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amaginoboruさんの夏のさざんかの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
夏のさざんか
ブランド
ゆにっとちーず
得点
70
参照数
344

一言コメント

不眠症に悩む少女が静養のため隔離された精神病棟へ。そこで繰り広げられる、何が幸せで何が不幸かというお話。舌足らずな部分もありますが、それすら読み手の想像に委ねている点が面白い乙女ゲーでした。はい、乙女ゲーです。(冬のさざなみプレイ済みですが、感想は本作で得られた情報のみで記述しています)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

四方木に親密になるとハッピーエンド、遠ざけるとバッドエンドとなりますが、主人公の
記憶や認識自体があまりにも信用できない本作。ハッピーエンドも実は四方木が仕掛けた
罠だったのではないか?とも取れます。

冷静に考えれば、精神病棟で特別な隔離室にいた男が車パクって女性拉致ったわけで
おおよそ正気の沙汰ではありません。つばきへの事情説明にしたって、彼女の周辺を嗅ぎ回り
後はお得意の口八丁で言いくるめれば何とでもなるでしょう。(実際何とかなっちゃったし)
更につばきはトラウマのせいで自身の記憶に信頼がおけず、盗難車の後始末や四方木の入院理由
なども、父親に受けた仕打ちと同じく記憶改ざんしている可能性があります。

何やら重箱の隅よろしくイチャモンつけていますが、それほどにつばきの記憶や人格には
信頼性がありません。ゆえに四方木ハッピーも実は捻じ曲げられた凄惨な後日談を美化して
いるだけかもしれないし、バッドエンドだってつばきは本当に幸せなのかもしれない。
何が幸せで何が不幸かなんて、他人の物差しでは測れない。まさにそんなお話でした。
短い時間で上手くまとめられている作品ですね。面白かったです。


一方で目についたのがチョロインっぷり。上記の他にも一度助けて貰っただけで急に
心を許してしまうなど、精神病棟でアンタそれはどうなのよ的な行動がちらほらと。

ただこのつばきちゃん、信頼性がおけない以上に感受性豊かというか思い込みの激しい娘
ですからね。橋で倒れた時も勝手な想像で四方木を超悪人に仕立てちゃいますし。
いいと思ったらいい方向へ、悪いと思ったら悪い方向へのみスパイラルしていくちょっと
面倒くさいヒロインです。四方木が彼女と交際を始めたら色々と面倒に巻き込まれ
そうな気もします。

チョロインなもう一つの理由としてはお約束ですが、恋愛関係に持っていく必要があった
からでしょう。ただ短い時間のなか丁寧には書けず、結果急ぎ足になったのかなと。
まぁ家族に近しい親密な関係にならないとお話が成立しづらくなりますからね。そこは
仕方ないのかなと。

ですが見せ方はエロゲ的・男性向けというよりは、乙女ゲー的で女性向きだったように
思えました。というのも、自身の行動で相手を惹きつけるのではなく、相手の行動で自身が
惹きつけられる書き方をしているんですよね。嫉妬深い患者とのやり取りしかり、エッチ
しかり。

特にエロシーンでは自暴自棄になった主人公を男が優しく包みこみ心を開くという、
乙女ゲーならではの展開が広げられています。主人公は相手に対し何も与えていない。
ただ与えられ包まれるのみなんです。これで後日談なんかあると、今度は主人公から
優しい○○君へ尽くそうとするシーンがあって、でもやっぱり最後は自分が優しく
されちゃって、あぁもうだから○○君大好きなの!みたいな。うんキモいですね自分。

でもホントこれ、男性向けイチャラブエロゲと正反対なんですよ。きっかけから恋人成立
までは主人公がヒロインに与えるのみ。以後はヒロインからの絶大な信頼とラブラブ
アタックを受けて、でも最後は主人公がヒロインのトラウマやら壁をぶち壊す。そんな
エロゲテンプレと、つばきと四方木の関係は与え与えられる関係が真逆なんです。

もちろん主眼が女性視点だから、というのもあるでしょう。ですがそれ以上に二人の
関係が女性読者主体の表現だった。ゆえに本作は乙女ゲーである、と最初に述べた
次第です。