いの3人なのに、
仲むつまじい様がほぼ皆無だったので。その辺を上手いこと補完していました。
神父や詠は若干性格が変わっていたのもあり影が薄かったかも。ヒナはけっこう活躍して
くれたんですけどね。
メインヒロインの月子に関してですが、1ヒロインとしての魅力は雛桜シナリオに
比べると格落ちしてしまいます。ただそこは朧白ラブな彼女。地元の人々に愛されている
面はしっかり表現されていますし、朧白のために元気いっぱい東奔西走する姿がまた
別の意味で魅力的。大人月子が影のある、それこそ月のような雰囲気だったのに対し、
こちらは真夏の太陽と向日葵を想起させる感じ。
籠目さん原画で起こされた可愛らしい新規グラも多数追加されていますし、聖歌隊末妹と
しての月子が気に入った方であれば存分に楽しめるかと。逆に朧白の女神に期待していた
方は、先に月子シナリオを終わらせてから雛桜シナリオを再プレイすれば、また違った
感慨が味わえると思います。
シナリオ面ですが、クオリティ的にはルカ・金剛石シナリオと同等レベルで、さすがに
メインの詠ヒナには届かない印象。広くフォローしている分、各キャラの掘り込みは最も
浅く淡白で、表層をなぞる萌えキャラゲーが苦手な方には欠伸が出るかも。
ただ前述の通り原作の短所を補った内容で、作中でのポジションはヒナシナリオと同じ
ぐらいに独自。既存プレイヤーにはキャラ関係を補完できる、新規プレイヤーには序盤に
プレイすることでイメージが掴みやすくなる内容です。
テキストレベルは読みやすく単調に仕立てられているのが特徴。レーティングを意識した
のか難解な言い回しを避けた文体で、そこらかしこにルビが振られていた詠・ルカシナリオ
等に比べるとサクサク読み進められます。その分テキストとしての面白みや深みが
なくなっているのが難。特に地の文による状況説明の多さがちょっと引っかかりました。
この辺は一長一短といったところでしょうか。
その他気になった点としては、新録ゆえ音声ボリュームが統一されていて、他のシナリオに
比べ聴きやすかったことぐらいですかね。やや異色ではありますがクオリティは決して
負けていませんし、追加シナリオとしての役目はしっかり果たせていたと思います。
朧白の女神とのハッピーエンドが見たかった自分としては残念ではありましたが、これは
これで楽しめたシナリオでした。
以下、リプレイで気付いた追加所感です。
◆金剛石について
世間では不評な金剛石シナリオですが、私は意外と好きです。お約束をしっかり踏まえて
いて安定感は随一ですし、自然に畏敬をもって接する描写は詠シナリオとならび、本作の
故郷ゲーとしての面を強調しています。金剛石の個性もかなりユニークで、単なる
お嬢様属性留まらないのが好印象。詠ヒナのクオリティで良さが隠れてしまっているのが
惜しいですね。
それと今回気付きましたが、ヒロイン同士の横の繋がりを最も意識できるのも、原作では
金剛石シナリオだけなんですね。
具体的には個別序盤の、川辺で遊ぶシーンと朧白ヒポポ探検隊。ノリノリで付き合う月子と
金剛石の仲の良さ、すぐに察してお姉さんらしく付き合ってくれる詠、戸惑うも一緒に
楽しもうとしてくれるルカと、ここはヒロイン同士の掛け合いがとても楽しかった。
個別ですから当然金剛石が中心なんですけど、それでも朧白聖歌隊を感じた数少ない
シーンです。ただ移植版では月子シナリオに隠れてしまっているのがこれまた惜しい。
金剛石はそんなのばっかですw
◆詠シナリオと黒猫シナリオ
私が本作中で最も好きなシナリオであり、最も出来の悪いシナリオです。
作品の根底を流れるターミナル役のシナリオとしては上手く仕込まれていますし、黒猫の
