間違いなくこの業界を揺るがす傑作。「幸福の先」の物語はかくして紡がれた。
シナリオ S+
世界観 S
キャラ S
演出 A+
音楽 S+
システム A
夢中度 S
エロゲ業界で近年稀に見るほどの大きな期待が集まり、エロゲーマーからのハードルは高まりに高まった。
しかし、それをこうも易々と超えくるとは、単純に驚きしかない。
発売前、私は内心「どうせすばひびを超えることはないんだろうな」なんて思っていましたが、はっきり言ってそれは甘かった。
むしろ個人的にはすばひび以上の傑作だと評価したい。
それほどの圧倒的クオリティで、ここ数年のエロゲ業界にはない密度のシナリオには、ただただ舌を巻くしかないでしょう。
その一つとして、エロゲにとってかなり肝要とも言える要素「ヒロインの可愛さ」が抜群に素晴らしい。すかぢ氏には萌えヒロインを生み出す才能もあったようで、基本的にどのヒロインも魅力的で愛らしい。
個人的には藍と雫の二人がお気に入りです。
その点においても、この作品は恋愛ADVとしての高い完成度を誇っています。
そして、この作品の醍醐味であるシナリオについて。
クリアしたユーザーの誰もが感じるであろう『伏線回収の巧妙さ』。これに関しては秀逸以外に言葉がない。
とりわけ、本作の伏線回収は他の作品とは違ったアプローチを以って表現されていることをここに強く主張したい。
何が違うのか? もっと言えば何が特殊なのか?
これは本作の特典として付録された冊子内の、すかぢ氏へのインタビューにも書かれていたのですが、なにより『膨大な伏線を荒業やどんでん返しで回収』することなく、真相が極めて現実的であり整合性の取れていることこそ、この作品の讃えるべき表現方法であろう。
そして、なおかつ、それをミスリードとして使っているのがまた憎い。はっきり言って天才的です。
エロゲーであるからこそ、多くのユーザーは「この台詞はループしている(あるいは空想世界など)ことへの伏線か?」などとSFよりの推察をしたのではないでしょうか。
実際、私自身もそうでしたし、裏切られたときは「そうきたか!」という感銘すら覚えました。
また、どのルートのシナリオを取っても総合的に完成度が高く、退屈なく楽しめることがADVとして非常に理想的な設計になっている。
ただ例外的に真琴ルートだけはよろしくない、というかはっきり言って冗長に過ぎましたね。
主人公の言動に違和感を覚え、盛り上がりのないキャラゲーのような平坦な展開が少し退屈でした。
まあ、というのもこのシナリオだけ担当がすかぢ氏ではなく浅詠氏であり、彼はあくまでもユーフォリアのようなハードな題材の作品でこそ真価を発揮するタイプのライターなこともあって、この手の人間ドラマは単純に向いていないのでしょうね。
とは言っても、すかぢ氏のツイッターによると彼は時系列の整理など重要なサポートを行ってくれたようなので、この作品には貢献していることも少なくなく蔑ろにすることはできません。
さて、更にここで各シナリオへの感想を。
※なお、以下の感想はプレイ中に書いたものを再構築したものなので、一部文体の乱れに関してはご容赦ください。
序章~二章 『Frühlingsbeginn/Abend』
思いの外日常パートが楽しめてテンポも良い。圭やヒロイン達との掛け合いも笑えて、ここら辺は結構癒されましたね。
その陰で徐々に伏線が増えていくのは、すかぢ氏らしくてとてもワクワクしました。
そしてやはり、二章の明石先輩の一件は区切りというだけあって面白い。つか明石先輩かっけえ(笑)
総合的に見て、共通としては十分に及第点の出来だと感じました。
真琴ルート 『PicaPica』
前述しましたが、端的に言ってキャラゲーのような平坦なストーリーです。
一瞬「このゲーム面白くないかも?」と不安を覚えたぐらいでした。
序盤の掛け合いは楽しかったんですが、それ以外は特に盛り上がることもなくモヤっと終わりました。
欲を言えばこの話もすかぢ氏が手掛けるべきだったのではないでしょうか。
稟ルート 『Olympia』
単純に面白い! 序盤のイチャイチャパートも稟が可愛くて退屈ではなく、後半は巧みな伏線回収とワクワクさせる展開が秀逸でした。(とは言っても雫などのルートに比べると少し評価は落ちます)
主に、吹の正体と母親に関する稟の記憶改竄(人形あたりの話)の描写が巧い。
無駄がなくまとまっている印象。終盤の自殺を止めるシーンが盛り上がり、直哉が漢を見せていました。もうこの時点でかっこいいんだよなあ、直哉。
里奈&優美ルート 『ZYPRESSEN』
凛ルートと比べてやや長い印象を受けましたが、これも十分面白く、終わり方とEDがとても綺麗です。
個人的には優美視点の演出に目を見張りましたね(特に過去話)。
優美視点はシナリオも夢中になったしこれが良いスパイスになっていたかと思われます。
合間に入る千年桜の伝承もまた、ほど良いスパイスでしたね(後の雫についての布石と考えるとかなり重要な描写)。
綺麗さに特化している良質なルートでした。
雫ルート 『A Nice Derangement of Epitaphs』
ここである程度伏線は回収されました。そしてここから物語が加速度的に面白くなっていきました。
