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allaround222さんのISLANDの長文感想

ユーザー
allaround222
ゲーム
ISLAND
ブランド
FrontWing
得点
85
参照数
2404

一言コメント

時をテーマにしたゲーム、シュタインズ・ゲートやEVER17にも並ぶ傑作。その根拠は時を巡る構造にある。※物語の核心に対するネタバレもあり。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※既プレイヤー推奨の感想。又はネタバレを食らっても経緯を楽しめるよという人向け。

メインの物語構造について

 一言感想に書いたことを拡張する形で、割と核心に近いところに最初から言及してしまうので注意。
 この物語に、最終的に95点をつけた理由は、結局物語構造に尽きると思う。
 ループモノ、タイムトラベルモノというのは、内容に関わらず人の心をくすぐる一大テーマだが、逆に言えば類似作品も多くなり、よっぽど工夫しないと新しい切り口を用意出来なくなっていると言えるだろう。
 ISLANDは、その『新しい切り口』について、大胆な手法を用いることにおいて、大成功したと言っていいと思う。
 細かな点において、気になるところはそこそこあると思うのだけれど、それでも大筋において納得させられるというか、『良いゲームをした』という感覚になるのは、その壮大な世界設定に唸らされているからだと思う。
 最近、東京NECROというゲームもやり、あれも近未来要素が多分に入った作品だったが、アレはとにかくディテールに拘ることによって、サイバーパンクな感じを出していたと思う。逆に今作の年代は現代~中世くらいな世界観だと思う。それを時を巡る理論において補っているが、あまりハイテクな感じはしない。この物語は、逆に細かいことには拘らない、神話風味の酷く大味な世界を作り出した。しかし、その壮大さには唸るしかないのだ。

 最初から核心に言及すると言って、ムダに紙片を費やしてしまっているのでここら辺で書いてしまおう。
 ISLANDは、『歴史は繰り返す』『人は生まれ変わる』『四万年毎に氷河期は繰り返す』というコンセプトを軸にして、『リンネ』という女性を『セツナ』という男が救おうと試みるという、壮大な神話――原作のジャンルを参照するなら『おとぎばなし』を成立させた。
 そして、今回のゲームに関わる装置は『タイムマシン』ではなく、『コールドスリープマシン』である。ここに全てのキモがあると言っていいだろう。
 SFの皮を被ってはいるものの、この作品はおとぎばなしであるために、細かいことを言い出せばかなり突っ込みどころはあると思う。
 また、この物語には実は最初と最後がない。
 主人公の出自は、最後まで明らかにされない。
 そして、この物語には、『世界平和』『タイムマシンの完成』『凛音の救済』という大雑把に言って三つの目的があると思うが、最後を除いてそれは達成されない。ISLANDは、切那が凛音を初めて救うまでの物語である。そこを切り取っているとも言える。
 物語が終わっても、タイムマシンは完成しない。
 世界平和については、もし氷河期ごとの人類の激減に関して言っているのだとすれば、その解決は地球という自然環境への挑戦であるからかなり難しいだろう。地球上から氷河期を消滅させるとか、あるいは他惑星に移住するとか、そこまで行ってしまうともう他のジャンルのゲームになってしまう気がする。
 世界平和が、『タイムマシンを完成させ、時を遡り、コールドスリープが開発されたと思われる、凛音と切那の神話の始まりにおける問題を解決する』、あるいは『主人公がタイムスリップを始めた起点に立ち戻り、問題を解決する』ことと関係するならば、ゲーム内においてはそれは達成されない。だから、消化不良を感じるプレイヤーがいても仕方ないだろう。
 ヒロインであるリンネの目的、『世界平和』、あるいはそれに繋がるはずの『タイムマシンの完成』については、まだ中途で終わる。しかもそれは二万年経っても達成出来ない事柄なのだ。しかし、寒冷期における人類の生活は、主人公が経験したよりもかなりマシになっている可能性はある。

(この感想も、各ヒロインルートに入り、この物語における足りない部分、不満足な部分への自分なりの整理も始まった。やはり得点は総合的なものを付けるべきであろうと思うので、この作品の評価を85点に調整する)

主人公について

 このサイトの批評を見てもそうだが、かなり好みが分かれるキャラクターだと思われる。俺は物語について、主人公に感情移入しつつも『眺める』ようにプレイする人間だが、主人公を自分の分身として扱うプレイヤーにとっては好みが分かれるだろう。
 俺は他の人が言うように、主人公はただ単純に軽薄なキャラ、という訳ではないとは思うが……。
 確かに近年の流行である俺tueeeeというか、完璧主人公とは程遠いかもしれない。
 ただ、俺には感情移入できるタイプのダメ人間だったし、この凡人っぷりは意味があるのかな、と思える。
 主人公にはほとんど特別な技能と呼べるものはない。出来ることと言えば軽妙な会話で女の子と仲良くなるくらいのことだ。
 しかし、もしその女の子達がその世界において特別な役割を有していて、その子達同士を繋げることが出来るとすれば、世界を良くするためには大きな貢献だと言える。
 人間が一人では生きられない存在である以上、誰かと誰かを繋げる中立ちのような人間もいてもいいと思う。
 その役割において、主人公は物語の中で成長していったと思うし、その時その時で、その時代の人間と彼なりに寄り添っていったと思う。その意味では好きな主人公になった。
 主人公については、そもそもOHPでキャラ絵を見た時から、軽い拒絶感を感じてはいた。例えば、無口クールな完璧超人であったりとか、内気なショタっぽい子だったりとか、そういう系統の主人公ではない。けれど、軽薄というだけのキャラではない。言うなれば等身大で、ネガティヴに寄りやすいキャラでもあるけれど、それだけに感情移入自体がしにくいキャラでは俺にとってはなかった。
 コミュニケーション重視のキャラで、立場的には傷つきやすい生身の観測者って感じだろうか。
 ちなみに余談だが非十八禁で、アニメ化も決定しているためか、このゲームではヒロインにアニメの人気声優が声を当てているが、主人公はノンボイスである。俺は気にならなかったというか、感情移入の上では声なしもアリなんじゃないかと思えたし、主人公だけ声がないことで、少し彼の印象が弱まることで、物語上の弱者的なニュアンスが増していてよかったような気もする。

