ErogameScape -エロゲー批評空間-

amaginoboruさんのアオリオの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
アオリオ
ブランド
ad:lib
得点
75
参照数
712

一言コメント

青春を前面に押し出した学園恋愛モノですが、物語的な面白さより地に足の着いた学生描写に重きを置いているのが特徴。読み物としては見所が少なく微妙ですが、現実レベルでの理想的な学園生活を求める方には波長の合う作品かと。どこにでもあるようで、その実あまり存在しないタイプのエロゲです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

入学時に出遅れてボッチ気味な主人公が、ひょんなことから演劇部に入部。青春を
謳歌するお話です。と書くとエロゲあるあるなのですが、お話的に盛り上がりがない
のがユニークであり長所。欠点ではありません。

十把の青春部活モノですと、目標を達成するために山越え谷越え、時にメンバーや
外部勢力と衝突し、終盤には大きな壁が立ちはだかり(セックル交えて)乗り越える
のがエロゲ青春学園モノのテンプレートです。ヒロインとの関係と仲間や部活のこと、
どちらに比重を傾けるかは作品次第ではありますが。

翻って本作、山も谷も高低差に乏しく全体的に平坦で、物語としては正直なところ
微妙極まりない。日常レベルの幸せが延々続く、ぬる~い学園生活だけが繰り返され
ます。「青春を謳ったエロゲならもっと山場作れよ!」とユーザからのお叱りが
聞こえてきそうです。

しかしそれだけに現実的です。部活に入って、嫌々ながらも頑張ってたらいつの間にか
友達ができていて、小さいながらも目標に向けてみんなで頑張って、けれど楽しむことが
第一で無理はせず。悩みや問題もそれこそ学生レベルで、物語みたいな困難は発生しません。
読み物なのに起伏が少なく、地に足が着いているんですよね。

エロゲで青春モノというと「理想的な学園生活」というフレーズがよく用いられますが、
ユーザはそれを求めてはいませんし作り手も目指していません。本当に求められている
のは、学園を用いた起伏の激しい物語。現実性なんて言ってしまえばどうでもよくて、
読み物としての面白さ(と、エロゲとして実用性)に重きを置いています。

なのでドラマティックに程遠い本作は、一般的な観点で見れば色のない微妙な作品です。
しかし一方で、実際起こりえそうな生活模様は身近さを覚えやすく、自らを重ねやすくも
あります。飛行機作って伝説の朝焼けを目指したり、寮存続のために学園と戦うお話
などに比べれば、よほど自分をその場に置きやすいですよね。

読み物ではなく、自身に置き換える学園・生活環境を用意したのが『アオリオ』です。
ユーザがその辺りを意識できるか否かで、評価は大幅に変わってくることと思います。
(とある1ルートを除いて。後述します)

蛇足ですが、部活動を演劇部にしたのはその辺を意識してなんですかね。劇的な物語を
読んで青春を実感するのではなく、仲間達と演じて成功させることが青春なんだ!青春に
シンデレラストーリーはいらない!みたいな。さすがに穿ちすぎ?



以下、ネタバレありの所感。










といった視点で作品を追うと目に余るのが更紗シナリオ。まぁ宇宙人はねーだろとw
百歩譲って設定を認めるとしても、ファンタジー要素が作品テーマとリンクしていない
なら盛り込む必要性は認めません。

同ブランドのエロゲ『ボクラはピアチェーレ』『ドコのドナタの感情経路』においても
ファンタジー要素は存在しましたが、それぞれ主題を生かすために用意された設定で、
空気に馴染まないながらも受け入れることができました。けど更紗の場合、設定に意味が
ないから凄く浮いて見えるんです。

加えて宇宙に帰る展開がなんかもう色々酷すぎます。物語要素が薄いからこそなのに
物語入れてるわ、内容も陳腐化された代物で捻りもないわ、そもそも糞シリアス展開
だわでいくらでもケチをつけられますねコレ。無難に引越しでええやん思うんですが、
恋人関係になる過程が書けなかったのかなぁ。

私自身の好悪でいうとそんなに評価悪くないのですけどね。更紗のえちぃっぷりや
仲良く恋愛してる様はなかなかに微笑ましく、楽しむことができました。とはいえ
作品コンセプトを台無しにしすぎなので指摘はしておきます。

あといくら青春モノだからってちょっと強調が過ぎるなと。事あるごとに青春青春と
連呼して、いやいや現実はそんなに青春連呼しないから、意識してないから。あえて
身近で日常的な空気を選んだわけですし、そこはユーザを信じてほしかったです。
山谷がないだけに薄味で、作り手が不安になるのもわからなくはないのですけどね。


けど欠点らしい欠点はそのぐらいで、あとはほぼ文句なしです。グラフィックも
好き嫌いはさて置いて上々ですし、BGMも作品を邪魔しない脇役に徹した仕事で前作
よりも好印象。声もなかなかに豪華な面々で掛け合いもテンポが良い。中でも由佳役の
桐谷華さんは抑揚やアクセントがナチュラルで、耳触りの良い演技が印象的でした。

部活を楽しむ前半と恋愛を楽しむ後半で登場キャラを絞っているのも個人的には好評価
ですね。みんなで学園生活を過ごして目標を達成する共通パートと、やはり学園生活に
不可欠な恋愛をバッサリ切り分けたのは英断かなと。特に後者は2人の関係に専念できる
のがありがたい。仲間を交えての恋愛模様もそれはそれで良い物なのですが、作風から
すると1対1の方が似つかわしいように思います。