一途で一生懸命な思いも素敵ですが、一方で個別前半はかなり酷いクオリティで、詠の
パーソナルがブレブレというか感じられませんでした。
詠シナリオはいわゆる後半追い上げ型です。前半は伏線撒きに徹し、クライマックスで
ヒロインの真実を披露しつつ伏線回収することで個性を一気に掘り下げるタイプです。
とはいえ普通は中盤までにヒロインの魅力をある程度見せるものですが、詠シナリオは
それが一切ありません。
というのもこのシナリオ、黒猫が真実を語りだす以降だけで完結しているんです。ヒロインは
ヒロインではなく、童話としての主人公。有体にいってしまえば「遅れてやってきた黒猫の
願い」の描写は尺伸ばしでしかありません。「8年ぶりに少年と再会した黒猫は人に、そして
少年に幸せになってほしいと頑張ります。しかしなかなか上手くいかず、悲しみに暮れて
しまいます。」で片付く話で、残滓の詠も最後に顔を出すだけでいい。黒猫の物語を紡ぐ
のに、朧白聖歌隊としての活動は必要ないのです。
なのに不要部分が長々と語られるのは、黒猫が人の物語を紡ぐ必要があるから。ぶっちゃけて
しまうと他シナリオと共通を書くためです。
本作は前提として「猫の神様が人の紡ぐ物語を見届ける」というルールがあります。
詠シナリオの場合はナナ。他はヨミが担当です。
加えて登場時にヒロインとして魅力的に書かなければいけないという、物語としての
お約束があります。加えて作品としての尺とエロシーンを確保する必要がありますし、
黒猫シナリオへジョイントさせるためのギミックも必要になります。それらを起こしたのが
共通シナリオと「周回遅れの奇跡」なのですが、黒猫(=詠)シナリオに共通で書いた
詠の個性は不要。ゆえに個別では詠としても黒猫としても個性描写のない、共通シナリオ
あるいはエピローグの残滓だけで書かれたかのような、動かされるだけのお人形なヒロインが
誕生してしまったのでしょう。
2人と1匹の物語に惹かれた読み手は黒猫に愛着を持ちますし、逆にそれまでの物語には
エロゲとして少女と接する妙(裸とか水着とか)は得ても、物語としての面白さはほとんど
見出せません。エピローグでは人として少年と幸せに暮らす2人の物語に安堵と幸福を覚えつつ、
無駄な障害物としての尺(=エロシーン)の挿入方法に違和感や苛立ちすら覚えます。
しかしエロゲとして期待するプレイヤーもまたいて、そういう方々は変態チックなエロは
楽しめても、ご都合ハッピーで締める児戯のような物語に別段感慨を覚えないどころか
下手すれば不快を感じるでしょう。
あるいは共通ルートのパーソナルに惹かれた方は、黒猫演ずる夏咲詠のパーソナルがろくに
描写されないことへ不満を抱くのです。
エロがシナリオに、シナリオがエロに傷をつけてしまっている、と原作感想で述べましたが、
詠が黒猫の物語に、黒猫が詠の物語に傷をつけてしまっている、と訂正します。
この所感はリプレイにおいても広義的になれど、変わることはありませんでした。
どうしてこのような乖離が起こってしまったのか?推測ですがおそらく、黒猫の物語には
原案があるのではないでしょうか。それをエロゲのフォーマットに落とし込む作業を、
Jさいろー氏が担当されたのかなと。あるいはその逆ですが、氏の書くシナリオを考えると、
黒猫の方を別とするほうが自然でしょう。
と疑問に思い色々漁ってみたのですが、ありました。
『TECH GIAN』6月号のインタビュー記事。聞けばトークショーでもそんな話が上がったとか。
なるほどサブシナリオ=黒猫の物語ということかもしれませんね。
それはさておき、一途で一生懸命な黒猫さんが大好きな私としては、たとえ粗くても
エロなしで童話のみを見せてくれたコンシューマ版の方が好みです。