リーダビリティについて

 長いノベルゲーム、あるいは小説を読む時に、実は一番重要なのが何だかんだで『文章を読んでいる時の体感』みたいなものではないだろうか。
 こう何となくダラダラと読めてしまう的な文章であったり、あるいは先が気になってクリックが止まらない! みたいな感覚であったり。
 このゲーム、俺にとってはかなりその意味での総合的なリーダビリティが高かった。日常シーンも面白かったし、キャラとの掛け合いも軽快で楽しかった。また後半は、結局この物語がどういう形に帰着するのか、その意味で目が離せなかった。
 そういう意味では短期でガーッとやれちゃうタイプのノベルゲームである。時間旅行系ってそういうタイプが多いかもしれないが。
 感想では、何かこうその『中途』が退屈って人も割と多いので、それは不思議だった。
 むしろ、これってヒロインゲーじゃないか? ヒロインとの会話を楽しむ、という色がかなり強く、その軽妙なやり取りで気持ち良く読み進められる、というような。
 俺はこのゲームの会話劇・会話ネタは面白かったと思う。
 このゲームについて、俺が感じているネガティヴな点は他にある。

 ただ、会話の面白さで表層的に流され、見逃されてしまう事実は多そうかな……。主人公は基本的にその島/その時代にとって異物である。だから多くの場合、彼自身が悲劇の引き金になる。
 物語をきちんと考えながら読む人にとっては、主人公に才能があったり、きちんと努力を積み重ねていれば、よりベターな結末を選べたのではないか、という場面はそこそこ多いだろう。ただまあ、「人間って不完全だよねー。それでも皆、そこそこ頑張ったり頑張らなかったりして生きてるんだよねー」という感じのニュアンスは嫌いではないが……。主人公は人たらしであって、人間関係を早期構築することによって、そんなに努力しないでもなんとかなっちゃう、的な展開は多い。主人公がちゃんと苦労したり努力を続けるというのを見たい! という人には向かないのだろうか。ただそのおかげで必要以上に重たくならず軽妙に読めるテキストになるのもあるので……一長一短かな。好みかも。

ゲームプレイ進行

 ここで遅ればせながら、ゲームが大体どんな感じで進行するのかを書いてみよう。

 夏編(島内生活編) 夏蓮と沙羅をクリア→凛音をクリア
 冬編(冬編・22016年・氷河期手前) リンネクリア
 真夏編 凛音クリア リンネ(グランドエンド)クリア

 大体こんな感じの順序で進む。

 まさかここの批評に攻略を求める人もいないだろうけれど、正直グランドエンドは見るのを苦労した。2ちゃんねるでも概ねそんな話題が散見された。あの時の俺にヒントを送るとすれば、真夏編の選択肢の選び方で、グランドエンドへのフラグが解除されるということだ。夜の砂浜での玖音との会話時、主人公・切那(恐らくその時点のプレイヤーの認識)と真実は食い違っている。感覚的には『一つだけ選択肢を間違える』みたいな感じだろうか。恐らく、凛音エンドの時点でこの物語には決着がついたと感じる人間が多いだろうし、ゲーム的にはあれで大団円と見てもいいんじゃないかと俺は思ってしまう。エロゲ・ギャルゲの文脈において、主人公の一つの大団円とは間違いなく『恋愛の成就』だろうし、人一人が達成できることにはどうしても限界があるため、そこら辺が落とし所にはなってしまう。ある意味、トゥルーは正しい意味での『俺たちの戦いはこれからだ』エンドだとも言える。家族を作る以上の、壮大な目的意識を持った場合、どうしてもそうなっちゃうんじゃないか、とも思う。
 凛音エンドを見た時に、「ああ~、良いゲームだった」と思ったところだったので、不足に気付かなければうっかりそこでゲームを止めるところだった。リンネは正ルートであり、ある意味では蛇足……リンネの物語に決着をつけるとすれば、『主人公はどこから来て、そしてどこに辿り着いたのか』をきちんと書かないといけないだろう。ある意味では続編が作りやすい素地が出来ているともいえ、読み応えのあるアフターなら希望する(バッドエンドはヤダけど……)。

作品の年表(主人公とは誰か?)

