プレイ開始早々に不自然な設定や不可思議な現象が頻発するためオチがすぐに読めてしまう作品。
事故で記憶の一部が欠落している主人公純一。久し振りに学校を訪れると、隣の机だけ生徒がいない。それが誰なのか思い出せない純一は親友の透に訊くと、ひかりという女生徒が純一の事故とほぼ同じ時期に失踪したらしい。しかも純一の恋人だったと言う。純一にひかりという人物の記憶は全くないが、誰の者とも判らない記憶が断片的に残っている。それが発端で目眩を起こして倒れながらも純一はまだ見えぬ恋人の記憶を求めて行動を開始する。
この作品の主人公の行動原理は以下の何れかになる。
A. ひかりの記憶を求めてヒロイン達と親睦を深め、協力を得る
B. ヒロイン達と親睦を深めて結ばれる
C. どうでもいい、ひかりもヒロイン達も興味ない(勿論結果はお察し)
共通ルートの選択肢(15回前後)でヒロインのルートを確定させて個別ルートに入った後も選択肢が出現し、AとBどちらの行動を取るかでEDが分岐する。個別ルートの選択肢の回数はヒロインによって異なり、5回前後から30回近くとかなり幅がある。1周にかかる時間は初周2時間弱と非常に短いが、ED分岐に依らないシナリオ分岐の都合で1周では全てのシナリオを回収出来ないルートも存在するため繰り返しプレイは必須であり、攻略情報なしで達成率100%を目指そうとしたら相当な回数の周回を行う事になる(自分は99.48%で断念)。
EDは10種類あるが、シナリオの性質上、何を以てグッドやバッドとするかを明確に分ける事は難しい。単純に中途半端に終わるEDと起承転結があって終わるEDに分けるならば前者は2、後者は8となる。
KID作品だけにシーンセレクト、文章履歴からのシーンジャンプ等、便利な機能は一通り揃っている(選択肢ジャンプはない)。フラグ管理の都合でシーンセレクトはかなりの大枠でしか選択出来ない(共通ルートや個別ルートの途中から始める事は出来ない)。スキップはかなり速いが立ち絵で引っかかるため場面によっては少し遅く感じられる事も。文章を一括表示にしてもフェードインで表示するため時間がかかる等、PS2以降のKID作品に見られる悪い点も共通している。
セーブ枠は64個で、ファイル自体は単一だが独立してシステムデータのセーブ/ロードが行える。複数のメモリーカードに保存したファイルに対してシステムデータのみを更新する事が出来る。全ルートで選択肢毎に保存しようとしたら64個では足りないので人によってはありがたいだろう。
絵柄は時代を考慮するまでもなく受け入れられそうにない。特に目の描き方が怖い。敢えて言うなら1980年代の魔女っ子物に近い目の描き方。人間は普通驚いて目を見開いた時しか瞳孔上部と瞼の間に白目は覗かない。またデッサンの狂いも目立つ。
シナリオは序盤から終盤まで不自然さや不可思議な現象が次々と起こるご都合主義そのもの。地に足のついていない世界観の中でそのようなシナリオが展開されるため読んでいて非常に疲れる。その理由は結末を見れば判明するが、結末のために過程を犠牲にされて良い気分になれるはずがない。また結末に至る前から主人公とプレイヤーの心理や行動が乖離し易い展開のため、結末をハッピーエンドと捉える事がどうしても出来ない。トリックに酔ってプレイヤーを蔑ろにした作品と言わざるを得ないだろう。
作品のタイトルに何か意味があるのかと思っていたが、実際には意味は全くなかった。事象として使っているだけで理由も納得のいく説明もなかった。これもKID末期の粗製濫造の1つという事なのだろう。