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amaginoboruさんの七つのふしぎの終わるときの長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
七つのふしぎの終わるとき
ブランド
etude
得点
92
参照数
2425

一言コメント

満足できた反面、欠点が多すぎて評価に困りました…。点数は主観100%。最終ルートの素晴らしさにやられました。「ライター別で主人公の性格が変わる」「派手さのないミクロで地味なシナリオ」「伏線回収は上手いけど細かい部分で辻褄が合わない」これらが嫌いな方は回避されるのが賢明です。興味を持たれた方は長文前半にネタバレせず長所・欠点を羅列しましたので参考にしてみて下さい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

おばあちゃんから学園七不思議の力を持った時計を託され謎を究明していたら、いきなり
着物の少女が昭和20年からタイムスリップしてきた。というのがOPムービーまでのあらすじ。
以後は時計と七不思議の謎を追う過程で特定ヒロインとラブラブチュッチュです。
攻略ヒロインはパッケの4名でBADは無し。4人クリアすると最終ルートが開放されます。
氷子は攻略できません。できませんったらできません。ちくしょう。


学園内だけとはいえ時間を操る力を手に入れる辺り、スケールの大きなシナリオが予想
されますが、その実は地味でミクロ。ファンタジーではなく、ちょっと不思議な学園モノと
言った方がニュアンスは近いでしょう。
能力者同士の苛烈なバトルや、時空を越えた壮大な恋物語を期待された方は回避してください。

一方で地味でミクロとはいえ能力を上手く使ったトリックや一発逆転劇はありますし、
共通・個別シナリオで巻かれた伏線が最終ルートで回収されるカタルシスなどは存在します。
まぁ反則ギリギリな展開もあるのですが、一定度の満足は得られるのではと。

ただ注意して貰いたいのが、細かい粗を探すと不整合な点がポロポロ零れ出る点。
特に序盤で表示される七不思議のルールは、各キャラの行動を照らし合わせてみると
「アレ?」となる箇所がちらほらと。
伏線回収ゲーは好きだけど重箱の隅が気になる、なんて方にもオススメできない作品です。

またミクロな世界観の割に設定や制約がややこしく、淡々と読み進めていると理解が
追いつかなくなることも。一度説明された内容は大半が知っているものとして処理され
フォローがないんですよね。
プレイの際は七カ条と時計の名前・能力・所有者を記録しつつ読み進めると、理解が
深まるかと思います。


シナリオは2ライターの分業制で、共通・ふみ・七穂・最終シナリオと深咲・エリスで
分担されています。前者が竹田氏、後者が青葉氏ですかね。

竹田氏のテキストはクセが強く、それが本作の持ち味の一つといえるでしょう。
動かすキャラは基本的に賢く、何気ない言質や所作から相手の行動の穴を発見したり、
誘導して精神・行動に拘束をかけたりと見ていて飽きない。
対敵であれ味方同士であれ、常に会話が面白いのが特徴ですね。こいつら普段から
こんな警戒して生きてんのかよって気にもなりますがw

中でも主人公は面白い感性を持っていて、会話や質問のレスポンスは常に独特。
笑いの取り方も捻りがあり、その辺のエロゲとは一線を画していますね。
そんなヤツだから当然頭も少しぶっ飛んでて、特に個別ルートクライマックスや
最終ルートではドン引きするような行動を平気で実行します。
他ではちょっと見られない、興味深いキャラでした。

また頭のいい人間同士の会話が多いのもまた特徴であり欠点です。学園長の発言に
多く見られるのですが、一を聞いて十を知るような会話が多い。
例えば「それで、どうするのですか?」という質問だけで主人公達は直前のやりとりから
相手を理解し、ベターまたはベストの回答を返します。

それ自体は悪くないし面白いのですが、頭良く見せようとした結果、省略ではなく本当に
説明不足となってしまった箇所がちらほらと。(具体例は感想パートで後述。)
他にも話題のすり替えをすり替えたと地の文で明示しなかったりと、読み手に不親切な
会話・文章が多数見受けられます。
苦手な人には辛いテキストだと思うので、体験版で事前チェックをオススメします。


対して青葉氏のテキストはまさにエロゲのテンプレートで非常に読みやすいです。
それだけに新鮮さがなく本当に普通のエロゲ。深咲・エリスのヒロインとしてのキャラを
楽しむ個別シナリオといえます。
一応以後の伏線となる要素はあるのですが、おそらく竹田氏の指示で入れたのでしょう。