 このISLANDというゲームは、実は切那と凛音の永遠の神話の一部を切り取ったに過ぎない。まず、この世界には以下のループ構造がある(と思われる)。

 オリジナル

 ・切那と凛音の悲恋の神話が形成される。
 ・切那は未来に生まれ変わった凛音を救うために、コールドスリープマシンで眠りにつく。
 ・コールドスリープマシンを生み出せるような高度な時代背景。

 X万年後 浦島 切那と凛音の物語は継承される。血はどこかで途切れたり、あるいは親戚縁者から再びまた繋がったりして、最終的には同じ遺伝子構成を持った『生まれ変わり』としての子供たちが生まれる。

 ・切那は凛音を救おうとするが失敗する。

 二万年後 アイランド 

 ・セツナはリンネを救おうとするが失敗する。

 二万年後 浦島

 ・切那は凛音を救おうとするが失敗する。

 これを何十回と繰り返してきたのだろう。
 地球上に人類が発生する→氷河期で滅ぶ、というループの初期から、この繰り返しは成されてきたと思われる。

 ISLANDというゲームは、凛音を救えないというループを終了させるまでの物語ということになる。世界平和やタイムマシンには届かないが、しかし、一つの伝承の悲劇を解決することは出来た。

 また、この作品における切那は、『コールドスリープによって永き時を越える』という意味において、伝承上の人物としての格を保っているが、そもそももっと切那・凛音と名の付けられた人物は多かっただろう。
 切那と凛音の伝承はずっと存続し続けてきた。同時にその伝承上の人物になぞらえて、その名前を付けられる少年少女もまた沢山いただろう。
 運命は収束するため、浦島・アイランドにおける凛音・リンネは遺伝子レベルでは同一人物なんじゃないかと思う。俗に言う双子のような状態で、作中にもそういうお勉強ネタが出てきた。遺伝子レベルでは同一だが、当然、環境によって影響を受けるためにそれぞれの目的は異なる、というような状態だ(ここでツッコミを入れておきたいのだが、この考察は間違っている。何故というに、この作品におけるアイランドのリンネの娘は浦島の凛音だからだ。子供は母親と父親から遺伝子情報を受け継ぐのだから、遺伝子情報が母親と娘では異なるのが当然だ。俺が言いたかったのは、浦島とアイランドで、似たキャラクターが違う目的を持ち、スターシステムよろしく登場する。そして二万年越しにそれを延々と繰り返すのは、生まれ変わり(あるいは同一の役割につく)という形の運命の収束が働いているということだ。例えば、ノベルゲームでは選択肢以外は同じ文章であるために、既読スキップが可能になる。これは現実ではあり得ないことだ。例え、同じ日を繰り返したとしても、全く同じディテールを辿ることはあり得ない。ノベルゲームにおける『既読スキップできる繰り返す日常』を受け入れてしまっている以上、それを拡大解釈した『同様に繰り返すというあり得ない文明』すらも、同じノベルゲーム上の表現の文脈として受け入れてもいいのではないか? というのが俺の意見だ。何故というに、それは要するに、ノベルゲームという繰り返し前提の媒体で、『文明の生まれ変わり』というものを表現する時、どうしても一字一句同じ形で、アイランド、又は浦島を繰り返す形の、簡略化した表現を用いるしかないであろうからだ。『文明の生まれ変わり』というあり得なさを許容できないのに、『ノベルゲームにおける既読スキップ』を許容できるというのは矛盾していないか? スケールが違うと言いたいのかもしれないが、俺が繰り返し言いたいのは、ノベルゲームで『文明の生まれ変わり』を扱うとしたら、今回のような簡略化を使うのが一つの表現の限界であるという点だ。もし仮に、『文明の生まれ変わり』を否定するなら、同様にあり得ない表現である『既読スキップ』すらも否定すべきではないだろうか。俺はノベルゲームとして表現する上での一つの作法として、このISLANDにおける『文明の生まれ変わり』を『アリ』だと思う。それはこの作品の描かれ方がサイバーパンクではなくて、お伽話であり神話だからだ。つまり、リアリティを追求するのではなくて、抽象化を用いてメッセージ性を重視した作品である、という前提で読む必要があるということだ)。
 どうしても言及しておきたいのは、凛音→リンネ→凛音を繋いできた無数の凛音たちについてだ。彼女達の周りにもその時代における、例えば御原切那やセツナ・オハラのような身近なセツナがいたのだろう。しかし、それらの恋愛は史実の通り悲恋の道のりを辿ることも多かったのではないか? と俺は推測する。
 そして、作中でも凛音→リンネ→凛音と凛音の名前は継承され続ける。それは遺伝子レベルで見れば近いのかもしれないけれど、名前は共通かもしれないけれど、だけど別人ではある。
 何回も何回もコールドスリープしたとしても、それぞれの滞在時間によって、主人公・切那は段々と老けていくのではないか? 数十回のコールドスリープを、主人公・切那は経験したはずではないのか? という問い掛けについては、俺はある程度信憑性のある答えを用意できる。
 そもそも『伝承上の凛音』が代替わりしているのだから『伝承上の切那』としての主人公の彼も、代替わりしているに決まっているではないか。
 主人公はそもそも、浦島出身の2016年くらいの学生だったんじゃないか、と俺は思う。
 作中からもそれを裏付ける周辺知識が出てくる。彼がオリジナルの――つまり、コールドスリープが開発された当時の切那というのはあり得ない。それはあまり高度な知識を持っていないことからも明らかだ。オリジナルの切那は、推測だけれどコールドスリープマシンに乗る権限を有していたことからも研究畑の人間であり、また、伝承が作られるほどに良い家名の人間であったはずだからだ。
 それでは主人公とは誰か? それは勿論、俺達にとっての現代人だ。

