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a-bitさんの虚ノ少女の長文感想

ユーザー
a-bit
ゲーム
虚ノ少女
ブランド
Innocent Grey
得点
95
参照数
1305

一言コメント

パラノイアを断ち切る事ができるのは、果たして何か。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「殻ノ少女」プレイから待望していた続編たる今作品、製作開始の一報を聞きつけ期待を胸に生きてきたものの、私生活が多忙となって購入まで時間がかかり、真夏の夜に冬が舞台の今作品をプレイすることに。

結論から述べると、期待を大きく上回る仕上がりになっており、今までプレイした作品の中でも最も楽しめた作品と呼んで差し支えないと思えるほどの名作であった。

この作品は前作と同じように複数の作品が交互に関係し合いながら進行してくことになる。
すなわち、
①人形集落からの因習である”ヒンナサマの祟り”並びにそれを利用した戦後の殺人事件
②天恵会内部、及び白百合の園を巡る事件
③前作から続く殻ノ少女事件

これらの内でも、特に①の事件が非常に面白かった。僕自身が鈍感であることはもちろん否めないが、時坂が気付き、罠を張るタイミングになるまで真犯人がさっぱり思い当たらず、見当違いな容疑者をプレイヤーに絞らせるあたりは前作よりも進歩したと感じる。(前作でも犯人が特定できたかといえば必ずしもそんなことはなかったが...)。そもそも過去と現在で同一人物であることが、プレイ後に公式サイトで比較してみれば一目瞭然であり、声を聞いても明らかであるにもかかわらず、一周目にはまったく気づかなかった。実の親子の関係なども同様であり、己の愚鈍さを呪わずにはいられない。
ただ、過去編でも多少の伏線はあったとはいえ、犯人が花恋というのはどうにも納得がいかなかった。唐突である感が否めず、動機としても矛盾こそなくともあまり腑に落ちる結末ではなかったように感じた。これは他のプレイヤーが指摘している通り、花恋には今までのこのブランドのヒロインほどの狂気・偏執を感じさせる描写に乏しかったという印象がもたらしているように思う。カルタグラの時のように終盤までヒロインが姿を見せないという条件でもないと、プレイヤーに犯人と疑われないようにしながら狂気を演出するというのはなかなか困難なのかもしれないが...残念!

人形集落を巡っての人物関係・更にはその閉鎖的な世界観も非常に魅力的であった。ただ、黒矢と朽木が親戚であるという設定はそこまで重要であったのか?確かに千鶴の撮影した写真が後々重要な意味を果たしたという点では評価できるが、そこまで重要な設定であったかも疑問である。これは次回作に繋がる関係ではないかと密かに勘ぐっているが、果たしてどうなるか。

また、この作品のキーワードとしては近親相姦・もしくはそれに近い閉鎖的な一種の家族関係があると考えられる。その結果、時代や場所、事件を越えて登場人物がより密接に関わり合い、どの人物も事件に何かしら関係がある、という重厚な展開になったと考えられる。逆を言うと前作より客観的な立ち位置にいる人物が少なくなってしまったのは少々残念な点ではある。(以後事件に巻き込まれる可能性が否めないからである)



②に関してもシナリオの出来は良く、矛盾を感じさせなかった点は評価できる。
ただし、抽象的な表現の多用のためか、実際に何が当時起きていたのかということを曖昧に表現しているため、必ずしもスッキリとした印象ではなかった。また、雪子に対してそこまで思い入れがなかったこともあってか、この事件に対する重要度があまり感じられなかった点も大きい(終盤の教会のシーンでも、周回したこともあってかそこまで感動を引き起こされるようなことはなかった)
雪子の出生も最後まで疑問であったが、これに関してはこじつけというか後付けな感が否めない。もう一捻り何か裏があっても良かったが...もしかしてあるのかもしれない。

しかし、今作品では明らかにならなかった黒矢尚織の行方、並びに彼の思考はいったいどのようなものなのか。過去編で見せた聡明さを現在も持ち合わせているとは到底思えず、これもまた彼自身に何か変化があったと考えるのが妥当だと思われるが...(例えば白百合の園での一件、など。)



そして③である。本作品中は殆ど動きがないように思わせておいて、イノグレスタッフは最終章でプレイヤーに衝撃をもたらした。正直冬子が遺体になって発見されるとはまったく想定しておらず、分かっていたこととはいえ、彼女の人生の終わりを突きつけられて、僕も時坂と同じように悲しみに暮れてしまった。
プレイ開始のセリフ(全ルートクリア後のタイトル画面のセリフと対になっていると考えれば、これは冬子のものであると考えても差し支えないのではないか?)やカットインで想像はできていたはずだが、はっきりと死を宣告された時坂には感情移入してしまった。
由記子を失い、冬子を失い、彼はその先に何を見るのだろうか。



「殻ノ少女」シリーズ最終作。期待して待つことにします。素晴らしい作品をありがとう。







※以下は作品そのものに関する言及少なめ...
捜査パート自体も前作より難度が下がり、適度な快適度が保たれていた。ただ、得られた重要な証拠というものが杏子のリボン程度であったというのは少々無駄骨感が否めないが...
また、真崎視点になったときにノート画面が開けない仕様は改善していただきたい。同様にスキップ機能にも改善の余地があるように感じられた。
また、人物相関図には存在した雛神理花のグラフィックがせっかく存在するのであれば、ぜひ回想シーンで利用してもらいたかった。