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Visiongroveさんのあきゆめくくるの長文感想

ユーザー
Visiongrove
ゲーム
あきゆめくくる
ブランド
すみっこソフト
得点
85
参照数
765

一言コメント

世界の中心で卑語と物理学を叫ぶ

長文感想

1日がループするルルランと呼ばれる地でループの輪の外からやってきた主人公達がラブコメに扮するという、この文章を読んだだけでは良く判らないが実際にプレイしてみても何故このような経緯になったのか良く解らない作品。迂闊にシナリオの事を書くと即ネタバレにつながる批評しにくい作品でもある。

ルートはメイン4、サブ2。サブは本当におまけ程度でクリア扱いにはならない(CG閲覧等が解禁されない)。全てのルートのEDを見るとエピローグが解禁される。伏線を綺麗に回収してくれるが、シナリオをきちんと理解出来ないと不完全燃焼になり易い弱点もある。

ラブコメと言うだけあってキャラ同士のかけ合いは楽しい。それを手助けするのが多彩な動きを魅せる立ち絵。関数で算出したような複雑な曲線移動(例えば花びらの縁を添うような感じの移動)や加減速、拡大縮小、回転、歪みを見せ、キャラの魅力を何十倍にも引き出している。「『動く』方向性」の違うE-moteを除けばエロゲ最強と言っても過言ではない。この動きを実現したスクリプター(もしかしたら補助的なプラグインを使っているかも知れないが)には敬意を表したい。立ち絵程ではないが背景の特殊効果も凝っている。

が、シナリオを書いた人が書いた人だけに、息を吸うように卑語(ピー音あり)を吐く。最序盤である空港の場面で拒否反応が起きる人はまず読破は不可能。故に体験版のプレイは必須。同ライターの近年の作品で下品度を比較すると以下のようになる。

『あきゆめくくる』>『はるまで、くるる。』≒『なつくもゆるる』>『缶詰少女ノ終末世界』

瞬間最大下品度では『はる』や『なつ』に負けるものの、総合的な下品度ではこの2作を遙かに凌駕する。最終的にはノーパンが自然に思える程感覚が麻痺してくる。マイルドな下品度の『缶詰』で慣れたつもりでこれをプレイすると人によっては発狂するかも知れない。逆に『缶詰』を後にプレイすると下品な要素があった事に気付けない程感覚が麻痺する恐れがある。

対極に位置するシリアスな場面も多く、流血沙汰もあるが映像的な表現は必要最小限のため流血表現が苦手な人でも多分心配は無用。但しルートによってはそれ以外の要素でショッキングな映像はある。

次に同ライターの特徴でもあるSF要素。プレイ開始30分で量子論が飛び出し、更には宇宙論や相対性理論、ルートによっては超ひも理論も登場する。作中で簡潔に説明されるとはいえ基本的な知識があるのとないのとでは理解度に大きな差が出てくる。特にキスルートと沙織ルートではこれでもかという程これらの物理学の解説を読み、理解する事を求められる。考えるのを止めてしまうと作品の理解度が大きく落ちてしまうため、理解が追い着かないと判断したらプレイの手を止めて頭の中で反芻するなり入門書に手を出すなりして少しずつ進めた方が良い。場面にもよるが、スナック菓子片手にオートで読み進められるような生易しいシナリオではない。

エッチは歩3、柚月3、キス3、沙織4、みはや1、ノア1。但しシナリオの影響を強く受けているため「枠数=本番数」ではない。1場面のラウンド数も異なる。

選択肢ジャンプや場面ジャンプ等、システム的に必要な機能は全て揃っている。スキップ速度が立ち絵の表示サイズに反比例するのは致し方ないか。セーブ/ロード画面で色による区別がないためどちらの画面を呼び出したか混乱する事がある。またこの画面で使用しているフォントはJIS第1水準しか収録されていないのか、漢字によっては空白になっている事がある。文章履歴で文章毎の区切り線がない上にJUMPボタンの位置に問題があり、間違えて1つ手前の文章にジャンプしてしまう事がある。また一部に脱字が見受けられる。文字の縁取りにぼかしを入れる特殊な処理を施しているが、文章ウィンドウを完全透明にすると不自然な場所がぼかされている事がある。この処理は無効にする事が出来るため、動作が重いと感じたら切った方が良い。但し前述通りこの作品は立ち絵や背景に様々な特殊効果を使っているため環境によっては負荷軽減につながらないかも知れない。

シナリオの完成度の高さを卑語と難しい物理学が阻害している惜しい作品。主人公のみが解ったような素振りをする場面でもう少し補足説明があれば名作に成り得たかも知れない。