ErogameScape -エロゲー批評空間-

amaginoboruさんの屋上の百合霊さんの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
屋上の百合霊さん
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
95
参照数
621

一言コメント

百合特有の艶やかさはありません。あるのは可愛らしい百合描写と、恋に一生懸命な女の子達が彩る青春群像劇。彼女達の成長物語が織り成す雰囲気は、本作ならではの温かな癒しを提供してくれます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「エロ要素のあるマリみて」的なモノを期待していたのですが、いい意味で裏切られました。
終始さわやかな空気で描かれた青春群像劇。
ほんわか癒し系の物語が好みの自分にとっては、まさに最高の出来とも言える作品になりました。
本作で特筆すべきは心理描写の丁寧さなのですが、それ以上に登場人物、主人公の魅せ方に興味を持ちました。
群像劇の利点を活用した、上手いやり方だなぁと。

主人公の結奈を例にとると、他のカップルや百合霊さん達を通して苦い思い出を克服し
精神的にいい方向へ成長していく様は、それ単体でも見てて清々しくなる、素晴らしい出来です。
ここまでなら割とよくあるレベル。しかし本作は更に、群像劇視点を最大限に生かして
結奈の魅力を伝えてきます。


最もわかりやすいのが10/4「誕生日」。誕生日をお祝いされるのが苦手な阿野はキンコンダッシュを決めるも
羽美・音七に見つかります。やり過ごすためロッカーの中に隠れるものの見つかりかけますが
そこへ結奈が通りがかり、逃走を幇助してくれます。で、よかったよかったで帰ろうとする阿野へ
ポンと渡される誕生日プレゼントのクッキー、という展開。
結奈の察しの良さ、困ってる人を助けたくなる人の良さ、騙してしまった2人への配慮
そしてさり気なく見せるクールなカッコよさが、阿野視点で余すところなく語られています。

結奈が過去と決別できる、夏の合宿あたりからよく見られる光景なのですが、彼女の行為がどれだけ感謝されているか
またどれだけ素晴らしいスキルなのかが、これでもかというほどに語られています。
それが1度2度であれば、他の作品でもヒロイン回想などでよくある話。しかし複数の視点を使い、多くの人から
主人公の魅力を次々に語れるのは、群像劇ならではの特権といえるでしょう。
(主人公の魅力描写だけのために、丁寧に書き上げたサブキャラを容赦なく使い捨てる
「アトラク=ナクア」の手法とはまた異なる、見事な表現方法です。)

もちろん逆もまた真なり。各カップルのヒロイン達も他の視点を通して、魅力を存分に表現されています。
これらにテキストが織り成す、丁寧な心理描写が手伝った結果、本作の魅力的なキャラクターたちが
存在しているのでしょう。


これだけ丁寧に心理描写が書けるのですから、よりドロ臭い展開を作ったり、不成立カップルがいた方が
作品としてはより深みが出るはず。ですが本作に限っていえば、これでいいのかなと思ったりします。
明るく爽やかな青春を見て、読中読後に晴れやかな気分になれる事。それが「屋上の百合霊さん」の魅力でしょうから。

こんな素晴らしい物語を見せられて、2012年は不作だったとはとても言えません。
製作者の皆さん、そしてライアーソフトには31作目以降もぜひぜひ頑張っていただきたい限りです。



※以下カップル別感想と蛇足。



◆牧聖苗・相原美紀
聖苗の一途な気持ちと、求愛されて困惑する美紀の葛藤が見所のカップル。
7月に美紀が結奈へ吐露する悩みと、自らを変えられない事への自己嫌悪には共感できました。
だからこそ写真部連中を彼女なりに諌める一幕は、彼女がどれだけ勇気を出したか
そして聖苗を大事に考えているか良くわかります。聖苗の一途な想いが真に伝わった瞬間です。
まぁ自分のために上級生の教室に単身カチ込みされたら、そりゃ心動きますよね。牧さんパネェっす!

やや脱線しますが、7月に発生する結奈・美紀のやり取りは凄いの一言。
あまりの見せ方の上手さに身体がブルっと震えました。

 ・まず結奈視点で、美紀の本音のみを見せる。
  →サチとの会話&過去の夢で、結奈の心情をフルオープンに。
  →美紀視点で再度見せて、結奈の言葉に含まれた意味合いをプレイヤーへ認識させる。

と実に見事なザッピング。美紀視点では責められたようにしか見えませんが、結奈にしてみれば
自分の過去とダブって見える美紀へ、必死に問いかけただけなのが良く伝わります。
心理描写の細かさが素晴らしい本作ですが、中でも特に見ごたえのあるシーンの1つでした。
ここのCGをコラージュしたOPムービーのシーンもお気に入りです。


◆一木羽美・双野沙紗・三山音七
3人ということで展開に最も期待していたカップルでした。ドロドロになると思いきや実に爽やかな展開。
やや意表を突かれたものの、気持ちよく楽しむ事ができました。

