(2023/08/20改稿)2013年8月末、10年前にプレイした時は主題の意味しか理解できず、苦手な描写も多々あったことから掘り下げずそのままにしていました。そして今また再挑戦してみたのですが、出典や本作評や感想、考察を補助輪とすることでようやく理解できた気がします。長文はほぼ感想のみで作品紹介や考察はありません。
1周目は「素晴らしき日々」ルートで語られる主題(幸福に生きよ!)の意味しか
理解できず、その他の部分は情報整理すらできませんでした。終の空や旋律の意味から
間宮様の電波テキストにざくろのラリラリ発言、序章は銀河鉄道の意味に明晰夢だの
循環小数だの無限だのシラノだのディキンソンだの。
2章の電波テキストや3章苛めの苛烈さに嫌悪感を覚えていたこともあり、どの情報が
何に接続するのかを考えることすらできませんでした。あーこれは手に負えないなと判断し、
1周目当時は上辺っ面の高評価と感想文だけ付けてお茶を濁していた次第です。
んで他の考察ゲー、『最果てのイマ』『MYTH』といった難解といわれる作品に手を付けて、
同じく過去に理解を挫折した『Forest』『sense off』なども読み直して自分なりの解釈を
見つけたりして10年が経過。そろそろ理解できるのかなと、出典やみなさんの感想・考察を
横に置いて再挑戦した結果がこの感想となります。
自分で考察した部分はほとんど存在せず、ほぼ全てが引用です。なのであくまで
補助輪を多分に用いて2周目を読み通した感想だけを備忘録として、以下に記して
おこうと思います。
■私なりの理解
作品構成としては皆守(幸福に生きよ!)と卓司(終の空)の対立をベースとして、
そのどちらに振れるかの基準として旋律・由岐・ざくろ・神様などが存在していた気がします。
「素晴らしき日々」ルートの最後では皆守がピアノを弾いて旋律を語る一方で、3章の
ざくろはどちらのルートでもシラノの詩を謳うことで道を確定していたので。
もうちょい具体的にすると、旋律などから得られる共感は人を豊かにするけど、その理屈では
よくわからんものを無理やり理屈にしようとしたり、あまつさえその理屈を具体化あるいは盲信
すると終の空側に振れてしまうというか。3章ざくろが飛び降りるシーンとか、知りもしない
死後の世界を信じてああなっちゃうわけですし。
後はお約束ですが、1人になっちゃうとダメになるパターンも多かった気が。間宮様は
2章本編だと一人ですが、希実香ルートだと旋律からの共感を経て最後は
切ないながらもわずかながらに救いの見られる最後となりますし。琴美もラリざくろも
最後まで1人でしたし。逆にハッピーエンドを迎えた人物の隣には必ず誰かがいますし。
「幸福に生きよ!」は「素晴らしき日々」ルートの皆守と木村の語らいが大体すべて
と理解しています。起きた事実をそのままに受け入れて、有りもしない世界や考えても
意味のないことに惑わされず、自らの意志のままに生きよう、的な意味かなと。
最終的には理屈より感性を重視するお題でもありました。
「終の空」が何なのかはわかりません。作中で理解できるような描写は(おそらく)
されていませんし、んなもん考えても意味ないよと「幸福に生きよ!」の理屈では
言ってた気がします。知覚経験できないものは無いのと一緒だよ、無いモノを軸に生きると
足を踏み外すよ破滅するよと言ってるようにも聞こえました。
ただこの「わからない」という回答は思考の誤りや放棄である可能性も否定しきれません。
何かを見落としてわかることができるモノをわからないと答えてしまっているのかもしれない。
「終の空」はわからないでたぶん大丈夫ですが音無彩名とかちょっと怪しい。
わからない存在と結論付けましたがあんま自信ありません。
1周目でこれら全てを理解できなかったのは、並行して間宮皆守の同一性解離障害に
よる認識誤謬やら時系列整理やらが走っていたからですね。同時に3章に出てくる
神様みたいな意味ありげで無意味なのもありますし、いうて2章間宮様の電波テキストには
(理解できなかったけど)何やら仄めかす文章があるらしく。どの情報がどこに接続
するのかわからなかったわけです。
そもそも物語の見せ方が言葉どおりアクロバティックすぎて余計なことを考えられなかった
というか。読み手の視座を固定させ続けるのが意図だったのかもしれませんが、何にせよ
