ErogameScape -エロゲー批評空間-

afv2021さんのAYAKASHI アヤカシの長文感想

ユーザー
afv2021
ゲーム
AYAKASHI アヤカシ
ブランド
CROSS NET
得点
92
参照数
1163

一言コメント

ヒロインの設定としては夜明エイムはかなり絶妙且つ最強。例えるならスターウォーズのダースベーダーが実はルークの父親だったというクラスの強烈さ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

とりあえず夜明エイムの設定については激しくネタバレなので後述するが、全体として実にこのヒロインのためにあるかのように設定が絶妙に仕組まれている。

まず基本としてはアヤカシ使いなる特殊な能力(とも厳密にはいえないが)を持つ者たちの戦いを中心とした学園バトルモノとでも呼べば適当な感じである。
アヤカシとは妖怪の類ではなく、作中では特殊な寄生生物として扱われており、必ずしも妖怪図鑑にあるような姿形ではない。あくまでそのアヤカシの能力からそれに近い妖怪の名称を与えられているのみで、作中では“オニ”や“テング”に“カマイタチ”といったポピュラーな妖怪から名前を取ったアヤカシが登場するが、どれも全く異なるデザインになっている。また、ショウケラ、イワナといったあまり聞かないような名称のアヤカシも登場する。
だが、基本的には寄生生物であるため、宿主に対して最終的にはあまり好ましくない影響を与える存在となっている。例えば取り付かれた人物の人格が激変したり、ある種の感情を欠落するなど精神面での悪影響はもちろん、アヤカシを使いすぎると失明したり最悪の場合には完全にアヤカシに喰われてしまう。
また、アヤカシはアヤカシ使いにしか視認することができないため、アヤカシが物を動かしたり壊したりすれば、それは見えない人にとっては超能力のように見える。

そんなアヤカシに取り付かれ、しかしアヤカシのことなど何も知らない平凡な学生が主人公である。
この主人公、非常に無気力且つ怠惰なのだが、それも深刻な理由がある。
2年前のある日、主人公には憧れ、恋した幼馴染がいたのだが、その彼女に告白する前に彼女は主人公の目の前で亡くなってしまう。ところが主人公はその出来事のあまりの辛さか、その出来事による何らかの影響か、その死に際しての記憶を失っているのである。しかし、想い人を失ったという事実に変わりはなく、それ故に無気力且つ怠惰な生活を送っているのである。

そんな主人公は自覚のないアヤカシ使い(というよりアヤカシに寄生された人というべきか)なのだが、そのアヤカシを狙って様々なアヤカシ使いが絡んでくる中、そんな主人公を守ると言って、突如現れる美少女、夜明エイムの登場で、主人公の周囲は大きく激変していくという物語である。

基本的に攻略可能ヒロインは4人と比較的少なめなゲームである。
対象ヒロインへルートが固定されると、物語の展開は各ヒロイン毎に大きく変化し、基本は同じ設定でありながらだいぶ違った結末となり、なかなか飽きさせず、アヤカシにまつわる設定を多角的に知る形にもなり、中々にイイプロットである。

夜明エイム
主人公を守ると言って、突如現れた少女。“サトリ”のアヤカシ使い。サトリは思考を読んだり、周辺の探査などもできる上に、素早い動きで攻撃もできるアヤカシだが、あまり戦闘的ではない。しかし、彼女は普通ではありえないことにもう一つの“オニ”のアヤカシ使いでもある。オニはかなり戦闘的なアヤカシで、彼女自身も戦闘経験が豊富のようである。
非常に言葉少なく、表情の変化も少ないため何を考えているのかわかりにくいが、主人公には真摯に接しているように思える。

薬師寺陽愛
主人公のもう一人の幼馴染。亡くなった主人公の想い人、牧原和泉とも親友であり、主人公も陽愛の気持ちに気付いていながらも、和泉への思いを断ち切れないがためにそういう関係にはなれないという微妙な位置関係でいる。

パム
“テング”のアヤカシ使いで、彼女は精神的にだいぶアヤカシにより影響を受けているようで、人を殺すことをアリを踏み潰すよりも気楽にしてしまう少女。敵対するアヤカシ使いとして主人公に接触するが、なぜか初対面で主人公を気に入ってしまいフウフになると言い張って主人公を監禁する。

