誰も褒めないので褒めてみる。「合わない」なら仕様がないが「知らない」という機会損失は惜しまれるべき。ホントに長文。ネタバレは少し。
シナリオ重視とエロ万歳が共存してる私の価値観において、両者を同時に満たすものはそうそう見つかりません。
というか、メーカーさんは、どちらかを特化させて売りにいくのが普通です。
私もどっちつかずの一本を遊ぶよりは、二本買います。
しかし、このゲーム作った人たちは、どっかおかしかったようです。
数少ないサイトの評価を見ていくと、たいがい酷評されてます。
私は、このゲームを漱石さん一枚で買いました。お釣りまで貰ってしまいました。
なんか、後ろめたい気さえします。このメーカーさんは、これが最初で最後の作品になったようです。
ゲームを始めると、いきなり画面そのものが動きまくるのに、まず度肝を抜かれました。更に、キャラ立ち絵が所狭しと飛びまわり、拡大縮小、回転さえします。
私は、Fateもマヴラヴもプレイしてないので比較はできませんが、前世紀にこんな手の込んだ演出をやらかした無名メーカーがあったということだけで驚きです。(他にもあったようですが。)確かに固定された一枚絵と比べれば、動かす事を前提としたそれは、原画の拙さもあって見た目の貧弱さは否めません。技術的な高さは分かるのですが、無理が出てる部分もあります。
しかし、見てるだけで楽しい。
これに尽きます。キャラの感情や場の雰囲気が、この演出によって完璧に補完されてます。こんな面倒くさい処理をしてまでユーザーを楽しませようとするスタッフのやる気が伝わってくるのは確かです。
で、シナリオなんですが、序盤は前述の演出も相俟って、すわ学園ラブコメ萌え萌え路線かと錯覚します。
というか、素直にそうしとけば汎用性の高い作品にはなったと思います。
だから、このライターさんはおかしいです。
中盤以降、徐々に歯車が狂っていきます。なんというか、東鳩的学園モラトリアムへの呵責ない攻撃。辛らつなパロディも多々あります。本作では、手垢のついた萌えキャラ、ラブコメ設定に対するifがひとつのテーマになってると思います。
6人のヒロイン中、なんの後腐れもなくEDを迎えられる娘は(解釈にもよりますが)いません。個人的には全部バッドエンド。
特に正ヒロインのシナリオは悲惨としか言いようが無いです。ありふれたパステルカラーの学園生活が地獄に変わる瞬間。ベクトルは真下。どんな陰惨な凌辱系でも、(フィクションとして)大抵楽しめる私が、思わず途中で逃げ出したくなりました。ここまでやるのかと。それはやりすぎちゃうのかと。
で、どういうわけか泣けます。
思うに、これは「悲劇」の不条理に対する「泣き」です。
主人公とヒロインの辿り着いた結末は、そらもうひどいもんです。その理由の一つとして、主人公のヘタレがあるのですが、君望の主人公と決定的に異なるのは、仰々しく葛藤したり格好つけたりしない点です。誰にも許しを乞わない点です。どこまでも自分の欲望と弱さに忠実。自覚してる言い訳。完膚なきまでに最悪。しかし、私はこいつがどうしても嫌いになれません。
そして、ヒロインにも非がある。弱さという点では主人公と同罪。この二人の誤解とすれ違いに(これ自体はありふれた構図ですが)、学校という閉鎖空間での性的暴力とイジメ。スクールカースト制度の無情という生々しさ、ライターの確信犯的な悪意が介在してくることによって、「これはもう、こうなるべくしてこうなったんじゃないか?」と納得してしまいました、私は。
このゲームやって、爽やかな感動や、前向きに生きていこうなんて感情は微塵も涌きません。胸をナイフで突かれて更に引っ掻き回されるような、暴力的なまでの悲壮感と虚脱感。中途半端なことはやってません。あえて言うなら逆癒し系。自傷系。
なにも「シナリオがいい」=「泣けるいい話」とは限らないのです。要は、感情の揺れ幅であって、その内容は本来関係ないはずです。たとえば、プレイヤーに「夢も希望もない絶望感」を与える事を目的とし、とことんまで極めたゲームがあれば、それはやはり「いいシナリオ」とはなかなか言われませんが、ライターさんの技量については疑うべきではありません。
ハッピーエンド至上主義、及びそれに類する思想しか受け入れられない人には、このゲームは絶対に向きません。というか、殆どの人には向かないと思います。
補足ですが、システム周りは腐ってます。進行上どうしてもストレスがたまる仕様です。創意工夫は認めるのですが、これは裏目に出てます。スタッフも気付いたらしく、特典CD内に攻略チャートとコンプ済みセーブデータを突っ込むという捨て身のサービスをしています。不具合もありますが、パッチはもう手に入りません。
エロがなければ成り立たない、しかし一貫したテーマを抱え込み、ユーザーに訴えるものは確かに存在する。そういう意味ではこの作品は一流です。そして何より感動したのは、「新しい事をやってやろう。俺たちにしか作れないものを作ろう」という小メーカーの青臭いけど忘れられがちな情熱が伝わってきたことです。愚痴を言わせてもらえば、DOS時代のエロゲメーカーて、こういう人たちがいっぱいいました。可能性の実験場みたいな意味合いが強かった。地雷も多かったですが、光るものも確かにあったんです。そして、こういう作品とメーカーをスルーしてしまった今のWinユーザー(私も含めて)は、やはり問題意識が希薄になってる気はします。