 作中、大体の時間推移としては、

 浦島に主人公が漂着する。一つの可能性として凛音が死亡する。(夏編)

 二万年後、アイランドにおいて、セツナとリンネが結ばれる。(冬編)

 二万年後、浦島に主人公が漂着し、真実を知る。(真夏編)

 また、御原玖音の存在から、物語の二万年前にもアイランドにおける似たような前提があったんだろうとは想像できる。

 しかし、主人公は、どの時点かの2016年でこの神話に入り込んだはずだと俺は思う。
 つまり、どこかの層の2016年辺りで◯◯切那だった彼は、伝承上の人物の役割を担い、コールドスリープマシンに乗る『三千界切那』に役割を託されたのだろう。コールドスリープマシンが2016年で開いた事が少なくとも基準点のように一度はあったはずだ。それから彼はそこまでの大体二十年弱の自分としての歴史を忘れ、『三千界切那』になった。そして、現代からコールドスリープし、アイランドでリンネと出会い、物語冒頭のように浦島で目を覚ます、のだろう。主人公が経験した歳月は恐らくだが、二万年×五で十万年くらいだろうか? 主人公にとっての現代2016年→22016年アイランド(そもそも二万年をやり過ごせるコールドスリープマシンのアイランドでの基準点が『22016年』なのは主人公が2016年の出身で、そこからコールドスリープしたからじゃないか? ついでに言えばパソコンも持ち込んでいて、だからアイランドでリンネが使っているパソコンが2016年製なのではないか。まあそれは初回コールドスリープ時の話であり、作中で語られるアイランドは俺の推測では主人公にとって二回目の話となるはずなので、矛盾は当然出てくるが)。
 主人公にとっての現代2016年→22016年アイランド(作中で語られることのない二万年前)→1999年8月(作中夏編)→22016年アイランド(作中冬編・そういえばここで二万年という年数にブレが生じてるな……)→1999年8月(作中真夏編)→22016年アイランド(グランドエンド)。
 ここら辺の考察は正直胸が踊る。主人公が2016年出身だというのは、アイランドの基準年もあるので、根拠があると俺は思う。

 この物語は、概ね『浦島』と『アイランド』二つの繰り返しで構成されていると言えるが、実は欠けている時代が二、三存在する。
 まず一つ目は『コールドスリープマシンが開発された時代、オリジナルの切那と凛音の物語』、二つ目は『主人公が三千界切那としての役割を前代から受け継ぎ、記憶を失うまでの物語』、そして三つ目は切那が浦島かアイランド以外で目覚め『タイムマシンという成果を受け取るまでの物語』だ。それぞれそこそこのボリュームの物語が編めそうなピースだ。やる気になればもう一本ゲームが作れそうな感じ。

この物語に対する感想の転換点

 さて、これから各編に対する感想をそれぞれ書いていこうと思うが、思い出すに、俺もずっとISLANDが批評点95点に値するゲームだと考えていた訳ではない。思うに、浦島での各ヒロインルートが終わって、冬編に入った頃にはそれこそ下の方の『客観的評価について』の項で言及したように、俺にとってISLANDが70点のゲームで終わっても、全くおかしくなかった。
 後で詳述するが、夏蓮以外のヒロインルート、沙羅と凛音では、タイムマシンについて、作中半ばまではそういった装置が存在してもおかしくないような流れで進行するが、結果から言えば、それは両ルートとも沙羅の妄想に過ぎず、周囲が沙羅の妄想に巻き込まれたに過ぎない。と言ってしまって差し支えのない展開を取る。だから、俺はこのゲームが、『時を越えること』についてはリアリティの観点において、『不可能だ』という前提に立っているゲームだと思っていたのである。だから、主人公が未来から来た云々も、実際は彼の妄想に過ぎないのだろうな、結局は。と思っていた。
 にも関わらず、凛音ルートをクリアした後、いきなり太古の時代から発見されたコールドスリープマシンが登場し、時系列が一気に22016年に飛ぶ。このゲームは『時を越えること』について、肯定的なのか否定的なのかはっきりしてくれ、と正直思った。数年単位で時を遡ることは不可能なのに、二万年単位で未来に冷凍睡眠することは可能だというのか。いい加減にしてくれよ、と思った。また、感想サイトを不用意に覗いてしまい、ちょっとした勘違いをしてしまったため、『このゲームにはタイムマシンもコールドスリープマシンも登場しない』という思い込みを最後の方まで抱えていた。だから、22016年のことも、本当は実在しない主人公の脳内の妄想に近いものなのではないかと、ヒヤヒヤしながらプレイしていた。主人公は実は御島家の長男である御島切那その人ではないのか? コールドスリープマシンが存在しないなら、神隠しに遭っていた御島凛音もどこかで入れ替わった偽者なのではないか? とイヤな不安を抱えたプレイだった。1990年代の浦島だけで、全ての事柄に説明がつき、一切の幻想性は排除されてしまうのではないか、という不安を抱えていたのだ。それは杞憂だったが、ある種の疑心暗鬼を抱えざるを得ないというか、最終的にどんなオチになるか全く読めない、というのはこのゲームの良点だった(この批評空間のレビューにもあったが、逆にこのゲームのオチに途中で気付いてしまった人は、その魅力が減じた印象を受けるだろう。そういう意味で、どういう形でプレイしたかによって大きく印象を変える不安定性のあるゲームと言える)。

