ErogameScape -エロゲー批評空間-

Visiongroveさんのかまいたちの夜 輪廻彩声の長文感想

ユーザー
Visiongrove
ゲーム
かまいたちの夜 輪廻彩声
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
60
参照数
633

一言コメント

映像面で人を惹き付けようとしているのにその映像面が一番手抜きという、何のためのリメイクか良く判らない作品。

長文感想

SFC→PS/GBA→モバイルアプリ→Vita/Windowsと何回もリメイクされた『かまいたちの夜』初代最新リメイク作。基本的には『~特別編(PS版)』をリメイクしたもの。

ペンション『シュプール』で起きた殺人事件を扱ったミステリー編をメインに2周目以降は選択肢次第で他のシナリオ(編)にも遷移するサウンドノベル…だったものをビジュアルノベル化したもの。前作『弟切草』と違い、選択肢によって遷移するシナリオは決まっていてランダム性はない。但し一定のEDをクリアすると追加されるシナリオによって新たな場面や選択肢が加わり遷移方法が変わる事はある。

一般的な推理物と違い、ミステリー編では犯人を指摘する機会が複数回設けられており、一番早ければペンションの犠牲者はゼロ、指摘が遅れる程犠牲者は増えていく。実際に犯人を指摘する時は旧作の文字選択式と違い、キーボードからの入力を求められる。

他のシナリオはサスペンスタッチのものからギャグ中心のものまで様々。『~輪廻彩声』では竜騎士07氏によるシナリオが1つ追加されている。従来のシナリオとは傾向が明らかに異なり、中盤までは状況が把握出来ない展開が続くが、事実が明らかになってからはほろりとさせる話になっている。

フローチャートを搭載していて基本的にいつでも既読ブロックへジャンプする事が出来る(選択肢の選択有無も確認出来る)。注意点は、新たにシナリオが解禁されてもそこへ分岐するためのブロックがED後に即表示される訳ではなく、その手前からプレイして実際に追加されたブロックに到達しないと表示されない事。但しそのような場所はブロック番号が飛んでいるため把握し易い。分岐するブロックより遙か手前でフラグ立てが必要なシナリオもあるため、ジャンプのデメリット(基本的に進行上必須のフラグ以外は全部消滅)を考慮して使う必要もある。一部のシナリオでは特殊な構造故に選択肢選択有無が表示されないため、こまめなセーブかメモが必要にある。

EDは47種類あり、大半はバッドED。選択即バッドのような一発EDがそこそこ多い上にフローチャートもあるため数に対してそれ程時間はかからない。但しある隠しシナリオに突入するには暗号を解く必要があり、場合によってはそこでプレイが止まる恐れがある。しかも文章の表示が画面下部3行になった影響で恐らく旧作よりも難易度が上がっていると思われる。

一番最後にプレイする事になる隠しシナリオは明らかに作風から逸脱したジャンルを無理に扱っていて違和感が強い。同様のシナリオはもう1つあり、こちらに至っては必ずメモを取らないと、下手をしたら永遠に先に進む事が出来ない。

過去作が人物を影絵で表現していたのに対し、『~輪廻彩声』は一般的なギャルゲ(エロゲ)のような立ち絵を使った表示方法に改められたが、作風を考慮してポーズを含めほぼ動かない点を除けばそれ自体に特に違和感はない。声が付いたのも表現方法を考えれば理に適っている。ただ肝心な絵師(有葉氏)の画力が圧倒的に足りない。美少女しか描けないのか、男性は変にデフォルメの効いた体格に見えるし、中年女性は20代の女性に皺を描いただけである。人物が視覚化された事で一部のシナリオでは緊迫感が増したが、同時にその画力のなさで安っぽい印象も与えてしまう。何故男女を年齢別にきちんと描き分けられる人に依頼しなかったのか。どうしても無理なら複数絵師にしてでも描ける人に頼むべきだった。一方背景の画面効果に乏しいのは明らかに手抜き以外の何物でもない。

本作はCERO Z(グロ、極めて暴力的)のため、大層グロい画像が出てくるのかと思ったら、これの何処がグロなのか首を傾げる程表現は弱い。日本のグロ規制の厳しさと言うよりはこれも絵師の画力不足に起因しているように思える。但し四肢切断画像(流石に断面図はない。両方右足の作画ミスあり)や流血画像(創傷画像もある)、死人のアヘ顔も出てくるため、苦手な人にプレイは難しいかも知れない。

吉里吉里Zを使っているがゲームパッド(と一部のキーボード操作)は殺されているためどうしても使うならJoyToKey等が必要。それでもフローチャート用のショートカットがないため結局マウスは必要になる(他のショートカットは変更可能)。恐らく同画面用の操作をゲームパッドで行うためのコードを書ける技術者を用意出来なかったのが原因と思われる。文章履歴からの場面ジャンプも(本当の意味での)選択肢ジャンプもないが、文章を1つ前に戻すボタンが用意されている。UIはHending作品に似ている(特にセーブ/ロード画面)。

プレイデータとして各種達成率を表示してくれるが、シナリオ全100%を目指そうとしたら途方もない作業ゲーになるので止めた方がいい(自分は99%で断念)。達成しても何の特典もない。同様に全EDを見ても旧作のサウンドドラマ(本作のキャストで再録)が聴けるだけで余り意味はない。

動作条件を満たしていても環境依存で動作しない場合があるらしい。また自分の環境では稀に(クリアするまでに2回)エラーを吐いて落ちた事もあったので、出来ればセーブはこまめにした方がいい。

本作が初の『かまいたちの夜』で、繰り返しプレイや頭を使う事を苦にしないなら勧められるが、そうでない人、とりわけ旧作に思い入れのある人にはお勧めしない。妥協するならリメイクして欲しくないというのが率直な感想だった。