ストーリーの構成、伏線の張り方は素晴らしく、魅力的であるべきキャラの書き方も良かった。欠点は文章にリズムがなく読み進めるのが少々しんどかったことか。
ミステリー風味と察し、丁寧に読んでいたためか、各4~6時間ほどとかなり時間のかかる作品だった。
しっかりと重ねて張られた伏線がていねいに回収される物語になっているのだが、話の筋はひどい。
夜子は魔法の本を通じて親友を2人を殺し、母も殺し、それらの残した残滓に全面的に依存してようやく自分の生き方を見つける。真実を知ったはずなのに失われたものを振り返る事は無く、恋心の問題に全てを偽装して何事も無かったように日常生活を送ろうとする。
瑠璃は不条理に対する怒りや喪失の悲しみに自殺で決着を付けてしまう。紙の上の瑠璃は自殺をする事ができず、自然な人間の心の反応を見せることもできず、到底許せるはずがない魔法の本の干渉に、そこにはそれぞれの意思が関与していたのだと解釈して納得してしまう。
かなたは幾度愛を奪われても決して屈しない。瑠璃の全てを許容するスーパーヒロインである。終盤の後半の異様とも思える瑠璃への態度は美しく、感動を呼ぶかもしれないが、人の心を持っているようには思えない。
理央はおっぱい担当以外の貢献がない。
妃は兄への依存が強すぎて死を選ぶ。
魔法の本がなければどうなっていただろうか?
闇子と夜子は島流しに遭うことはなく瑠璃と出会うことはなくひっそりと遊行寺家の中で潰えていくだろう。
瑠璃とかなたは教会で結ばれ、煌めく日々を送っただろう。
妃はかなたと友情を育み、兄離れをして普通の人生を送ることができただろう。
魔法の本がもたらした干渉の大きさに対して、それを用いた夜子の代償が小さすぎる。失われたものが大きいからこそ得られたものに価値があるという錯覚を意図的に狙った夜子のサクセスストーリーを意図していたのだろうか。それなら夜子のその後をきちんと描くべきだろう。
クリソベリルのエピソードで同情を誘い、罪を相殺させようとしているが、あまりに不釣り合いで後味が悪い。