そんな理由で読み解くことができなかったのだろうなと思います。
■感想とか
本作『素晴らしき日々』でよく聞く否定的意見について。
まず前半を読み続けるのが辛い点。実際私もコレで、特に2章の間宮様は1周目も
2周目も、読みたく無くなるレベルで辛かったです。3章の苛めシーンも辛かったです。
序章や1章が退屈だという意見もありました。
とはいえ振り返ってみるといずれの場面も必要不可欠です。1~2章は間宮(終の空)側を
描写するのに必要不可欠でしたし、3章は皆守(素晴らしき日々)側との分水嶺とも
いうべき章でしたから。序章は皆さんも仰っていますがオールクリア後に読み直して
初めて楽しめる内容です。
ただそれを理屈では理解していても、つまらん物はつまらんかったですし辛いものは
辛かったw 特にコメディパートの描写は同年代のエロゲと比べても拙いなと。
テーマの見せ方や作品構成はそれこそエロゲ随一ともいえるレベルなだけに、拙く
おもんないコメディ要素が殊更目立ったような気もします。
次にシナリオ面ですが、これはもう唯一無二といって差し支えないですね。
4章以降は主題に向かってエロゲ文法に則った流れでわかりやすく見せてくれますし、
内容も実にユニーク。それでいてグラやBGMもシナリオから乖離することなく表現
されていてノベルゲーとしても秀逸。
読み物としても読了後に序章に立ち戻ることで、最初は意味不明だった言葉の
羅列が理解できるようになっていて、最後の最後まで楽しませてくれました。
ヒロインの扱いについては、基本的に皆守・由岐・羽咲のハッピーエンドを目指す
構成のため、1周目ではそれ以外のキャラクターが踏み台にされているようにも
受け取れました。なのにその踏み台にされたヒロインの方がキャラクターとしては
魅力的に書かれているんですよね
希実香は本編こそ後ろ向きな最後ではありましたが、3章ざくろルートおよび
2章希実香ルートでそれこそエロゲヒロインと呼ぶにふさわしい魅力を振り撒いて
いました。これだけシナリオに傾倒したエロゲで可愛らしさに溢れているのは
見事という他ありません。
その希実香以上に踏み台にされた感のあるざくろもまた素晴らしいヒロインでした。
3章にハッピーエンドが用意されているとはいえ、本編における扱いはあまりにも
あまりで、不憫を通り越してライターさんの決して折れない意志が感じ取れました。
なのに作品の踏み台になったと思わせない作品構成と表現力がとんでもない。
しっかりと高島ざくろという人物を掘り下げユニークなキャラクターとして表現し、
作品構成をもって凄惨な最後を読み手に吞み込ませた上で不幸なヒロインと
思わせないようにしています。
特に序章のざくろに関しては本当に素晴らしかった。最後のプロローグで綴られる
由岐とざくろの穏やかな日々。銀河鉄道のシーンも含めて非現実的では
あるのに、「幸福に生きよ!」「語りえぬものについては沈黙せねばならない」という
主題が、余計なことを考えさせず幸せを肯定してくれます。
けれど冷静に考えると、別にエロゲとして突飛なことをしているわけではないの
ですよね。メインヒロインより人気が出るサブヒロインも、一見は不幸な最期を
迎える脇役がメイン以上に読み手を惹きつけるのも、あらゆるメディアにおける
お約束です。
そのお約束を複雑かつ哲学的な作品構成の中に違和感なく落とし込んでいる
ことこそが、本作がエロゲとして最も評価されるべき要素であるように思います。
もちろんシナリオや作品構成も図抜けているのですが、それと同じぐらいに希実香と
ざくろの2人は評価されるべきですし、実際にされています。
こうしてみると本当に何もかも隙が無いのですよね。グラフィックも十二分に細かく
印象的に描かれていますし、BGMも「旋律」というお題を汚すことなく、場面を
想起し読み手たちが共感できるように作られている。個人的な好みをさて置けば、
エロゲ傑作の1本として評されていることにも納得です。
以上、評価は私がプレイした作品で唯一の「好きにはなれないが傑作」としています。
1周目も2周目も3章までは本当に読むのが辛かったし面白くなかった。
でもエロゲとしての完成度は素晴らしいものであったし、最後まで読み通したときに
感じる新たな視座を得たような感覚は他作品では得難い体験でした。
そんな本作『素晴らしき日々』に敬意を表したいと思います。