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amaginoboruさんのオレは少女漫画家Rの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
オレは少女漫画家R
ブランド
Giza10
得点
96
参照数
384

一言コメント

勢いと圧倒的な熱量で呑みこむ魂のノベルゲー。感想はただ一言「スゲー面白かった!」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

え、面白くなかった?あなたは読解力がありませんねwww



ネタはさておき以下全て蛇足です。何が凄かったとか正直野暮ったいのですが
備忘録として残しておきたいので。

















少女漫画家を題材にしつつも内容は少年向け・少女向け・万人向けが3:1:1。少年
向けとギャルゲー展開が3:2とも。ともあれ中身はおおよそ男性向けに作られていた
ように思います。純愛物語だったヒスイルートを横に置けば笑いとインパクト、
そして漫画へのパッションで常に突き通されていました。

裏を返せば少女漫画の要点でもある機微は皆無といって差し支えなく、物語は常に
大ざっぱで勢い任せ。隅をつついて指摘するのも容易です。が、それはかめはめ波の
メカニズムを論理的にツッコむのと同義で、やればクラスでハブられること間違いなし。
理屈ではなく勢いと同調して読み進める、やはり少年漫画のような付き合い方が最も
寄り添えるであろう作品です。



◆全年齢対象という英断
あかざグラフィックでエロなしが不評を呼んでいますが、私は英断と捉えています。
ほとんどの展開が性描写を交えずとも物語・作品として完成されているからです。
むしろ差し込むことで持ち前のテンポが削がれ、熱量が霧散するまであります。

例えば凛菜シナリオの深夜に病室で語らうシーン。「・・・私は、この右手で嘘を
つく。」から始まる名場面ですが、エロを挟めば台無しとはいわずとも興は削がれます。
ここで語られるのは賢二・凛菜の漫画へのあくるなき情熱であり、性描写を差し込めば
狙いが散漫となり作品のテンションは急落したことでしょう。

同時に直後の打ち上げパーティへの繋ぎともなるシーンでもあり、友情と漫画の交互演出
でもって熱量を持続しています。そこへ空気の読めないエロが差し込まれれば、やはり
物語としては水を差された形です。深夜・ベッド・クライマックスとエロ条件が役満です
からね。1シーンあったであろうことは想像に難くありません。

販売数が伸びるであろうエロ描写を切ってでも「漫画」を伝えたその姿勢、実に本作
らしい判断です。英断でした。

一方で少年誌レベルのエロはギャグパートに合わせて十二分に用意されていました。
実用的ではありませんがおパンツやらおっぱいやらが満載で、これはこれで漫画らしさ
があって良かったです。コメディとして織り交ぜているからテンションも落ちませんし、
調和も見事に取れていました。



◆エロゲか少女漫画か
ただし唯一ヒスイルートだけはエロなしが裏目に出た形でした。他4シナリオとは立場の
異なるハルカルートを除けば、唯一「恋愛>漫画」の図式で転がる物語です。お互いが
お互いを一番とする中で具体的な性描写がないのはやはり物足りなさを覚えます。特に
混浴温泉で慰められた後の描写がなかったのは、エロも豊富だった箒星・あかざコンビの
ノベルゲーとしては致命的です。

犠牲となった感のあるヒスイルートですが、こちらも他ルートと同様漫画になぞらえて
シナリオは組まれています。であれば、ヒスイルートは少女漫画ベースであったと考え
られなくもありません。メディアジャンルではなくシナリオ題目という視座で見れば、
少年傾向の強いラインナップの中で紅一点ともいうべきポジションに収まります。

とはいえ、プレイヤーからすれば結局はエロゲテンプレートで組まれた作品であり、
性描写なしはやはり片手落ちです。前述のエロなしゆえのメリットも手伝って、本作の
エロなしに対する評定は実に困難です。私的な好みを述べるなら作品として纏まった
現状エロなしを推したいところ。『オレは少女漫画家R』は全年齢でリリースする
価値のある作品だったと思います。

(余談ですが、賢二がパンチラ入れてクラウドナックルを貰う場面。
 アレはついエロを入れてしまうあかざさんの姿だったのかもw)



◆例外にして王道
他シナリオが漫画に対する在り方を示す中、アイドルとしての描写に重きの置かれた
ハルカルートは本作における異端、例外の立場にあったように感じられました。内容も
主題を正面から受け止めるものではなく、適度にシリアスを撒きつつも基本はコメディ
路線。インパクトの激しさからギャグルートとまで言い切ってもいいような。