普通のエロゲすぎて面白くないという方もいらっしゃるでしょうが、色々な意味で頭を
使うことが多い本作、休憩を兼ねてヒロインとラブラブチュッチュするだけのシナリオを
プレイするのも悪くないと思います。実際いい骨休みになりました。
テキストもオーソドックスとはいえ悪くありませんし、2ヒロインとも可愛く書かれて
いましたしね。

残念だったのはせっかくの独特な主人公が、普通のエロゲ主人公と化していたこと。
あの雰囲気は竹田氏にしか出せないでしょうし仕方はないのですが、ちょっと別人すぎました。
独特なボケは消え、ツッコミも普通の「ヒロインに弄られる主人公」でしたし、醒めている
雰囲気が失せ、代わりに熱血な部分が追加されていて色々と違和感を覚えました。


主人公以外のキャラについて、ヒロイン達は総じて良い感じ。青葉氏が書けばテンプレートな
エロゲヒロインになりますし、竹田氏であればそこに捻りを加えた一癖あるキャラとして
上手くキャラ個性を滲み出しています。
更に魅力的だったのが脇役キャラ達。里瀬・優姫・学園長・氷子といずれもアクの強い
キャラで話を盛り上げてくれました。特に氷子は何故攻略できないし。

グラフィックはさすがのetudeですね。キャラもですが背景が特に秀麗。
洋を基調とした学内、自宅や七穂が持つ和の空気、そして冬を彷彿とさせる全体の
雰囲気と、文句のつけどころがありません。
シナリオも比較的落ち着いた空気で進みますし、冬の雰囲気ゲーとしても悪くありませんね。

キャラグラも総じて可愛く魅力的に描かれていますが、立ち絵が若干縦長な点は
序盤は違和感あるかも。あと1枚CGと立ち絵で別人化するキャラがいくらか。
人によってはそのあたりが若干気になるかも。


作品全体の感想としてはこんなところです。
設定とシナリオ中心に欠点が散見されますが、プレイヤー次第ではそれを覆すほどの
長所を持った作品かと思います。
中でも主人公のキャラ付けは本当に独特です。賛否両論の性格ですがテンプレ主人公に
飽き飽きしている方はぜひ体験版をば。七不思議の謎や伏線、脇役達の活躍などを副次要素に
して主人公を追いつづけるのが、本作を楽しむ最適の方法だと思います。



以下個別ルート含めた個人的な感想。ここからはネタバレ全開です。











以下、クリア順に所感を徒然と書いていきます。以下(主人公=智)と明記します。
また話があちこちに飛ぶため、オールクリアしていないと意味不明の内容です。


■止山ふみ
優姫の時計を集める理由が判明するシナリオですが、智・ふみvs優姫のやり取りも見所。
手段を選ばなくなり人を捨てた有能会長の本気が見られます。
それだけにオチが残念。こうしないと話が進まないとはいえ、まっしろ死神出して
ちゃぶ台返しはなぁ…他シナリオでも似たようなことをやっていますし。

本シナリオで最も注視すべき点は、なりふり構わなくなった優姫でしょう。
最終ルートプレイ済み故にわかることですが、優姫の行動は七穂のいうところの
「相手の痛みを想像して行動している」状態です。

トゥルールートにおいて七穂はそれを肯定していますが、ふみシナリオの優姫は
お世辞にも肯定できる様ではありませんし、優姫に親愛の情を持つリドリィでさえ
躊躇を覚えています。

痛みを自覚して責任感と罪悪感があれば何をしてもいいのか。勿論いいわけありません。
無自覚な智よりマシとはいえ、やっている事実は変わらないのだから。
この時点で優姫は自覚しているのでしょう。その上で行為に及んでいます。
故に彼女をどうこう言うつもりはありません。
いいたいのは最終ルートの七穂に対してです。が、それはとりあえず保留。


■古宮エリス
個別ルートでエリスが救済される唯一のシナリオ。ですが物語自体が萌え路線で
薄っぺらいため、いまいち有難みというか思い入れがありません。
内容は萌えゲーのあるあるカップル展開です。ロリ御用達といったところでしょうか。
伏線要素はエリスが時計の呪いにかかっていること。まっしろ死神の件は深咲ルートでも
判明しますしね。

ポイントはエリスの親友(?)ポジの氷子。どうして攻略できないし。
何気に雪結晶のヘアピンがいいアクセントになってますよね。
普段着も黒基調でいい感じ。最終ルートといい扱いがなおざりすぎです…。


■遠近深咲
萌えルートその2ですが、最終盤で七穂とともに学園長が消え去るのが伏線要素。
これだけだと真相にたどり着くのは少々難しそう。七穂シナリオを合わせ見れば
勘のいい人はピンとくるのでしょうか?私はさっぱりでした。
そしてこちらもまっしろ死神が事態収拾。ふみルートと〆がかぶり気味なのは
いかがなものかと。エリスルートでも似たようなことやってたし。