(本当は個別前半とも整合性の取れた完全版が見たいのですが、叶わぬ願いなので諦めます。)
そんないい子すぎる黒猫さんが、今度は自分のために拗ねたり膨れたりしてくれる
エピローグは幸せそうでよかったとも思うし、希望が丘バス停前で終わってた方が
よくない?とも。ここは人それぞれかもしれません。
でも私はやはり、エンドロールが流れる時点で終わりのがいいですね。シナリオ本線は
すっごい短くなっちゃいますけど、それでも。
なら原作の方がいいじゃないかって?ごもっともw
◆雛桜シナリオのヨミ
娘の成長を体感したいイケナイお父さんがあまりにも多く、語りつくされた感のある
おヒナさま。一方朧白の売れ残r・・・もとい女神様も切なく滔々と綴られた感想が
あって、何となく横から口を挟むのも憚れたり。
てことで雛桜シナリオで特筆すべき点はほとんどないのですが、ただ私は黒猫さんが
大好きなので、そっち方面から少しだけ物語をこじつけてみたいと思います。
詠の性格は大別して4種あります。みんなのお姉さん役を一生懸命に務める他ルートと個別の
朧白学園まで。黒猫としての純粋で健気な性格は個別三珠島以降~エンディングまで。
徐々に人としての詠を形成するエピローグ。そして寝子麗として完全に猫化する「長い夏休み」。
詠とヨミと黒猫で性格が異なり、それがシナリオのブツ切り感を呼んでいるのは先に述べた
通り。当然雛桜シナリオのヨミにも同様の違和感を覚えるかと思いますが、寝子麗と
なったことを考慮すれば、こちらは多少納得のいく答えを出すことができます。
まずマガイが生まれる条件ですが、猫・人・死者の想いが通じ合うことでそれぞれが
マガイ(間外)となり、力が発言するとのことでした。そして猫が人の心全てを理解した
とき、寝子麗と人間のいずれかを選べるシステムです。
次に思い出していただきたいのが先代寝子麗様ことナナ。やたら偉そうで見栄っ張りで、
ちょっとドジで残滓詠にいじられる、でもマガイな2人1匹の世話を焼いてくれる優しい
猫神様です。
彼女(?)が現在寝子麗であるということは、言い換えればマガイであった時期もあったと
いうことになります。(別の方法があるのかもしれませんが無視しますw)
つまり過去に人・死者とすったもんだな時期があり、最終的に寝子麗を選んだわけです。
ということは彼女にも人の心を知るために苦悩した時期が、黒猫さんのような健気で純粋な
時期があった、ということになるんだよ!ナ、ナンダッテー。
実際ナナの抜けたとこのある性格って、しっかり者だけど変なところで抜けていた詠と
えっらいダブるんですよね。アイツも昔はあんな感じで、一生懸命頑張ったんだけど
空回りでしょぼくれてたんだよ、っていわれてもすごい納得できる。暴露されて顔真っ赤に
して大慌てな様子も鮮やかに想像できちゃいます。
実際底抜けに優しいですし、寝子麗様ってば。普通のエロゲなら黒猫さんを後継者に仕立てる
悪役決定じゃないですか。でも自分がまた数百年縛られるのがわかってても残滓詠の滞在
期間に融通を利かせ、消してくださいと嘆く黒猫さんには「寝子麗を育てるため」と何度も
何度もヒントを与えて導いてる。うっわなにこのめんどくさいツンデレ神。
っと少々ナナを語りすぎました。いずれにせよ先代寝子麗様は尊大でおっちょこだけど
とても素敵な神様です。であればヨミも同じように、寝子麗として普段は澄ましているけど、
ここ一番にはお節介を焼いてくれる優しい神様になった、と考えられるかなーと。
加えてヨミが視線を向けるのは、勝手知ったる陽介と雛桜。ゆえにお姉さん的な雰囲気が
なくなり、ふてぶてしくなったと。いやーこじつけハンパないっすね!
