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amaginoboruさんの夢恋転生の長文感想

ユーザー
amaginoboru
ゲーム
夢恋転生
ブランド
TinkerBell
得点
80
参照数
3076

一言コメント

女性ライターによるTSエロゲで、女性視点の緻密な表現が特徴。性興奮時の心理描写が独特で、他作とは一風異なった面白さがあります。男視点での見せ場・見せ方が弱く、メインシナリオが若干乙女ゲーチックですが、心理描写を重視するTS愛好家なら要チェックの逸品です。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

フルプライスTSモノとしてはかなりの良作。
心理描写、エロシーン、お約束シチュのいずれにも十分な質と量を持っています。
ただゲーム全体に漂う雰囲気がかなり独特で、肌に合う合わないが重要。
人によっては地雷になりかねないエロゲです。

まず、主人公の響が非常に女性志向な点。
一般的にTS主人公は性の葛藤に揺れるものなんですが、響には男であろうという
意思がほとんど見られません。
「男に戻らなくちゃ」とフリだけは見せますが、機会があっても動こうとはせず
またかなり早い時期から女の生活に慣れ親しんでしまいます。
TS特有のシチュを楽しむ人にはいい傾向ですが、葛藤を楽しみにしている
人にとってはマイナス要素にしかなり得ません。プレイ回避推奨です。

そして攻略キャラの特異性。
対象キャラは3人と少なめですが、そのなかに肥満体質+オタクの秀平が入っています。
しかも一番長く尺が取られています。
「醜男にヤられるTS娘」を受け付けない人にはまさに地雷。
他2人だけプレイするというのもアリですが、その場合Hシーンは半減します。



その辺を踏まえてプレイすれば、心理描写が丁寧なエロゲとして楽しめると思います。
特に女性視点の描き方に関しては、TSゲーでも随一ではないでしょうか。

印象的だったのが買い物シーン。
女の子がどんな感じで買い物を楽しんでいるのか、その見せ方もさることながら
男時代 ⇒ 母親と一緒に ⇒ 母親2回目 ⇒ 一人で冷やかし ⇒ 母親3回目 ⇒ 綾と一緒に
と複数シーンを用意して、心の推移を書いているのがよかったです。
最初は退屈そうだったの響が徐々に楽しみだす様子を、女性視点を絡めて見せてくれます。
間にウェイトレスのバイトを挟みこみ、女性の衣服に対する羞恥心を下げているのもナイスです。

自慰やHシーンも徐々に女性視点へと変わっていきます。
響ちゃんはやたらオナニーするんですが、段階踏んで心の移り変わりを書いているから
なんですよね。最初は「女の快感に興味を持った男」だったのが、回を追うごとに
「気持ちいい事を探す女の子」へとプレイ内容が変わっていくんです。

そんな状態で男と初Hさせて、完全に雌化させちゃうのがまた上手いですね。
対男への嫌悪感や、女であることの羞恥心を一気に下げています。
Hの描写も、男にどんな事をされたら気持ちいいか、女の子がどんな気持ちで
エッチに臨んでいるかの描写がメイン。
女である事を完全に受け入れて堪能しちゃっています。

以後のオナニーシーンは完全に女の子視点。
とあるルートでは、好きな男の事思い浮かべてオナっちゃいます。
地の文や台詞回しは、完全に恋する乙女そのものです。

女に堕ちる過程を楽しむのはTS醍醐味の1つ。
段階踏んで心の推移を書き、かつ女性心理の細やかな表現を成している本作は
他の性転換エロゲとは一風変わった、男から女への推移を見せてくれるのです。


ただ、それゆえの問題点もあります。
心の推移を書くために日数を稼ぐ必要があるわけですが、日常シーンがかなり淡白です。
「女体化した事をばれないように生活する」シチュで乗り切っていますが、お世辞にも
面白い展開ではありませんでした。

女体化前も同様ですね。綾との買い物やHが、女としてHする際の伏線になるわけですが
尺稼ぎの日常シーンがやはり微妙で、読んでてかなり退屈。面白くなるまでに時間が
かかるのが難点です。

とはいえ、総合的に見ればクオリティの高いTSエロゲです。
絵は多少人を選びますがエロ可愛いですし、響ちゃんの立ち絵パターンも豊富。
システムなど他の要素にも大きな欠点は見当たりません。
心理描写を好む方なら、絵や欠点に多少難を感じてもプレイすべき作品です。



以下、私的な感想文。ネタバレ満載です。










響がウザくて仕方なかった。感想はコレにつきますw
共通ルートから個別ルートまで、全部ウジウジで受身で無責任でビッチなんですもん。
TSとしてはともかく、シナリオに関しては終始イライラしっぱなしでした。
ですがそれゆえ面白かった展開もあったわけで、その辺を書いてみます。


