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aliceriverさんのハロー・レディ! -Superior Entelecheia-の長文感想

ユーザー
aliceriver
ゲーム
ハロー・レディ! -Superior Entelecheia-
ブランド
暁WORKS
得点
80
参照数
636

一言コメント

『人間讃歌』

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

-無印-
舞台的に「人間」を描いた物語。
シェイクスピア作品をモチーフにした設定、描写等が特徴的。成田真理の復讐を背景に「人とは何か」、「生き方」という問い掛けを主題に物語が展開されていく。
ポエトリーな言葉選び、役者めいた台詞回し、独特な比喩表現と文章に癖(オブラート)があるので人を選ぶ。しかし、仔細ながら煩雑ではなく、情景がありありと浮かぶ丁寧な描写文は素晴らしい。
舞台こそ学園だったが、外部の干渉がない閉鎖環境というだけで所謂”学園もの”ではない。

キャラクターの感情、言動、行動理念が一部整合性に大きく欠ける場面もありはしたが、全体で見れば説得力に満ちていた。しかし、世界観設定はあまりにも煮詰まっていなかった。
HMIという存在が秘匿されているのか、公になっているのか、社会的な扱いがかなりあやふや。
日本で200人はいいとして、海外ではどうなのか。これで周知されていないというのは無理があり、ツッコミ始めるとキリがないほど説得力がない。全体的な作り込みは良かっただけに、世界観の甘さが物語への没入感を削いでしまったことは残念に思う。

朔以外のヒロイン個別はエピソードや描写の不足があり消化不良感は否めないが、復讐劇に恋愛を絡める難しさを考えれば無難な着地点だったと思う。
バトルとツンデレデレデレの珠緒√でジャブ。ヤンキー女はリリンの生み出した文化の極み。
多くの悲劇でなし得なかった"駆け落ち"を成功させ幕を引く空子√。
エル√は、声も好きじゃないし不思議ロリ枠興味ねえと思いながら読んでいたが、そのキャラクター性に納得が行き、がらりと印象が変わる。シナリオの核に迫るだけあり唸る展開で楽しめた。ただ、朔好きとしてはエンドの苦さが尾を引く。

朔√。性格良し、見た目良し、声良し、強い、オフだと普通で庶民的。寝巻き可愛い。可愛い。
エル√終盤からハラハラしっぱなしだった。操作されてたとはいえ背負ったものがヘビー過ぎる。朔の行動理念上、このルート以外ではどうあってもオンスロート化する未来だと考えるとぞっとしない。。
ハローを持たない黒船との対決が一番熱い(主に対話だが)。
妹、実は生きてんじゃねー?とは薄々思っていたがまさかのラスボス。
vs瑠璃。朔の能力はやりすぎで瑠璃の最強っぷりも大概。テンションに付いていければ読み流せないこともないが質の悪いインフレバトル感はある。
清濁を併せ呑み、エトワールの中のエトワールとして「輝ける星」になった朔が人々を導いて征く。夢はでっかく「世界征服」と”やりすぎ”だった点を繋げているので最低限まとめてはいる。

このシナリオで一番気になったのは、成田が瑠璃を敵と認識出来るトリガーが鍵石になること。飛び出してきたのは鍵石なりにスクールを守ろうとする意志と矜持であり、成田の人となりを考えればその死に呼応するのは解からんでもないが...鍵石との関係が弱すぎてやはり違和感がある。朔にした仕打ちへの怒りがそのまま理由になった方がまだ説得力があったと思う。まぁそれも含めてで最後の一押しになったのかもしれんが。


主人公は、最初こそ役者めいた台詞やその在り方に「ぶっ飛んだ奴だな...」と思ったものだが、じわじわと好きになっていった。高潔で揺るがない信念を持ちながら、復讐の念に駆られる愚昧さを併せ持つ。気高く苦しみに耐えて人としての尊厳を保つべきなのか、それとも復讐を成し遂げ修羅となるのか。彼のハローがハムレットなのはさもありなん。
復讐という行為の虚しさ、その諸々を呑み込みなお征く。己が己で在るが故に、成すべき事を為すだけ。この意志こそが人間でなくてなんなのかと。「ハッピーエンドの復讐劇」という喜劇と悲劇の抱き合わせ。矛盾にも揺れず己を貫き通す本作の主人公に相応しい人物像と言える。
復讐なんて意味の無いこと、そんな「正しさ」こそを尊ぶ昨今の作品に慣れ親しんだ人間としては鮮烈なキャラクターだった。それが嫌いとかこっちが良いとかいう話ではないが(念のため)
独自の観念によりヒロイン達との噛み合わないやり取りは実に微笑ましい。豊満への信仰からセクハラの認識が壊れているのが玉に瑕だがそれもまた成田真理。かなりの金言を生み出しているものの、あまりに詩的、哲学的過ぎてついていけない場面も。このキャラにしてこの声ありといった具合にCVが合っていた。主人公ボイスありでエロシーンのボイス切らなかったのは初めてだった。

ハローの詠唱めっちゃ格好良くない?(14歳) 二重詠唱。全員集合詠唱。わかってんねえ!(オタク)
四大悲劇に絡めた名称や詠唱は良い感じに寒くて良い(?)

