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afterschoolさんのもののあはれは彩の頃。の長文感想

ユーザー
afterschool
ゲーム
もののあはれは彩の頃。
ブランド
QUINCE SOFT
得点
84
参照数
103

一言コメント

世界観が作り込まれていて、引き込まれる作品。伏線回収も見事で、ゲームとしての完成度が高い良作。ただ、個別√が異様に短いため、萌えゲーと言われると疑問が残る面も。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品のシナリオは、共通ルート1~3、True、個別ルートの三段階に分かれる。

共通ルート1(みさき)の話は、tureにつながる重要な伏線を張る話であるため、物語としての面白さは後述する2つに比べると劣る面もあった。
共通ルート2(琥珀)の話は、黎による見事な双六の仕組みの解明、それを上回る琥珀の戒、みさきの想いなど大どんでん返しの連続でとても満足できる内容であった。
共通ルート3(クレア)は、最も萌えゲーらしいシナリオで、クレアの可愛さが引き出されていた。シナリオの帰結の仕方も予想外でバランスの取れたシナリオであった。

Trueでは、はじめに重要な秘密としてループ構造を取っていることが明かされる。物語の節々から予測は可能であったが、これも美少女ゲームという媒体ならではの仕掛けで素晴らしいと感じた。
また、一人称視点の違いから実際は現国の国語教師?らしき人からの視点として見ていたという、名作ever17や車輪の国、向日葵の少女でも見られた、ノベルゲームにおける一人称の状態を逆手に取った手法でゲームとしての価値を高めていたと思われる。

個別ルートに関しては、30分ほどで終わる短いものであったため、もう少し尺が長くても良かったのではと個人的には思うところである。

一番好きだったシーンは、鹿乃VS大誠である。極めて科学的な視点から物事を見る彼が、その自身の信条にかけて命をかけて助け、戦うシーンは必見である。その後の二人のくっつきそうでくっつかない感じは見ているこちらとしてももどかしくなるようないい関係で微笑ましくなった。

総評して、この作品は冬茜トム氏の処女作としてシナリオ面で多くの伏線を張り、美少女ゲームならではの特性を活かした作品となっているが、キャラ萌えや感情移入の面では少し弱いと言わざるを得ないものであった。
特にメインヒロインの京颯は共通ルートでの描写が薄いせいか、本来は主人公を暗い日々から救い出した希望の存在であったのに、個別ルートのみで扱いが酷いと感じる。
シナリオにも少しご都合主義のところが見られ、難しい伏線を当てるゲームというよりは謎を一つの説明によって氷解するというコンセプトに近い。特にクナドと暁の関係は、とってつけたような設定で違和感が拭えなかった。

しかしながら、雰囲気ゲーとしても、京都のこと、双六のことについて下調べがしっかりなされ、世界観がしっかりした、貴重な秋ゲーでもあるので、ぜひ多くの人がこの”双六”を遊んでいってほしい。