特に屋上で音七が2人を叱咤する場面がお気に入り。
ただ音七本人は強めに言っただけで、怒ってはいないのでしょう。
あの状況で友情を失なわずに済むと確信できるのは、恋の部外者である音七だけなんですよね。
後々も見せる彼女の分析力や冷静さを見るに、そこは理解していたはずです。
・・・まぁ安眠妨害されまくってイラついてた、という見方も出来ますが(笑

もう一つの見所はバカップルぶり。夏以降が酷すぎます。特に9/28。
「そんなところもかわいいんだけどな」と音七にサラリと言っちゃう沙紗さん、重症です。
直後のモノローグがまた酷い。桐や茉莉、恵ですらここまで酷くはない(笑
ユリトピアいちのバカップルは彼女達で間違いないでしょう。


◆剣峰桐・園生月代
唯一性格が似たもの同士な組み合わせですね。桐が大人になったらこうなるんだろうなー、みたいな。
相手に自分に無いものを見つけて恋心を抱くあたりもそっくり。そう考えると2人がカップルになれたのも納得です。
でもキラキラ大作戦はどうかと思います。成功するのかよ!?、と(笑

全カップルで最も百合らしいのはこの2人かなと。
学園祭二日目の大人&先生な月代ちゃんは本当にカッコよかったです。でもHは桐が主導なんだろうなーと思ってたら・・・。
普段のちっちゃ可愛い月代ちゃんが、なんと年下をリードするお姉さんに。
される側の桐もまた可愛い。唯一艶やかさを感じたシーンでした。
あと放送部ほどではありませんがバカップル要素も。保健室のやり取りとか。


◆古場陽香・有遊愛来
数理部ズが似たもの同士なら、こちらは最も性格が異なるカップル。
ただ2人とも、自分をしっかり持ってて絶対にぶれない所は一緒ですね。
だからこそ芯が通ってて、かつ自分にない一面を見せる相手に惹かれあったのでしょう。
登場の遅さがちょっと残念。もう少し見ていたいカップルでした。

個別のキャラクターとして、この2人はお気に入りです。
陽香のバカすぎるほどのストレートさは、笑えるのと同時にスカッとしました。
彼女も悩みはするんですが、悩みすぎず自分に正直な気持ちで突撃するんですよね。
これが彼女の言うロックなんでしょうか?ホント見てて気持ちのいい子でした。
あとAA愛の歌詞、最初に比べて変わりすぎですw

愛来は委員長キャラなのに、規則や時間に縛られてないのが印象的。
「時間を支配する」的な台詞がありましたが、自らの矜持に則って動いてるだけなんですよね。
だから矜持に大きく反しない限り、規則に反する事もできる柔軟さもある。
純粋にカッコいいと思えるヒロインでした。


◆網島 茉莉・稲本 美夕
恋人になって数年たったカップルのお話です。
長い間付き合ってると、知らずと少しずつズレが生じて、いずれ爆発する。その典型が描かれた2人の物語。
お互い相手のことは理解してる。だから「これ以上は譲れない」と錯覚するんですよね。じっくり話しあえば
お互いの過ちに気づけるところも、あるあるすぎて納得。ちょっと耳の痛いシナリオでした(笑

この二人を語るには、やはり比奈の存在は欠かせません。
陸上部の先輩として、女性の先輩として比奈を見守ってくれる二人。
シナリオ上比奈の描写しかありませんが、いい部長・副部長だったのでしょう。
最後に百合の先輩としてアレコレ教えてたのには笑いましたが。


◆榎木サチ・永谷恵
ユリトピアを目指す百合霊さんで、カップル暦30年の超ベテラン。
最初はややウザな恵も、直向さがわかってくると可愛くなってきました。
サチは何だかんだで見守るお姉さんポジですね。特に結奈とってはいい姉貴分だったなと。
2人が好きあってるシーンが少なめで残念。もうちょっと見てみたかったです。


◆遠見結奈・狛野比奈
クールでおせっかい焼きで嫌味がない。更に悩み持ちとエロゲ主人公のテンプレを網羅している結奈さん。
阿野にクッキー渡すシーンとか主人公すぎ(笑
やはり百合霊さんは結奈ありきの物語。彼女の成長が軸となっているからこそ
みんなの群像劇が更に生きるんですよね。ナイス主人公でした。

結奈のアクの強さから口数少ない比奈は霞みがちでしたが、それでも決めるところは
ビシッと決めてくれました。告白の返事を一ヶ月も平常心で待てるとか、こちらもまた
女気溢れるかっこかわいいキャラでした。


◆阿野 藤
お姫様な外見にオタクな趣味。社交的に見えて実は極度のあがり症。更にプロポーション抜群。
なぜ彼女を対象にしなかった?といわざるを得ませんw
別主人公(男)による阿野シナリオ追加とかないですか?ないですか。
いいところ阿野・結奈or音七シナリオ追加でしょうね。期待してます。


蛇足。
本作の成長物語と優しい世界は、日高万里の漫画に通じるところがあるなーとか。
愛来のブレなさっぷりは本庄兄を思い出しました。