 冬編に入った時には色々と不満もあった俺だけれど、冬編単体の出来が良かったのもあって、段々とこのゲームのメッセージ性・テーマ性の方向が俺にも見えてきた。このゲームはSFではなくてファンタジーなのだ、と俺は思った。二万年単位で、浦島とアイランドが繰り返すという荒唐無稽さも含めて、これは子供の妄想力に一杯に満ちた、ある種の『お伽話』『神話』であるのだと俺は感じた。そして、そういった一種の童話的物語に求められるのは『リアリティ』ではない。『教訓』だ。俺はそれについて、この物語でちゃんと感じられたように思った。作者が言いたいことが伝わってきたように思った。その意味で強いメッセージ性を感じた。生身の俺に物語を通して何がしかが訴えられ、そして、俺を少し変えてくれた。だから俺はそのことに対して95点をつけたのだと思う。

各編感想

夏編(共通ルート)

 恐らく各ヒロインルートに入る前のこの部分は、体験版でプレイ出来ると思う。体験版自体にもそれなりのボリューム感があり、結局、プレイし切る前にゲームを購入してしまったために、正確にどこまで出来るのかは分からない。
 全裸で浜辺に打ち上げられ、CD一枚で股間を隠し、市街地に向かうという主人公のアホアホしさは、何だかんだで勢いを感じる。この向こう見ずで軽快な感じは、彼が自分という存在の寄る辺なさに思い悩むことで、薄れていく側面もあるが、基本的には気付いたら行動しているような馬鹿で憎めない主人公だと俺は思う。連発される下ネタの類も、俺の頭が小学生レベルだからなのか知らないが、少なくとも俺にとってはリーダビリティを上げてくれた。
 主人公がこの島に落ち着くまでのドタバタ劇は展開が読めず、またバッドエンドの連続で、なかなかに面白いが、島の生活にある程度馴染めば、娯楽の少ない離島であるので、そこまで興味の惹かれる大展開が起こることはない。基本的にはヒロインの住居を行き来したり、仕事したり、散歩したりである。まあ、こういった物語の基本は、登場人物の会話にあると思うのだが、そこについては軽快で飽きなかった。他の人の感想を見る限り、その部分が『稚拙だ』と感じる人もいるようだ。下ネタを多く含む会話も好みが分かれるのかもしれない。しかし、主人公が物語の進行と共に、アニメの各話タイトルのような物をつけていったり、何だかんだで文章が単純に面白く、ずっと読んでいたいような、そういうネタ感は常に感じられたかな、と思う。
 また、神社の巫女である沙羅や、主人公を引き取る洋館の主である玖音によるタイムトラベルに関する講義、また夏蓮ルートにおける人間の遺伝子に関する主人公の講義等、この物語を取り巻く議論を間接的に散りばめていくのも良かったかな、と思う。読者は色々と想像を膨らませることが出来る(しかし、タイムトラベルにおける明確な回答、作中においてこれが時間旅行の根拠になる理論なのだ! という結論は出ていない。やはり、そこが気に入らない人も多いだろう)。

枢都夏蓮ルート(くるつ・かれん。余談だが枢は『くる』と読めない気がする。『すう』で変換できる)

 最初にやったルートだけれど、ヒロインルートの中では一番まとまっていると感じた。
 枢都夏蓮は舞台の浦島における御三家の中で、唯一まだ島中での影響力を保っている枢都家の娘。父親の縛り付けや古い因習に嫌気が差し、島を抜け出して都会に出ようと夢見ている女の子。
 男勝りなざっくばらんとした喋り方、あるいは自立心旺盛な考え方から、主人公との深い依存関係には陥らないキャラ。段々とその態度があくまでも表面的なものであり、心の奥底には脆弱さを抱えていることが明らかにされ、それが魅力となっていくヒロインでもある。
 他の人の感想を見てみると、普通のエロゲっぽいという意見も散見されたが、俺は王道で好きだ。父親との確執を抱え、現状の打破を望むヒロイン。また、島を出て行った母親に憧れ、同じく島を出て行った兄に依存を抱えてもいる。
 ヒロインは島を出て行くのを手伝ってくれる存在としての役割を主人公に求め、それを『利用しているだけ』とも表現するが、ある意味、主人公がヒロインの求める役割を担うことが出来る立ち位置にいる、というのも率直で分かりやすいとも言える(凛音ルートや沙羅ルートでは、主人公にヒロインが求める『役割』というのがかなり捻くれており、ある意味、主人公視点でプレイしていても、難解なパズルを目の前にして、『これをどうやったら解きほぐせばいいんだ?』と頭を悩ませる場面が多いからである。沙羅ルートは主人公との関係によって崩壊へと突き進む部分があるし、また凛音はヒロインとしては主人公の手に負えない部分があったように思う)。
 ストレートで、気持ち良く読み進められるところがある。ヒロインとの会話がないままに外堀が埋められていったり、主人公の一世一代の告白、失敗してもいいから夏蓮の心にちゃんと踏み込む必要があるんだー、的なところは熱くて良かった。
 またこのライターの特徴として、こうワクワクさせるよりは、一種の絶望感を物語における切れ味にしているところがあって、海上ステーションを冒険するのかと思ったら目の前で爆破されるし、夏蓮の母親と再会できるかと思ったら墓だし、もうちょっと虚無感ではなくて話が膨らむ冒険へと転んでもいいのではないか、と思わなくもない。『せっかく膨らんできたかと思われた物語を萎ませることでショックを与える』という手法は、夏蓮ルートについては、まだ最終的には希望へと繋がるアクセントになっているからいいけれど、沙羅ルート、凛音ルートについてはイマイチ頷きかねる部分も大きいのだが、それは後述しよう。
 島からの駆け落ち的脱出がうまく行かないのも、主人公が未成年略取の罪でしっかり数ヶ月刑務所に放り込まれるのも、社会的には弱者であり経歴を持たない記憶喪失の主人公が、しっかりこの時代に錨を下ろし、新しく歩み始めたヒロインと一緒に進み始めるというラストと綺麗に繋がっていて、面白かった。