主に過去編で構成されていて、『本編の前日談-雫救出編-』『雫の過去』『吹と雫の過去』、そして『現在』といった流れで進む。
話の出来自体は例の如くとても良く、、綺麗に伏線を回収しつつも飽きさせないストーリー構築には目を見張りました。
特に、主軸となった前日談が最も盛り上がって楽しめましたし、オチが分かっていてもダレないのは流石の一言。
お気に入りのシーンは櫻七相図の完成の場面です。親父(健一郎)の言葉に目頭が熱くなった。
水菜編 『What is mind? No matter. What is matter? Never mind.』
健一郎の過去話で、水菜との出会いから別れまでの顛末。健一郎カッコイイよほんと...漢の中の漢だわ(笑)
中でも熱かった場面は、健一郎が中村章一から水菜を守るためボロボロになり、挙句には左手を折られ、しかしそれでも彼はその後一矢報いるために絵を完成させ、夏目家と共謀し中村家を嵌めた。
という、ここまでの一連の展開が熱く、ついつい夢中になったし、解決法がこう来るか! と思えて素直に凄い。
水菜と健一郎のやり取りも感動的で美しく、健一郎が惚れた女のためにここまで出来るという言うのは普通に男として憧れますね。
エンディングは『Dear my friend』。タイトル画面のBGMの原曲(というか多分タイトルの方が先なのでアレンジという方が正確?)で、映像も曲もともに素晴らしかった。
藍ルート 『The Happy Prince and Other Tales.』
まさかこうも容易く前章を超えることを誰が想像できたであろうか、少なくとも俺には出来なかった。
もし仮にこれで終わりだったとしても、私は名作だと評価したでしょうね。それほどまでに、素晴らしかった!
タイトルから直で藍ルートに行き、そこから藍を主軸に据えた物語が展開するのだろうと推測していましたが、事実は異なり、そこからは直哉と圭の物語が紡がれた。
確かに藍も重要なキャラクターであり、直哉にとってかけがえない存在なのは疑うべくもない。
事実、二人の関係は美しくも感じました。だが、それ以上に私にとっては圭も直哉の関係に最も心が震えた。
直哉が長山や圭から触発され、再び絵を書くことを決意することから始まり、やがて転機となる吹との対決に至る。
この対決は本当に最高でした。 無謀とも言える対決に挑む直哉、そして中途で吹の絵を見て、着想を得、描き出す。
このときの演出、BGMは素晴らしく、忘れることは出来そうにない。鳥肌が止まらなかった。
それから直哉と圭は作品を完成させノミネートさせる、そしてその授賞式へ。しかし突然、式の途中で圭の死が知らされる。またしても鳥肌。なんという憎い演出をしてくれる!
特に、ここまで人の死といった様な鬱要素が皆無であっただけに、より一層効果的にこのシーンは私にとって印象的に映ったのだろう。
今まで内心に隠していた直哉の圭への友情、それが余計に心を打ちました。
ラストシーンもEDも例の如く綺麗で、総合的にこの章は作中でも最も面白く、感動できたと評価します。
最終章 『櫻の森の下を歩む』
期待の最終章。これまた面白い! 勢いで言えば前章の方がやや上回るものの、やはり終章というだけはあり、多くのメッセージ性を含んだ深みのある内容となっていた。
ここまでの物語ですっかり直哉が好きになっていた私としては、やはり彼の活躍を期待し、それをくすぶらせてからの行動はやはり熱かった。(というかトーマスがラスボスなのかよ……あいつは氏んでくれ(笑))
あと余談になりますが、高校時代編同様、今回の章で出てきた新キャラの生徒達も普通に一本エロゲ作れるくらいには可愛いし、実際攻略したいくらいでした。続編ではぜひ桜子と川内野妹を攻略したいものです。
それゆえか、ある種新鮮味もあって飽きずにプレイでき、日常描写も退屈させない良いものでした。
そして、ラストシーン。藍との再開はキュンと来ますね。藍最高。
藍との夜交わした会話は印象的で、最後の夢浮坂を降るシーンはようやくここまで来たか…… といった感慨深い達成感を味わい、とても感動的なものに映った。再三繰り返すが、本当に素晴らしい。
総評
文句なしの神ゲーです。圧倒的過ぎましたね。
各ルートの個人的な順位は、
雫ルート=水菜編≧藍ルート≧最終章>>>里奈&優美ルート>>稟ルート>>>真琴ルート
……となります。
正直、近年の数あるエロゲーとは格が違うとさえ感じましたし、ここ四年間でこれを超える作品は出ていないのではないかと個人的には(勝手に)思います。
私としては、数年前にプレイした装甲悪鬼村正以来の衝撃を受けました。
前々から期待していた楽曲にも大変満足で、シナリオはもちろんのこと、キャラも好きなヒロインばかりで最高です。
そして、最後にEDとして流れた櫻ノ詩は思わずうるっと来ました。その直前のラストの一文もまた印象的で、思わず鳥肌が立ちました。
そんなこんなで。
この「サクラノ詩」は、ほかのエロゲーでは決して得られない『何か』を体験できる作品だと、私は確信しているので、未プレイの方にはぜひおすすめします。
かけがえのない感動をくれた枕スタッフ一同に感謝を!
当然、続編であるサクラノ刻にも期待です。