うろ覚えだが『るいは智を呼ぶ』の主人公も妙な呼吸法だか武術を使っていた気がする。架空の技術をさもそれらしく語るシーンは嫌いじゃない。銃火器の造詣の深さ。雑学のほとんどは、本当か嘘かわからない内容ばかりだが、読んでいてシンプルに面白い。

学園やHMI周りは、ただの舞台装置であることは分かるが、あまりにも説明が少なすぎた。
鍵石の件も含め、ハローを持つものの驕りや悩みといった学園生の人間模様を掘り下げるべきだった。
しかし、登場人物は粒揃いでシナリオの本筋は面白い。没入感には欠けたが、これは成田真理劇場であり、舞台を見ている観客のように傍観者として楽しむ作品だった。恋愛成分の足りなさ、背景にテキストだけの場面が多くCGも少ない。戦闘などキメシーン以外の作中演出は不満が残った。


-New Division-(減点はほぼここ)
菱吾√。深夜2時くらいにやってる男女がラストでキスして終わる洋画くらいひねりのない内容だったので、特筆する感想がない。朔√の展開をベースに回想を交えながら菱吾√に書き換えただけなのでもうちょっと変化が欲しかった。菱吾自体は魅力的なキャラクターなだけに惜しい。
美鳥√。救えなかった彼女にスポットライトが当たる。だからこそ、気持ちの良いハッピーエンドを求めていたのだが、無印本編で乗り越えているオンスロート症だけでここまで引っ張られると、どうにももどかしい気持ちになる。ラストは実に迂遠な言い回しではあるが目覚めることを示唆した結末。確かにハッピーエンドなので文句はないのだが、もっと明瞭にして欲しかった。
最終作を読み終えてみれば前フリだったというのは解かるが、このFDだけ買っていたら相当に不満を感じていただろう。


-Superior Entelecheia-
グランドエンディング。ここまでがキャラ紹介。
広がっていく風呂敷はついに世界の終末へ。未熟だった人物達が、物語を通じて、真にノーブルへと成長していく。

成田が、帰国直後に花園と新山を消したしたことにより、無印とは展開が大きく異なる。
事態を察した『機構』は計画の凍結を指示。スクールは『リア王Ⅰ』の永久封印前に接触実験へ踏み切り、成田は瑠璃の生存を知る。オウルとの接触によりエトワール達は”概ねの事情”を把握、"先の力"を手に入れる。オウルとの接触で美鳥のHMIは正常になりオンスロート化を回避。

ハロースペリオル(14歳以下省略)。 上位詠唱と能力名の為に引用するシーンを控えめにしていたのは納得。

黒船の死。瑠璃との対決。大義による真の裏切り。
復讐そのものに裏切られ、理由や目的をぐちゃぐちゃにされても自分を見失わない成田真理。球緒へ語る御門春水ではなく成田真理としての『復讐』。こいつは一体どこまで主人公なんだ。
全員揃って笑う日々を迎えたいという成田真理の渾身の我が儘は復讐を希望にひっくり返す。

オンスロート化しなかった美鳥は、美鳥√で見せたか弱さが嘘のように高潔で気高く芯の通ったキャラクターに。スクールの全貌を知ってなおスクールと未来を守ることを謳う。心についてのエルとの問答。ここまで救われなかった美鳥が朔を救うため発破をかけるのは理と美しさを兼ね備えた展開だった。もはや第二の主人公。救われて本当に良かった。

各エトワールの激突はもちろん、「朔vs瑠璃」と「3人の共闘」は無印の過程と結末を昇華させている。特異点へ落下していく成田と朔の語りは最も印象に残ったシーン。『Soul Release』によってテンションも最高潮。まさしくクライマックス。例のごとく”やりすぎ”だが、ここまで振り切ってくれるならもう野暮なことは言わない。

オウルを撃退した後の瑠璃との別れ。復讐という悲劇に終止符を打って役者は舞台を降りる。
『フランダースの犬』然り、『カウボーイビバップ』然り、復活のルルーシュ前の『コードギアス』然り、どんな理由であれ主人公が死ぬ物語は辛いし、どれだけご都合主義でも、生きていて欲しいという気持ちが強い。しかし、本作は仮に成田がこのまま消えていても、納得出来る程に筋が通っていた。
まぁ、それはそれ、本当に生きていて嬉しかった。エピローグで「あぁ...」と思わせ、エピローグアフターという構成も堪らない。
エルが”自らの意志”で探しに行き「ハローレディ」で締める。終わり良ければ全て良し。本作をプレイした価値を噛み締められる気持ちの良い幕引きだった。



シェイクスピア版『リア王』は徹底して悲劇でしたが、ネイハム・テイト版の『リア王』は大幅に書き換えられてハッピーエンドで人気も高いんですよね。道化の場面は総カット、コーディリアとエドガーのラブもあり、リアとコーディリアは死ぬことはなく幸せになる。

足りなかったいちゃいちゃ成分もハーレム世界線のアフターストーリーで補完されニヤニヤ出来た。これが正史でよくない? 空子、不憫な子。
人を選ぶ文章、世界観の甘さ、王道とご都合主義に寛容な筆者でもやりすぎだろと感じた部分。1作目・2作目はキャラの内面を掘り下げるためのノーマルエンド。3作目にしてようやくグランドエンディングという作りになっていること。ボリューム的に厳しいが1本の作品にまとめていればまた評価も違っただろう。
そういった粗があり手放しでは褒められないが良い物語だったと言える。

ありがとう、成田真理。ありがとう、エトワール達。ありがとう、ハロー・レディ!