伽藍堂沙羅ルート(がらんどう・さら)

 凛音は夏蓮と沙羅のルートをクリアした後に解放されるので順番的に当然次は沙羅ルート。
 沙羅はかなり危ない子であり、ネタバレではあるが島の風土病である煤紋病罹患者を殺したり隔離したりする役割を担ってきた伽藍堂の血を引くからなのか、『島を守るためなら誰かを殺すことも辞さない』というニュアンスが最初から強い。主人公も未来から来たということで、情報を過去に持ち込み、世界をグチャグチャにする可能性があるということで、初っ端から殺されかける。実際に殺されるバットエンドルートすらある。沙羅ルートでは彼女自身に数回は殺されたような気がするし、また他の要因で死ぬことも多い死のルートである。これはやはり沙羅の危なっかしさ、自分の頭の中で妄想を理論付け、危険に向かうとしてもそれが最終的に島を救うことになるのならと、割と考えなしに行動してしまうというキャラ性から来ているような気がする。
 五年前の火事で両親を失い、身寄りなく学校にも通わず、山の中の神社併設のプレハブで一人暮らししているという、ヒロイン中最も寄る辺ないキャラでもある。
 未来から来たと思い込んでいる記憶喪失の主人公と沙羅の相性は悪い意味で抜群で、沙羅の妄想は加速し、暴走していく。
 しかしながら、その中で立てられていく『五年前の火事の真相』、『主人公と沙羅が延々と繰り返す時間』という理屈は、それはそれでかなり魅力的なものだったと思う。
 そして、その妄想が仕立て上げられるためにこのルートがあった訳で、それがメインの筋であったために、最後の最後で、『タイムループなんてねーよ』とぶち壊しにされてしまうのはかなり残念ではあった。
 最終的には、沙羅の母親である伽藍堂万里愛は実は生きていたというオチになるのだけれど、主人公と沙羅によるタイムループというメインの作中仮説(五年前で火事で死んだのは実は過去に戻って大人になった主人公と沙羅であり、沙羅は主人公と成長した沙羅の娘であるという無限ループ)が否定され、カタルシスが宙ぶらりんになった以上、万里愛には娘と対面して土下座して一人にしてしまったことを詫びるなり、泣き崩れるなりして欲しかった。どうも感情の解放がうまく行われず、最終的な『いい物語をやった』という満足感が萎んでしまった印象である。
 万里愛はグランドルートにおいて、本土で煤紋病に関する現代的な研究を行っていたということで、それは沙羅ルートにおいて沙羅が不器用で稚拙な形で追い求めた『島を救う』方法論の現実的な手法だからまあいいのだが、俺が思うのは単純に『五年も娘をほっぽといて親としてそれでいいのかよ』という感情的な納得の部分である。どうしても会えない事情があるというのならともかく、火事の原因も最終的にははっきりしないし、夏蓮の家、枢都家に引き取られていた時分ならともかく、あんな幼い容姿の十六歳が高校にも通わないまま、プレハブ小屋で一人暮らしって、その事情を知っても頑なに会いに行けないってなんなんだろう? そのクセ、島の診療所で働けているのだから、少なくとも島の中では五年前の事件は風化していると考えられるし、どうしても万里愛はクズに思えて仕方なかった。それにしてはちょっとあっけらかんと振る舞い過ぎているのも気になったし、まあ、クズならクズでも別にいいのだけれど、事情ははっきり開示するべきだったという印象だ。『作品年表』の項において、俺はこの物語には欠けているピースが三つあると書いたが、四つ目がこの五年前の詳細な事情、浦島のヒロイン達の父親・母親世代の物語ということになるだろう。ライターやメーカーに書く気、出す気があるかどうかはともかくとして、これまでに書いた『欠けた四つのピース』は間違いなく一本のゲームボリュームくらいになるだろうと感じられる。単純な補完に留まらない、より作品の充実度を増す世界観の拡張を達成する次作になり得ると思われる(もしこの希望が叶えられる形で出るのであればだが)。