その個別シナリオですが、由佳と遥はコンセプト通りのシナリオで満足です。やはり
起伏が少なく地味ではありますが、一人暮らしの部屋に連れ込んでアレコレできるのは
やはり良いもので。遥はそのまま無難に着地、由佳は進路を交えた話運びと差異も明確。
どちらも2個上の先輩ですが上手くシナリオを棲み分けていました。



◆真紀ルートについて
本作一番の見どころですね。全てが一生懸命で必死さが伝わってくる。
というのも、彼女が本作でもっともジタバタしてるのですよね。

友達の想い人に恋慕しつつも主人公・大輔に告白したのは、想い人を忘れるため&
その場の勢い。が、恋心が忘れられず(エッチした後で)大輔に別れを告げる。別れる
条件として提示された彼への告白を実行して玉砕。スッキリしたところで去来したのは、
短いながらも積み上げた大輔への想い。やっぱり好き、と再び告白。

話の外枠だけ見れば酷い女です。主人公が体の良いキープ君(死語)にしか見えなくて、
それこそ処占厨と呼ばれるプレイヤーさんには「なにこのビッチありえんフザケンナ」
だったのでは。

しかし真紀にしてみれば全てが本気。大輔を蔑ろにする気なんてさらさらなくて、
勢いで告白したのだって打算があったわけじゃない。「あ、この男子ちょっといいな」
という軽い、しかし確かな恋心です。けど長年想い続けた彼が忘れられないのも本当。
葛藤の間に大輔への想いは積み上がり、しかし気付かず別れてしまって。玉砕後の
泣きながら謝るシーンがこの上なく真剣で、そこに計算は微塵にも感じませんでした。


真紀ルートで秀逸なのは、彼女の本気を余すところなく表現できている点です。
大輔とのイチャラブを楽しそうに描写して、積み上がっていたものに気付き後悔する
様もガチ泣きという無様で表現して。真紀ちゃんものすごくカッコ悪いんですよ。
でも今度こそ後悔はしたくないから、最後はカッコ悪いのを受け入れて大輔に再告白
するんですよね。その足掻きっぷりが、彼女の想いを偽りだと思わせないんです。

保険も用意されていますね。想い人を前作『ボクラはピアチェーレ』の主人公とする
ことで、真紀の初恋と結末に予防線を引いています。それは何もエロゲのお約束とか
前作ルート云々だけではなくて、真紀の親友・高野琴子の恋心をも読み手に事前提供
した形となっているんです。

「前作をプレイしていれば」という前提にはなってしまいますが、琴子の事情を知って
いるからこそプレイヤーは「あの2人に割って入れないのもまぁわかる」と、真紀の
遠慮に理解を及ばせることができます。ヒロインの言動に対する保険となっているの
ですよね。前作設定が上手いこと流用されていました。

セリフの端々も丁寧に気遣われていて、随所に真紀の気持ちを斟酌できる配慮が
なされています。彼女の言動を汚いものとして見せず、若さゆえの過ちと足掻きで
あることを表現しきれたこと。それを私は何よりも評価したいです。


それでも読み手からすれば不誠実に見えるかもしれません。それはそれで仕方ないの
ですが、本作のコンセプトが「青春」であることには今一度想いを寄せていただきたい。

言葉尻を取られまいと警戒しつつ言動する大人と異なり、学生身分の彼ら彼女らは
基本ノリと勢いで突き進んでますよね。私達の若かりし頃がそうだったように。たとえ
軽いノリで付き合い始めたとしても恋心は嘘ではないですし、その勢いが原因で後悔
することもあります。

そうやって突き進んで失敗して、打開しようと足掻いて。いかな思惑があったとしても
感情に嘘はありません。彼ら彼女らの本気です。たとえ後から間違えていたと気付いたと
しても、決して嘘をつこうとしていたわけじゃない。常に全力疾走なんです。

であれば、たとえそれが主人公に対する裏切りに近い行為だとしても、「野々村真紀」
という個人から見つめれば理解に及べるのではないでしょうか。主人公には裏切りだと
しても、真紀の青春にはそれが必要だったのだなと。そうして彼ら彼女らの「若気の
至り」を見守るスタンスで読み進めることが肝要なのかもと考えます。


「青春はジタバタしても問題ない」。最終話のアイキャッチに用いられるこの言葉は、
真紀ルートが最も体現していたように思います。他ルートが比較的穏当で無難な展開
(と超展開)に終始するなか、泥にまみれるかのように足掻いた真紀は実に青春して
いたように思います。

その相方役となる大輔もまた同様。なんとなく付き合って相手の事情で振られて、
けど既に好きになった後でショックも大きくて、それでも好きだから初恋の後押し
まで手伝ってしまう。女を取られた形でやはりみっともなく、しかし学生の身分を
謳歌していました。

正直グダグダのドロドロな展開で、ともすれば演劇部にも影響を与えかねないほどの
泥模様です。けどそうならないのがエロゲの良いところですよね。最悪の流れだけは
回避する優しいご都合主義は、本作においても健在でした。ピアチェーレもですが、
エロゲの加護を上手く扱うブランドです。

上記では賞賛としたものの、前作を用いた仕掛けなどは裏を返せば本作からのご新規
さんには通じないわけで、手放しで褒められないのも事実です。しかし伝えたいことの
ために創意工夫し、地味ながらも丁寧にテーマを貫いたのは評価したい。このような
エロゲを作成される方々にはぜひ、今後も頑張っていただきたいですね。