平坦かつ和やかなシナリオで、のんびりと田舎で過ごす雰囲気が楽しめる。作品のテーマとして料理に焦点が当てられ、他の作品とは一線を画している。そして何といってもメインヒロインの柚がかわいい。しかし、兄妹モノとしては論ずるに値しない。
この作品の最大の特徴は「どうぞおいしく、めしあがれADV」とあるように、料理がテーマであることです。ちょっとしたことから存在を知った義妹である柚と、亡くなった柚の祖母が遺した食堂を二人で復活させようと奮闘する物語で、田舎が舞台ということもあり、ひたすらほのぼのとしたストーリーになっています。いわゆる田舎の陰の部分はそれほど描かれず、おそらく大多数の人がイメージする「田舎」が描かれています。また、ギャグ担当のキャラが多く、ツッコミが追い付かずに会話が暴走的になることがしばしばありました。私は特に気にならず、むしろ楽しむことができましたが、苦手な人はいるかもしれません。体験版をやれば雰囲気がわかると思うので、気になる方はどうぞ。
以下、ネタバレを交えた感想です。
攻略した順に各ルート等の感想を。
こごみ
早蕨家の三女。姉のすずなと違いしっかり者で料理上手。真面目に働く主人公の誠実さに魅かれ、好意を抱くようになる。ひょんなことから主人公と柚の本当の関係を耳にしてしまい、そのことを隠し続けていた主人公に対し一時は不信感を抱くが、それも主人公の誠実さゆえの配慮であることを知り、彼への愛情が深まっていく。
ありがちと言えばありがちなルート。ぶっちゃけ印象に残っているシーンがほとんどないです。強いて言えば、二人の関係に嫉妬する柚が可愛かったです。
すずな
早蕨家の次女。白珠村のギャグ担当のお調子者。彼女に対する第一印象はかなり悪かったものの、個別ルートに入ると意外とかわいい。他ヒロインルートでもいい味を出していて、本作品になくてはならない存在な気がします。
個別ルートでは、大学進学で都会へ出たすずなと主人公の、素朴でありながらもどかしい、何とも言えないメールや電話でのやりとりが印象に残っています。突然の帰省からの告白シーン、結構好きです。あのドーナッツ食べたい。
涼香
共通ルートの時点では、彼女は恋愛に関してかなりドライな印象があったためか、攻略する気はまったく起きませんでした。しかし、個別ルートではその過程や結果に文句の付けどころはほとんどなく、予想に反して本作品では一番好きなルートになりました。柚と涼香のやりとりは微笑ましく、本当の姉妹を見ているようでした。また、お祭りを精いっぱい楽しんだり、涼香に懐いたりする柚がとっても可愛かった。
ゆず
唯一の近親者である祖母をなくした、主人公の義妹もとい偽妹。初対面では主人公に対して距離を置きつつも、徐々に懐いてくる様子がまるで子猫のようでとてもかわいい。私がこのゲームを購入しようとした最大の理由が彼女で、個別ルートをプレイするのを楽しみにしていました。しかし、体験版で彼女が義妹どころか何の関係もない赤の他人と知り、少々絶句。それならそうとちゃんと公式ページに書いておけよ、と思いました。そもそも偽妹の設定は必要だったのか?他ルートでは二人の本当の関係が柚にバレてしまうことはなく、二人は紛れもない兄妹でした。
柚「じゃあ、その……
兄妹の必要はあるんですか……?」
岳史「ない」
柚「ええと、それって……」
岳史「俺個人として、
柚と一緒にいたい」
柚ルートでの告白シーン。これはいけない。ここから二人は兄妹から男女の仲に。完全に兄妹としての縁を切るのだから、兄妹モノとしては落第で、絶対におすすめはできません。他人バレしてから付き合うまでの兄弟ごっこには、正直目も当てられません。
けれでも、思いつく文句以上に柚に幸せになってもらいたい気持ちの方が大きく、柚の境遇を考えると二人の関係はどうしても否定できません。思わず抱きしめたくなる、守ってあげたいヒロインとしてよく描かれていました。もし、柚がもともと赤の他人の設定なら、このシナリオは書けないでしょう(そう考えると、なおさら柚は偽妹ではなく義妹でよかったのではと今でも思う)。ヒロインとしての柚は理想的であるので、本当に惜しい作品だと思います。
総合的に見ると満足できた作品であった。上述にもあるが、柚と主人公の関係の設定だけが本当に惜しい。田舎でのんびりでありながら賑やかなスローライフを楽しみたい方にはおすすめ。そして何よりもお腹がすく。料理CGはかなりリアルなため、深夜プレイは要注意。また、食事をしてからやるのがよい。柚ルートのラストに登場するしらたまラーメン、一度は実食してみたいものだ。