ですが蛇足感のある終盤の奇跡に関しても、似たような理由で納得はできました。
雛桜シナリオが現実路線で、ファンタジーがほとんど絡まない物語であることは確かです。
しかしそれ以前に本作は『向日葵の教会と長い夏休み』。猫の神様が人の紡ぐ物語を
見届ける作品です。
ヒナファンからすれば、ラストの試練はヒナや陽介の力で乗り越えて欲しかったとは
思いますが、見守っている神様が持ち前の優しさから奇跡を起こしてくれる展開というのも、
それはそれでいいんじゃないかなと思うのです。
ただ、その上でいわせてもらいます。
寝子麗様、絶対にハッピーエンドにしたかったのはわかりますが、工事シート・梢さん・
鐘の音と奇跡3連発はさすがにやりすぎじゃあないですかね?w
人事と天命の塩梅がまだ把握しきれてない新米神様だったということで、次はもう
ちょっとだけバランスよく奇跡起こしてくださいね、とお願いして締めたいと思います。
◆童話『向日葵の教会と長い夏休み』
姉魂やら濃厚なエロやら色々酷い(褒め言葉です)シーンも多数ありますが、それでも
道徳的な作品だと思います。
私が童話として評価しているのは黒猫さんを中心にクダクダ語っていることからおわかり
いただけるかと思うのですが、童話は優しく易しい側面と同時に道徳的な教訓を併せ持つ
ものもあります。その目線で改めて全体を眺めてみると、なるほど本作も様々な教えを
説いています。
わかりやすいところでいえば金剛石・詠シナリオの食物・生命への畏敬ですが、他にも
ルカシナリオの九十九神や礼拝堂に例えたモノへの敬意、ヒナに自然の素晴らしさを説く
金剛石、言霊・言葉の重要性を説く詠と、一方で多用による危険性を示唆するナナ、
様々な家族の在り方を綴り、あるいは「人は情けのためならず」と説き実践する各個別
シナリオ、等々。
枚挙に暇のないその教訓を道筋に、最後は「人事を尽くして天命を待つ」を地で行く
雛桜シナリオで終わる本作。やはり道徳的です。
「んなもんエロゲで指摘すんなよ、常識だろ」とおっしゃる方は多いと思いますが、
常識なんて存外知られていないものですし、知っていても意識しているかはまた別問題。
そういった事柄を改めて物語として読むことには、やはり意味ある行為だと思うのです。
それに18禁らしく、子供向けの教訓だけでは終わりません。
「常識で誰かが幸せになれるなら、それで構いませんけど。そうじゃないなら、そんな
ものクソ喰らえですわ」
朧白女史のこの発言、最後の最後でこれまでの教えをある意味ファックオフしてます。
だのに説得力があるのは、よりミクロなポリシーを優先しがちなエロゲ的矜持の側面も
当然あるでしょうが、一般道徳的な意味で説教くさい本作においては、「常識だけに
捉われ生きてはいけない」という教訓とも取れるからではないでしょうか。
常識を疑うのはそも常識を把握していること前提ですし、非常識をとるリスクも考え
なければいけない。教えられる一方の子供には誤って伝わってしまう、非常に難しい教え。
私達は意識無意識に常識非常識を天秤に掛け日々を過ごしているわけですが、それを改めて
かつ常識を踏まえた上で説いているわけで、やはり大人向けだと思います。
そして主人公・明日葉陽介はそれらを幼少時代に人から教えられ、青年時代ではヒナに
教え、さらに雛桜は地域の子供達にまた伝え継いでいます。エピローグで登場する二人の
子供達にもまた教えていくはず。そうしてできたのが朧白村。
田舎雰囲気ゲーといわれる本作ですが、その雰囲気とは景観や空気ではなく、それらと
共存し寄り添い、学び、伝えるサイクルによって在る理想の故郷のことなのだなと、
