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akagamiizumoさんのカタハネ ―An' call Belle―の長文感想

ユーザー
akagamiizumo
ゲーム
カタハネ ―An' call Belle―
ブランド
10mile
得点
82
参照数
880

一言コメント

非常に雰囲気作りに長けている作品。とかく、ココの言動や仕草が愛らしい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオ B+
世界観 A+
キャラ B+
演出 A
音楽 A-
システム A
夢中度 B+

 以前から気になっていた作品の一つである『カタハネ』。
 それが約10年の時を経て、システム周りの環境がリメイクされて発売することを知ったのが、この作品をプレイするに至った最初のキッカケである。

 結論から言えば、
「全体的に見て妥当に面白くはあったが、やや物語の緩急には乏しく、娯楽としての物足りなさを少し感じた」というのが、プレイして間もない今の正直な感想である。少し否定的な物言いになってしまったが、とはいっても特筆すべき褒める点も多く見られたので、それらについてもカテゴリー別に綴っていくことにしよう。


『作品のテーマ』
・歴史の探求(公式サイトより引用)。
「歴史の曖昧さ」「歴史的事実は曲げられて周知されていることがある」
 作風は大きく異なるもののこれらのメッセージは「忠臣蔵46+1」と共通している。しかし、あくまでこれを伝えることにあまり重きを置いていないのか、物語上で上記のメッセージを示唆するような発言や象徴的な展開は控えめ。


『シナリオ』
・シロハネ編
 一言感想でも述べたように、雰囲気作りが一際巧い。これに尽きる。
「西洋を想起させる世界観で旅をする」という基本設定が、既に他には見られない独自のものとなっており、穏やかな雰囲気と無駄のない自然な会話劇、そしてテンポの良いストーリー展開がある種の心地良さを生んでいる。
 当作品で最も評価すべきはその点であると言えよう。

 特に世界観の独自性においては、『西洋・演劇の旅・自動人形』等を中心とした他に類を見ない特殊なもの。エロゲーという括りで見ればこういった世界観の作品は非常に稀有だ。このようなオリジナリティある世界観を構築した点については素直に賞賛すべきだろう。

 物語そのものとしては、上記の雰囲気の良さのおかげか日常描写は思わず微笑んでしまうような愛らしいものであり、それについては高く評価したい。だが、全体的に見るといささか起伏が少なく、刺激の足りなさを感じざるを得なかった。日常描写は良いものなのだが、あまりに多くの割合を占めている。それが"冗長さ"の要因なのだろう。
(厳密に言えば日常描写の比率が多いのではなく、旅の道程における出来事がどれも平和的なものであり、事件性に乏しく、シリアスの度合いとしては低く思われてしまうのかもしれない。ただ、それはクロハネ編とのギャップを狙った演出とする見方もある。)
 その点を気付いてかいないでか、飽きがくるタイミングでクロハネ編に入ったのは適切な判断であったように思われる。

 ルート別に評価を下せば、ココ>共通>>>ワカバ>ベル・アンの順に面白かった。
 上記を見ても明白だろうが、ワカバルートとベル・アンルートは若干の蛇足感を覚えてしまった。誤解を恐れずに、より直截的に述べるなら、その2つのルートを省き共通からココルートの直通、いわゆる一本道作品としての構成の方がより望ましかったように思えてならない。
 そうすれば、既読スキップせずにココルートに入れて、より感情移入してココルートを追うことができたであろう。物語としては少々魅力に欠けるワカバ、ベル・アン√は思い切って失くしてしまうのも一つの手ではなかっただろうか。
 (とはいえ、そうしてしまえば一本道ゲーを嫌う一定数からのユーザーからの支持を得られないのも事実。またココ編の開始地点にクロハネのシークレットストーリーを配置することもできなくなる。)
 ココルートでは、散りばめられた伏線を違和感なく回収していた上に、他のルートではあっさりとしていた演劇の描写にも力が入っており、トゥルールートとしてしっかりと盛り上がりどころを押さえていた。
 「ココルートは文句なし」というのは些か言い過ぎだが、全体としてはこのココルートと序盤の物語が個人的には最も楽しめた部分ではある。
 
・クロハネ編
 ココルートかそれ以上に面白かったエピソード。しかし、シロハネ編とあまりにギャップがあるために「日常をぶった切って急にシリアスに入った」という印象は捨てきれない。
 終始シリアス調で話が続いていき、最初は「まさか俺は別のゲームをやっているんじゃ……」と思わず感じてしまうこと請け合いだ。シリアスというだけあって、やはり比較的シロハネより刺激的な内容となっており、先の展開が気になるストーリーであった。
 意外性に富んだ展開があったわけでもないが、クロハネ編の方が緩急のある展開で退屈しなかった。
 