にしてもバカップルぶりの激しいシナリオでした。久々に良いバカップルを見た気が。
しっかしエロシーンのセリフが妙なところを狙っていますね。
「学園長代理なのに感じちゃうビクンビクン(意訳」とか誰が喜ぶんでしょうか。
とはいえしっかりエロゲしていたと思います。


■時任七穂
くっつく過程が深咲シナリオとやや似ていますが、文体や表現方法で随分と変わる
ものだなぁと感嘆。1枚絵がいずれも秀麗で印象的なヒロインなのですが、立ち絵の
ロリっとした雰囲気と随分違うのは残念です。頭身高い方が良かったなぁ。

事の発端ということもあり、左利きやななみの存在など判明する事実は数多く、また
核心に迫っています。
そして智のぶっ飛んだ考え方も他シナリオに比べ図抜けています。「コイツちょっと
頭おかしいんじゃね?」と思わせるには十分だったかと。

しかし過程の書かれ方が省略されすぎで、説明不足になってしまっています。
最終日前日、いきなり七穂・ななみを突き放して、あげく七穂へ強引にキスして

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

七穂:よくわかりました。わたしのことはどうでもいいのですね。
智 :うん。それでお願いがあるんだけど、死んでくれない?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ぶっ飛びすぎにもほどがあります。流石に意味不明。行間読め言われても無理でした。
おそらく「智に考えがあってそう言ってるだけ…だけど、心では本当に常人ならざる
感情が渦巻いていた」ってことなんでしょうが、にしたって省略しすぎです。
作戦を伝えるための前触れにしても、性格異常者であることを読み手に匂わすにしても、
ここは最終ルートのようにしっかり描写してほしかったです。

一方で七穂・ななみ対決シーンはいい意味で印象的でした。時計を駆使した種明かしも
さることながら、七穂がななみのために死を受け入れるんですよね。
この時点では仮の親娘ですが、七実のために生を捨てるとも解釈できますから。
最終ルートをプレイして初めて心に浮かび残った一場面でした。こちらも詳しくは後述。


■七つのふしぎの終わるとき(最終ルート)
いきなりチート展開からスタートしたのにはビックリしました。後でちゃんと理由が
説明されますが、いきなり超展開かと思いましたよ。
いや実際おもいでアルバムがチート全開だし、やっぱり超展開なんですかね?

それを差し引いても伏線回収は見事なものでした。遠近が時計台の音を記述していた
理由なんて絶対に放置されると思ってたのに。
他にも人形の経緯や個別シナリオで七つ目の時計の位置が異なる点など、綺麗に回収して
くれました。

更にオーラスで里瀬おばあちゃんが最後の伏線回収。やはりおもいでアルバムがチート
すぎますが、それにしても綺麗に纏められています。
新聞部顧問や写真を残した理由のくだりはカタルシスが本当に凄かった。
あぁーそうくるかぁって感じでスッキリしましたよええ。
予想以上に綺麗に風呂敷が畳まれていて嬉しい誤算でした。最終ルートの良かった点の
1つです。



そしてもう1つは言うまでもなく、性格異常者・進藤智の扱いについて。
何ともとんでもないヤツを主人公に抜擢したものです。っていうか普通のエロゲなら
コウモリな敵役ですよね。
虎の衣を借りて「親分、あの馬鹿をやっちゃってくださいよ!」とか調子いい事言って
殴られて「てめえの顔は見たくもねぇ…消えろ!」とか言われて尻尾巻いて逃げるやつ。
あんな感じ。
ていうか七穂の激昂シーンはそのまんまですよね。智に逃げ場がなかっただけで。
とても主人公とは思えません。しかし本作は智が主役でないと成り立たない物語です。


本作で最も秀逸だった点は、個別エンドとトゥルーエンドの書き分けです。

個別エンドではヒロインと結ばれて終わるものの、必ず誰かしらが犠牲になります。
しかし各ヒロインたちは人生の伴侶となる人だからこそ、相手(=智)の欠点を
受け入れ肯定し、犠牲が出ようとついてきてくれます。
対してトゥルーエンドは伴侶ではなく仲間・友達だからこそ、智の異常っぷりを
指摘し、嫌悪し、否定し、それでも仲間として智を許し、結果犠牲者を出さずに
物語が収束します。