◆啓一郎
無責任+ビッチ全開でしたねー。
綾を躊躇なく切り捨てて、啓一郎にぞっこんラブになるシーンは最低にしか見えなかった。
まぁ綾と響の関係って、綾が一方的に惚れてて響は流れで何となく、なんでしょうけど
それにしたって罪悪感がなさすぎる。

あと転生前の記憶に引きずられ、今までの響を全否定しているのに、違和感を全く
持たない響に、見てるこっち側が違和感を受けました。
普段ウジウジしてるくせに、こんな時だけ無責任に即断しやがって少しは葛藤しろよ、と。

純愛ルートでHシーンもわずかですが、これを純愛っていうのはちょっとヤな感じです。
響の乙女モードにしても「TSゲーで少女マンガ展開見せられてもなぁ」ってのが本音。
主人公が「性転換した元男」である理由が全くありませんから。
理由になりそうな綾ですら、適当に処理されちゃってますし。
風呂敷をたたむためのルート、ってところでしょうか。そう考えれば納得できます。


◆綾
男に戻るEDが短すぎ。しかも響君、急に熱愛しだしてるし。
やっぱり啓一郎ルートの響ちゃんは、罪悪感ないだけなんでしょうか?
献身的でいい子なだけに、もう少し尺を割いてあげて欲しかった。
レズルートのが長いのは、エロゲとしては正しいんですけどね。

なんにせよ、綾は男を見る目ないと思います。外見に騙されすぎ。


◆秀平
まず親子丼ED & 公衆便所ED。
やっていることは、醜男を使った快楽堕ちエロゲと変わりありません。
女性心理をメインに書いたテキスト、というのも珍しくないと思います。
それが「対象:TS娘」というだけで、性倒錯の混じったエロスが凄い事になってます。
「洗ってないチンポの恥垢を舐めて喜んでる元男」の心理描写を懇切丁寧に
書いているわけで、実に変態です。

秀平も醜男キャラとして上手く書かれていますね。
デブオタの不潔さと気持ち悪さ、対人会話力の無さを容赦なく表現してます。
ウジウジして場に流されやすい響ちゃんとの相性もバッチリで、的確に
淫乱方向へ誘導してくれています。

醜男親友と性行為する事への嫌悪感と、性玩具扱いされる屈辱感に悩まされるも
奉仕したり放置プレイ食らい続けるうちに「おちんちんで突いてほしい」と
悩みがすり替わっていく心理描写も、共通ルート同様見事なものでした。いい仕事してます。

問題解決のためにまったく動かない響ちゃんにはイライラさせられましたが
我慢して我慢して、最後に爆発して公衆便所化 or 親子丼に至る過程まで
存分に堪能する事ができました。
描写をエロく丁寧に書いた醜男+TS快楽堕ちモノと、ジャンルこそ人を選ぶものの
ハマれる人には至高の逸品にもなりえるクオリティです。



擬似3Pルートの方も凄い事になっちゃってますね。
序盤の悪ふざけシーンから響が最低です。押し倒されても文句言えないじゃん、と。
でも悪びれるどころか秀平の弱みとして扱い、さらに彼を性的な玩具化。
やってることはアナザールートの秀平と一緒ですが、響はアメ鞭を的確に使い分けています。
女の武器を使い優位な立場を取り、相手を生かさぬよう殺さぬよう支配下に置く。
ナイス悪女ビッチです。

さらに美和も食っちゃうのがまた面白い。覗き見してた罪悪感とレズ属性を利用して
秀平には内緒でタラしこんじゃいます。響ちゃん無双すぎですな。

こっちのルートは醜男がどうではなく、淫乱悪女化したTS娘が友人とその妹を籠絡する話
なんですよね。相手がたまたまブサメンってだけで。
快楽堕ちまでなら同人ゲー含めよくある展開ですが、堕ちたTS娘がヒエラルキーのトップに
立つというのは珍しい状況です。
そこに元男である特異性や、心理描写の上手さ等がない交ぜにされて、カオスな展開を見せて
いるのがこのシナリオ。本作一番のキモだと思っています。

だからこそ、よりアクセルを踏み込んで欲しかったという不満もあります。
本当の3Pシーンをいれた上で「音羽=響」をバラすまでやっちゃえばよかったのにと。
美和とは知らずにヤっちゃう秀平や、音羽の正体を知った美和は見たかったなぁ。
その際に見せる響の表情も素敵な事になっていたでしょうし。
現状でも十分面白いけど更におかわりが欲しくなるような、そんな旨みのあるルートでした。



◆私的な本作評
シナリオがいいと聞いていたのですが、良作と呼ぶにはやや舌足らず。
むしろTS特有の心理描写がメインの抜きゲーという印象です。
秀平シナリオがダメな方はボリューム不足に感じるかもしれませんが、
TSスキーな人には是非プレイして貰いたい作品です。