冒頭から貧乏ネタで迫り、ライブを開けば出オチで攻めたて、他ルートではシリアス
まっしぐらな正体バレシーンですらギャグへと変換。中盤以降ややテンションが落ちる
ものの、最後はとても「らしい」展開で物語は締めくくられていました。

本作の中では浮きがちな個別シナリオですが「箒星・あかざ作品」としては旧来の
プレイヤーみんなが知っている、まさに黄金コンビならではの物語だったのではない
でしょうか。私は『遊撃警艦パトベセル』のみプレイ済みですが、それでも暴走感
溢れる展開には懐かしさを覚えました。

ギャグパートが1ルートのみであったのも面白さに拍車をかけています。どんなに
面白くとも似たような流れを見続ければやはり飽きるもの。加えてギャグは「足が
速い」ジャンルです。1ルートに圧縮し全てを使い切ったのはやはり英断でした。

おそらく本作プレイヤーの大半は「笑い」を期待して購入したのではないでしょうか。
その期待に、ハルカルートにおいて十二分の形で応えただけではなく、より印象的で
強烈なテーマを用意して読み手を更に圧倒しました。
高評価な従来作品に対し同じ土俵で結果を出し、より強烈なプラスアルファを携えた
本作は、箒星・あかざコンビの作品として至上の逸品となったように思います。



◆勢いと熱
千佳ルートでは人気急落した新連載に対しリアリティを取り入れることで息を吹き返し
ましたが、作品に使われていた手法はむしろ逆。余計な部分をあえて見せないことで
勢いと熱量を持続していました。

最もわかりやすいのが各漫画の内容。『シンデレラガール』『サンデイ・マジック』を
筆頭に、賢二が成長した証でもある各種連載漫画や、人生を変えるほどの衝撃を受けた
『もみじ道』などは個々の所感が綴られるのみ。内容に触れることはありません。

千佳ルートでの密着取材も同様で、現場のリアリティを見せるといいつつ描写は担当
漫画家を追い回すまでに止まります。他にも神尾姉弟や楓はの抱える親子関係など、例を
上げれば枚挙にいとまがありません。何より本作、時間経過をごまかしてプレイヤーに
時空を読み取らせません。

一方で訴えたい箇所にはここぞとばかり力を注いでいます。本作でも熱量の高い
凛菜・千佳ルートや、高木落葉という最強漫画家が座する楓ルートは特に顕著。
名台詞や効果的な演出、ハイテンポゆえの躍動感で違和感を吹き飛ばし読み手の
心を鷲掴みにしています。

だから神尾組の情熱と結束力に、『トラブルメート』の再評価に、『Re:ホーム』と
『もみじ道』の静かなる熱量に、漫画への飽くなき情熱に心湧き立つものを覚える。
「凄い」と思わされるのです。

物語上の悪都合に無視を決め込むことで勢い・熱量を持続し、一方で要点にのみ注力し
訴求力を高めつつも悪都合を吹き飛ばすこの手法。いかにも基本らしく聞こえますが、
読み手の知識が肥えた現代では整合性だけが重要視され、特に文字媒体のメディアでは
敬遠されがちです。エロゲノベルゲーも例外ではありません。技術と気概が失われつつ
あるのです。

その点でも本作は凄い。これができるエロゲライターさん、今は他にいらっしゃらない
のではないでしょうか。子供の頃に読み聞いた漫画やアニメのように、スゲーものだけを
見てスゲーと素直に受け取れたエロゲやノベルゲー、果たしてどれだけあったでしょう?

私は実感したのが本作を含め2本、理解できたのが1本だけ。前者が『マブラヴオルタ』
後者が『Fate』です。かの二大名作と肩を並べるほどの熱量と訴求力を持った「凄い」
作品として評価しています。ここまでアツいノベルゲーは久しぶりでしたし、次いつ
出るかもわかりませんからね。本当に稀有で貴重だと思います。


けどそんな作品は感覚的に面白さが伝わるんですよね。グダグダ駄文を垂れ流す必要
なんてないし、なによりスゲーもんはスゲーんだから他に伝えようがない。理屈じゃ
ないんです。

だからやっぱり、本作の感想は?といわれたら「スゲー面白かった!」とだけ答える
と思います。それだけで面白さがちゃんと伝わりますから。