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VisiongroveさんのARIA The NATURAL ~遠い記憶のミラージュ~の長文感想

ユーザー
Visiongrove
ゲーム
ARIA The NATURAL ~遠い記憶のミラージュ~
ブランド
Alchemist
得点
45
参照数
134

一言コメント

このシナリオを何故ARIAの世界観で綴ったのか判らない。

長文感想

同名アニメを基にしたゲーム。24世紀。大学で都市設計を専攻する主人公の青年が教授に勧められてマンスーモ(地球)からアリア(テラフォーミングされた火星:地表の9割が水で覆われている)を訪れ、ウンディーネ(水先案内人:ゴンドラの漕ぎ手)の灯里に案内を頼んでネオ・ヴェネツィア(作品の舞台:現実世界のヴェネツィアに近い)を廻る最中に財布を川に落として一文無しになってしまい、お金を工面出来るまでARIAカンパニーに居候という形を取る。更に灯里の練習相手と文化を学ぶ意味で体験目的にウンディーネまでやる事に…というお話。

一見恋愛物のギャルゲーに思えるが恋愛物ではない(重要)。

基本的にはARIAの世界に浸れるもののシリアスはある。展開(もしくはプレイヤーによる選択)で青年が余りにも後ろ向きな行動を取ると当然のようにウンディーネ達に怒られる。怒り方は性格を反映していて長くは続かないが、説教くさい(世界観に合わない)と感じるかも知れない。また青年の置かれた状況が判らない描写も多く、世界に浸るのを阻害されたと感じる可能性もある。伏線が伏線になっておらず、判らない事だらけになるのが原因と思われる。

シナリオは章単位で区切られていて個別ルートは一応あるものの、基本となるシナリオからヒロイン毎に多少話が分岐するだけで8割方同じ内容。にも拘らずルートが違うためか既読部分を飛ばせない(強制スキップは可能)。一度個別ルートに入っても別の個別ルートにスイッチ可能な選択肢が何回か出るが存在意義が不明。また青年が優柔不断な性格のため選択肢に対する反応が二転三転してどれが正解なのか判りにくい。

EDは10種類。通常ルートの灯里、藍華、アリスのグッドEDを見ると真ルートが解禁される。

青年とプレイヤーの視点は初め「ARIAを知らない」状況だが、読み進める程アニメ版の知識を前提とした文章になっていく。酷いものになるとゲーム内では初登場なのに親しげな言動をする乖離すら発生する。プレイヤーは周回する事で知識を蓄積出来るが、何故かその章内の全選択肢を選んだ事を前提として書いているのが原因。これでは初周の選択次第で訳が解らず投げ出したとしても誰も責められない。逆に言えば、初周に耐えれば然程問題なく世界観に入れるようになる。但し同じ過ちを真ルートでも繰り返しているためここでも脱落者が出るかも知れない。

また本来確りと書くべき部分を飛ばしてイベント的な展開ばかりを優先するため、何故そのような経緯に至ったのか首を傾げる場面が多い。例えば最序盤に無一文になったはずの青年が然程日数の経たない内ににお金を使う描写がある。しかしそれ以前にお金を工面した描写はない。そもそもお金があるのならARIAカンパニーで居候する必要はなくなっているのに何故か居座っている。また青年がウンディーネとして練習する描写は最序盤にほんの少しあるだけなのにいつの間にかゴンドラを上手く漕げるようになっている。このような過程がごっそり抜け落ちた出来事の積み重ねの果てに感動的な場面を用意しても感動する前提条件が崩れているのでプレイヤーは醒めた目でそれを眺めるしかない。恐らく原作の持つ雰囲気を崩さないようにした結果、本来ギャルゲーで重視されるべき描写が悉く出来なかったと思われる。また原作が明示的に時間の経過を記した事が殆どないのもゲーム化する上で大きくマイナスに働いている。

最終盤は原作では見られない(が、現実的には起こり得る)展開だが、原作が好きな人に受け入れられるかは未知数。結局超展開で閉じている上に選択次第ではシナリオの整合性が失われる致命的な問題も抱えている。

開発をレジスタが行っているためかKID作品同様システムの使い勝手は良い。文章履歴からのシーンジャンプ、シーンセレクトも行える(選択肢ジャンプはない)。青年とそれ以外の文章ウィンドウが独立していて(前者は一般的、後者は随時吹き出しで表示)、更に立ち絵や顔ウィンドウの切り換えで引っかかるため頻繁に表情が変わると文章スキップは途方もなく遅くなる。フォントの関係で文章は若干読み辛い。また文章の表示速度を変更出来ない(表示中にボタンを押せば一括で表示はされる)。セーブ枠は100個でシステムデータを独立してセーブ/ロード出来る。一度EDを迎えるとExtraにプレイデータ/CG/動画/音楽の各項目が加わり、2周目以降はメニュー画面でも一部の達成率を確認出来るようになる。

ゆったりとしたARIAの世界に変にトリックを盛り込んだためにどんな人に向けた作品なのか判らないというのが率直な感想だった。