「2番煎じ」とタイトルにつけ、前作の短所を削り、長所を伸ばしたところにはまさに感服。里伽子ルート、恵麻ルートの感想のみです。
里伽子ルート、恵麻ルートの感想のみです。
(ネタバレ注意)
<夏海 里伽子ルート>
全ルートの真相を知った上で、主人公と結ばれて欲しいヒロインを選ぶとするならば、里伽子である。
前作では翠か香奈子さんで迷うところですが、今作はダントツ。
ショコラプレイ済みであれば、キャラクター紹介だけでピンとくるだろうが、
里伽子は前作の香奈子さんのポジションである。
性格、知性(能力)、昔からの付き合い、少し開いた距離など。すると―
・昔の関係になれない、仁に隠している理由がある
・でも、仁のことが大好き
・仁も未練を持っている
・2人だけの目標
*一番下はファミーユ本店ネタが恵麻に行くので一見ハズレだが、最終的には別の目指すことができる
あたりまでは前提として冒頭から里伽子を見ることができる。
主人公とは違う立場になってしまうのだが、主人公とのシンクロを心がけるより楽しめるのではないだろうか。
*そもそも、この作品では、プレイヤーは主人公がいない場面でのやりとりを沢山見ることができる。
さて、このシナリオが他ルートよりも良いと考えるのは、
・「里伽子には裏がある」と身構えているプレイヤーさえ騙され、感動させられる多段階構成とミスリード
・「真相を知ると(里伽子がいる)全ての場面の解釈が変わる」といっても過言ではないくらいの多数の伏線(があるのに、里伽子ルート中盤までバレない)
という仕掛けとともに、
1.舞台のベースにある雰囲気(登場人物の優しさ、暖かさ等)
2.里伽子と結ばれるまでの過程(とても近くにいて、無防備のようで、踏み込めない関係)
3.真相がわかってからの解決手段
の良さによって、仕掛けだけではなく、純愛物として内容のあるものとなり、
かつ、日常描写も楽しく、読み終えた後には感動の残る物語となっているからである。
*上記1については、他ルートにもあてはまる。また、フォセットの里伽子抄が顕著である。3については後述。
多段階とは、
火傷は嘘→本当のケガの話→ケガをした原因→その時に頼れなかった理由 であり
ミスリードとは、火傷は嘘、の理由を「甘えたいから」という方向に導くものである。
この誤答に主人公より少し先に辿りつかせて、そこで思考停止させるのが何とも上手い。
(プレイヤーは主人公が気づくのを待ちに入る)
里伽子と結ばれたところで一安心(?)しているのもあって、
「まだ何か隠しネタがある」と思っていても、ここで一気に結びつくとは思っていないだろう。
伏線に関しては、里伽子のイベントでは、食事・メガネ以外に
・お泊り回避(12/31)
・手を縛る(12/24)
・カウンターの下に手を隠す(12/22)
・「何か心当たりでもあるんですか?」(12/7)ハンカチで仁の顔を拭くのを、恵麻にさせる
・パソコンを調べるのを断る(11/20)、この日のブレスレット回想(告白時に…)
・授業中の様子(11/9)
・すぐ近くにいる人の方が大事(10/27)
等がある。きちんと探せばもっとあるのだろう。
もちろん、復帰しないこととか、立ち絵のポーズとかからすでに始まっていたのだが。
右手という語の入り方も上手い。
真相を知る前は自然に読めて、後から見れば里伽子の行動のたびに
「これでもか」という程にあったことに気づく。
その他では、
・共通:位牌が偶然に転がってた話、里伽子は線香をあげない(12/1)
・何人かのルート:「いっしょに卒業できない」
・恵麻ルートエンディング:土下座への最後の返答→「スタートライン」
・明日香ルートエンディング:「余裕かな、ある意味」
・玲愛ルートエンディング:「幸せになってもらいたい」
・「全員、けがひとつない」と仁・恵麻が違う日で発言
あたりは、見方が大きく変わるだろう。外国のお客さん(11/23)の後に、
みんなから復帰を求められて「ごめん、ね」という場面も実は痛い。
「………」にも単なる呆れではないところがある。
もう1点、プレイヤーを引き込む展開としては、里伽子の現状に関して、
仁は自分のせいだと思い込む点である。
*その時点では、主人公‐プレイヤー間の情報差もなくなり、シンクロしやすくなっているのも効果的。
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<里伽子ルート:真相解明直前より>
なんで、こんなに悪寒が走る…?