恋人エンドと仲間エンド、欠点の肯定と否定、エロゲとギャルゲー、犠牲の有無。
その両立を成すために、進藤智という性格異常者を主人公にする必要があったのでしょう。
トゥルーエンドはエロ要素のない全年齢シナリオ。しかしエロのある個別シナリオが
なければ決して成り立たない物語です。素晴らしいエロゲの見せ方でした。


そして同時に、智へ更正の糸口を掴ませ、未来のある終わり方を見せてくれます。

まず深咲。智は自殺を図るも彼女の機転により失敗します。
彼女の性格から単純に死者を出したくなかったとも解釈できますが、時計がなくとも
智のことを好いていた唯一のヒロインです。
今はまだ友人である想い人の至らない点を否定し正したかった、とも取れるのでは
ないでしょうか。

そして七穂。叱咤し銃口を向けるも、七実へ8つ目の時計を渡した際には「よろしい」と
笑い、許し認めた彼女もまた、智の全てを否定し更正を促した一人です。

二人の叱咤激励を受けた智は現代に戻り、七穂やエリスと再会し、里瀬から全てを
聞き、そして年を越えるその瞬間…というところで物語は終了します。
つまり、七つの不思議が終わります。

七つのふしぎの終わるとき。それは智が人としての一歩を踏み出すとき。
…タイトルすげー!EDテーマのThankfulすげー!って思ったのは私だけでしょうか?
最終ルートにふさわしい、素晴らしい締めくくりでした。



■七穂という人物
しかし考えてみれば七穂も大概な性格をしています。
元を正せば生き残りたいという理由で七実を生み出したのは彼女です。
散々引っかき回しておいて、智のおかげで全てが元鞘に収まったというのに、銃口を向け
「子供のお前にどうこう言われる筋合いはない(意訳」って、どんだけ唯我独尊なんだと。

その後七実に五体投地で謝罪はするものの、罪悪感や責任感があるなら人を犠牲に
しても構わないのか?と言いたくもなります。
ふみルートの優姫も罪を背負いながらも深咲の記憶を奪い、相手の痛みを抱きつつ己の
道をつき進みましたが、それが肯定できる内容でない事は止山ふみの項で述べたとおり。

別に綺麗事を言うつもりはありません。罪を抱きつつも切り捨てるのは仕方ないことです。
ですが事の元凶である七穂が、結果として同じ穴の狢である智を断罪するのは
筋が違うのでは?
断罪するにしても、まず自身が犠牲者を出さずに収束させようとする意思を見せるべき
ではないでしょうか?

…と思ったのですが、七穂ルートのラストでしっかり実践しているんですね。
「娘を殺してまで生きようとする人はいません」って。
対決の時点で、七穂はななみが件の人形であることを把握していたのでしょう。
その上で自分が生み出した、自ら生きようとするモノに対し、智の作戦があった
とはいえ生を譲り渡しています。

そんな七穂なら、時計を回収し七実が消えかけ、仮に8つ目の時計が存在しなかったと
しても、時計を譲り渡し自身は死を受け入れたのではないかなと。
なれば断罪したのも、自身の罪を認めた上だったのかなと。

その視点で見ると、七穂は自分をしっかり持った、精神的にタフな人間であることに
なります。自分の罪を意識した上で類友を断罪するなど、よほどタフか頭のネジが取れた
馬鹿でなければできません。
幼い頃から耐えることを知っていた七穂だからこその精神力、といったところでしょうか。

本当は頭のネジが取れた馬鹿かもしれません。どちらか判断できる材料はありません。
私としては、七穂ルートを見る限りでは罪を意識した上で相手(=智)の苦しみを想像し
断罪したのかなと思います。



■所感
最終ルートで褒めちぎった伏線回収ですが、実はかなりツッコミどころがあります。
七か条ルールが「所有している時計を言い当てられたとき」以外のペナがなかったり、
あるいはあったりなかったりでブレていたり、おもいでアルバムがチートすぎたり、
エリスが都合よすぎたりエリスが都合よすぎたり。叩けばホコリがいくらでも出るような代物です。

んでもそんなのはどーでもいいんです。
それでも最終ルートの爽快感は見事でしたし、何より一番の見所はそこではありません。
本作は性格破綻者の智が仲間に正され、人としての一歩を踏み出す物語です。

ストーリーが地味だろうが細かい辻褄が合わなかろうが、そんなのは二の次三の次。
個別シナリオと最終シナリオを巧みに使いわけた、素晴らしいエンディングを見るため。
それが本作一番の見所であり、プレイする意義だと感じています。


以上「欠点だらけだがエンディングが最高なエロゲ」。それが本作に対する私の評です。
いい作品を見せていただきました。etudeの次回作にも期待しています。