普通の学園モノのようでいて「おや?」と思わされる工夫がそこらかしこにあります。ヒロインも大半の個性が独特で、クセが強く受け入れられない可能性も。ところどころが一風変わっているので、いつもと違ったキャラゲーを楽しみたい方にオススメです。
男子が目立たないからヒーロー部を作って活躍しよう!的な学園モノあるある。共通は
オムニバス形式の15分アニメなテンポで進み、個別ルートはカップル成立→エロシーン
連発→〆シナリオで終わります。
エロゲの情動から大きく逸れはしないものの、随所で王道を外してくる作品です。
まずゲーム開始直後に「ラブラブモード」なる選択肢が。これを選ぶとエロシーンだけが
流れます。通常モードで進めてもエロは後半で集中的に置かれていて、お話と連動
して進む普通のエロゲに慣れていると面食らうかも。
他にもヒロインの諸設定は担当声優さんが決めたとのこと。それがゲームにどう作用
するんだよ、とプレイ前は思っていたのですが、他ゲーに比べ声優さんがノリノリで
声当てされているのを見ると、存外効果があったのかも、と。特に御園生メイさんと
榎津まおさんのお二人はテンションが高く、声を聞いているだけで楽しめました。
そして個別ルートの展開。ネタバレゆえ仔細は後述しますが、大半が常道を外して
いてなかなかに面白いです。ストーリーよりはキャラ像が外している印象ですね。
個別ルートでも「ちょっと面白い娘だな」とは感じていたのですが、なるほどそう
くるかー、みたいな。
ただイチャラブエロの後に話が動く流れもあり、プレイヤーによっては読了後に
消化不良を起こしかねないのも事実です。エロは量は多く質も決して悪くないため
用途には十分耐えますが、スッキリ終わらせたい方は多少ネタバレを踏んででも
事前調査することをオススメします。
独特極まりないOPも含めとにかく意表を突かれる作品でしたが、それを楽しめるか
否かは個人によりそうな印象。いつもとちょっと違うキャラゲーがやりたい時など
にはいいかもしれません。
以下ネタバレ感想。
◆ゆりえ
唯一の鉄板安定ヒロイン。年下幼馴染デレのセオリーを大体踏襲していました。
イチャラブ中心のエロとも相性が良く、安心してみていられる個別ルートでした。
良くも悪くもいつものキャラゲーですね。それだけに語ることがないw
◆多紀
エロゲあるあるな性知識に疎いヒロインを特化させた印象。体の繋がりから入るタイプ
ですね。最後のイベントこそ鉄板でしたが、恋仲になるまでのやり取りはなかなかに新鮮で
楽しめました。世間知らずのお嬢様を自分色に染め上げる萌えキャラゲーらしいお話です。
◆凛音
優等生ヒロインを更に特化させたヒロインですが、嫉妬の見せ方が非常に面白かった
ですね。主人公の取り合いではなく、上位スペックの多紀や心を掴むのが上手い主人公に
人として嫉妬するのが非常に新鮮。
ただ主人公の性格を考えると、いずれは破局しそうな気がします。行動力がありすぎて
無意識に挫折感を味あわせてしまう彼では凛音が疲れてしまいそうな。舞羽ほどでは
ないにせよ、相性は決して良くない二人でした。
◆舞羽
共通ルートから他人に縛られることを嫌う娘でしたが、エロゲの主人公を使ってこんな
展開にするとは。何とも驚かされました。「こういうヤツはキープしておけばいいんだよ」
という友人キャラのセリフがまた痛い。予想外すぎました。
といいつつ気持ちは舞羽寄りだったり。わかります。ええわかりますとも(実体験)
要は距離間の話ですよね。「先輩は欲しいときに欲しい言葉をくれる」という舞羽の
セリフこそが彼女の最も望んでいる距離なわけで。なのにベッタリベタベタな主人公。
束縛されすぎて辛いけど、自分に向けての愛情だから無下にもできずストレスが溜まる
ばかり。いつも一緒なのだけが恋愛じゃないぞっていう。
なのに主人公の取った行動がアレだったわけで、あーわかってねーわコイツみたいな。
それでも妥協したのを見るに、自分への想いを受け止めてあげたい、とは思っているん
でしょうけどね。いずれ破局だろうけど、終わり方次第では友人として続きそうな2人
でした。別れてからも付きまとわれたら側縁切りでしょうけどw
ともあれ、個人的に読んでて心の痛くなるシナリオでした。舞羽の気持ちがわかり
すぎて主人公に共感できないという実に微妙な事象が起きてしまいました。
◆修次(主人公)
ヒロインとの相性がバラバラなんですよね。舞羽は上述のとおり。凛音からは前向きさ
が眩しすぎて嫉妬を向けられ、多紀は世間知らずなおかげで相性が良い。ゆり姉は幼馴染
ゆえの摺り合わせ効果から最も相性がいい。ヒロインみんなとの好相性が約束されて
おらず、それぞれの状況下で進む話が面白かったです。
多くのエロゲだと、前向きさと理屈でねじ伏せる主人公は全てのヒロインと相性よく
ハッピーエンドを迎えます。しかし本作は、エロゲ主人公ゆえの現実的な欠点を浮き
彫りにしています。結果凛音や舞羽の個性に影が刺さっていますが、現実的に考えれば
微妙なのは主人公。少なくとも私はヒロイン側に共感です。相性の悪さと恋愛音痴が
的確に表現されていたと思います。
◆タイトルの意味
そんな修次君がヒロイン達と出会い、一人の娘と恋仲に落ちてそれぞれの恋愛観を
育み、そして卒業する。「ポケットに恋をつめて」卒業する物語。それが本作です。
とはいえ恋は物理じゃないからポケットは不要。つまり心のポケットを指しています。
あるいは卒業式は手ぶらで帰るものですし、わずかなものを詰められるポケットに恋を、
という解釈もできますね。
ただしその恋は全部が全部幸せではありません。崩れた後立て直しているのもあれば
今にも破裂しそうなのも。そんな様々な恋を詰め込んだお話。それが本作なのでしょう。
萌えキャラゲーとしては欠点が目立ちますが、それを補って余りあるほどの良さを
持った作品だと思います。プレイできてよかったです。