予感でも、あるのか?
(中略)
その形は、パンドラの箱を開く鍵。
(中略)
予感があるから。
俺の罪が、赤裸々に次から次へと暴かれていく…
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一連の中で「仁ならどうするか考えた」、はトドメのセリフ。
もちろん、「仁の言動に関係」はあるのだが、「仁に責任がある」わけではない。
冷静に考えれば、無茶をした里伽子が悪いし、
言われるまで気づかなかったのも里伽子が隠し通そうとしたからだ。
ただ、プレイ時にはそんなことは考えず、レビューする時になって気づいたのは、
「得」をしたと思っている。感動する機会を失わずに済んだのだから。
そして、真相解明後の解決(エンディング)までの流れが美しい。
「あしたのために、その1~3」といった仁の行動や、里伽子の努力と絶望といった影の部分はあるのだが、
物語の締め方としては、とても綺麗にできていると思う。
ここでも前作を引き合いに出すが、この場面の爽快感・感動は「宝石箱」と「道具箱」の話(*)を超えている。
シンプルかつ他作品との差別化という意味で。
*これはこれで「良く思いついたなあ」と思いますが
後述する恵麻ルートでも触れているが、仁が1番大切にするのは家族、つまり恵麻が1番。
里伽子という「家族以外で初めて好きになった女の子」はどうしても1番になれなかったのだ。
仁が信念を曲げず、かつ、里伽子を1番にする唯一の方法、それが結婚、2人の関係を変えることだった。
今までにプレイした作品の中で、本編の終わりの方、あるいはエピローグで結婚する話はたくさんあったが、
展開上、これほど意味を持った「結婚」の話はなかったと思う。
(余談)
里伽子ルートの完成度が高く感じられるのは、
・4人のルートで伏線が多用され、「里伽子か他か」くらいのポジションにいること
・恵麻ルートでの里伽子の態度により、その想いが感じられること
も当然あるのだが、里伽子の設定が前作の成功(?)を活かしたものであることも大きいのではと思う。
・主人公との仲が(恋人同士という意味で)いいところまでいっていたのに、今はつきあっている状態ではない
・主人公に対する想いを隠している。かつ、主人公の近くにいて、できる限り主人公(達)を助ける。
・主人公との付き合いの長さは(ヒロイン中)2番目で、1番長い相手に嫉妬している。
・主人公にとって「2番目」であり、結ばれてからもそれが逆転されない。(主人公の無意識な部分は特に)
・主人公が真実を知った時に「自分が助けてあげなければ(幸せにしてあげなければ)」と思う度合いが高い
↑を前作の香奈子・翠と比べると、
2人の「いい方(好かれやすい方・感動されやすい方)」を受け継いでいるといえるのではないだろうか。
<杉澤 恵麻ルート>
おそらく、2番目に中身のあるシナリオ。
ただ、その中身の大半は里伽子ルートを映えさせるために存在していると思えるほど。
内容的には、
・姉に甘える(溺愛される)話
・昔からの恋を実らせる話 が好きなら、かなりお勧め。
里伽子・恵麻のTRUEルートは12/24の途中まで同一であり、クリアした後に考えれば、
あのときの仁の行動で、知ることができる真相も結末もあれ程大きく変わってしまうのかというものがある。
さて、この「同時攻略」状態をゲーム性としてではなく、シナリオ上の構成として見るとどうだろうか。
里伽子ルートから見て恵麻は、自分を2番目以下に追いやる存在であり、
仁と結ばれることを最も認めたくない存在である。(里伽子ルート内では4番目以下という言い方がされる)
家族(特に恵麻)を大切にする等仁の昔からの行動が、
実は里伽子の現況を間接的ではあるが大きく変えたということが、
