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YamさんのCHEERIO!の長文感想

ユーザー
Yam
ゲーム
CHEERIO!
ブランド
Tactics
得点
80
参照数
1876

一言コメント

気になって仕様がない一本。埋もれてしまうには惜しい。このライターは只者ではない、かも。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオの「作り方」が達者なライターは珍しくなくなったけど、このゲームのメインライターの「イ也(いなり)」さんは、「書き方」に特化した人ではないかと。

まず、話の流れにプレイヤーは確実に置いていかれます。何故かと言うと、主人公が持っている情報がプレイヤーに提供されないからです。主人公は「そんなこと知ってるだろう」ばりに、こちらに何の説明も無く、自分の言葉で(例えるなら、日記に自分のプロフィールや友人紹介は書かない、という感覚で)話を進めていくので、プレイヤーは、彼の人間関係や人生履歴を、状況から二次的に判断していく他ありません。「脳内補完」どころの話ではないです。全編通してこんな感じです。

これを「説明不足」と切って捨てるのは簡単なのですが、最後まで遊べばすべて理解できるので、失敗も破綻もしていないでしょう。それどころか、「書かない」ことによって「書く」よりも雄弁に物語を語ってしまっている文章能力の高さは、単純に感動できました。
少なくともこのシナリオライターさんは、ぜったい確信犯です。技量が不足しているからではありません。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、あるヒロインのシナリオでは、「主人公は知ってるがプレイヤーは知らない」というシチュエーションをあからさまに利用して、トリックとも言える仕掛けを用意しています。僕は見事に騙されました。

会話が、また好いのです。
(ゲームに限らず)文章化された会話というのは、実際に僕らが発声する日常会話と異なります。読み手を意識して、変換されるのが普通です。が、この作品の会話は日常会話のそれに極めて近いのです。一見、無駄にしか思えない相槌や、明らかに本人同士でしか意味の通らない台詞とか、バンバン出てきます。しかし、これに慣れてしまえば、やり取りは軽妙そのもので、非常に心地よいです。

ストーリーそのものは、平凡な学園内恋愛系に見えるので、世間では恐ろしく地味な扱いなのですが、前述の要素によって個人的に興味深い一本になりました。エロゲーはシナリオ、と言う方には興味本位でも遊んでみてほしいです。

蛇足
一部で評判の悪い「殆ど出番のない正ヒロイン」のEDですが、これは物語中盤の彼女との事件で、他ヒロインへと物語が分岐することを考えれば、彼女の結末は必然ではないでしょうか。僕は納得しています。
妹(従兄弟だけど)キャラの「真尋」は、個人的に家族計画の末莉より強いです。