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aka_bekoさんのワンコとリリーの長文感想

ユーザー
aka_beko
ゲーム
ワンコとリリー
ブランド
CUFFS
得点
83
参照数
443

一言コメント

言葉にしないと分からない事があって、言葉にしなくても分かることがある。これはちょっと苦くてそして優しい世界のお話。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

人型ペットが存在するという世界観へのツッコミなど、野暮なことはまるっと全投げという。
ある種の清々しさを感じました。中途半端にやられるよりは好感触。
そしてそんな世界で存在するワンコ達は、多少姿は違えども体格や行動、食事なども人とそう違いはありません。
では何が違うのか。ある一点、コミュニケーション能力です。

人間同士は、会話によってお互いを理解し合います。では人間とワンコ達ではどうでしょうか?
作中でのワンコ達の知能は幼児並であり、会話も同じ単語を繰り返すばかり。
(その単語も発音が怪しいレベルだったり、リリーに至ってはほぼ発言自体がない)
同じように会話をすることはできません。会話は出来ているようで、出来ていないのです。
こちらの会話をどこまで理解しているのかだって分かりません。

姿は似ているのに人間とペットには歴然とした壁があって…この距離感が、いい意味でもどかしい。

会話が成り立たない。だから、表情や仕草、行動で相手の気持ちを察することに重点を置かなくてはいけなくって。
そしてそれは、実際の人間とペットの関係に当てはめても本質的に違いはないように思えた。
「会話ができる」設定を入れなかっただけでこんなにもリアリティが増すものか、と感心させられた。




シナリオ的にはどこか甘い日常系の話かと思いきや、中身はビター風味。
「ペットを飼う」ことへの意識や問題。大人と子供の境界線。家族。別れ。テーマとして描きたかったのはこの辺りでしょうか。
個別ルートがあるのかと思いきや、本編+追加のおまけシナリオの構成。
本編はワンコ達と散歩して、透子さんにちゃんと告白したり。しなかったり。中身的にはこれだけなのですがw
わんこ達といちゃいちゃする話かと思いきや、ヒロインは最初からブレなく透子さん1人だけだった。
意外といっちゃあれですが、テキスト差分や分岐が思いのほかしっかり多くてびっくり。
おまけシナリオはおまけ名目ですが、やらないと本編の良さが半分も理解できない。


・いってきます
本編の前日談。ワンコと主人公の日常の話。
顔面騎乗。そしてお風呂プレイ。え?前日に主人公とワンコこんなことやってたの??的な驚き。
無邪気で無知なワンコとの行為は、綺麗なものを汚していく罪悪感でいっぱいになる。

・おかえりなさい
透子さんと結ばれた翌日のお話。
リリーとちょっと仲良くなって、透子さんと新婚っぽく過ごして終わりかと思いきや、伏線回収話だった。
日記帳からの過去話。主人公の父親がどんな人だったのかがようやく分かるのですが、父親はすごく不器用な人で。
過去の事故、後悔、罪滅ぼし、そしてワンコ…なるほど、こうやって物語の起点に繋がっていったんですね。
この話は本編中盤でのワンコの行動と連動して考えてみると色々と深いです。
花に興味を示すワンコ、アパート、鈴蘭、香水、花言葉。その全てに意味はありました。
ワンコは意味不明な行動をしているようで、実はそうじゃなかったんですよね。分からないなりに、感じて考えて行動していて。
「再び訪れた幸せ」も含めて、おかえりなさい。

・ただいま
おかえりなさいの後日談。皆で墓参り。想い出との決別と、2人と2匹との新しい日常。
タイトル的にも内容的にも「いってきます」との対比が面白い。最後の最後で鈴蘭の花言葉で〆る終わり方は綺麗でした。
エロが一番濃いですが、個人的に透子さんとワンコ達とのプレイはいらなかった。でもワンコとリリーのプレイは入ってて良かった。
どうでも良い部分ですが、リリーのリボンはお風呂でも外さないんですね…。


総評など。
設定に関してとか話の構成の上手さだったり。驚かされる部分が多々あった。
本編は比較的あっさりと終わらせますが、それを補完する役割のおまけシナリオの完成度が秀逸です。
「いってきます」と「ただいま」は外に出ていく・行った側が使う言葉。
「おかえりなさい」は迎える側が使う言葉。タイトル的にも上手いなーと思わされた。
おまけの後に本編をやると違う見え方が出来て面白い。1粒で2度美味しい的な上手さを感じました。
ただ、ヒロインは透子さんですが、物語の中心はワンコ達です。ヒロインを攻略するという意味合いでは少々微妙な話ですし、優しい世界から見え隠れする微妙な苦々しさは好みが分かれそうな気がします。

例えるなら、スイカに塩をふりかけたような話だなーと(何を言っているんだ

好きな人は普通に食べるより好きな話。そして私はどちらかと言えばスイカは普通に食べたい人です。そんな感じ。