真紅ゲー。本作は”いろとりどりのヒカリ”を含めて1本の作品なのでやるなら続編込みで。
FAVORITE作品を初めてプレイ。どうせなら処女作の星空のメモリアかなとも思いましたが、知名度からこちらを選択。
まず最初に背景に驚きました。厚塗りで新海作品ほどパリっとしたものではないですが、それを想起させる色使いと明暗の塗り分けが印象的でとても美しい。このタイプの背景にラフな人物が乗ってるの好きです(ただの性癖)
共通の落差が激しい。シリアスパートで引き込まれるのに対して、日常パートは茶番めいたテンションについていけずキャラの言動にイラっとする場面もあった。
言葉選びや描写の繊細さは良い意味でエロゲー離れしていてとても好ましく美しい文章だった。共通終盤からふわふわとしていた主人公像に一本の芯が通り始め、個別に入ってからの地の文や会話はぐっと魅力を増す。
浅学なので全てを網羅することは出来なかったが、散りばめられた書籍ネタの多さからはライターの膨大な読書量が伺える。
キャラデザの人の絵は嫌いじゃないですがCGは良くも悪くも並。演出面に特筆して良い点はなかったがSEはしっかりしている。ゲームシステムも不満はなかった。(時計モチーフのUIは素敵でした)
ただ、所謂泣きゲーやエロゲーらしさを求めてる人は「何これ?」と思うに違いない作品です。
文学的、思想的、哲学的って俺がエロゲーに求めてるのはそういうのじゃねーんだよって人にはオススメできない。
内容が良い個別でも不憫なキャラがいてハピエン至上主義的には納得が行かなかったり。
まぁ、色々予防線張りましたが結局真紅ゲーなので(以下省略)
その真紅√ですら主人公が大概なので本当に人を選ぶ作品だなーと思います。
-以下ネタバレ-
推奨攻略順で見かけた「つかさ→鏡→澪→加奈→真紅」の順でプレイ。加奈→真紅の繋ぎが綺麗なので納得。
好みの問題も多分にあるが、つかさと鏡はサブストーリー感が強くキャラにピンと来るものもなく非常に退屈だった。
本筋にもほぼ絡まないのでキャラに惹かれなければ読まなくてもいい内容です。
澪√からV字回復。
素直になれない系幼馴染というパッと見平凡なキャラをここまで昇華出来るってプロの物書きは凄いなと思いました(小並)
ギャルゲーをプレイしながら阿鼻叫喚する場面はコメディパートで一番面白かったですね。
つかさ、鏡では???となっていた、主人公・ヒロインの双方が「なぜ好きになったのか」という描写がしっかりしている。
幼馴染ではない"あたし"が幼馴染であろうとする。防波堤での再会により「水平線」という偽物の思い出は本物の思い出になる。本作の組成が色濃く印象的で素敵な場面でした。
指輪を嵌めた状態でなら触れ合えるという展開はロマンに溢れ過ぎていてエロゲーかよって思いました(?)