 そして、特筆すべきは『対ヴァレリー戦』と『シークレットエピソード(終章)』。
 前者は戦闘が主題でない作品でありながら、意外にも"ワクワクするバトル"を演出できていたのには驚いた。一見して、ニトロプラスのファントムを彷彿させるような戦闘シーンで、導入の掛け合いも機知に富んでいて、テキストを読んでいて単純に楽しむことができた。
 後者は言うまでもなく、ほとんどのプレイヤーが感じたことであろう。幕引きの巧さだ。
 シロハネのココルート開始地点にこれを配置した点も秀逸であるし、(展開は結構読めたが)ラストに至るまでのベルとアインの行動が素晴らしかった。アインが作中で最も魅力的な男性キャラクターになった瞬間である。


惜しい点
・総合して意外性がなく、ある程度展開が読めてしまう。
・主人公たちに大きなピンチが訪れない。(何か問題があっても割とあっさり解決してしまう)
・「ベルの記憶にエファの記憶が混ざり合う」という設定を活かしきれていない。
(「ベル、エファの記憶が混じり合い自我が曖昧になる→その状態でアンに合う→アンとエッチして問題解決!」この安易な解決の仕方は如何なものか……。)
・ココに多く謎が残り過ぎている。
1.「ココはクロハネ編以降、どういった経緯で記憶を失ったのか」
2.「ココの『記憶を思い出す』機能は何が目的で備え付けられたものなのか。また、なぜココの製作者はココにこの機能を使うことを禁じていたのか」
3.「ココの製作者のエピソードについての伏線未回収。」...etc.
・ユッシの死に方の違和感。あんなにミステリーっぽくなったのに、結局酩酊状態で階段から落ちただけ(笑)
・レインさんの本名が「アイン・ロンベルク」と同姓同名だという、後付け感満載の事実。そもそも、自分の子供を歴史的逆賊と同姓同名に名付けるだろうか?


『キャラクター(キャラ造形・キャラデザイン)』
 みんな個性的で面白いキャラばっかり。……なのだが、「こいつだ!」と名指しできるくらい気に入ったキャラがあまりいないのも事実。はっきり言うと、憧れてしまうくらい格好良かったり、思わず萌えてしまうくらい可愛らしいようなキャラクターがいないのだ。
 強いて言うなら前者はアインで、後者はベル=エファではあるが。それも特筆するほど格別に良いというわけではなく、全キャラの中で選ぶならこの人が比較的良かったかな、と妥協で選択する程度のもの。
 だが、愛らしさという点で言えば話は変わる。
 その点においてはココはとても優秀であった。ほとんどのプレイヤーはココが一番可愛らしく魅力的に感じたのではないだろうか。その言動や行動は読んでいて微笑ましく、このゲームにおいての『癒し』を担当していた。
 彼女の存在がなければ、また評価も違っていたことだろう。マスコットキャラクターかつキーパーソンとしては凡そ満点のキャラ造形である。


『演出・システム』
 システム周りに特に問題はなかったが、何度か細やかなバグが見られたのが残念だった。
 演出は雰囲気造りにも貢献しており、視点変更時のベルの音は新鮮かつ心地よかったし、クロハネ編導入にココのラストのセリフを持ってきたことも評価したい。あのセリフで何とも言えぬ寂しさを予感し、先の展開を気にならせる仕掛けとなっていた。

『音楽』
 総合して悪いものはなく、及第点よりやや上回るくらいの出来。
 開始直後のBGMは、プレイ終了まで一番好きな曲となった。

『総評』
 非常に惜しい作品だと思う。設定、世界観の独自性は目を引くものだし、重ねて書くが当作品の雰囲気はとても素晴らしい。
 恐らく、シナリオの『無難さ』『意外性のなさ』が名作になり損ねた大きな要因であろう。良くも悪くも冒険していない。もっとアグレッシブに奇抜な展開を設置しても良かったのではないかと。
 しかし、一つの作品としてはまとまっており読後感も悪くない。矛盾・違和感も決してなくはないが、比較的的少ない方であろう。 

 というわけで批判気味に長々と感想を綴ったが、この作品も『雰囲気ゲー』として考えれば十二分な出来と言える。
 私としては物足りなさを感じたのが本音なので、やや低めに82点と評価します。

 もし優しい雰囲気の作品が好きであるならば、良作以上の所感を得られることは間違いないだろう。

※余談だが、このリメイク版のサブタイトル『An' call Belle』の意味に気付いて「おっ」となった。
 単純に「アンコールベル(Encore Bell)=再上演の鐘」と言う意味と「アン コール ベル(An' call Belle)=アン(ナ)がベルを呼ぶ」という意味にかかっている。書き終わって(今更)気付いたが、なかなかに面白い仕掛けである。