ErogameScape -エロゲー批評空間-

VisiongroveさんのAQUAの長文感想

ユーザー
Visiongrove
ゲーム
AQUA
ブランド
SORAHANE
得点
60
参照数
527

一言コメント

設定は良かったがシナリオプレイヤーの制約故に読む以外何も出来ず、日常会話が退屈でオールクリアまで一気にプレイとはいかなかった。

長文感想

質量を持つ物体を作り出せる「アクア」というコンピュータ技術が発達した世界。幼馴染みの千紗が交通事故で亡くなった後この地を離れていた主人公が母親と共に8年振りに戻り、死んだはずの千紗と再会した事から物語は動き出す。

話は大きく分けて3つに分かれ、最初のWIND編はヒロイン毎に個別ルートが存在する。選択肢はどのルートに入るかを選ぶ1回のみ。共通部分の日常会話はありきたりな学園物で退屈だがアクアが絡む部分で一転してシリアスになる事もある。個別ルートが佳境に入ると千紗を除いてシリアス度が高い。全てのルートをクリアするとアクアを開発したECReDの姿を垣間見るLUKAS編がプレイ可能になる。一部を除いてシリアス一辺倒で僅かに流血場面もあるため(イベント絵あり)耐性のない人は注意。これもクリアするとアクアの真相に迫るAQUA編がプレイ可能になる。その内容はプレイする人が確かめて欲しい。但し一般的な作品のクライマックスに相当する場面を過ぎても後日談に飛んだりせずに話は続くし予定調和で終わる作品ではない事を付け加えておく。

AQUA編まで全てクリアするとおまけシナリオ10話のダウンロードとプレイが可能になる。殆どが文字通りおまけで話によっては作品の雰囲気を損ねているが9話だけは本編を補完する意味でプレイする事を推奨する。

絵柄は全体的にロリっぽい。顔立ちも年齢の割に若作り過ぎる。それらに引きずられカップサイズの割に胸が大きくないためサイトの情報を鵜呑みにしないよう注意。エロはヒロイン毎に3回。これとは別に1回エロが存在する。作風からエロはなくても成立する作品なので過度の期待は禁物。それでも妙な状況下での場面が一部あるが。

音楽はややしっとりめの曲が多いが多くの場面で合っている。ただシリアスな場面で使われるピアノ曲が少し自己主張し過ぎで台詞が聞き取れなくなる事もあった。

システムは吉里吉里2で一通りの機能は揃っているが、この作品は他には見られないシナリオプレイヤーという特殊な機能を搭載している。一言で言えばメディアプレイヤーのようにシーク位置を変えればその場面から自由にプレイする事ができ(勿論まだ見ていない場面へは飛べない)、ブックマークを挟めば後でその場面に簡単に飛ぶ事も出来る。この機能のお陰で事実上セーブ機能とバックログは要らないが一応従来のエロゲの方法でのセーブやバックログ(ここからその場面に飛ぶ事も可能)も使用出来るようになっている。機能のオンオフはいつでも行えるため普段はゲーム画面のみ、ブックマークを挟みたい時のみオンという使い方も出来る。勿論常にオンにしたままプレイする事も可能だがその分負荷が高くなるため初期設定ではゲーム画面部分の画面の更新間隔が長め(100ms)に設定されている。当然ゲーム画面のみの時より描画がぎこちなくなるが、負荷の増加で操作が重い場合は間隔を更に長くする必要があるためお勧めしない。逆にスペックに自信があるのなら最短(25ms)にすればゲーム画面のみの時とほぼ同じ滑らかさで描画される。スキップは若干引っかかりを覚えるが基本的に高速(60ms前後)。

特殊な機能を搭載している事を差し引いても演出の都合そこそこ高スペックを要求する。特にパーティクル(この作品では無数の光の球が浮き上がっていく場面)密集時はここ何年かのミドルクラスのグラボでも処理落ちしてしまう程。透過動画で代用すればここまで負荷は高くならなかったはずだが代わりにCPUに負荷が行くので何とも言えない。何れにせよC2D世代以降(可能ならCore i7 8xx/9xx以上)のCPUとそこそこのグラボ(オンボ以外)でないと快適なプレイは難しいと思われる。

修正パッチが公開されているがシナリオプレイヤーで最後まで読み切っていない章でスライダーを前の場面に戻すとタイトル画面に戻ってしまう不具合が残っている。またおまけシナリオで追加されるイベント絵がギャラリーに初めから登録されているが仕様上やむを得なかったのかも知れない。それ以外は特に目立つ問題点はないが、敢えて挙げるなら文章ウィンドウが少し横に長過ぎてモニタのサイズによっては視線を移動させないと全て捕捉出来ない事、画面演出の設定がオンオフしかなく速度調整出来ない事、呟き声が小さ過ぎて曲に埋もれてしまう事、おまけシナリオではシナリオプレイヤーが使えずセーブも出来ない事位。そして最近の吉里吉里作品共通の気になる事としてゲームパッドのキー設定が何故「環境依存の不具合回避」に含まれているのかという点である。

設定が良かっただけに普通の選択肢を加えて細かな分岐やバッドEDも用意すればより楽しめたと思うが、残念な事にシナリオプレイヤーが今のままでは話を複雑に分岐させる事は不可能。フローチャート(あるいは某家庭用作品の3Dマップ)を追加すればそれも可能になるが情報を画面内に収めるのが難しい気がする。

今回の話では重要ではないが伏線が1つだけ回収出来ていない。共通する世界観で今後何らかの作品を作る気なのか、そこまで深く設定を考えていなかったのか…。