uni先輩のゲーマー魂に惚れました。
uni先輩の在校生祝辞を聞いたとき「お、これはテンプレじゃない面白いテキストを
書くライターさんだな」と思ったのですよ。新入生歓迎らしく大きな期待とわずかな
不安を伝え、それでいて形骸化していない自分らしい言葉を用いた、聞き手の心を打つ
祝辞。序盤も序盤ですが、本作名シーンの一つに数えてもいいぐらいの内容でした。
でまぁ次の部活勧誘演説もいいものが見られるだろうなーと期待していたんですよ。
そしたら
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uni「ライトユーザーとは『損をする可能性は低いかもしれないが、決して得しない者』
と私は訳す!」
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はい、齢4つにしてファミコンに触れ、常にテレビゲームに切磋琢磨してきた私。
一発で心を持っていかれました。こいつぁ本物だ・・・!と。
古今問わずノベルゲーに登場するゲーマーキャラといえば、マイナーゲーの特徴を
延々と語ったり逆にメジャーゲーの有名な個所をパロったり、作中でハイスコアを
叩き出した(という表現を使った)り、といった内容が大半です。あくまでキャラ属性の
一つとして簡潔に書かれるだけ。というかそれが普通です。ガチオタスピリッツ全開
でも大半の人は得しませんから。
ですがパンドオラ、やってしまいました。マイナーエロゲの中で更に特定マイナー層に
しか響かないガチゲーマーキャラを使い、プレイヤー層の大半を占めるヌルゲーマーを
一喝。非ゲーマーは完全無視です。それでいいのかエロゲ屋。
その後もことある度に説かれるuni節のゲーマー論。いちエロゲとしてこのキャラ像は
完全に失敗です。得するプレイヤーがほとんどいないヒロイン像など、特にキャラゲーに
おいてはNGもNGです。正直止めるヤツ誰かいなかったの?といいたい。
けど私のような一部のプレイヤーにはとても爽快感のあるエロゲなんですよね。
自分たちが言いたかったことを、作中キャラが商用作品で代弁してくれているわけで、
惹かれないわけがありません。加えてゲーマー属性を除けばuni先輩普通に可愛い
ですからね。万能に見えておっちょこな部分があって、恋愛にはものっそい奥手で。
そりゃあ最高のヒロインなわけです。
なんか後半は妹がどうとかツナの願いがどうとかグダグダやってましたが、ぶっちゃけ
そこら辺はどうでもいいです。ゲーム制作パートもスピリッツはともかく、開発過程は
飛ばし飛ばしだからやはりどうでもいい。
「ゲームを楽しむとは何か」を語るエロゲ。それが私の『幻月のパンドオラ』でした。
いきなりライトユーザーisクソ的な部分を見せてしまいましたが、決して存在そのものに
ケチをつけているわけではありません。ゲーム初心者の真姫に対し、主人公は楽しみ方に
ついてこのように語ります。
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「うーん・・・上手くできなくても楽しめればいいんだよ。楽しくないなら
・・・無理にやる必要はないけどさ」
「ゲームって・・・やっぱり楽しいものだからさ。スコアが何点とかまずは
どうでもいいし、1回ボタンを押してそれが気持ちよく成功して・・・その
1個1個を喜べばいいんだよ」
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ゲームの「面白さ」ではなく「楽しみ方」を短い時間ながら語っているんです。最初は
みんな上手くできるわけじゃないし、何が面白いかをわかってるわけでもない。触って
みて、面白いと思うところを探して、それを楽しめばいいんだよと、主人公は優しく
諭します。
エロゲを含むありとあらゆる趣味にいえることですが、触って面白いから続けるんです。
ゲームも同じ。触って、面白いと思ったら続ければいい。逆に楽しいところがなかったら
続けずにやめればいい。真姫は「自分にはゲームのセンスがない」なんていいますが、
取っ掛かりにセンスなんて不要なんです。面白ければいいんです。でもみんな最初は
楽しみ方もわからない。だからゲームを知っている人が「楽しみ方」を教えてあげる。
素晴らしい一場面でした。
ゲームの面白さを少し知った真姫を連れて、今度は(個別ルートですが)ゲーセンへ
連れていく主人公。「気になるゲームを遊んでみな」と背を押された真姫が選んだのは
体を動かすダンスゲー。運動神経がバツグンの彼女にとって、この上なく楽しめる
ゲームに出会えるわけです。
このシーンで秀逸なのはCGの1枚も見せない真姫のパンチラではなく、自分でゲームを
選ばせたところにあります。ゲームが楽しいことを知った。じゃあ次は自分で楽しそうな