時雨が旅立ったまま放置なのはいただけなかったが、純愛で良いシナリオです。澪を好きになったし、真紅に一気に惹かれたお話でもある。
加奈√は途中から白さん...蓮ちゃん...となっていて御霊送りが終わってから感情を整理するのに1日置いてしまった。
この親子の別れはあまりにも遣る瀬無いのでアフターストーリーで少しでも救いがあることを願う。
猫としてのあゆむが残ったのはあゆむ母が鈴に込めた願いで身代わりになったって解釈でいいとは思うんですが、ここはもうちょっと明瞭に表現して良かったのでは。
恋を強いた主人公の葛藤は納得だし、強いられた恋が本物に転じる描写も違和感はなかったが澪√ほど唸るものはなかった。
類友というか、この2人は良くも悪くも似たもの同士で自然過ぎてまさしく"夫婦"なんだなと思います。
クライマックスの海での語りは作中で一番好きなシーン。詩的で舞台じみてて、ただただ綺麗でした。
カノンコードの曲はなんでこんなにも人を魅せる時に嵌るんですかね。不思議です。
フィクションの親子愛って日本人的じゃないというか、あまりにも想いが深すぎて感情移入出来ないことが多いんですが、文章力でごり押されましたね。
真紅√。
共通(夏休みまで)は本当に"茶番"だったというのは実に納得がいった。
ちょっとは主人公らしくなってきたと思っていたら実はエゴまみれの腐ったミカンだったということが判明する"ぼく"
「鹿野上悠馬(ぼく)」は馬鹿で神様で幽霊みたいな存在なんですね。体を張って名を表していくスタイル。
夏目鈴によって明かされる『セカイ』、『約束』、『神と人』、『魔女』、『偽者と本物』、『恋』。
諦めることを諦める。願いを叶えることは願いを叶えないこと。
二律背反の使い古された言葉遊びで埋め尽くされた物語は、一切の瑕疵なく一点に集束していく。などと大仰な言葉を並べ立てて何とか褒めちぎろうとはしてみるものの、"ぼく"がクズ過ぎてどうしようもない。真紅の献身っぷり(特に澪√)を考えると本当に許せない気持ちになる。
半分人間、半分神様で”足りない”、"欠けてる"部分があるのはわかります。
鈴姉さんの身を切るオシオキによって痛い目を見て反省はしています。しかし、このキャラクターは根本的に成長していないんですよね。真紅は"ぼく"に振り回されていくうち、なし崩し的に好きになったとしか感じられない点はどうしたって歪です。
”大切な人と一緒に、ひとつひとつ丁寧に時間を過ごしていれば、恋する気持ちは、気付けば自然とそこにあるものなかもしれない”。それはそう、詩的かつ現実的な恋。2人で恋を勉強すること、願いを叶えること、過ごした時間。でも元凶"ぼく"じゃん!
要するに、今後研究に人生を捧げて恋することも知らずに消えていくはずだった真紅は"ぼく"に惚れられたのが運の尽きだったんですよね。
真紅の大切な人になりたい"ぼく”が真紅の大切な人を奪っていた。約束をしたから願いを諦める。真紅は"ぼく"の願いを叶えたい。その上、焚きつけたのは藍だしもうめちゃくちゃですよ。気が付いたら絡まってるコードのようにぐちゃぐちゃ。どこまでも真紅を被害者に、主人公を卑劣で醜悪な加害者に描きあげている。
夏目鈴の仕掛けたイタズラに縋らず”約束”を守ることを優先したのは一貫している。しかし、それは逃げでもあり、読み手にはお尻拭いてるとこドアップで見せられてる感が拭えない。はなっからこの時点で感動させる気はないと暗に言っています。そして満を持して藍の登場。
明朗快活、快刀乱麻でともすればこの子が主人公なのではというほどの藍に好かれていた"鹿野上悠馬"は一体どんなイケメンだったのか。FDへの期待と不安が高まります。
過程はどうあれ、結果的に”藍の犠牲”で真紅は幸せになりました。
2人で始めた恋の勉強は成功で真紅の成長を描けていたのは良かった。
しかし、”ぼく”はセカイの始まりから真紅に恋をしていて成長したわけじゃない。そして恋をするには犠牲にするものが多すぎて、諦めれば誰かを見捨てることになる。藍と作り上げたセカイは写本の写本であり、どのセカイも八方塞。
「最果てで藍と悠馬は再会するだろう」、「真紅が幸せなら良かった」程度では飲み込めないほどの問題が山積みになっている。
続きを作るのが前提の話だったんでしょうけど、当時ここで終わるしかなかった人は堪ったもんじゃないですね。
『ぼく』が元凶の恋の物語。色々と思うところはありますが世界観、シナリオ構成、文章は見事。FDですっきりさせてくれることを願います。
-FDプレイ後追記-
95%くらいすっきりしました。本作は壮大な前フリだった。