恵麻のイベントを辿っていくことによりわかってくる。
*これには里伽子の態度にも非があるがそれは別の話とする。
一方、恵麻ルートから見て、
里伽子イベントは「里伽子に振られた仁を恵麻が慰める」という展開を導いている。
恵麻は仁の里伽子への想いをよく知っている。
仁と里伽子の関係に一つの決着がつき、里伽子に後押しされていたことで、
「(二重以上の意味で)弟である」という制約を超えることができたのではないだろうか。
*もちろん、結ばれた後に一悶着ありうるのは里伽子だから、ということがあってのことだろう。
さて、恵麻ルートの長所は、里伽子ルートと同様、
「プレイヤー(その内ほとんどは主人公も)の知らない事実」のバラし方が上手く、
物語を中身のあるものとして展開させていることではないだろうか。
恵麻ルートでは月例会(11/10)から何回にも分けて少しずつ、
2人の関係、昔からの想い、過去の出来事が明らかにされている。
各時点での仁のもどかしい、そしてやるせない想い、動揺、驚きが上手く描写されていると思う。
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<恵麻ルート:四回忌(11/17)>より
「なによぉ、初恋の君」
(略)
―杉澤恵麻
今、俺の隣で不機嫌に振舞うこの人は…
ま~姉ちゃんであり、恵麻義姉さんであり、
従姉の女の子であり、幼なじみの女の子であり。
そして…実は許嫁だった。
(略)
なぜなら…
”俺の初恋の相手”が、肩にもたれかかって、
眠っているから、だ。
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このイベントと月例会で、仁にとって恵麻の存在が「恋をし続けてもいい人」になっていったといえるだろう。
個人的には月例会の「一度とゼロには、無限にも近い差が…」という部分がお気に入り。
ところが、物語当初から語られているように、仁には乗り越えられない壁として一人の存在がある。
それは、自分が恵麻の初恋の相手とわかっても全く崩れない。
本当の四回忌(12/22)では、その一人に関して新事実(仁を溺愛、キューピッド)を知るとともに、
仁には諦めの気持ちが出てくるというのが心を揺さぶるところである。
ここで出てくる、プロポーズの言葉の話、「本当の意味でのコンプレックス」の意味は、
実は文字通りの解釈が正解というのが最終局面でわかるのだが、
この時点の仁にとっては「自分は一人の代わり(勝てない)」というのも面白い。
・運命の12/24では、「里伽子の代わり」「慰める」という恵麻、初恋の人が恵麻だという仁。
・Hシーン2回目(5年前の…)はお互いが初恋の相手というのを有効活用
この少しずつの変化が、恵麻が全てを話すまで続いていくのがこのシナリオ。
お互いに初恋で一番好きな相手で、実は誰にも負けていなかったのに遠回りをし続けた2人の物語。
この物語は、結局、「初恋は、そう簡単には、諦められないの」に落ち着くのである。
しかし、この構成も里伽子の真相を知った後には大きくワリを食う(逆はそうでもない)。
土下座の場面とエンディングはもちろんのこと、里伽子が仁の前で涙を流す喫茶店のシーンでは、
「半年前」に関する里伽子のセリフと真実を知らない仁の戸惑いが交錯する。
この部分は再プレイしてみると1度目より深く重いものを感じられると思う。
(余談)
エンドタイトルは「そしてまた3人で~その2~」
初めて見たときは、ショコラファン狙いの上手い落とし方だな、くらいに思っていた。
里伽子ルートクリア後は、その場面に込められていた多くのことを感じるとともに、
これもファミーユ的TRUE ENDとして価値があるのではないかと思えた。