ゲームを探してみよう、という流れを具体化しているわけです。運動神経がいいから
ダンスゲーというのは安直ではありますが、だからこそ非常にわかりやすい。
「選んであげる」から「選ばせる」ことで、自発的にゲームを探せるよう仕向けている
のがわかります。
ただその後がお話的に繋がらなかったのは少し残念でした。真姫がゲーマーとして次に
すべきは、いろんなゲームに触れること。自分が楽しいと思ったものだけではなくて、
人が面白いといったものを遊んでみて、あるいは普段自分が選ばないジャンルを手に
とって、何が楽しいのかを探る行為。または1つのゲームをより掘り下げることで更なる
楽しさを探る行為。ゲームの楽しいを発掘する。ここまでを見せてほしかったところです。
でも「ゲームを遊ぶ」って、この過程だと思うんですよね。まずは楽しいを体感して、
次に自分で楽しいを探し当てて、そして更なる楽しいを追及する。自分で楽しいを開拓
していくこと。それが本質ではないでしょうか。ゲームに限らず多くの趣味も同じことが
いえるんですけどね。
しかし昨今のにわかゲーマーは与えられるものを遊ぶだけで、開拓・発掘する
楽しさを面倒臭いとして放棄しがちです。新作でみんなが見向きするものにだけ手を
出し、流行が沈静化すれば面白いつまらないは関係なく終了する。ゲームを楽しむの
ではなく、コミュニケーションツールとして扱っているわけです。
もちろん忙しい世の中、ゲームにばかりかまけてもいられませんし、話を合わせ
られるように、というのも理解できます。しかしそんなプレイスタイルをもって
してゲーマーを語られるのは勘弁なりません。お前らはゲームを楽しんでいるのでは
なく、その話題性が欲しいだけだろうと。
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まったく・・・・・・技術の無駄遣いを楽しんでるよな。こうして新システムに
すぐ慣れて・・・俺達はまたすぐ新しいものを求めるのか。
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昨今のライトユーザーに合わせたゲームの進化。まさにこのセリフのとおりです。
また作中では語られませんが「昔に比べてゲームはつまらなくなった」とのたまう
古参プレイヤーもまた同様です。実際プレイして楽しめるレベルまで堪能したのかと。
それどころかゲームの大半を遊びつくしての発言なのかと。好きなゲームをそれこそ
極限まで遊びつくしたのかと。なんちゃって古参に問いたい。小一時間問い正したい。
uniは「現代っ子は古いのと新しいのをバランスよくプレイできないんだから」と
いいますが、古参にもまた同様のことがいえるのではないでしょうか。
以上、冒頭こそライトユーザーを否定しているように見えますが、結局本作のいう
ゲームの遊び方とは、自分から楽しさを見つけること。探した結果見つからなくても
いいし、反りに合わないから止めてもいい。けど楽しさを見つける努力だけはして
ほしい。それをひたむきに訴えているだけのです。実際uniはこのような言葉を述べて
います。
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「とにかく『ゲームを楽しもう!』って努力しない人間はダメよ。『自分達を
楽しませて当たり前!』なんて思ってちゃ」
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落ちてくるエサを口開けて待つのではなく、このエサはおいしいのか、いいところは
何なのか、どこにいけばよりおいしいものが食べられるのか、どう調理すればより
おいしくなるのか、どう説明したら良さを他人へ鮮明に伝えられるのか。手段方法は
なんでもいいから、自分から楽しみ方を探す姿勢をもって遊ぶこと。ゲーム好きの
1人として、忘れてはならないことだと思います。
これはエロゲにも同じことがいえます。ライトプレイヤーはそれこそラノベや
アニメで有名になったライター・絵師のゲームにしか手を伸ばさず、古参ユーザーは
萌えゲーキャラゲーばかりだと遊びもせずに回避、酷いと非難すらします。自分から
楽しさの枠を広げる努力を一切していないのが現状です。
一方的な目線で作品を消費するのではなく、角度を変えて良さ・面白さを見つける
気持ちを常に持ち続けたいものですね。
蛇足1
他にも真姫と詩乃鈴の体格差を用いたエロの見せ方だとか、アクの強い属性を複数
盛り込んだ上で可愛く見せる詩乃鈴というキャラ上手さだとか、キャラゲーとしても
見るところの多いエロゲでした。でも私にとってのパンドオラはゲームゲーだったので
その辺は割愛。
蛇足2
作品感想になっていない気もしますが、これもゲームの楽しみ方の1つってことで。