恋は人間関係を表す一つの言葉であり、人間関係は社会の縮図でもある。各ルートにおける主人公達は同年代の中ではそれらしい葛藤と向き合い、大人と共にあれば無遠慮な我が侭を露呈し、子供と共にあれば自らを押さえ込もうとする。小説や映画とは異なるノベルゲームならではの表現を志した名作である。
ある人物の有り様と、ある人物の行動のつじつまが合う事が好まれる傾向にあるが、ある人物の有り様が不変であっても、状況が異なれば行動は異なりうる。小説や映画等の展開を一つに定める必要のある媒体ではそのような反実仮想は求められないが、選択肢の存在するノベルゲームは異なる。
詳細にフラグ管理を調べた訳ではないが、おそらく本作はプレイヤーの選択とは無関係な部分において一定のフラグが制御されている。そのため、本作は人物の有り様とその人物の行動が一対一対応にはなっていない、これが、多数の物語の可能性を許容し、そしてそれでいて崩れない主人公達の関係の意義を深めている。
「最果てのイマ」以来久々にノベルゲームという媒体ならではの表現方法に出会えたことが何よりもうれしい。
個々のシナリオはやや地味との印象を受けるかもしれないが、個々の人物を丁寧に描きつつ、最終的に全員がそれぞれの恋ではない何かを見つける完成度の高い構成になっている。読み手によっては恋以外の何でもないのでは、と思うかもしれないが、本作の人物達がたどり着いた関係を一つの「恋」という単語に落とし込むのはあまりに乱暴であり、当人達の好むところではない、それが本作の主題であり、タイトルになっているのだろう。
登場人物の表情の描写は並の作品であれば十分なものであったかもしれないが、本作では文章と描画の間に乖離を感じた。一般的な萌えゲーであれば十分なのかもしれないが、本作のシナリオで求められた表情が描き切れていなかったように思う。緊張感の描画は十分にできているが、力の抜けた状態がうまく描けていなかったのだろう。
セックスシーンは人間関係の描写として必要だったのかもしれないが、ちょっと長すぎたかもしれない。これほど長いシーンは読んだことが無かったし、全部のルートにおいてこれだけの描写が必要だったとも思えない。