 沙羅や凛音は、自分をある物語の登場人物になぞらえるようなある種の演技性を抱えていると思うのだが、それが何か、物語上、うまくプラスの形でまとまっていないのが残念だった気がする。それはキャラクターを個性ある存在として成り立たせている要因であると思うので、それを潰さない形でラストに繋げて欲しかった。キャラクターが危険な妄想を極め、そして自分から一番の危地を演出し、そしてそれをどうにか生き延びることで、そういった妄想性から脱却する、だけでは何となく寂しいと思うのだ。ヒロインの妄想がある程度、作中現実を塗り替えていくものであって欲しかった、というのはやはり感じてしまう。
 例えばだが、少女漫画を読み耽ることで、現実の出会いを一々大袈裟に捉え、少女漫画的な展開になぞらえた妄想に繋げてしまうような女の子の物語があったとして、そういったキャラの個性は、物語の特徴となり、『そういったキャラだからこそ特別な恋愛が出来た』という形にまとめて欲しいし、恋愛が成就した後も、そのキャラなりの妄想力を爆発させ続けているというような、アイツはどこまでも馬鹿だなあ、でもだからこそ上手くいったんだよな、的な余韻が欲しいのである。沙羅ルートや凛音ルートは、キャラの個性・特別さがそのまま物語上の悲劇とダイレクトに結びついているように思えておらず、そうした妄想こそが事件と繋がってしまっているという感じがあまりにも強すぎる。『妄想さえしていなければ別に浦島は平穏な島だし、平和に暮らせていたでしょ』という印象をどうしても受けてしまうのが、俺にとっては残念だった。そういった危うさ・妄想への依存性こそが、ヒロインの魅力に繋がっているところもあり、もうどう言っていいか悶えてしまう部分がある。
 また、過去に遡ることの出来るタイムマシンの可能性が徹底的に否定されるという沙羅ルート及び凛音ルートでの展開は、勿論、冬編やグランドエンドへの繋ぎのための伏線であるというのは十分に理解できるが、過去へ遡行できる可能性を示唆した『SILENT WORLD』の展開もあるので、『数年レベルの過去遡行の可能性』はヒロインルートで示しても問題はなかったのではないかと感じられてならない。コールドスリープマシンも開発された時代背景の明かされない超自然的な産物であることもその印象を強化しているのかもしれない。コールドスリープマシンで二万年後に行くのは良くて、何故、石棺に入ることによって主人公と沙羅が十数年前に遡ることや、暴龍島が竜宮城的な時間的異空間であり、時を越える場所であることは許されないのだろうか? 世界平和への終わらない挑戦や、タイムマシンを作れないということについては、『二万年レベルで時を遡れない以上、これまで存在してきた凛音達を救うことは出来ない』という形が保持できればいい、つまり、コールドスリープマシンの本来の完成形であるタイムマシンが完成できないということだけが明確であればいいだけであって、それとは別軸で、一作品中の中で、別の時間旅行のアプローチが(数年レベルであれば)示されても特に問題はないと思えるのである。それはグランドエンドとは繋がらない、平行世界上の可能性という形で物語を閉じることが可能だから、ということもあって。
 凛音ルートについては完全に不満を抱いている訳ではないが、沙羅ルートについては、例えばミステリで名探偵が延々と密室事件についての推理をし、それがメインの物語という体で進められたにも関わらず、その真相は『ただの自殺でした』という感じに近い。別にそういう物語の進め方があってもいいと思うが、それによって物語のエンタメ性・カタルシスが大きく損なわれるのは問題だ、と俺は感じた。俺にとっては沙羅ルートがこのISLANDという作品における瑕疵と感じられる。展開の読めなさ、次々と示唆される可能性によって、ドキドキワクワクとリーダビリティを高められても、しかし、その結末には解放感・カタルシスと呼べるものが弱い。それが少なくとも、沙羅ルートにて俺が強く感じた娯楽作品としての弱点だった。