夏原織江
前髪をぼさぼさに伸ばして目が隠れてしまっている少女。主人公の学園の制服を着ているので同じ学校の生徒らしいのだが、エイムのようにある日突如現れ、いつも何か“大事な物”を無くした言いながら探している。探し方も変わっていて川の中に入って底をさらうような探し方をするかと思えば、突然人の服のポケットに手を突っ込んで探るといった突飛もない行動もする。

牧原和泉
2年前に亡くなった主人公の想い人だった幼馴染。思慮深く控え目で優しい。主人公と陽愛との3人の関係では、ややお姉さん的な位置にいたようである。

さて、以降は激しいネタバレになるので未プレイの方は読むのを回避されたし。











実は、主人公は全てのアヤカシの本ともなる“リュウ”のアヤカシ使いである。アヤカシ使いの末路は悲惨な為、それを回避しようと考えた“彼”と呼ばれる“オロチ”のアヤカシ使いによって、2年前のある日、主人公は無理やり覚醒させられ、リュウを発現するも、“彼”のオロチにリュウは一部を食いちぎられてしまう。
“彼”はオロチのアヤカシの性(サガ)である無限の食欲に犯されてしまっており、当初のアヤカシ使いの悲惨な結末を避けるすべを探す一環として“彼”に“サトリ”の能力が故に協力していた「牧原和泉」は、“彼”がおかしくなっており、リュウを食らうことを目的としていると知ったため、主人公を守ろうと果敢にも夜明エイムと戦い、彼女に殺されてしまったのである。
しかし、死の間際、サトリの能力によってエイムの精神に自分の精神を進入させ、主人公を襲わせないようにしようとした結果、肉体の死によって、進入した和泉の精神は戻る場所を失い、エイムの精神と融合してしまうこととなったのである。

つまり、夜明エイムは主人公の想い人だった牧原和泉を殺した人物であると同時に、主人公のことを大切に思っている和泉本人の意識も持っているのである。
それ故に多くを語ることができず、主人公を想っていながらも影から見守るようなスタイルをとり、主人公が彼女に近付こうとしても、彼女は真実を知られることを恐れ、且つ、アヤカシを発現して使いすぎる悲惨さを知っている故に、主人公にアヤカシに関わって欲しくないと願っているのである。
この設定というのは、悪の権化と思っていた敵が実は父親だったというぐらいの衝撃ではなかろうか(笑

作中でも主人公はエイムが和泉を殺したと知ってアヤカシを暴走させてしまう。
憎むべき殺人者でありながら主人公を守ろうとする一途な彼女を信じることで、エイムルートになり、その流れで、和泉がエイムの中にいると知って、主人公はエイムの中の和泉を求めてしまい、しかしエイムでもある彼女はそんな主人公にどう接してよいかに戸惑うといったストーリーは中々面白い。
しかしながら、正直に言えばこの衝撃的設定をもっと深く掘り下げて描けば、もっと深い作品になった可能性はあると思う。その意味では掘り下げはやや浅く、意外にあっさりしているように思える。

とはいえ、作品の基本は学園バトルモノと呼ぶしかないようなアヤカシの戦闘メインな作品なので、ノベルモノというよりはエンターテイメント性を強調した作りになっていると考えればある程度はやむ得ないかもしれない。
戦闘場面として、エイムルートでの最終章での有象無象な異形のアヤカシの群れと対決する主人公の戦闘シーンなどは中々に圧巻である。
また、特殊な能力を持つ様々なアヤカシとの戦いや駆け引きは少年漫画を彷彿させる軽妙さで十分に面白く、中でも“ケバタケ”という特殊なアヤカシ使いとの戦いなどは捻りも効いており、かなり面白かった。

最近のゲームにしてはヒロイン毎にノーマルエンドとトゥルーエンドがあり、個別ルート後でも選択肢によって行き着く結末が変わる展開となっているのもゲーム的には好ましい。
加えて、主人公以外の脇役と思われた件の“ケバタケ”使いの「前川」ルートや、アヤカシによって苦しむ妹を持つがために“彼”を嫌悪しつつも従わざる得ない主人公の学園での先輩「平馬」ルート、エイムの実の姉であり、“彼”に妄信する「夜明アキノ」ルートなどもゲーム進行に応じてプレイ可能になり、各自の立場や視点を知ることでアヤカシに関わる物語をより広く魅せる事に成功しているといえよう。

意外にもしょうもない脇役に過ぎないと思っていた「前川」などは、このルートを読むと実に“漢”(おとこ)だと感じさせられたり、冷徹な夜明アキノの悲痛な心情なども興味深く面白かった。