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amaginoboruさんの幼馴染と十年、夏の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
幼馴染と十年、夏
ブランド
夜のひつじ
得点
60
参照数
786

一言コメント

1ヒロインとのイチャコラゲーとしては良質ですがタイトルに偽りあり。王道かそれに代わる「ならでは」のない本作は、幼馴染ゲーとは呼べない気がします。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

2人の心情や距離感の表現は良質。エロもイチャコラシーンもニヨニヨできます。
でもこれ、幼馴染である必要性が皆無ですよね。


まずH11年編。
スタートが小学5年という時点でおかしい。それって普通のクラスメイトと何の
違いがあるのでしょうか。しかも高学年。低学年ならまだしも、これでは説得力が
薄すぎます。

「更に幼いころはご近所で一緒に遊んでいた」という設定が一応は語られますが、
それも付け添えられる程度で強調はされません。幼馴染ゲーを語るのであれば、そこは
最低1節以上の枠をとって語られるべき要素では。
聞くところによると用意されていたが諸事情によりオミットされたとのこと。
あぁ、絶対に削ってはいけない箇所を削ってしまったのだなぁと。


次にH14年編。
なんで初エッチ後の描写がないんですかね?

近くなりすぎた距離が苦い経験で大きく離れ、再び接近する流れこそがH14年編の醍醐味。
しかしそれだけなら「幼馴染」は必要ありません。「クラスメイト」で十分なんです。
ボーダーラインに関するくだりも同様。「何もかも初めてだから、どこまでやっていいか
わからない」なんてのはどのカップルも一緒でしょう。

ここでマストなのは、性別に垣根を感じていなかった2人が意識した上で距離感を
仕切りなおす描写、つまり幼馴染から男女への変遷です。体の差異をお互い肌で感じ、
意識し、初行為を終えた後の微妙な空気。でもやっぱり2人は幼馴染で・・・みたいな
流れこそが、普通の男女関係では持ち得ない「ならでは」シチュです。
しかしそんなのは全く書かれずに年代ジャンプ。次代では既にツーカーの関係に。

これも原因はH11年編にあると思っています。葉人が既に性差を意識しちゃって
いるんですよね。だからH14年編で同じ手が使えない。
スタート地点がせめて小学校低学年であれば、あるいは枝梨を「クラスメイトの女子」
ではなく「近所の仲のいい子」として扱っていれば。そう思わずにはいられません。


そしてH16年編。
作り自体こそ良質です。しかし過程がなってないから幼馴染ゲーとしての説得力がない。
普通の男女イチャコラシナリオと化しています。
本編をH16年一本に絞り、回想シーンで過程を補った方が幼馴染ゲーとしては格段に
良い出来になったでしょうね。


そして全編共通の問題点として、主人公のパーソナルが挙げられます。
普通のイチャコラゲーとしてみた場合であれば文句なしです。
責を押し付けず全てを被り、平時もエッチ時も常にヒロインに優しく接し、相手が
不快に思うことをしない。
枝梨も葉人に一切の不満を持たず、あばたもえくぼの精神で持ち上げるばかり。
1on1の恋愛ゲーとしてであれば、プレイヤーに不快を与えない上質な出来栄えです。

しかし幼馴染ゲーの場合、主人公が完璧だと「致命的な欠点を許容する」という、
近すぎる距離感ゆえのメリットを殺してしまいます。他人より家族寄りのポジション
ゆえに、欠点でも「まぁいっかぁ」「○○だから仕方ないか」と納得してくれる
んですよね。

ただの恋仲でも同様の事象は発生します。しかしそれらの多くは許容であり、納得では
ありません。以後を共にする人だから我慢する、といったところでしょうか。
そこから年月を経て距離感を掴み、許容が納得へと移りゆくわけですが、付き合う前から
家族的な距離感を保持しているのが幼馴染の特徴であり「ならでは」でありメリットです。
しかし葉人のパーソナルではその「甘え」を享受できない。・・・勿体ないという他
ありません。


とまぁ色々難癖つけてきましたが、上記の大半はいわゆる「幼馴染ゲーのお約束」です。
だからあえて回避して、独自の属性ゲーを作りたかったんじゃないか。そういう見方も
できます。事実製作陣はその辺りを意図していたのかなと。

しかし本作において王道に代わる独自の「ならでは」シチュは皆無。どれもこれも
幼馴染である必要性のないシチュばかり。再三いいますが「クラスメイト」でも違和感
なく成立する展開ばかりなんです。

私はTS(性転換)ゲーにおいて「TSしたという事実」を最初に書き、以後「ならでは」
の魅力に触れず、ただエロシーンのみ描く作品を「なんちゃってTS」と呼んでいますが、
さながら本作は「なんちゃって幼馴染ゲー」といったところでしょうか。

ですがヒロインとの甘々な関係を書いた作品としては実に秀逸。2人とも相手を立てる
優しい性格で、余計な個性を出してプレイヤーにも不快感を与えない。エッチシーンも
段階を得て徐々に進むさまが初々しいですし、「夜のひつじ」のセールスポイントで
ある心理描写や距離感の書かれ方も健在です。


以上、「なんちゃって」とはいえクオリティは高く、こだわりのない方なら
十分楽しめる、しかし見る人が見れば「幼馴染ゲー」とは到底呼べないエロゲ。
それが本作であると、私は評します。