シナリオにシステムにと全体的に雑な作りで、欠点だけを並べればクソゲー・欠陥品クラス。ですが作中に漂う温かな空気と物語は決して悪いものではなく、それだけのために購入・プレイしても損はしません。4ヒロインとも趣は異なれどそれぞれの良さを持っていますし、穏やかな作品が好きな方であれば手に取って見るのもアリかなと。
完成度の観点で見るなら非常に不手際の多いエロゲです。発売年月のわりにはチープな
背景、サブキャラの物語だけで進行する共通ルート、統一されていない声の大きさと
調整できない質素なconfig、音声抜けなどのバグ等々。環境次第ではルートロックが
最初から外れていたりセーブバグなども発生するようで、商品としても色々とアレです。
お話も全体的に起伏が抑えめでとにかく地味。加えて話が一足飛びで言葉足らずな
印象を受けました。一日全てを描写しない作りで飛び飛びなのですが、そこへきて
説明が足りていないものだから展開が早い。事実だけを並べて進めているようで、
そこへ感情が入りこめませんでした。特に共通部分が顕著ですね。
とまぁ散々なクオリティなのですが、作中に流れる穏やかな空気だけは良好です。
同様の空気が全ルートに通底しているわけではなく、ヒロイン別に異なる味を
楽しめるのが一番の特徴でしょうか。舞台背景の語られる鈴梨ルートが少々割りを
食っているものの、いずれも楽しむことができました。
点数は欠点を見ず長所を楽しんだ側のもので、減点評価なら45~50ぐらい。そのぐらい
ダメな部分は本当にダメなです。しかし本作の空気はなかなかに得難いもので、問題点を
警戒してプレイを回避してしまうのは少々惜しい。Ex-iTやオレンジエールの空気を
お探しの方なら手を取っても大損はしないかなと。決して名作ではないのですけどね。
私は良い作品だと思いました。
以下ネタバレ所感。
◆鈴梨
パッケージヒロインだからメインかと思いきやむしろサブ枠。舞台背景の説明に終始
してしまい鈴梨の可愛さが薄めだったのはちょっと残念でした。終盤で父親&親族が
一斉にテノヒラクルーするのも説得力に欠ける気がしますし。レガシーな話運びなのはいいと
しても、感情や設定の掘り下げはもうちょい丁寧に取り組んでほしかったです。
◆みう
ほろ苦い、心寂しいといった表現が的確なヒロインですね。ラストの瞬間風速で
もっていった感じ。それだけに端折り気味な道中が残念でした。過去の話とかもっと
掘り下げていれば、と思わずにはいられません。
あと道中がかなり微妙。トイレットペーパーのくだりとか超面白くなかったw
この辺オミットして、代わりに過去の話や笹の由来なんかを整理してくれればなぁと。
ラストが良いだけにもったいない感じです。(『ひよこストライク!』でも似たような
感想抱いた気がする。)
◆冴奈子
ヒロインの頭数揃えかと思いきやガチに作られていてビックリ。コミュニケーションの
難しさが、心を患ったヒロインを用いて上手いこと昇華されていました。
家族との確執が省略されたのを言葉足らずと見るか、バッサリ切ってテーマを立てたと
評価するかはプレイヤー次第でしょうか。
地味な本作の中でも殊更地味なルートですが、一般人の「普通」とは違う冴奈子への
接し方は実に丁寧に書かれていました。共通ルートで傘だけ渡して帰るシーンと終盤が
対比されているのですよね。相手が解らないという結果ではなく、解ろうとする過程を
重んじた作風がとても温かで心に残りました。
当て推量ですが、ライターさんは小林公示さんでしょうかね。テーマやヒロインとの
接し方が『ひよこストライク!』の雛を彷彿とさせます。物語後半で「わからないから
全てを捨てて逃げてしまおうか」なんて吐露するあたりも氏らしいテキスト。あちらが
楽しめた方なら冴奈子ルートも同様に堪能できそうな気がします。原型みたいなもの
ですし。
◆攸夏
王道も王道な再会型幼馴染でクオリティも上々。時代を感じさせるヒロイン個性と
話運びではありますが最も丁寧に作られていて、これはこれで好印象でした。
エロゲの幼馴染で主人公と友達関係を維持するのは中々にレアな気がします。他作だと
恋人関係になる前から異性として意識バリバリで、友達・仲間としては見ていないと
いいますか。恋愛ありきだから当然っちゃ当然なんですが「家族関係に近い気の置けなさ」
がないのですよね。
そんなただの恋人関係では発生しづらい、一歩踏み込んだ仲の良さを上手く表現できて
いたように思います。中でも良かったのが主人公の背中に頭を乗せるシーン。性的な
触れ合いや小動物キャラのじゃれつきではなく、ふとスキンシップを取りたくなったから、
みたいな気安さがとても心地よかったです。
幼馴染ヒロインって幼少期を大事にした恋愛がフィーチャーされがちですけど、攸夏の
ような「気安い」空気もアリだと思うのですよね。その辺を短いながらもしっかり堪能
できた、良幼馴染の一人でした。