(凛音ルート・冬編・真夏編の感想へと続く……予定)





蛇足・投票された意見に対するレスポンスや他の人の批評を見たりして追加したもの(直接的な作品批評ではないので、特に読む必要なし。どういう人がこの批評を書いたのか、という立ち位置の説明や、ISLAND関連作品についてのプラスアルファ)

客観的評価について

 kihaneさんという方から投票(コメント?)頂いたのだけれど、確かにベタ褒め調なので、工作っぽく受け取られてしまうのかもしれない。エロゲー批評空間は大好きなサイトで、恐らく十数年くらい、『今までのお勧め』、『最近のお勧め』、『年間統計表』等を参照させていただいてきた。エロゲにおける名作を掘り出すには最適のサイトで、俺はこのサイトが大好きだ。ただ、どうもここで批評を書くというのはハードルが高いというか、書く項目が多いという印象があったので、何だかんだで機会を逸してきた。最近、またエロゲ熱が再燃してきたので、このサイトを閲覧する機会も多くなり、とうとう『ISLAND』のレビューを書かせていただいた。
 『ISLAND』は、やはり俺にレビューを書かせる勢いのあるゲームだったとは言える。やり終えた後のテンションはとても高かった。しかし、大筋の物語構造にしても、リアリティを重視する人には、その再現性に疑問を持つだろうし、また俺は冬編~凛音エンド・グランドエンドに至る流れには拍手喝采を送りたいが、ヒロインルート(特に沙羅ルート)には物申したい面もある。クリア後の湧き上がった興奮の感覚を忘れたくないので、95点という点数は取り合えず今のところはそのままにしておくが、客観視すれば全体の得点は85点くらいになろう。また、主人公が合わない・あまりにもメインの繰り返しにおけるリアリティある理論付けが弱い(SFではなくお伽話感が強い)・日常編が肌に合わない・欠けたピースが気になる・ヒロインと結ばれる完全なるハッピーエンドがない等の理由で、70点くらいを付ける人がいても全くおかしくないと思う。突き抜けた長所と、人によってはかなりマイナスポイントになる部分が同居しているこの作品は、良くも悪くも同人感が強く、俺はそういうライターが自分のやりたいことをやっている作品は好きな方だし、今作は特に馬が合った、というのが大きい。好みなのだ。だからかなり甘めの評価になっているのをご了承頂きたい。後はこの批評は途中まで書いて、取り合えず他の人に見せてみようと思ってポストしてしまったので、俺がネガティヴな感情を抱いているヒロインルートに対する言及、各ルートに対する言及が欠けている状態にある。続きもいずれ書く予定。
 最近やったエロゲは、装甲悪鬼村正、東京NECRO、フェアリーテイル・クロニクル、そして今作ISLAND辺りだ。
 あと、ISLANDはエロゲーメーカーが出していて下ネタも多めでしかも結構退廃的な世界観を含む割にアニメ化とか有名声優の招聘を意識したのか、非十八禁という微妙な立ち位置になり、ごぉさんも『ひまわり』は有名だが、その同人ゲームを一本出されただけで、他の大御所エロゲライターには知名度の点で一歩及ばないと思った。しかもタイトルがISLANDってちょっと地味だ。なので、微力ながらより多くの人に(好みは分かれるだろうけれど)プレイだけはしてもらいたいなーとこんなレビューを書いてしまったのだ。やはりこのノリは好みな同人ゲーを応援したい、という感覚に似ているかもしれない。
 あと、ISLANDに対してだけこんな長文を書いているけれど、他作品には何も書いてねーから信用できねーよ的なことを言われてしまったのだけれど、俺も好きか否かに関わらず、レビューを書けるエロゲーと書けないエロゲーがどうしてもある。考察を含むレビューは長くなってしまうキライもある。しかしまあ、せっかくなので前にブログ用に書いた装甲悪鬼村正のレビューもこのサイトに上げてみようと思う。ISLANDはこのイイワケ的文面をプラスするまで確か七千字弱程度だったと思うのだが、装甲悪鬼村正のレビューは未完で二万四千字くらいある。ISLANDのレビューが俺の中で特別長いワケではないのだw わっはっは(笑) なんちゃって。
 装甲悪鬼村正は誰もが知り認める名作だけれど、ISLANDはまだ発売したばっかりで、誰もが認める名作とはならないだろう。シュタゲのように陰謀論的な大きな世界観を感じさせたり、詳細で突き詰められたリアリティを感じさせる設定構築によって、地に足の着いた感じを醸し出す一般人受けする要素が弱いからだ。しかし、シュタゲよりISLANDの方が応援歌のように感じられて、好みになる人はいるだろう。いや、ISLANDはシュタゲと比べる域にすらねー気に入らねー作品だよ、という人もいるだろう。そういう作品だから応援したいというのもあるし、現状、非十八禁・アニメ化という要素で被っている『少女たちは荒野を目指す』より知名度が劣っているだろう現実が悲しくてならないのだ。有名ライターだってコンセプトが合わなくてコケることもある(別に田中ロミオ氏を貶しているワケではけしてない。彼の作品もほとんどやってるし)。同じお金を出して、長時間味わうなら、より個性的で、より面白い作品を優先してプレイした方が費用対効果は上になるだろう。それが俺がこのレビューを書き、皆さんにISLANDを勧めたい理由です。
 完全版・続編が出る可能性は大いにあるし、そういうのが出るまで待つぜ! という意見も妥当だとは思うが、この作品は旬で味わう価値があると思う。

オマケ リーン・カーネーションについて・つまりSILENT WORLDの紹介

 今朝、他の人のレビューを見て、リーン・カーネーションの設定を使えば一作品書けそう、と書いている人がいたのだが、ごぉさんはまんま一作品書いているので、ちょっと笑ってしまった。あれは公式のアナウンスがもっとはっきりしていればいいのかもしれないが、ごぉさんの作品、『ひまわり』と『ISLAND』は世界観を共有しており、またその間を埋める作品として、『SILENT WORLD』という小説作品が『ISLAND』と同日発売している。リーン・カーネーションはそこでの登場人物であり、人工レゾネーター計画はこちらの作品の用語になる。『ISLAND』とは別の視点で、時間というものを切り取った作品だ。端的に言えば加速能力者の話である。『ISLAND』とは軸の違う世界の切り取り方なので、直接の繋がりはないが、主人公の他人の空似や主人公かもしれない神話上人物とかが出てきて、時系列で言えば『ISLAND』の後っぽいので、クリア後に気が向いたら読んでみるといいだろう。実際、俺も『ISLAND』をクリア後、なかなか他の物事が手に付かないそわそわを埋めるために読んだ。Kindle版が発売されていたので、本屋に行ったりAmazonで取り寄せる必要がなく助かった。装丁としては贅沢なラノベという感じで空中幼彩さんによるカラーイラストがかなり多めに入っている。カラー四コマもある。
 文章としてはやはりごぉさんの本業はシナリオライターなので、どうしても尺の短さによる日常描写の掘り下げ不足、またラノベ作家と比べるとどうしても文章だけでの表現が弱いかな、とも思うが(キャラの音声がないのも地味に大きい・どうしても文章だけで見るとキャラの印象が弱くなる)、それでも後半の爆発力は凄まじく、あの長さの小説で主人公の生き様を切り取ってみせたのは素晴らしいと思う。どうしても『ISLAND』が本編で、『SILENT WORLD』が単品という感じにボリュームの違いはどうしてもあるが、『ISLAND』が好きになった人は補足として読むのもいいだろう。