スポ根ものの最高傑作
空を飛べる靴、アンチグラビトンシューズ(グラシュ)が実現された世界で、学生たちが空を駆ける競技「フライングサーカス」で切磋琢磨する物語。
最初はあまりにもご都合主義なグラシュの設定に不安になったものの、蓋を開けてみればまさにこれしかないというほどピッタリと物語に寄り添っていた。
安全だからこそスポーツとして振興し、できたばかりのスポーツだからこそ定石が容易くひっくり返る。
物語の軸となるのは主人公兼ヒロインとも言うべき天才少女倉科明日香、早熟の天才鳶沢みさきの二人である。みさきはFCの前歴からヒロインズの中でも一段飛び抜けた場所にいるが、FCを始めたばかりの明日香は最初は才能の片鱗を見せるだけだが、夏の大会でその才能を開花させる。
天才ヒロインがその才能を完全に羽ばたかせ、FC界を革命する乾沙希に挑むのがメインルート、自らの才能の臨界を突き出され、自らの背中を悠々と追い越していく明日香の姿に絶望し、しかし涙を流して奮起するみさきの姿を追うのが裏ルートといった塩梅だ。
ヒロインはあと二人いるが、こちらはスポーツよりキャッキャウフフがメインなので割愛する。
明日香シナリオはスポ根の爽やかな部分だけを抽出したような軽快な作りであり、非常に疾走感があって読後感も良い。だがやはり面白いのはみさきルートだ。
天才と持て囃された自分の限界を見たことによる屈辱、FCというものそものを冒涜するような乾沙希の飛び方を肯定して憧れさえした明日香という少女の怪物性を目の当たりにし、逆説的に才能の違いを突きつけられた嫉妬心というドロドロした感情の流れが切実に描かれている。
何よりFCのルール上「上を取り続ければ勝てる」という身も蓋もない戦術を見せられたことによるルールのパラダイムシフトが起きるのが良い。
天才性というニュアンスだけで乾沙希に勝利した明日香も熱いことは熱いのだが、フィクションのスポーツだからこそ、フィクションの新定石を模索するみさきの努力に真実味の息遣いが感じられる。
良し悪しではなく好みの問題なので、スポ根の王道をひた走っている明日香ルートの方を好むユーザーも少なからずいるとは思う。
惜しむらくはzwei前提の作りだったため回収しきれてない伏線が多々ある(特に元天才プレイヤーの主人公がほぼ全く空を飛ばない展開は致命的だ)のに、spriteが解散してしまったため続編の開発が絶望的ということだ。これだけでも完結しているので強い不満はないが、物足りなさは覚える。