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amaginoboruさんの平グモちゃん-戦国下克上物語-の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
平グモちゃん-戦国下克上物語-
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
85
参照数
822

一言コメント

戦国武将・松永久秀を主人公にした歴史小説のノベルゲー版。IF要素と物語を共に高いレベルで魅せてくれる名作です。分岐を見つけづらいシステム周り、取ってつけたようなエロゲ要素など、欠点がないわけではありません。しかし複数の展開を1つの物語にまとめられているのは、小説にはないノベルゲーならではの面白さ。歴史小説が好きな方にはもちろん、興味があるレベルの初心者さんにもぜひぜひプレイしていただきたい逸品です。(長文前半ネタバレなし)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

◆作品概要
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松永秀久――
畿内(関西地方)を代表する戦国武将の一人。室町幕末に台頭しつつあった三好家に
士官。頭角を現し大和国(京都・奈良・和歌山あたり)の主にまで上りつめた。その後
信長に降伏するも2度の謀反を起こし滅亡。複数回の謀反に加え下剋上・将軍殺し・
大仏焼きなどを行ったことから戦国の梟雄(残忍な人)として知られる。また日本で
初めて爆死した人物ともされる。

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なんともまぁ派手な人生ですね。畿内三好家没落のため謀略を働いたなどの逸話もあり、
物語の主役とするにはネタに事欠かない人物です。ですが事実はともかく、久秀の人と
成りはあくまで想像によるもの。所業と残された書物や口伝、歴史家による評価などを
ない交ぜにしたものであり事実ではありません。そこをついて別解釈を起こし、物語と
して作り上げたのが歴史小説。本作もまた例外ではなく、久秀の半生を筆者なりの解釈を
もって物語へと昇華しています。

また本作はIF物語としての側面を併せ持ちます。もし久秀がこの場面で別の行動をして
いたら、という分岐をもってして正史とは異なる展開を物語にするわけですね。小説
媒体でも多々見られるジャンルですが、複数のIFを広げづらい小説媒体に対し、選択肢
ひとつでいくらでも道を広げられるのがノベルゲーの強み。もうジャンジャン分岐します。
信長抑えて天下取ったり、武士にすらならない展開もあります。

松永久秀を主役にした歴史物語とIF物語、その両方が楽しめるノベルゲー。
それが『平グモちゃん』です。



◆良いところ
真っ先に挙げられるのが、戦国モノでありながら文体や空気に硬さがまったくないこと。
殺伐とした状況でもそこまで重苦しい空気にはなりません。同ライターの旧作『行殺
新撰組』ほどではありませんが、おちゃらけやギャグも多々。大事な場面ではさすがに
シリアスの雰囲気が勝りますが、読み手が辛くならないように調整されています。
ちなみに切った張ったの場面はごくわずかで、評定(主君と重臣での会議)がメイン
です。どうやって敵対勢力を出し抜くか。どうやって状況を切り抜けるか。久秀が戦国を
生き抜くため、考えを張り巡らす場面がメインルートでは主となります。

次に逸話を元にした小ネタの多さですね。こちらは歴史スキーの方に嬉しい点です。
戦国武将の中でも著名な人物ゆえ古今あることないこと多数の逸話があるわけですが
それを上手いことアレンジしたイベントが用意されています。戦国史に明るくない
プレイヤーは読後にwikiだけでも目を通すと「あのシーンはこの話だったのか!」
みたいな発見があったりして2度楽しめる作りとなっています。この辺も旧作の
『行殺新撰組』と同様ですね。筆者の造詣の深さとアレンジングの妙が光ります。

そして何より物語として面白い。無職ニートってた久秀が上りつめていく様は立身出世の
物語として純粋に楽しめます。武士になってから甘さを捨て戦国武将となっていく様子も
成長物語として見どころですし、その時々に同伴する敵味方もまた味わい深いキャラ
ばかり。歴史云々抜きにしてもノベルゲーとして十分面白い内容です。そこらの萌えゲーは
もちろん、シナリオ重視作と比しても勝るとも劣らない出来ですので、ノベルゲーが
好きな方にもプレイしていただきたい作品ですね。


◆欠点
多数のIF展開ということで分岐も相応に用意されているのですが、条件とフラグの
管理が非常に煩雑でコンプにはかなりの根気を要します。しかも分岐だけでなく、
久秀のストレスや領地運営フェーズの結果でも分岐するのが更にややこしい。旧作の
悪い部分まで持ってこなくても良かったのに。達成感のある難しさではないので、
プレイ時は攻略チャートを使うことをオススメします。

システム面もブランド前作『屋上の百合霊さん』からバージョンダウンしています。
今回は絵巻形式で物語・CG・エロシーンの管理がされているのですが、これが非常に
見づらく使いづらい。前述のフラグ乱立にも起因していますが、雰囲気を出すに
してももう少しユーザビリティに配慮してほしいなと。ライアーに何を期待して
いるんだ、といわれればそれまでですがw

あとこれは好みの問題ですが、いわゆる一般のエロゲー的な要素は皆無です。
もうしわけ程度のエロシーンがヒロインごとに1~2ある程度で、美少女ゲームの体を
成していません。物語方面ではそこそこ重要な役割を果たしますが、エロはもちろん
可愛いおにゃのこ云々は皆無とお考えください。徹頭徹尾歴史モノです。
『平グモちゃん』なんてタイトルついてるんですけどねぇ・・・ある意味詐欺です。


◆総評
システム周りで多少不便を感じるものの、ノベルゲーとしてはまごうことなき名作。
戦国史を知ってる人、知らない人の両方に配慮の行き届いた見事な物語です。タイトル
からどんなお話か想像つかないのが本当にもったいない。エロ要素目的の方には
オススメできませんが、物語を期待してエロゲを購入されている方には是非とも手に
取っていただきたいところです。



以下ネタバレ込みの感想。










興味深かったのは正史と偽史平グモちゃんの両ルートですね。久秀がいわゆる梟雄化
するかしないかの差だけで、その他大半の流れは同じ。なのに意味合いがだいぶ変わる
のが面白かったです。セリフが変わる部分はもちろん、まったく同じセリフなのに
梟雄化しているだけで受け取る印象が全然異なったりして、この辺はIFを並走できる
ノベルゲーならでは楽しみ方ですね。

ただ一方でノーマル久秀が悪久ちゃんのようなセリフを吐いたり、その逆もあったりで
違和感を覚えたことも。なので意図的に同じセリフを用いたのか、手間節約のため
だったのかはイマイチはっきりしません。私的には同音異義な見せ方に妙を覚えたため
前者と思いたいのですが。

あと來栖ルートも楽しめました。どっちへ転んでもハッピーエンドとはいかないあたりに
筆者の主張を感じます。他ルートよろしく久秀に天下を取らせてもよかったわけですから。
それでも方や伴天連を救済する聖人ルート、方や日本に残り切支丹最後の拠りどころと
なる交戦ルートと、どちらも教義に殉じる締め方だったのが印象的です。

とはいえ島原の乱をやらせるのはさすがに無理が・・・1637って久ちゃん何歳よ。
天草四郎も奇跡の人と呼ばれてましたし、不思議な力が働いちゃったんですかねw