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amaginoboruさんのソルフェージュ ~La finale~の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
ソルフェージュ ~La finale~
ブランド
工画堂スタジオ
得点
70
参照数
238

一言コメント

百合モノというよりは、女の子達が作中の出来事を通して仲を深めていく、少女マンガのノリに近い作品です。シナリオは本作無印から大幅増量され、読み応えは十分。お気に入りのキャラが見つかれば十分楽しめるボリュームと内容です。ただグラやテキスト、シナリオの各所に粗い部分が多く、細かい部分が気になる方には向いていないかも。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

男キャラが一切登場しない百合モノですが、全年齢向けなのでHなシーンはありません。
百合描写もかなりライトで、一線を少しだけ越えた先輩後輩(または親友同士)程度です。
La finale(以下LF)追加シナリオ終盤には百合チックなシーンもありますが、濃厚な
熱愛シーンには期待しないほうがいいでしょう。仲良くなるまでの過程がメインの作品です。

また舞台がお嬢様学校で「マリみて」的な印象を受けますが、実際は
ややくだけた普通(?)の女子高に近い空気で話が進んでいきます。
序盤はやや重苦しい空気ですが、原作(以下無印) → Sweet hermony(以下SH) → LFと
話が進むにつれ、コミカルな空気が強くなる傾向にあります。



シナリオは主人公である宮藤かぐらが、悩みやパートナーとの
すれ違いを乗り越え成長していく、わりと王道な展開。
嫌味のないキャラは皆無で、どの子も長所と短所が明確にされているのが特徴です。
また先に述べたとおり、パートナーと仲が深くなる過程がメインとなるので
関係の浅い序盤はかぐらが孤立するシーンが多く、暗い印象を受けるかもしれません。
SHシナリオに入り進級すると、その空気は緩和されるんですけどね。

クオリティはヒロインごとにかなりムラがあります。
長所の魅力が伝えきれなかったり、尺が足らず「これから!」というとこで
タイムアップを迎えてしまうキャラの物語は、必然とクオリティが低め。
反面魅力が的確に伝えられたパートナーのシナリオは精度も高く
オススメできるレベルのクオリティです。

無印パートの全体的な作りの粗さは常に目に付きました。
シナリオの整合性・統一性にかける部分が多々見受けられます。
例えばすくねの実祖母である葵。自分の都合があるとはいえ、孫の件に一切触れず
話を進めるのはさすがに無理矢理な気が。
かぐらもかぐらで最優先事項にも関わらず、深く追求せずすぐ引き下がるのがまた微妙。
諦めちゃうのかよ!?と。

他にも基本かぐらの一人称で地の文が構成されているのに、急に三人称へ切り替わったり
2度目のリニューアルにも関わらず旧パートに誤字脱字が残っていたりと、技術的な面でも
詰めの甘さが見受けられます。
手間とお金をかけたくない事情はわかりますが、もう少し配慮して欲しかったなと。



グラフィックは前バージョンのプラットフォームがPSPだったせいか、SH初出の
織歌・美羽の立ち絵に違和感が。他キャラと塗りの異なる点が気になります。
(元がPSPなので、解像度の問題かもしれませんが。)

立ち絵のバリエーションの多さは良い点ですね。かぐらは勿論、他キャラの
バリエーションも豊富。
すくね様の普段着がアダルトすぎる気はしますが、これだけのパターンを
用意しているのはキャラゲーとしてグッジョブです。
1枚絵も次期のせいかやや不安定ですが、総じて可愛らしく描けていますね。
特にLFシナリオの各キスシーンは百合らしさが出ていい感じです。



システム面はPSP版から完全にデグレードしてます。
ガンホーを褒めたものか、工画堂スタジオを恨んだものか・・・2009年発売としては
そこらへんの同人作品レベルかもしれません。最低限のものは揃っていますが
セーブにサムネはない、スキップが遅かったり、致命傷ではありませんが若干不便です。

フォルテールパートもデグレ。PSP版にあったボム、コンボシステム、甘判定が削除。
なのに最もプレイ回数の多い3曲(Little Wing, Dreamer, AOZORA Melody)が最難関レベル
という構成には首を傾げます。更にちほシナリオは同レベルの曲が追加される鬼畜仕様。
出来ない方はオート演奏+Esc押しっぱで飛ばし、個別シナリオで出る低難度曲で
練習するのをオススメします。



正直何かと欠点の多い作品ですが、少なくとも及第点は確実にクリアしていますし
作中の女の子達が持つ魅力は、普通のエロゲギャルゲーとは一風変わった良さがあります。
決して手放しで褒められる作品ではありませんが、ライトな百合モノに興味があるなら
手を出して損はしないゲームだと思います。ハマればフォルテールも楽しめますしね。



以下、特にお気に入りのシナリオに対する雑感。





◆まり
完全に学園モノによくいる嫌味キャラ。その苦手な先輩が実は・・・という王道展開ですが
まり先輩のもつ厳しさと優しさ、強さと弱さが上手く描かれた名シナリオでした。
普段は引っ張ってくれるけど、すくね様と違い弱い面も見せてくれるのがいいです。
生真面目な優等生キャラで、ここまでカッコ可愛いキャラも珍しい。

見どころは2人の仲が深くなっていく過程。
最初は相性最悪に見えた二人が、相手の性格を徐々に理解していくその様ですね。
1イベントで一気に近づくのではなく、近づいて離れてをある程度繰り返し
徐々に距離をつめていく様子が、懇切丁寧に描写されています。

パートナーとして成立した後もいい感じですね。
既にかぐらの中で、まり先輩のパーソナルがガッチリ固定されているから
たとえ不審な行動を取っても「まり先輩のことだから~なんだろうな」と
納得し無条件に理解を示します。
提案や行動を起こす際も、そのあたりを基点に考えているから、確認を取らずとも
常に先輩にとってモアベターな行動を取ってくれる。
その様子が2人の相性の良さ、仲の深さに説得力をもたらしています。

この丁寧な関係構築の見せ方が上手いなぁと。
他のゲームでも阿吽の呼吸で行動するカップルやコンビはいますが、その由来に
十分な説得力を持った物語はごく稀です。
その点まり先輩シナリオは導入部分を丁寧に描いているから、お互いを理解・信頼
しあったカップルとして納得することができました。

また他シナリオではウジウジ+受身一辺倒のかぐらが積極的なのも特色です。
まり先輩が弱いところを見せても、理由を早い段階で把握し立ち直らせます。
同様に甘え方も上手く、イチャラブシーンも他シナリオに比べ、質・量共に多め。
見ててニヨニヨできるものばかりです。
他シナリオでもこのぐらい頑張ってくれれば・・・と思わずにはいられませんw





◆琴美
LF部分がなく短めの内容ですが、その中で綺麗にまとまっているのが特徴。
片手ずつでフォルテールを弾くシーンや、生徒会室で琴美が感情を爆発させる
シーンなど、演出面においては他シナリオに比べ一歩抜きん出た印象です。

またその秀逸なイベントの数々を発生させるタイミングが絶妙。
シナリオの進行に合わせてイベントを的確に配置するという、テキスト系の
エロゲギャルゲでは当たり前を、琴美シナリオは丁寧かつ的確にこなしています。

おそらくプロットが丁寧に練られているのでしょう。
だから物語も起承転結に沿って流れるように進行し、各種イベントも
ジャストタイミングで配置できているのかなと。
作中の琴美のような、その地味ながらも堅実な仕事ぶりを楽しめた物語でした。

あと個人的に患部にキスするシーンがお気に入りです。
特に琴美のキスがエロティックでいいですね。
いかにも百合モノって感じでグッジョブでした。