リプレイで実感させられました。
もちろん現実の田舎は不便だらけでしょうし、そんなに上手く行かないでしょうが、
それこそ本作は童話です。登場人物も村も幸せなまま幕を閉じ、恒久の平和が約束され、
死者は猫の神様によって導かれ、安寧をやはり約束されています。
正しく在ることを諭し、そしてどこまでも読み手に優しい大人向けの童話。
それが『向日葵の教会と長い夏休み』です。
◆後記と御礼
私がPC版をプレイしたときの評価は70点。これは「楽しめたけど欠点が目に付き、あるいは
長所が少なく満足には至らなかった」という意味に相当します。原因は一言感想で述べた
とおり、欲張りすぎてバランスを欠いたから。具体的にいうと、本線である共通・詠・雛桜の
各シナリオで物語とエロが主張しあいすぎて、作品の空気を壊してしまっている(と当時は
判断した)からです。
その後発売して間もなくCS移植が発表され、エロの抜けた本作がリリースされていることを
知り「移植度次第ではエロを失う以上に、欠点が消化されて良くなるかも」と考え、いずれ
CS版をプレイするつもりではありました。ですがそれは少なくとも一年以上先のつもりで、
こんなにも早く手に取るとは自身思ってもみませんでした。
そのきっかけとなったのが、このErogamescapeに寄せられた諸感想です。
名作「素晴らしき日々」を輩出したケロQの姉妹ブランド、枕からリリースされた本作は
衰退し感想レビューの少なくなった昨今においても、殊更素敵な感想が多く寄せられて
おり、見落としていた様々な情報を与えていただきました。
金剛石シナリオの二重構造や瑠璃子のポジション、金剛石・ルカシナリオに見え隠れ
する宗教的な要素、ケロQとしての妙、ヒロイン4人のシナリオ上の相関関係、エロシーンの
是非など、ここには書ききれないほど多岐に及びます。一方で私と近しい欠点のご指摘を
されている方もいらっしゃって、しかし微妙な視差が見て取れたり。
中でも雛桜シナリオは全国のお父さん達が奮起されたようで、様々な視線をご教示いただき
ました。唯一めくれ上がらないスカートや声優さんの妙どころか、つり目と甘さのギャップ
にすら気付きませんでしたからね、私。いわれて「全国のロリコンさんはここにやられた
のか!」と感嘆したものです。
そんな経緯から書き上げたこの感想、原作のそれとは打って変わり比較的好感な内容に
仕上がりましたが、それもすべては諸感想の恩恵のよるもの。
『向日葵の教会と長い夏休み』という作品を余すところなく堪能できたのは、ひとえに
皆々様のおかげです。この場にて御礼を。ありがとうございました。
そしていただいた情報を足がかりに、あまり語られていない箇所の別視点、詠シナリオの
バランスの悪さや、雛桜ルートにおけるヨミの性格および役割、童話としての本作に
ついてなど、拙文ながらまとめてみました。
こじ付けが多くともすれば失笑されかねない内容ではありますが、もしこのクッソ長い
感想を見て「そんな見方があるんだなぁ」と一人の方にでも感じていただけたのであれば
之幸い。更にご自身の感想を起こしていただき、本作の新たな物語の紡ぎ方をご提示
いただけたりもすれば、これに勝る喜びはありません。そんな日を夢見つつ本作の感想を
締めさせていただきます。
蛇足1
相変わらず辛辣じゃねーかと思われた方はゴメンナサイ。元より口さがないせいも
ありますが、それ以上に移植度が微妙なんですもんw
蛇足2
点数は原作より上げておりますが、同時に原作の方も引き上げています。理由は「周回
プレイと諸感想から、欠点以上に長所を見出すことができたから」「雛桜シナリオのエロに
必要性を見出せたから」です。